4.沿岸漂砂量の岸沖方向分布に関する実験・解析
研究の狙い
砂浜や礫浜(以下、総称して海浜)での砂や礫の動きは、波で岸向と沖向きで往復するだけでなく、
図-1に示すように海岸線に沿った方向(沿岸方向)に砂や礫がジグザク状に移動します。
この沿岸方向の砂の動きを、沿岸漂砂と呼んでいます。この動きの結果として、波により沿岸方向に運ばれる砂の量を沿岸漂砂量と言います。
沿岸漂砂量は、岸沖方向での深さでの波の状態により変化しており、図1の黄色い波打ち際(汀線位置)で最大となる形状となります。
また、波の砕け方やその激しさにより、波の砕ける位置で小さなピークが生じることがあります。
この沿岸漂砂量は、来襲する波の大きさと周期、向きにより決まります。通常では沿岸方向に変化無く連続しています。
この状態を崩す何らかのインパクト(構造物の建設や河川からの供給量の減少など)を与えると、砂の流れを堰き止める効果が生じて海岸線が変化します。
写真-1に沿岸漂砂を制御している構造物の例を示します。堰き止める効果を最適な状態を探るために海浜変形モデルと呼んでいる数値シミュレーションが用いられます。
海岸侵食の原因解明や将来予測、対策施設の大きさや水深、養浜の量を最適に設定するために、海浜変形モデルの精度を向上させる研究を行っています。
まだまだ解明の余地が多い海岸の現象の再現においては、理論的仮説に基づき実海岸で生じた現象に諸係数を合わせこむことが多く、
図-1に示した沿岸漂砂量や沿岸漂砂量分布が代表例と言えます。
しかし、このアプローチでは環境が大きく異なる条件には適用できなくなります。
この研究では、水理模型実験や現地の過去現象の再現を通じて、より広い条件範囲による検証を積み重ねることで体系化することを目指しています。
研究成果
水深方向(もしくは岸沖方向)の沿岸漂砂量分布は、陸側で波の遡上と引き波で生じる浜漂砂の現れの汀線付近ピークと砕波帯での砕波による巻き上がりによるピークの二山形状となります。
波は浅くなるにつれて起き上がり限界に達すると砕けて、一時的に流れるようになります。
この現象を砕波と呼びサーフィンで利用される物理現象ですが、人工リーフは人工的に砕波点を沖に移動させる構造物です。
砕波現象は複雑な水や砂の動きを生じさせることから、人工リーフ周辺での地形変化を再現することも難しくなります。
そこで、沿岸漂砂量の推定精度向上の観点から水理模型実験を行いました。
人工リーフの上手側(波が向かってくる側)で沿岸漂砂の上手方向に沖向きの流れ(逆行する流れ)が形成されることが分かりました。
さらに、この流れが局所的に海底を掘るとともに、
この流れに沿って沿岸漂砂の上手側で沿岸漂砂が留められて舌状に堆積と汀線付近での浜漂砂の遮断による堆積が生じることが分かりました。
これらの現象を海浜変形モデルに適応できるように、複雑な水深方向の沿岸漂砂量分布を表現できる分布式を開発しました。
詳細は、以下の文献をご参照ください。
・野口賢二,福原直樹, 加藤史訓 ほか(2018),人工リーフの設置による沿岸漂砂量の変化に関する水理模型実験,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.74,No.2,I_943-I_948.
・野口賢二,加藤史訓, 福原直樹 ほか(2020),海岸侵食対策における長期・広域の地形変化予測のための水深方向沿岸漂砂量分布式の改良,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.76,No.2,I_445-I_450.
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