#
海岸の研究 English Page
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[5]技術支援

4.緩傾斜堤の設計の手引き

(1) はじめに

 海岸の堤防・護岸は急な傾斜の表のり面をもつものが多かったため、構造物前面の洗掘による施設の倒壊、親水性の低下など海浜利用に対する障害などの課題が論じられてきました。このような課題に対して、のり面の勾配を1:3より緩くした場合、波のうちあげ高が低減し、さらに海浜利用者のアクセスの向上や表のり面の利用が図られるため、1989年に「緩傾斜堤の設計の手引き」が発行され、防護・利用、両面の観点から、緩傾斜堤の採用が進んできました。

 しかし、緩傾斜堤の整備に伴い、浜のない海岸では所定の性能が必ずしも見込めないことが明らかになってきました。そのため、緩傾斜堤の適用範囲の見直しを行い、また現場の技術者の工夫を採用することができるよう基準の性能規定化や、これまで得られた新たな知見の導入を図るため、海岸研究室では、河川局海岸室と共同で、「緩傾斜堤の設計の手引き」を改訂しました。

(2) 適用範囲の見直し

 緩傾斜堤は、表のり面の勾配を緩くすることから、直立堤の場合に比べて、表のり面が長くなり砂浜を覆ってしまい、海浜生物の生息域などを消滅させるとともに、砂浜自体の利用を妨げる弊害が報告されてきました。また、緩傾斜堤は、既設の直立堤防の沖側に緩傾斜の表のり面を設置する例が多いことから、前浜が狭い海浜では堤脚が海中に位置することになり、かえって波のうちあげ高が上昇することも明らかにされました。

 そのため、改訂にあたっては、堤脚を干潮面より高い位置に置くこととし、緩傾斜堤設置後、海岸侵食などにより20 m程度の砂浜幅が確保できない場合には、直立堤の採用等代替工法を含めて検討することとしました。

(3) 性能規定化

 改訂にあたって、現場の技術者の工夫を採用することができるよう性能規定化し、目的を達成するための性能を、「海岸保全基本計画」に定められた防護水準とし、必要に応じて利用に関する性能を満足することとしました。また、安全性能として、想定される高潮、津波、波浪などによる外力に対して安全な構造とすることとしました。あわせて、設計の理解を助けるべく、設計上・構造上の留意点をとりまとめ、さらに、1999 年に海岸法の目的に「防護・環境・利用」の調和が位置づけられたことから、環境に対する留意事項を記述しました。

(4) 新たな知見の追加

 「緩傾斜堤の設計の手引」の発行より10年余の間に緩傾斜堤に関する新たな知見が蓄えられており、その知見を記述しました。

 たとえば、緩傾斜堤は、表のり面の傾斜が緩いことから、波の反射率が小さく、反射による砂浜の侵食が抑えられるとこれまで考えられていましたが、砂浜の侵食の主要因は岸に沿った方向の漂砂によるものであるため、緩傾斜堤の設置により侵食が抑えられません。むしろ砂浜を覆うことで、沿岸漂砂量が場所的に変化し、設置条件によっては侵食を助長することが明らかになりました。そこで侵食を助長するか否かを判断するため、等深線変化モデルなど性能の照査手法を追加しました。

 「緩傾斜堤の設計の手引き」の改訂が、環境・利用に配慮した海岸保全事業の推進につながるものと考えています。

back