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海岸の研究 English Page
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[2]津波・高潮

5.津波遡上に及ぼす護岸の効果

 2004年12月26日にスマトラ島沖で発生したマグニチュード9.0の地震は、大規模な津波を引き起こし、インド洋沿岸の広範囲において甚大な被害を発生させました。津波は、震源に近いインドネシアのスマトラ島だけでなく、震源から1,000km以上離れたスリランカやモルディブなどにも押し寄せました。このため、死者数は全体で約30万人に達し、世界的な巨大災害となりました。被害拡大の要因として、津波に対する予警報システムの不在、津波に関する認識不足などが指摘されています。

 日本の海岸では、高潮、高波、津波から背後地を防護するため、コンクリート製の堤防や護岸が整備されてきました。このような施設は、港湾等を除くとインド洋沿岸ではあまり見られません。しかし、モルディブの首都であるマレ島では、1987年および1988年の高潮被害の後、日本の政府開発援助により島の周囲に護岸等が整備されていました。今回の津波では、この護岸により浸水がある程度防がれたため、被害が比較的少なかったと言われています。

 津波遡上に対する堤防などの海岸保全施設の効果を定量的に評価することが必要であることから、この津波の再現計算を行い、津波遡上に対するマレ島の護岸の効果を評価しました。

 津波の数値計算は、非線形長波方程式に底面摩擦、乱流、コリオリ力の各効果を取り入れたモデルを使用しました。初期条件として、断層モデルを用いて計算される海底地盤変動の鉛直成分を海面上の水位変動として与えました。

 図−1は、インド洋における地震発生時からの津波の伝播状況を示しています。地震発生時には、震源の西側で押し波が、東側で引き波が発生しています。津波は主に東西方向に伝播し、地震発生の0.5時間後には、スマトラ島の北端では、引き波に続いて押し波が既に到達しています。地震から2時間後には、スリランカに押し波が達する一方、タイのプーケット付近には引き波に続いて押し波が来襲しています。マレ島には、地震発生の3時間10分後に押し波が到達しています。

インド洋における津波の伝播

図−1 インド洋における津波の伝播


図−2は、護岸がある場合(上)とない場合(下)について、マレ島での津波の遡上状況を示しています。

津波の遡上状況

図−2 護岸がある場合とない場合の津波の遡上状況


 図−3は、島内の6点について、護岸の有無による浸水深の違いを示しています。北岸に位置するSt.1〜2では、地盤高が護岸と同じくらい高いため、護岸の有無による浸水深の差は顕著ではありません。一方、St.3〜6では、護岸がないと、浸水の開始が早まるとともに、浸水深の最大値が2倍以上になりました。また、St.4〜6では、東岸および南岸における潮位の振動に合わせるように浸水深が変化しています。

 図−4は、流速について、図−3と同様に整理しています。St.1〜2については、浸水深と同様に、護岸の有無による違いはほとんどありません。西岸に位置するSt.3では、浸水深の違いにも関わらず、流速の最大値はほとんど変わりませんでした。St.4〜6では、流速の最大値は、護岸がある場合には1m/s以下でしたが、護岸がない場合には1m/sを上回った。特に、津波の来襲方向である東岸に位置するSt.5〜6において、流速の増加が顕著です。

 以上のことから、護岸がない場合には東から来襲した津波が南東部から陸上に遡上しますが、護岸がある場合には南東部からの遡上が妨げられ、護岸が比較的低い南西部から浸水すること、護岸によって陸上での浸水深や流速が低減されたことがわかりました。

浸水深の比較

図−3 浸水深の比較


流速の比較

図−4 流速の比較


 津波の遡上計算の結果から、波返し工を有する護岸は浸水深を下げるだけでなく、陸上における流速を低減することがわかりました。一般的に流体力は流速の2乗に比例すると言われていることから、護岸による流速の低減は、陸上における人的・物的被害の軽減に大きく寄与したと考えられます。

 以上のように、堤防等の海岸保全施設は津波の遡上をある程度低減する機能を有しています。特に、マレ島のように低平地に多くの人口を擁する地区については、海岸保全施設は津波の被害軽減に効果的であると考えられます。

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