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海岸の研究 English Page
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[2]津波・高潮

3.津波による施設基部の洗掘

 津波は、海岸から陸上に遡上する際に毎秒数m程度の極めて速い流れを生じさせます。このような速い流れにより、施設周辺の地盤が洗い流され、施設の倒壊や流失を引き起こすことがあります。スマトラ島沖地震津波の被災地でも、1m以上の洗掘が確認されています。

 海岸研究室では、1)海岸堤防の海側での洗掘と2)円柱構造物周囲の洗掘について、当室所有の大規模実験施設(長さ140m、幅2m、深さ5m)を用いて研究を行いました。洗掘は砂礫の移動現象であることから、模型実験の検討では相似則を考慮するため大規模な実験施設を必要とします。

水路

写真1-1 波浪実験水路


1)海岸堤防の海側での洗掘

 計画を超える津波が来襲した際の防災を考える上では、護岸を越える津波の特性と周辺の洗掘機構を明らかにしておく必要があります。

被災例

写真1-2 北海道南西沖地震津波の被災例


 図1-1に示すように水路内に模型を作製し実験を行いました。

模型概要

図1-1 模型の概要


 津波に限らず波は、水位(潮位)と波高および波長によって岸からの波の砕ける距離や砕ける形が異なります。この実験では、水位と波高を変えることで護岸に対する砕波の位置を移動させて、津波が護岸を越波する時の状態を調べました。その結果、6種類に分類することができました 。

実験写真

  a)砕波せずに護岸を越流
  b)護岸肩上で前方へ飛び出すように砕波
  c1)護岸直前で砕波し護岸肩でジェットが形成
  c2)護岸まで砕波せずに護岸肩でジェットが形成
  d1)ボアが衝突し法面に沿って上昇して護岸肩で湧き出す
  d2)ボアのまま法面を這い上がる

 また、越波量(護岸を越波する水量)は砕波の位置に依存すること(図1-2)を示し、越波量を沖の津波の波形から簡易的に求める手法(図1-3)を提案しました。

図

図1-2

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図1-3


 護岸前面の洗掘については、津波来襲時には有意な洗掘は生じないものの越波した波が海側へ戻る際に滝状となり大規模な洗掘を生じることを解明しました。

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図1-4

図

図1-5


 また、この時の最大洗掘深は前面水面から護岸頂までの高さと流出する流量と相関があるとして落下水が作る定在渦にモデル(図1-4)を導き検証したところ、図1-5に示すように良い相関が得られました。

 詳細は以下の文献をご参照下さい。

・野口賢二・佐藤愼司・田中茂信(1997):津波遡上による護岸越波および前面洗掘の大規模模型実験、海岸工学論文集,第44巻,pp.296-300.

・野口賢二・佐藤愼司(1998):津波遡上に関する大規模模型実験, 土木技術資料40-3,pp.44-49

2)円柱構造物周囲の洗掘
 浅海域にある構造物は主に波浪により、河川にある構造物は主に流れにより、その周囲に洗掘が生じます。津波は海岸に遡上した後に流下するため、遡上時と流下時とも速い流れにより急激な洗掘とその埋め戻しが生じる可能性があります。津波が何度も来襲する場合には、その度に洗掘と埋め戻しが繰り返される可能性があります。このため、津波来襲後の地形は必ずしも最大の洗掘深を示すものではなく、施設設計においては津波来襲中の最大の洗掘深を考慮する必要があります。

図

図2-1 円柱周囲の洗掘過程の違い


 そこで、長さ140m、幅2m、深さ5mの大型水路において、直径50cmの透明な円柱を1/20勾配の海浜(中央粒径0.35mm)上に設置して、津波(孤立波)による円柱周囲の洗掘を再現しました。図2-1のように円柱周辺に波高計(wave gage)、流速計(electromagnetic flow meter)、間隙水圧計(pore-pressure transducer)を設置するとともに、円柱の内部に超小型CCDカメラを設置して円柱周囲の地盤の挙動を撮影しました。

写真

写真2-2 円柱に押し寄せる津波

図

図2-2 実験模型


 実験は、表2-1のように、水深と波高を変えた9ケースについて行いました。円柱の位置は、水深が2.45mの場合に汀線上に、水深が2.25mの場合に汀線より4m陸側に、水深が2.65mの場合に汀線より4m沖側になります。波高0.2m程度でも、汀線付近では最大2m/s程度の流速が発生しました。

表2-1 波浪条件
ケース 1 2 3 4 5 6 7 8 9
水深(m) 2.25 2.45 2.65 2.25 2.45 2.65 2.25 2.45 2.65
波高(m) 0.29 0.32 0.34 0.20 0.22 0.24 0.11 0.12 0.13

 透明な円柱の内側から撮影したビデオ画像を解析し、津波が海岸に遡上して流下するまでの間における円柱の沖側、側面、岸側の洗掘量(円柱の直径Bで無次元化)の変化を図2-3〜5のように明らかにしました。これらの図から、津波来襲時に構造物周囲が大きく洗掘されていることがわかります。また、図2-3のように、円柱の沖側において遡上後(just after maximum)の洗掘深が流下後(just after drawdown)の洗掘深の5倍となるケースがありました。

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図2-3 円柱沖側の洗掘深の時間的変化(砂地盤)

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図2-4 円柱側面の洗掘深の時間的変化(砂地盤)

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図2-5 円柱陸側の洗掘深の時間的変化(砂地盤)


 さらに、底質が砂の場合だけでなく礫(中央粒径3.59mm)の場合についても同様の実験を行い、粒径の変化による洗掘の変化についても調べました。この検討では、波高と水深の比を0.09としたため、波高は0.2m程度です。

 図2-6〜8は、それぞれ円柱沖側、側面、陸側での最終洗掘深(実験後の洗掘深)と最大洗掘深(実験中における最大の洗掘深)を示しています。図の横軸では円柱の位置を示しており、洗掘深はいずれも円柱の直径Bで無次元化しています。最終洗掘深と最大洗掘深の差は、最も洗掘された後の埋め戻し量に相当します。砂より礫の方が動きにくいと考えられますが、礫の最大洗掘深の方が大きいケースが見られます。このことから、津波の遡上によって生じる速い流れにより礫も流されてしまうものの、砂と礫で洗掘の機構が違うことが窺われます。また、洗掘深と円柱の直径との比は最大0.3程度で、波高の7割程度の洗掘深が観測されました。

図

図2-6 円柱沖側の最終洗掘深・最大洗掘量
(左:砂地盤、右:礫地盤

図

図2-7 円柱側面の最終洗掘深・最大洗掘量
(左:砂地盤、右:礫地盤

図

図2-8 円柱陸側の最終洗掘深・最大洗掘量
(左:砂地盤、右:礫地盤)


 砂地盤と礫地盤では洗掘の機構が若干異なります。詳細は以下の文献をご参照下さい。

・加藤史訓・佐藤愼司・Harry Yeh(1999):津波による円柱周辺地盤の動的挙動に関する大型実験,海岸工学論文集,第46巻,pp.956-960.

・Kato, F., S. Sato and H. Yeh (2000): Large-Scale Experiment on Dynamic Response of Sand Bed around a Cylinder due to Tsunami, Coastal Engineering 2000, pp.1848-1859.

・Kato, F., S. Tonkin, H. Yeh, S. Sato and K. Torii (2001): The Grain-size Effects on Scour around a Cylinder due to Tsunami Runup, Proceedings of International Tsunami Symposium 2001, pp.905-918.

・Yeh, H., F. Kato and S.Sato(2001): Tsunami Scour Mechanisms around a Cylinder, Tsunami Research at the End of a Critical Decade, Kluwer Academic Publishers, pp.33-46.

・Tonkin, S., H. Yeh, F. Kato and S. Sato (2003): Tsunami Scour around a Cylinder, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 496, pp.165-192.

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