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海岸の研究 English Page
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[2]津波・高潮

4.海岸堤防に加わる津波の波力

 津波による堤内地での被害を最小化するためには,海岸堤防が津波の遡上に対して安定でなければなりません.津波の波力は海岸堤防の被災要因の一つであり,その照査方法の確立が望まれています.既往研究では,構造物の海側を水平床とした模型実験が多いですが,海岸堤防は勾配を有する砂浜の背後に設置されることが一般的であることから,このような斜面上での遡上波の変形を考慮して,波力を評価する必要があります.そこで,堤防に作用する津波の波力を評価するため,当所所有の水路で大型模型実験を行いました.

 図−1のように,長さ140m,幅2m,深さ5mの水路に固定床の斜面(海域:1/20勾配,陸域1/100勾配)を造成し,縮尺1/10程度の堤防模型(堤脚からの天端の高さ0.5m,天端幅0.4m)を設置しました.堤防模型には,表−1のように,水路を完全に締め切るType1〜4と,河口部等を想定して水路を半分仕切るType5を設定しました.

断面図

図−1 模型断面図


表−1 模型諸元

模型諸元


 Type1〜4では,図−2のように,堤防の表のり,天端,裏のりと堤防背後の斜面に約0.1m間隔で波圧計を23個配置しました.Type5では,図−3のように,堤防の端部および側面に波圧計を集中させました.波圧のサンプリング周期は,衝撃的な波圧も測定できるように,水谷・今村(2000)に従って0.002sとしました.波圧計のほか,堤防の周辺心に容量式波高計と流速計を設置し,堤防の陸側に設置された波高計で得られた水位から越波量を推定しました.

計測器の配置

図−2 計測器の配置(Type1〜4)


波圧計の配置

図−3 波圧計の配置(Type5)


 潮位は,堤防前面の浜の有無を考慮して,表−2に示す5条件を設定しました.潮位3.8mの場合に,汀線は堤脚に位置する.Type1〜4については,5条件の潮位を3条件の孤立波と組み合わせて,各模型について15ケースの実験を行いました.一方,Type5については,表−2に示す3ケースの実験を行いました.

表−2 潮位・波浪条件

潮位・波浪条件


 下図はType3の模型に潮位3.8m,入射波高0.4mを与えたケースのムービーです.この時の水位(H4:堤脚,H5:天端のり肩),流速(V5:天端のり肩),表のりの波圧(P1:堤脚,P3:堤脚の0.2m上方,P5:堤脚の0.4m上方)を、図−4に時系列で示しています.斜面上での波の変形により,波高はH4で1.1m,H5でも0.6mに達しました.また,流速は水位より早くピークに達し,その最大値は2m/sを超えました.波圧の最大値は,P1とP5では100 gf/cm2(9.8kPa)程度でしたが,P3では遡上波到着直後に0.004秒間だけ500gf/cm2(49.0kPa)を超えました.このような衝撃的な波圧が,いくつかのケースで測定されました.

水路

津波実験 


表のりでの水位・流速・波圧

図−4 表のりでの水位・流速・波圧(Type3)


1)表のりの波圧

 図−5〜6は,表のりの波圧の鉛直分布を示しています.横軸は堤脚での波高Hなどを用いて無次元化した最大波圧p,縦軸は静水面を基準として,堤脚での波高Hで無次元化した鉛直座標です.図中には,押波初動の正弦波が垂直の防波堤に衝突する模型実験による谷本ら(1984)の算定式,ゲート急開に伴う段波が海域の垂直壁に衝突する模型実験による池野ら(2001)の算定式,ゲート急開に伴う段波が陸上の垂直壁に衝突する模型実験による池野ら(2003)の算定式による波圧の鉛直分布も合わせて示しています.表のり勾配1:1では,多くのケースで谷本ら(1984)に従って得られる波圧より小さく,池野ら(2003)の算定式を使えばほとんど全てのケースで過小評価となりません.一方,表のり勾配1:0.5では,堤脚が汀線となるケースを中心に,静水面より少し上方での波圧が池野ら(2003)の算定式でも過小評価となることがあります。

波圧の鉛直分布

図−5 波圧の鉛直分布(表のり勾配1:1)


波圧の鉛直分布

図−6 波圧の鉛直分布(表のり勾配1:0.5)


2)裏のり・背後の波圧

 図−7は,裏のり尻付近の最大波圧pomを水谷・今村(2002)の式で得られる線とともに示しています.図の軸は,重力加速度g,天端の高さHd2,天端上の最大流速Vm,裏のりの勾配θ2で無次元化しています.水谷・今村(2002)は,水平床上に設置した堤防模型を段波が越流する模型実験を行い,越流による堤防背後の最大波圧の算定式を提案しています.実験データはこの算定式で得られる値を上回るものでないことから,孤立波の場合でも前述の式を適用できると判断されます.

最大越流波圧

図−7 最大越流波圧


参考文献:

・池野正明・森 信人・田中寛好(2001):砕波段波津波による波力と漂流物の挙動・衝突力に関する実験的研究,海岸工学論文集,第48巻,pp.846-850.

・池野正明・田中寛好(2003):陸上遡上津波と漂流物の衝突力に関する実験的研究,海岸工学論文集,第50巻,pp.721-725.

・谷本勝利・鶴谷広一・中野 晋(1984): 1983年日本海中部地震津波による津波力と埋立護岸の被災原因の検討,第31回海岸工学講演会論文集,pp.257-261.

・水谷 将・今村文彦(2000):構造物に作用する段波波力の実験,海岸工学論文集,第47巻,pp.946-950.

・水谷 将・今村文彦(2002):津波段波の衝撃性および越流を考慮した設計外力算定フローの提案,海岸工学論文集,第49巻,pp.731-735.

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