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海岸の研究
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[1]海岸侵食

5.砂浜の可逆的変化と非可逆的変化

1.砂浜の可逆的変化

 砂浜は図-1に示すような縦断面形の変化過程を繰り返している.まず、自然の砂浜においては、静穏波の作用後には多くの場合、前浜にバームが形成されます(図-1(a))。しかし、低気圧や台風の接近に伴い波浪が徐々に大きくなると、バームは侵食されるとともに底質が沖側へ運ばれてバーが形成されます。(図-1(b))。さらに波浪が大きくなるとバームの侵食が進み、バーは発達しながら沖側へ移動します(図-1(c))。

 このバーは波浪特性に応じた規模まで発達すると、高波浪を強制的に砕波させるため、バーより岸側は安定な地形となります(図-1(d))。そして、低気圧や台風が通過して波浪が徐々に小さくなると、前浜にバームが形成され始めるとともにバーは岸側へと移動する変化過程となります(図-1(e),(f))。その後に波浪が小さくなると、バーは前傾しながら岸側へと移動し、汀線のやや沖合に浅瀬が形成されます(図-1(g))。そして、静穏波の作用でこの浅瀬から底質が前浜へうちあげられてバームが発達します(図-1(h))。

 自然の砂浜においては、図-1に示した縦断面形の変化が来襲する波浪の大きさに応じて繰り返されています(砂浜の可逆的変化)。そして、前浜の侵食とバーの形成過程は短期間に、バーの消滅と前浜の復元過程は比較的長期間で生じると考えられています。このような砂浜の可逆的変化は実際の現地海岸でも見られます。


図-1 砂浜の可逆的変化の模式図

2.砂浜の可逆的・非可逆的変化〜鳥取県・皆生海岸を例に〜

 皆生海岸の自然の砂浜が残されている部分では、図-2(a)に示すように1995年7月の縦断面形はほぼ一様勾配のなだらかな形状でした。その後、冬期の波浪の作用により1996年3月には2つのバーが形成されました。しかし、その後の1996年7月にはバーが消滅して、トラフが埋めもどされて1995年7月の縦断面形とほぼ同様の形状になりました。また、図-2(b)に示す1996年7月〜1997年7月でも、縦断面形の可逆的変化を繰り返していたことがわかります。

 ところが、図-2(c)に示す1997年7月〜1998年3月では地点P1と地点P2の範囲が大きく侵食されて、そこから土砂が沖側に運ばれて地点P2と地点P3の区間に大規模なバーが形成されました。そして、1998年7月までには縦断面形の変化はほとんど見られず、1999年7月になっても大規模なバーは定常的に存在していることがわかります。つまり、1995年7月〜1997年7月では縦断面形の可逆的変化の繰り返しが見られましたが、1997年7月〜1999年7月には非可逆的な変化が生じていたと言えます。

 皆生海岸では1997年7月〜1998年3月の期間中の1998年2月に有義波高H1/3=3.0m、有義波周期T1/3=9.0sを超える暴浪波が3回も来襲したという観測結果があります(1997年はほとんどが欠則)。特に、1998年2月21日には有義波高H1/3=3.68m、有義波周期T1/3=9.4sの暴浪波が来襲しました。

 このように、暴浪波の作用で形成されたバーが定常的に存在するようになると、岸側のトラフが浅くならないかぎり、バー上で砕波しない規模の波浪は前浜に直接作用します。この状態が長期間継続すれば前浜部分は侵食が進行すると予測され、海岸保全施設としての「砂浜」が被災してしまいます。したがって、暴浪波の作用で前浜が侵食されるとともに沖側に大規模なバーが形成された場合には、それが可逆的変化か非可逆的変化かを判定することが、海岸保全施設としての「砂浜」の安定性を評価することに必要です。


図-2 皆生海岸における砂浜の
可逆的変化と非可逆的変化

 海岸研究室では、大型2次元水路を用いて現地スケールに近い再現実験を行って、「砂浜」の安定性を評価する方法について研究を進めています。

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