我が国は、世界有数の地震大国です。最大震度7の地震は、2011年の「東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、3.11)」以降、2016年の「熊本地震」(震度7が2回)、2018年の「北海道胆振東部地震」があり、モルタル外壁も他の外装材と同様に被害を受けています。近い将来、「首都直下地震」や「南海トラフ地震」の大地震の発生が想定されており、地震対策は重要となります。

本来、モルタル外壁は、適切な設計・施工を施すことにより、住宅全体の耐震性や防火性なども向上させることが出来ます。しかし、不適切な設計・施工の場合は、強い地震によりモルタルが剥がれ落ちることがあります。一旦、モルタルが剥がれると、下地材(合板など)や躯体材(柱・梁など)が露出しますので、地震直後に近隣で火災が発生した場合は、露出した木材などへ燃え移ることがあります。

モルタル外壁の採用を検討している皆様が、地震の際に大きな被害を受けたり、早期に下地材や躯体材が劣化しないよう、配慮すべきことや特徴についてご理解頂くため、Q&Aの資料を作成しました。

Q1:モルタル外壁とは、どんな壁?

モルタル外壁は、下地に防水紙や金網(ラス)を張り、その外側からモルタル(セメントに砂や水などを混ぜたもの)を塗ったものであり、下地を保護する役割だけではなく、左官や塗装の職人の技術により、意匠性を高めるなど、多種多様なデザインが可能です。

仕上け゛塗材の模様の例

下地

モルタル外壁の下地は、柱などの外側にある木製の下地(板材や合板等)に防水紙(アスファルトフェルト)を張り、金網(ラス)をコの字形の接合具(ステープル)で留め付けるのが一般的です。

Q2:モルタル外壁の特徴は?

以下のように防水性、耐震性を向上させる特徴がある他、防火性、耐久性など各種の性能を確保しています。

1)外壁の特長と層構成の一例

モルタル外壁は、縦および横に仕切られる目地(継ぎ目)がなく、下図の通り、金網状のラスをステープル(接合具)で下地(合板等)に留付け、壁一面にモルタルを塗ります。その後、固まったモルタルとラスが外壁全体を包み込んで一体化し、住宅全体の耐震性を高めます。

防水紙は、モルタルの裏面の アスファルトフェルト(防水紙)と、通気層の室内側の透湿防水シート(防水紙)が張付けられており、二種類の防水紙と通気層により三重の防水性を確保しています。

モルタル外壁の例(二層下地通気構法国総研資料第779号

2)耐震性の向上

モルタル外壁は、下地に通気層を設け、モルタルを施工した場合は、外壁全体の強度が合板だけの外壁よりも約1.7倍向上することが実験により確認されています。それにより、地震時に建物全体の変形を少なくする効果があります。しかし、推奨されない金網(ラス)、接合具(ステープル)等を使用した場合は、地震時にモルタルが剥がれやすくなります。不適切な設計・施工とならないよう、配慮が必要です。

合板耐力壁

合板耐力壁+モルタル(通気構法)

Q3:地震時にモルタル外壁が剥がれ落ちたのを見掛けたことがあります。耐震性が低いから?

Q2で述べたように、本来、モルタル外壁は、耐震性が高い外壁です。モルタル内のラス(金網)は、接合具(ステープル)により下地や構造躯体(柱・筋かい等)に留め付けているため、地震時の構造躯体の変形を抑制し、建物全体の耐震性を向上させます。しかし、構造躯体の耐震性が低い住宅の場合、留め付けたモルタルへの負担が相対的に大きくなり、耐えきれなくなってモルタルが剥がれることがあります。構造躯体の耐震性を確保し、かつ、適切な金網(ラス)や接合具(ステープル)等によりモルタル外壁を構築することにより、耐震性の高い住宅を建設することが可能であり、モルタル外壁も剥がれにくくなります。

旧来の住宅は、柱およひ゛筋かいと土台との間に 接合金物を留付けていないことか゛あり、柱と筋か いか゛土台から屋外側に外れてモルタルを破壊し、 躯体の耐震性も低くなっていることか゛あります。
構造躯体の耐震診断、耐震改修について

Q4:地震の時にも剥がれにくい外壁にするには、どうすれば良いの?

線径が細く軽量の平ラス(平らな金網)、小型のステープル(接合具)、梱包用のフェルト(防水紙)等の誤った材料を採用すると、耐震性や耐久性の低下を招きます。工事を依頼する前に以下をご覧頂き、どのようなラス、ステープル、防水紙を採用する予定なのか判るように、Q7の「モルタル外壁の記録表」を使用してもらえるか、事前に元請けの建設会社などへ確認しましょう。

■ラス(金網)

ラスは、モルタルの脱落や錆を防ぐため、モルタル(アルカリ性)に覆われるよう、立体的な形状を選んで下さい。波形ラス等の立体的なラスは、モルタルに覆われるので脱落や錆が発生しにくくなります。一方、平らな形状の平ラスは、凹凸が無いためモルタルの裏面に張付くため、剥がれたり錆びたりしやすく、各種の仕様書にて一般部の使用は禁止されています。(平ラスは補強として使用)

■ステープル(接合具)

ステープルは、防水紙を留付ける場合と、ラス(金網)を留付ける場合があります。モルタルが剥がれ落ちるのを防ぐためには、ラスを留付ける適切な長さや太さのステープルを選ぶことが重要となります。

1)ラスとステープルとの組み合わせ

ラスをステープルで留め付けるには、使用するラスに対応したステープル(下表)と同等以上の性能のものを使用する必要があります。しかし、使用するラスに対応した適切なステープルを選定しない場合が多く、モルタル外壁に精通していない業者に工事を依頼する場合は注意が必要となります。なお、F線などの小型のステープルは、防水紙等の留め付け用であり、線径が細く、足が短いので、ラスの留め付けには不適切であり、モルタルが剥がれ落ちる原因となり得ます。日本自動釘打機ステープル工業会では、製品別の「各種のラスに対応したステープルの種類と機器の例」が明記されています。

2)ステープル(接合具)の使用実態

地震時、外壁の剥がれやすさに最も影響を及ぼすのは、ステープルです。一般的に使用されている波形ラスを留付けるには、長さ19mmのステープルが必要となります。国土交通省国土技術政策総合研究所(国総研)が実施した下図の調査結果(204~264ページ)によると、推奨されるステープルの使用率は、全国平均で21%となっています。即ち推奨されないステープルの使用割合は、約8割に至っています。

■防水紙

防水紙は、壁内への雨水浸入を防ぐものであり、防水性や耐久性を確保する上で最も重要な材料です。最低限、アスファルトフェルト430の防水紙が必要であり、耐久性や防水性を向上させるには、改質アスファルトフェルトを使用することを推奨します。防水紙の代用としてアスファルトフェルト8kg/巻品や17 kg/巻品も流通していますが、これらは梱包用のため、防水性や耐久性が著しく低く、住宅瑕疵担保責任保険に関連する設計施工基準などでは使用が禁止されています。(一社)日本防水材料協会では、防水紙の種類としてアスファルトフェルト430、防水性や耐久性を向上させた改質アスファルトフェルトに該当する製品を公表しています。

寸法安定性が良くない防水紙を使用した場合、建設時の降雨や、その後の乾燥により防水紙が寸法変化し、ステープル周辺の孔が拡大します。アスファルトフェルト430の防水紙よりも寸法安定性の高い改質アスファルトフェルトを推奨します。

Q5:耐久性を高くする方法は?

通気構法を採用して下さい。この構法は外壁の耐久性を確保する上で最も重要視すべき構法です。通気構法は、結露や雨水浸入を防止し、水や湿気を屋外へ排出することにより壁内を乾燥させます。さらに、結露防止や省エネルギーにも有効です。このように通気構法は各種の性能を向上させるだけではなく、各種の優遇制度や補助金制度(住宅ローン減税、補助金等)の適用条件の一つになっている場合があります。

一方、通気の無い直張り構法は、水が滞留しやすく、木や金物が劣化しやすくなります。
特に、最近の気密性が高い住宅に対して、通気層が無い直張り構法を採用した場合は、雨水浸入や結露などの要因により下地が劣化しやすくなり、耐震性も低下しますので、モルタル外壁を選択する場合は通気構法を推奨します。

Q6:ひび割れの発生を抑制する方法は?

ガラス繊維ネット

ひび割れが発生しにくくなるようにするには、外壁のコーナー部や窓の四隅のモルタル表面付近をラス(金網)やガラス繊維ネット等で補強するように元請けへ依頼して下さい。また、ひび割れから雨水が浸入しないよう、モルタルのひび割れに追従しやすい塗り材を使うことも有効です。

しかし、小さなひび割れは、必要以上に心配する必要はありません。

ガラス繊維ネットモルタル外壁は、モルタルの裏面に防水紙を施していることが多く、モルタルの小さなひび割れだけでは、構造躯体(柱、梁等)まで雨水が浸入することはほとんどありません。さらに、通気構法の場合、防水紙のステープル(接合具)周辺の孔より内部に雨水が浸入した場合でも、雨水が通気層内を流下し、土台付近の水切りにより屋外へ排出させる仕様となっています。また、小さなひび割れが発生しても、地震によりラスが破断しない限り、強度性能にほとんど影響しないことが実験により確認されています。

通気層が無く、防水紙やラス(金網)が切れたりする程の大きなひび割れでない限り、小さなひび割れは耐震性および耐久性に著しい影響を与えません。しかし、通気層が無い直張り構法の場合は、ひび割れ部から浸入した水が下地に滞留しやすくなります。特に気密性の高い現代の住宅では乾燥しにくく、下地が劣化しやすい環境になり得るので、通気構法の採用を推奨します。

Q7:適切な設計・施工方法であるか否か確認する方法は?

建設会社などにより、下記の「モルタル外壁の工事記録表」などを用いて施工管理・記録してもらうことが可能であるか、事前に確認して下さい。

建設会社によっては、外壁に使用する防水紙、ラス(金網)、ステープル(接合具)等の選択を下請けの専門工事業者に任せ、適切な材料の種類を把握していない場合が見られます。元請けの建設会社を通じて、左官工事を行う専門工事業者に問い合わせて確認し、かつ記録を残してもらう方法が有効です。

「モルタル外壁の記録表」

会社名:会社名:

使用材料(契約前) 使用材料(契約前)
外壁の構法 直張り構法(非通気)
□通気構法(通気層の厚さ 15mm 未満)
□通気胴縁構法(厚さ 15mm 以上)
□その他の通気構法()
写真を添付
窓まわり全体の胴縁の配置状況の写真を添付
防水紙の種類 アスファルトフェルト 8kg/巻品
アスファルトフェルト 17 kg/巻品
□アスファルトフェルト 430
□改質アスファルトフェルト
□製品名、型番:
JIS A 6005、JWMA 規格品
写真を添付
防水紙の品名か゛記載された包装紙の写真を添付
ラス(金網)の種類 □波形ラス
□こふ゛ラス
□力骨付きラス
□リフ゛ラス
平ラス
□その他のラス
□製品名、型番:
写真を添付
ラスの品名か゛記載された包装紙の写真を添付
ステーフ゜ル(接合具)の種類 □製品名、型番:
線径:□J 線(線径 0.6mm×1.15mm)
□M 線(線径 0.85mm×1.25mm)
□MA 線(線径 1.05mm×1.25mm)
□T 線(線径 1.30mm×1.63mm ほか)
□その他( 線、 mm× mm)
足の長さ:□19mm □25mm □その他( mm)
各種のラスに対応したステーフ゜ルの種類と機器の例
写真を添付
ステーフ゜ルの品名か゛記載された包装紙の写真を添付
ラスとステーフ゜ルの組み合わせ □波形ラス-J線、19mm以上こふ゛ラス-M線、19mm以上
力骨付きラス(単層を除く)-M 線、19mm 以上
リフ゛ラス-T線、25mm以上平ラス
その他のラス-ラス製造業者か゛指定するステーフ゜ル
その他の組み合わせ
ラスの会社名:
ラスの製品名:
ラスの型番:
ステーフ゜ルの会社名:
ステーフ゜ルの製品名:
ステーフ゜ルの型番:

赤字は推奨されない構法と材料アンタ゛ーライン部分は推奨構法と材料

モルタル外壁の記録表

詳しい情報

用語の解説

名 称 解 説
1 モルタル 砂、セメント、水などを練り混ぜた湿式の材料。
2 モルタル外壁 下地に防止紙などを張り、金網(ラス)を接合具(ステープル)で留付けた後、モルタルをコテで塗込む湿式の外壁
3 通気構法 外壁内に通気層があり、雨水の流下および屋外への排出、湿気の排出、熱せられた外壁の熱放出などの役割を担った構法。
4 直張り構法 一般的に通気層が無く、柱などに張った合板などの下地に直接、防水紙やラス(金網)をステープル(接合具)で張り付け、モルタルを塗る構法。雨水浸入や結露が発生しやすく、特に気密性の高い現代の住宅には推奨されない。
5 防水紙 雨水が下地側に浸入しないようする役割のシート状の材料。モルタルの裏面には、「アスファルトフェルト430」、または、防水性や耐久性を向上させた「改質アスファルトフェルト」を使用することがある。通気層の室内側は、「透湿防水シート」が使用される。
6 アスファルトフェルト

モルタル外壁に使用される防水紙の一種であり、壁用として「アスファルトフェルト430」と、防水性や耐久性等を向上させた「改質アスファルトフェルト」がある。各種のフェルトの特徴を以下に示す。

1)アスファルトフェルト430

 モルタル裏面に使用する標準的な防水紙

2)改質アスファルトフェルト

 アスファルトフェルト430と比較して一般的に高温でダレにくく,低温で割れにくいなど,広い温度範囲で優れた特性を持つほか,ステープルによるくぎ孔まわりの止水性や耐久性に優れている。

3)アスファルトフェルト8kg品,17kg品

 包装用の防水紙であり,建築用ではないので,外壁には使用しないこと。

特に,アスファルトフェルト8kg品は,水に触れた際の寸法安定性が悪く,吸水により伸び,日射などにより乾燥して縮むので,その繰り返しなどにより,留め付けたステープルの足の周辺が損傷しやすく、漏水しやすい。

7 透湿防水シート 通気層の室内側に使用する防水材料であり、透湿性を保有するが一般的にステープルによる釘孔まわりの止水性は低い。
8 ラス 金属板に切込みを入れて引延ばし、金網状にした材料。モルタルを塗ってラスと一体化することによって引張強度を増強させるとともに、ステープを併用して下地に留め付ける役割を担う。
9 ステープル 防水紙やラスを留付けるコの字型の接合具。ステープルの線径や足の長さにより、地震時のモルタルの落下のしやすさに、著しく影響を与える。

施工時の具体的な確認内容の例

建設会社などにより、Q7の「モルタル外壁の工事記録表」などを用いて施工管理・記録してもらうことが可能であるか、事前に確認して下さい。

  • ① 構法および使用予定の材料に付いて確認・記録する。
  • ② 搬入された材料や施工の状況を把握し、記録する。
    現場に搬入された材料および施工中の状況を写真などで記録する。

防水紙:梱包用の8kg/巻品または17 kg/巻品を使用した場合、一回の降雨でシワが発生し、ステープル(接合具)まわりの孔から雨水が浸入しやすくなります。
→ 包装紙を写真撮影し確認。

ラス(金網):凹凸の無い平ラスを壁全面に張り付けている場合、ラスの裏面にモルタルが充填しないため、腐食しやすくなります。
→ 製品の型番を撮影し確認

ステープル(接合具):ラスを留め付けるステープルの線径が細すぎたり、足の長さが短すぎたりすると、地震時にモルタルが剥がれやすくなるので、最も注意すべき重要な材料です。ラスをハンマータッカーやガンタッカーで留め付けている場合は、線径が細く、小型のステープルを使用している可能性が高くなります。バッテリータッカーやコンプレッサーからホースで繋いだエアータッカーでなければ、ラスの留め付けに対応したJ線以上のステープルが留め付けられません。
→ 製品の型番、作業状況を写真撮影し確認

ラスを留め付ける際に使用して良い道具と、良くない道具

ハンマータッカー ガンタッカー エアータッカーまたはバッテリータッカー

ハンマータッカーやガンタッカーを使用してラスを留め付けている場合、モルタルが剥がれやすい小型のステープル(接合具)を使用している可能性が高い。

モルタル外壁について、より詳しい情報か゛必要な場合は、以下をこ゛覧下さい。

  • 1)国総研資料 第779号 「木造住宅モルタル外壁の設計・施工に関する技術資料
    (検索キーワードとして、「国総研779」をご使用下さい)
  • 2)(一社)日本建築学会、JASS15 左官工事(建築工事標準仕様書・同解説)、「4.5ラス系下地」
  • 3)(独)住宅金融支援機構、「木造住宅工事仕様書」(2019年版)第II章、9.左官工事

住宅全体(モルタル外壁を含む)の耐久性向上

2011年度から2015年度までの5年間にわたり、24機関の協力により産学官連携の共同研究を実施し、国総研資料第975号「木造住宅の耐久性向上に関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究」を取りまとめており、モルタル外壁関係では、第Ⅷ章 ラスモルタル外壁の構造耐力に及ぼす接合部の耐久性評価方法(案)を公表しています。

国土交通省、国総研が実施したモルタル外壁に関するアンケート調査

(2019年調査、モルタル外壁関係者が回答、有効回答数100件)

モルタル外壁のメリットのイメージ

モルタル外壁のメリットのイメージ

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