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海岸の研究
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[1]海岸侵食

2.衛星画像を用いた海岸線モニタリング

(1)地形図から衛星画像への転換

 砂浜を全国規模でモニタリングする手段として、衛星画像から汀線を自動抽出し、経時変化を把握する方法の構築に取り組んでいます。

 全国規模の調査はこれまで、国土地理院発行の地形図を用いて行われてきましたが、更新頻度が低い、元画像による結果の検証が難しいなどの課題がありました(渡邊ら, 2022)。衛星画像を利用した方法に転換することで、高頻度かつ信頼性の高いモニタリングとなることが期待されます。

(2)合成開口レーダによる観測

 合成開口レーダによる観測結果から作成される画像は、SAR画像と呼ばれます。SAR画像はマイクロ波レーダを観測に用いるために光学衛星画像に比べれば画像の地上分解能は落ちますが、悪天候や夜間でも地上の状態を観測できるという利点があるため、災害発生時の状況把握への活用が期待されます。

 JAXAが運用しているALOS-2によって撮影されたSAR画像から海岸の汀線を自動抽出する手法を開発し、国内の代表的な18海岸を対象に自動抽出を試行することで、海岸線モニタリングにおける適用性を検証しました。

図-1 衛星SAR画像から自動抽出した汀線の例(富士海岸)

出典:地理院タイル(全国最新写真(シームレス))を加工して作成

 画像から自動抽出された汀線(図-1)を現地測量による計測結果と比較したところ、海岸を構成する砂礫の中央粒径が大きいほど、抽出の成功率(図-2)と精度(図-3)が高くなる傾向が見られました。
 富士海岸のように主に礫で構成された海岸には適用できるものの、宮崎海岸のように細砂で構成された海岸への適用には課題が残ります。細砂の海岸にも適用できるよう、画像解析手法の改良に取り組んでいます。

図-2 海岸の砂礫粒径と抽出成功率の関係

図-3 中央粒径と抽出誤差の関係

  • 衛星SAR画像からの海岸線自動抽出の適用性と誤差要因の分析
  •  [土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.75,No.2,I_1285-I_1290,2019]

    (3)光学衛星画像からの海岸線抽出

    1)深層学習の活用による抽出性能の向上

     欧州宇宙機関が運用しいているSentinel-2の観測結果から汀線を自動抽出する手法を開発しました。古典的な手法であるエッジ抽出手法と最新のDeep Learningを用いた手法の2通りの手法を試行した結果が図-4、図-5です。

     エッジ抽出手法は前面に離岸堤がある場所(図-4)や、背後に保安林がある場所(図-5)では誤抽出をすることが多く、汀線に平行して存在する地物に弱いことが分かります。Deep Learningを利用した抽出手法ではこの点が大きく改善されました。

    図-4 離岸堤が設置された海岸における抽出例

    (青線がエッジ抽出、赤破線がDeap Learningによる抽出結果)

    図-5 背後に保安林がある海岸における抽出例

    (青線がエッジ抽出、赤破線がDeap Learningによる抽出結果)

    2)雲による観測阻害への対処

     光学衛星画像はSAR画像に比べて目視に近い観測結果を得ることができる代わりに、雲がかかっている場合には地上の状態を観測できないという欠点があります。
     そのため、衛星画像にメタデータとして付与されている雲量と汀線抽出の成果の関係を明らかにするとともに、画像合成によって自動的に雲の影響を排除する方法を試行しました。

     同じ海岸に対して様々な雲量の画像からの汀線抽出をDeep Learningによって試みた結果が図-6です。雲量が20%未満の画像であれば概ね誤差10m程度で抽出できることが分かります。Sentinel-2の地上分解能が10mであることを考えると、雲量20%未満の画像を選定したうえでモニタリングに利用すれば良いことが分かりました。

    図-6 深層学習により抽出された汀線の誤差と雲量の関係(湘南海岸)

     同じ場所を異なる時期に撮影した衛星画像を1年分合成し、平均的な画像を作成することでも、雲の影響を排除することができました。この場合、雲が少ない画像を選定するという作業が不要になるという利点があります。短期的な変化を見ることはできませんが、中長期的な変化を把握する分には問題ありません。

     合成画像からの抽出では、湘南海岸や宮崎海岸のように細砂で構成される海岸においても10m程度の誤差で汀線を抽出することができました。これはSAR画像からの抽出や、光学衛星画像にエッジ抽出を適用した結果よりも良好な結果であり、全国規模の中長期的な汀線変化をモニタリングするには有効な手法であることが分かりました(図-7)。

    図-7 衛星画像の種類及び抽出手法による誤差の違い

  • 光学衛星画像からの汀線抽出における画像処理方法の適用性評価
  •  [土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.77,No.2,I_1111-I_1116,2021]

    (4)今後の展開

     これまでに開発した汀線抽出手法を用いることで、砂礫浜の汀線変化の全国的な状況を把握していく予定です。また、衛星画像を用いたモニタリングによって得られた結果を海岸管理者に提供するためのサイトや、開発した汀線抽出手法を国総研以外の研究者やコンサルタントにも提供できる仕組みの構築についても検討を進めています。

    参考文献

    1)渡邊国広, 加藤史訓, 諏訪義雄, 山田浩次: 地形図の判読による全国の砂礫浜における汀線変化の把握, 土木学会論文集B2(海岸工学), 78巻, 2号, I_571-I_576, 2022.
    https://doi.org/10.2208/kaigan.78.2_I_571


    [2023年6月更新]
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