規制インパクト評価 と わが国の規制評価の動き

 

 規制インパクト評価(Regulatory Impact Assessment)、あるいは、規制インパクト分析

(Regulatory Impact Analysis)は、わが国ではまだあまり馴染みのない言葉であるが、

英国、米国、カナダ、ニュージーランドなど多くの国で政策決定過程に導入されてきている。

 

 規制インパクト評価とは、事業評価に相当する規制の事前評価であり、英国においては、

法令等によるあらゆる規制を制定または改正する際に、その規制案による社会的な便益・

コスト・リスク等を事前評価することにより、特に企業への負担増による市場競争の阻害や

社会的弱者への影響などを考慮しつつ、もっとも合理的な政策手法を選択するために義務

づけられている。

 

 

 

英国の規制インパクト評価について

 

○ 規制インパクト評価の導入経緯

 1997年5月の総選挙で労働党が保守党に圧勝し、18年ぶりに政権を奪還したトニー・ブレア

労働党政権がスタートした。ブレア政権は多くの制度改革に着手し、この中で公共事業評価

の充実・改革も進められた。

 事業評価については、それまで事業の影響に入れられていなかった環境などを新たに評価

項目に加えるともに、費用便益分析におけるコストや便益についても社会全体に対する

すべてのものに拡大された。

 一方、保守党政権時代の政府規制が企業などの民間活動に過度の負担をかけ競争を阻害

しているとの認識から、行政改革の一環として規制緩和をはじめとする規制改革に乗りだした。

 こうした流れが、社会全体に対するコストと便益の評価を、事業だけでなく「規制」を含めた

政策全般に適用を広げようという動きにつながっていった。

 

 1997年ブレア政権は、保守党政権時代に設けられた「規制緩和室(Deregulation Unit)」を

「より良い規制室(Better Regulation Unit)」に改めるとともに、政府から独立の組織として

「より良い規制特別本部(The Better Regulation Task Force )」を設置して

「より良い規制の原則(Principles of Good Regulation)」を公表した。

 

【より良い規制の5原則】

・透明であること(Transparent)

・説明責任をもつこと(Accontable)

・目標が明確なこと(Targeted)

・論理一貫していること(Consistent)

・リスクとコストの均衡がとれていること(Proportionate)

 

 そして1998年8月、すべての規制導入に規制インパクト評価を義務付けた。

これに伴い「より良い規制室」は改組されて「規制インパクト室(Regulatory Impact Unit)」

が設置され、同年8月10日には新しい指針として

「より良い規制指針(The Better Regulation Guide)」が公表された。

 

 

○ 規制インパクト評価指針

 2000年8月9日、この指針はさらに充実改訂されて、現行の

規制インパクト評価指針(Good Policy Making: A Guide to Regulatory Impact Assessment)」

が公表された。

 

 2002年に入って、新たに「競争評価」を規制インパクト評価の一部として実施すること

2月に決定され、9月1日からすべての規制案に義務づけられた。これにあわせて、

「競争評価ガイドライン(Guidelines to Competition Assessment: A Guide to Policy Makers

Completing Regulatory Impact Assessment) 」及び

「競争評価チェクリスト(Competition Assessment Checklist) 」が公表され、

規制インパクト評価指針の付録として新たに

「競争に与える影響の評価(Annex: Assessing the likely effects on competition)」が追加された。

 

 なお、規制インパクト評価指針については、小企業への影響評価の充実や上記の競争評価

の全面導入を踏まえた改訂作業が進められており、現在、改訂協議版が非公式協議(informal

Consultation)に付され2002年10月25日が意見提出期限となっている。今後、意見を受けて

改訂協議版に修正が加えられ、新指針が公表されると思われる。

 

 

  規制インパクト評価指針(2000年8月9日公表) 目次

 

第1章 政策の高度化と規制インパクト評価

第1段階 目的とねらいとする効果の明確化

第2段階 選択肢の拡充

第3段階 合意形成

第4段階 規制案の公表と公聴協議の実施

第5段階 大臣への上申(最適案の推薦)

第6段階 議会への規制案・法案の提出

第7段階 報告と説明責任

第2章 規制インパクト評価書のまとめ方

 

付属書類

付録1  便益とコスト:考え方と手法

付録2@ 規制インパクト部分評価書の例

付録2A 規制インパクト総合評価書の例

付録3  役割と責任:連絡窓口と訓練

付録4  参考文献

付録   競争に与える影響の評価(2002年追加)

 

 

「規制インパクト評価指針」日本語訳

英国内閣府規制インパクト室(RIU)の許諾を得て当研究室で翻訳したものです。

第1章及び第2章の日本語訳、付録は未翻訳 (pdf形式) RIAguide12JPnilim.pdf (298k)

※ 翻訳文書の再配布は自由ですが翻訳者を表示してください。

なお当室は翻訳文書の利用に起因する責任を負いません。

 

 

英国内閣府「規制インパクト評価指針」のページ

http://www.cabinet-office.gov.uk/regulation/2000/riaguide/default.htm

 

英国内閣府「競争評価」の実施義務付けに関するページ

http://www.cabinet-office.gov.uk/regulation/guidance/competition/index.htm

 

英国内閣府「規制インパクト評価指針」改訂案の非公式協議のページ

http://www.cabinet-office.gov.uk/regulation/scrutiny/consultation.htm

 

英国内閣府規制インパクト室(RIU) ホームページ

http://www.cabinet-office.gov.uk/regulation/

 

 

○ 規制インパクト評価の実施実績

 各省庁は実施するすべての規制インパクト評価の記録をとり、内閣府規制インパクト室(RIU)

に毎月報告しなければならないこととなっている。1998年に評価が義務付けられて以降、

交通・環境・食品・農業・医薬・産業・社会保障・雇用・教育・金融・税など多様な分野の規制に

ついて規制インパクト評価が実施されてきており、実施された規制インパクト評価の全リストは、

以下のホームページで見ることができる。

http://www.cabinet-office.gov.uk/regulation/scrutiny/RegReporting.htm

 

 

○ 規制インパクト評価における便益・コストの選定・評価事例

 英国でこれまで実施された規制インパクト評価書の中から、建築・土木・交通に関係するものを選び、

1)どのようなものを便益・コストとして選定しているか

2)選定した便益・コストをどのように定量的あるいは定性的に予測評価しているか

3)評価結果のどのような点に着目して政策選択肢の中から最適案を決定しているか

について整理分析する。

(工事中)

 

 

【規制インパクト評価 参考文献】

・岡敏弘「公共事業と事業評価−なぜ行政を評価するのか−」研修会講演録,1999

・天野明弘「中央省庁の改革と政策評価」会計検査研究No.20,1999

 

 

 

わが国における規制評価の今後の展望

 

 わが国では中央省庁等改革の大きな柱の一つとして、2001年1月から政策評価制度が全政府的

に導入され、政府の取組指針として決定された「政策評価に関する標準的ガイドライン」に基づいて

各省庁及び総務省において政策評価が本格スタートした。
   さらに、2001年6月には「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(いわゆる政策評価法) が

制定され、2002年4月1日から施行された。この法律では、相当程度の研究開発、公共事業及び

ODAについて事前評価が義務づけられたほか、これらに限らない政策一般についても各省庁の

定める実施計画に基づき事後評価を行うこととされたことから、今後は、事業だけでなく、規制の

ようなソフト施策についても評価を求める動きが本格化するものと予想される。

 

 この法律に先だって、総務庁(現 総務省)の「政策評価の手法等に関する研究会」が2000年12月

に公表した「政策評価制度の在り方に関する最終報告」は、政策評価の基本的なあり方、政策評価

の標準的な方式の導入や実施のあり方についてとりまとめたものであるが、この中で「規制」の評価

について、欧米の規制インパクト評価を紹介しつつ、以下のように結論付けている。

 

「政策評価制度の在り方に関する最終報告」U.1.(5).エ(エ) より抜粋

(エ)規制の評価に対する考え方

 以上のことから、我が国において規制の評価への早急な取組が必要な時期に

来ているものと考えられ、各府省においては、評価に必要な情報・データの収集を

進め、可能なものから順次評価に取り組んでいくことが重要である。

 その際、規制遵守費用を可能な限り定量的に推計したり、規制の便益や費用の

帰属先を把握することなどから取り組み、規制の評価に関する知識や技能を蓄積

していくことによって、評価の質の向上を図ることが求められる。また、規制の評価

手法等に関するケース・スタディ等を行いながら調査研究を進めたり、試行的に評価

を行っていくことも重要である。

 このような取組においては、新規の規制で、国民生活や社会経済に与える影響が

大きいものや諸外国で実施の蓄積があるものなどを優先的に採り上げていくことが

考えられる。

 以上のような取組と並行して、規制の評価の仕組みの具体的な在り方について

早急に検討し、その具体化を図ることも重要である。

 さらに、こうした規制の評価の進展を踏まえつつ、規制の新設審査における検討内

容等の充実を図ることも求められる。 

 

政策評価の手法等に関する研究会「政策評価制度の在り方に関する最終報告」のページ

http://www.soumu.go.jp/kansatu/matome1.htm

 

 

○ 規制緩和推進3か年計画における規制評価に関する政府方針の進化

 

 政策評価をめぐる動きの一方で、わが国は、1998年度を初年度とする新たな「規制緩和推進3か年

計画」を1998年3月に閣議決定し、経済的規制を原則自由化し市場原理に基づく国際的に開かれた

経済社会への構造改革を図ることとした。この計画の中で、規制の新設等に関して以下の3つの方針

が盛り込まれた。

 

@規制の制定・改廃に当たって、一般国民や事業者の意見を考慮し、説明責任を重視するため、

総務庁でパブリック・コメント手続のあり方の検討に速やかに着手する。

A規制の新設に当たっては、一定期間経過後に廃止を含め見直すことを原則とする。

B各省庁は、規制の新設を必要最小限とする基本方針の下に審査することとし、

規制の新設に当たっては、

(ア)規制の必要性、(イ)期待される効果、(ウ)予想される国民の負担等について検討し

検討結果を毎通常国会終了後速やかに国民に公表する

 

「規制緩和推進3か年計画」1998年3月31日閣議決定 のページ

http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/kisei010.htm

 

(例)国土交通省 規制の新設に関する通常国会終了後の公表 のページ

http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/policy/kiseikanwa/kokkai.htm

 

 

 また、次の3か年である2001年度を初年度とする現行の規制緩和推進3か年計画が、2001年3月に

閣議決定され、規制の評価に関する方針も前回計画の内容からさらに一歩進んだものとなった。

その主な方針は、以下のとおりである。

 

@規制の制定・改廃に当たっては「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」(1999年3月閣議決

)に基づき、政省令の策定過程で、広く国民や事業者に案を公表し、意見を考慮して意志決定

を行う。

A企業等がある行為を行うに際して法令に抵触するかどうかの予見可能性を高め、公平性・透明性

を確保するため、「行政機関による法令適用事前確認手続の導入について」(2001年3月閣議決

)に基づいて、手続を円滑に実施する。

B内閣府は、規制改革による需要拡大効果、生産性向上効果、雇用創出効果、物価引き下げ効果

等の経済効果につき数量的な分析を積極的に行い、公表する。

C各府省は、所管行政分野における規制のコスト及び効果の分析・把握を行い、現行規制の

見直しに資するとともに、新たに規制を設ける場合にはそのコスト及び効果についての情報

の積極的な提供・公表を行い、国民への説明責任を果たすためのシステムの確立に向けて

検討を進める。

DE → ( 前回計画のABと同じ )

 

「規制緩和推進3か年計画」2001年3月30日閣議決定 のページ

http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/kiseikaikaku-464.htm

 

(例)国土交通省 法令適用事前確認手続 のページ

http://www.mlit.go.jp/confirmation_procedure/confirmation_procedure.html

 

 

 なお、現行の規制緩和推進3か年計画策定に際し、内外から総務省に寄せられた意見・要望等の中

に、米国から「規制インパクト分析の導入に関する提言」として、審議会を設置して規制インパクト分析

の導入に関する提言をまとめるべきであるとの意見が提出された。

この意見に対して、総務省行政管理局は、

 1) わが国には既に規制の新設審査を行うシステムが存在する

 2) 規制の設定又は改廃に係る意見提出手続は、既に政省令等による規制に適用されている

 3) 2001年1月の政策評価制度の導入に伴い各省庁は規制の評価に必要なデータ等の収集を進め

可能なものから順次評価に取り組むこととしている

 4) このように既に規制の必要性に関する分析を行っており費用や効果の数量分析を行うか否かは

各規制の性質に沿って判断すべき事項であることから

改めて政府機関全体を対象とする規制インパクト評価の導入に関する提言をまとめるような審議会の

設置は考えていないとの見解を示し、この米国からの意見を「措置済み」「検討中」「措置困難」のいず

れでもない「その他:事実誤認等」に分類処理している。

 

総務省の行政に係る規制に関する意見・要望の検討状況(2001年1月26日 総務省発表)

http://www.soumu.go.jp/s-news/2001/0126.html

 

 

 

 以上にみたように、わが国においても、

 

) 政省令による規制だけにせよ案の策定過程で国民・企業に公表し意見を求める仕組みが既にある

) 新たな規制については期待される効果や国民への負担等を検討し公表することとなっている

) 各府省は所管する規制のコストと効果を分析把握し公表するシステムの検討を進めることとしている

 

という点で、規制インパクト評価に相当する枠組みは既に用意されていると考えられ、

今後は、規制によるコストと効果の定量的・定性的な分析の方法論の具体化とともに、

法律によるものを含めより広い範囲の規制を対象とする方向に動いていくであろうと思われる。

 

 


 

 

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