コラム

(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)が平成26年に地球観測衛星ALOS-2を打ち上げ、斜面崩壊等による土砂災害の早期検知においても衛星による観測を活用できるようになってきました。特に合成開口レーダー(SAR)を用いると天候や昼夜を問わず観測を行うことができることから、豪雨時の土砂災害の発生状況を迅速に把握できる可能性があります。

SAR衛星の観測結果から災害対応の初動期より効率的な被害状況の把握に活用することや、航空機等による詳細調査を行うべき範囲をあらかじめ絞り込み、調査を効率化することが期待できます。国総研では平成29年度からJAXAと共同研究を実施し、ALOS-2による衛星SAR観測で斜面崩壊等の判読について事例を重ね検討を行っているところです。


コラム:Twitterは土砂災害の前兆現象をとらえられるか?

「地鳴り」「土臭い」など土砂災害の前兆現象は、自治体が発令する避難指示や、住民自らが直ちに身を守る行動をとるための重要な判断指標であるとされています。その一方で、土砂災害の前兆現象は、住民が見つけたとしても、その情報の伝わる範囲が家族か近隣住民にとどまり、行政まで伝わるケースは多くはないと言われています。

つまり、土砂災害の前兆現象は、避難の判断には有効ではあるものの、それを警戒・避難システムとして活用するためには、その情報を迅速に収集し、他の切迫した状況にある地域に伝達できるようにすることに課題があると言えます。

そこで、土砂災害研究室では、近年急速にユーザー数が増大し、リアルタイム性と拡散力を強みとして社会システムに取り込まれつつあるTwitterに着目し、ユーザー達の豪雨に対する不安感や恐怖感を表した「つぶやき」に潜んでいる土砂災害の前兆現象を見つけ出し、これを警戒・避難システムに組み込むべく、2014年7月、(株)富士通研究所との官民共同研究に着手しました。

本シリーズでは、この研究に着手した経緯や研究手法、得られた成果などを随時紹介していきます。

平成26年8月豪雨による広島市土砂災害
※多数の「土臭い」などの前兆感知に関する報道があった。

(1)なぜ前兆現象なのか?

土砂災害は毎年1,000件程度の報告があります。これらによる死者・行方不明者の数は、大地震・大津波を除くと、自然災害による犠牲者の41%を占める(土砂災害への警戒の呼びかけに関する検討会、2013)と言われています。自然災害による人的被害を軽減する上で、土砂災害対策の強化は急務です。


土砂災害対策は、土石流の流れなどを土木構造物でコントロールすることによって被害を軽減するハード対策と、危険な地域に居住する住民等が土砂災害の危険性が高まった際に適切に避難できるようにすることによって被害を軽減するソフト対策からなります。

まずは人的被害だけでも何とか軽減したいという意味でソフト対策に着目すると、現在、豪雨によって土砂災害の危険性が高まっていることを知らせるため、土砂災害警戒情報が提供されており、内閣府(2014)は、2014年9月から運用が開始された「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」において、自治体に対し土砂災害警戒情報の発表を避難勧告の判断基準とするよう求めています。


土砂災害警戒情報は、降った雨が土壌中に貯まっている状態を推計した指標である土壌雨量指数と、どの程度の強さの雨が降っているのかを表す指標である60分積算雨量の二つの指標を用いて、過去の土砂災害発生時の実績値との比較によって現在の危険度を評価し、対象とする地域の中のどこかにおいて、土石流やまとまった数のがけ崩れが発生する恐れがあると判断された場合に、地方気象台等と都道府県が共同で発表しています。この手法は、あくまで対象としている地域全体の土砂災害の危険度を評価するもので、個別斜面の地形・地質及び植生等の影響までは考慮することはできません。したがって、より具体的にどの渓流、どの斜面の危険性が高まっているかについては、それぞれの箇所において、その場その場の変状を個別に知る必要があるのです。土砂災害警戒情報が発表されたのちに、個別の箇所における更なる切迫性の高まりを知ろうとする際に、「地鳴り」「土臭い」など土砂災害の前兆現象が重要となるのは、このような理由によります。

主な土砂災害の前兆現象
出典:内閣府政府広報室

土砂災害の前兆現象をとらえ、それを警戒・避難に活かそうとする取り組みは、比較的早くから行われてきました。

1999年度より導入された、各都道府県の出先機関などに窓口を設けて、住民から土砂災害の前兆現象等に関する情報収集を図る「土砂災害110番制度」は、まさに住民によって感知された前兆現象を他の地域の避難に活かそうという取り組みです。しかしながら、既に述べたとおり、土砂災害の前兆現象は、たとえ住民が感知したとしても、行政にまでは通報されるケースは多くはなく、「土砂災害110番制度」は必ずしも効果を発揮しているとは言えません。理由は多々あると考えられますが、地域毎に見ればかなりまれな出来事である土砂災害の前兆現象を、いざ感知した時に「土砂災害110番」に連絡しなければならないという考えが浮かばない、また仮に連絡しようとしても、直ちに連絡先を思い出すことができない、といった理由が挙げられるのではないでしょうか。つまり、「土砂災害110番」は普段使いしない連絡先であるということが、問題となっている可能性が否めないのです。


何とか前兆現象を防災システムに取り込もうと、加藤ら(2008)は、消防へ寄せられる通報を用いて土砂災害の危険度レベルを評価するシステムの研究を行い、その有効性は認めています。しかしながら、寄せられた通報をリアルタイムに分析するシステムの構築に課題が残るとしており、この手法もこの課題が解決されない限り、前兆現象の防災への活用の決め手となるとは言えません。このように、土砂災害に対する警戒・避難体制の強化には、土砂災害の前兆現象の発生をとらえ、避難に活かすことは有効であるが、いかに迅速にかつ網羅的に収集できるかが、大きな課題なのです。

そこで、前兆現象を把握するツールとして注目したのがTwitterなのです。

(つづく)

参考文献

土砂災害への警戒の呼びかけに関する検討会(2013):報告書、
http://www.mlit.go.jp/river/sabo/yobikake.html

内閣府(防災担当)(2014):避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン、
http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/guideline/guideline_2014.html

加藤誠章、菊井稔宏、宮瀬将之、酒谷幸彦、西井洋史(2008)、前兆現象による土砂災害の発生危険度の評価手法について、砂防学会誌(新砂防)、Vol.60、 No.6、 p.11-19

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