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海岸の研究 English Page
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[2]津波・高潮

3. 海岸災害からの避難促進

1)概要
 台風接近時や津波警報発令時に避難勧告が発令されても、正常性バイアスなどのため避難しない住民が多いのが現状です。そこで、津波・高潮に関して、住民の避難意思決定における各要因の影響を定量的に評価し、その要因に対応する避難促進施策(ワークショップなど)を試行してその効果を明らかにし、防災意識の持続に繋がる避難促進施策の具体的な進め方について研究しています。

2)2006年千島列島沖地震時と2007年台風5号接近時における避難意思決定要因に関する調査
 2006年11月の千島列島沖地震の津波と2007年8月の台風5号の高潮を対象に、避難の意思決定要因について調査を行いました。避難行動に関わる要因として避難情報(避難勧告、津波・高潮警報)、浸水に対する不安、防災への関心(ハザードマップの認知など)、被災・避難体験、ソーシャルキャピタル(信頼、規範、ネットワーク)などを想定した仮説を立て、その要因に関わる項目について質問紙調査を行い、共分散構造分析により検証しました。
 その結果、津波、高潮とも、浸水に対する不安が避難意図、避難行動に繋がっていましたが、避難情報の認知は浸水に対する不安や避難意図にほとんど関係していなかったことがわかりました。また、被災・避難経験が避難情報の認知、浸水に対する不安、避難意図に関わっていることが明らかになりました。さらに、ソーシャルキャピタルに関わる要因は、防災への関心を高めることを通じて、避難情報の認知を高めている可能性が示唆されました。
(加藤史訓・諏訪義雄・林春男,2006年千島列島沖地震における津波からの避難の意思決定,水工学論文集,第53巻,pp.865-870,2009.)
(加藤史訓・諏訪義雄・林春男,2007年台風5号接近時における高潮からの避難の意思決定,海洋開発論文集,第25巻,pp.825-830,2009.)

3)避難に関するワークショップの試行
 釧路市の大楽毛防災推進協議会、橋北東部防災推進協議会、第6地区防災推進協議会、山陽小野田市の下村東自主防災会にご協力いただき、避難に関するワークショップ(座談会)を開催しました。避難意思決定要因に関する調査結果をふまえて、避難情報の重大性や想定されている災害について説明した後、白地図を囲んだ話し合いを通じて、災害の経験談の図化や今後の取り組みについての議論を行いました。ワークショップ後の質問紙調査により、避難勧告発令時における危険性認識や避難意向が高まる効果が確かめられています。

(関連資料)
津波コンピュータグラフィック(釧路市)



地域で語り継がれる津波経験(大楽毛地区編)
地域で語り継がれる津波経験(橋北東部地区編)
地域で語り継がれる浸水経験(下村東地区編)


ワークショップの様子(釧路市)


ワークショップの様子(山陽小野田市)

4)2010年チリ地震による津波からの避難に関する調査
 2010年2月28日に、チリ沖で発生した地震による津波のため、北海道から沖縄に至る太平洋沿岸などに、津波警報・注意報が発表され、沿岸の市町村の多くは避難指示・勧告を発令いたしました。
 釧路市では、2,680世帯(4,910人)を対象に避難勧告が発令されました。この時の避難の実態とそれに関わる要因について、釧路市連合防災推進協議会と共同で、調査を行いました。
 共分散構造分析により仮説を検証した結果、2006年千島列島沖地震と同様に、浸水に対する不安が避難意図、避難行動に繋がっていましたが、避難情報の認知は浸水に対する不安や避難意図にほとんど影響していなかったことがわかりました。しかし、避難しなければいけないと思わなくても、日頃からの防災への関心や、津波警報や避難勧告の発令を知ったり、近所の人から避難を呼びかけられたりすることが、避難行動に繋がっていることがわかりました。
 詳細は調査報告書をご参照下さい


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