【研究ノート】

1 地すべりのすべり面粘土の強さ

地すべり対策工事を計画する際には、工事量を決めるために斜面安定解析が行われます。これは、地すべりの滑動力に対する抵抗力(せん断強さ)を工事によりどの程度補強する必要があるかを求めるためのものです。なお、斜面安定解析には、地すべり斜面の地形データやすべり面のせん断強さなどが必要です。ここでは、その中のすべり面のせん断強さに関する土木研究所での研究について紹介します。
(1)すべり面のせん断強さ
地すべり斜面には、移動する土塊と移動しない土塊との間にすべり面があり、このすべり面には極薄い(数ミリメートルの場合もある)粘土(すべり面粘土)があります。また、すべり面のせん断強さは、以下に示す(1)式により表されます。
τ=c’+(σ−u)tanφ’(1)
ここで、τ:せん断強さ、c’:粘着力、σ:土かぶり圧力、u:間隙水圧(土中の水圧)、φ’:内部摩擦角、です。
また、すべり面では、地すべり活動が繰り返され累積移動量が大きくなるに従い、図−1(a)に示すように、せん断強さはピーク強さ→完全軟化強さ→残留強さへと変化し、低下が起こります。
図−1すべり面粘土のせん断強さ
図−1すべり面粘土のせん断強さ
このようなすべり面のせん断強さの変化を土質試験により求めるためには、地すべり現象と同様に累積移動量(変位)の大きい状態を再現できるせん断試験機が必要です。このための試験機として、写真−1に示すリングせん断試験機があります。この試験機は、ドーナツ型に成型したすべり面粘土をせん断することにより、一定のせん断面積を保ちながら非常に大きな変位が得られるという特徴があり、図−1(a)に示したせん断強さの変化を比較的容易に求めることができます。
しかしながら、実際の地すべり斜面の安定解析に図−1(b)に示したせん断強さの中でどのc’、φ’を適用すべきかという点に関しては、まだ明確な回答を準備できないのが現状です。これは、土質試験に用いる試料であるすべり面粘土の採取が非常に難しいことや、一ヶ所程度の試料の試験結果がすべり面全体を代表できるか、といった問題があるためです。この問題を解決するために、以下に紹介する研究が行われています。
写真−1 リングせん断試験機
写真−1 リングせん断試験機
(2)すべり面のせん断強さに関する研究
地すべり現象をせん断試験と考えれば、一つの事例から図−1(b)に示した一組のせん断応力と垂直応力が求められます。この考え方をもとにして、全国460ヶ所余りの地すべり事例から逆解析により、すべり面のせん断強度定数を求める研究が行われています。なお、この事例は大変位を生じ現状の斜面安全率がほぼ1.0であると推定可能なものに限定しています。この研究では、逆解析により求められた平均的なせん断応力と垂直応力を、基盤岩の地質、地すべりタイプ及び斜面勾配などに分類整理し、すべり面の土質強度定数c’、φ’が求められています。
表-1 斜面勾配とすべり面のc’、φ’
勾配(度) 事例数 φ’(度) c’(tr/u) 相関係数
0≦θ<10469.00.580.944
10≦θ<1513214.80.340.951
15≦θ<2012720.70.040.935
20≦θ<259523.60.440.941
25≦θ<304027.90.400.930
30≦θ2730.00.730.944
(土木技術資料Vol.33 No.4による)
表−1は斜面勾配別に整理し求めたすべり面の土質強度定数を示したものです。この研究により、基盤岩の地質、地すべりタイプ及び斜面勾配などから同種の地すべり斜面の安定解析に用いるすべり面の土質強度定数を決めるための目安となるものができました。
この他、地すべり斜面から採取したすべり面粘土のリングせん断試験を実施し、数多くの地すべり地におけるすべり面粘土の土質強度定数を求めるとともに、試験方法の提案を行ってきました。(文責:丸山)
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