#
海岸の研究
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[4]海岸利用

3.人工海浜の土砂流出

(1)はじめに

 「利用者の安全」という観点での海岸管理がますます重要になってきております。そこで、地域の方々に安全に海浜を利用していただくため「人工海浜の土砂流出」について、目に見えない地中および突堤中ででのような現象が起こっているかということについて再現実験を行いました。

(2)不透過型の突堤構造の場合

 人工海浜の多くは、突堤を複数設け、突堤と突堤の間に養浜材料を設置するといった構造です。

 大蔵海岸の突堤は、幅約8m、長さ約10m、高さ約4mのケーソン工を覆うように上部工が設置されている。ケーソン工とケーソン工の間には防砂板が設置され、養浜砂が海中に流出しない構造とされていたが、防砂板が破損しており、養浜砂が流出しました。

 この現象を模型により再現実験を実施しました。模型は大蔵海岸を模しており、その縮尺は1/10である。空隙のある礫層の上部に砂を置き、現地の人工海浜と同様の構造です。

実験装置模式図
 水面が静穏で有ればそのままの形状が維持されます。ところが、波をかけると、防砂板模型に設けた破損部(スリット)から、引き波に応じて断続的に砂が流出します。そして、鉛直な壁面をもつ空洞が形成されます。養浜土砂厚が比較的小さい場合には、空洞が表面に達し、「陥没」が発生します。

 養浜土砂厚が十分大きい場合、空洞の成長は途中で止まり、空洞は表面まで発達しません。空洞の上面を土砂が覆っており、「落とし穴」状態になり事故の原因となります。なお、実験では、陥没直前まで表面には目立った変化は認められませんでした。


【砂の流出】 【陥没の状況】


(3)透過型の突堤構造の場合

 突堤の堤体は大きく分けて、ケーソン式に代表される「不透過型」突堤と、捨石式に代表される「透過型」突堤に分類されます。

 ところで、砂の安息角は概ね30°であり、ほぼ2割(水平方向に2、鉛直方向に1)の傾きで安定するといわれています。そのため、突堤の勾配が十分緩い場合、「透過型」突堤の中で、砂の安定勾配が形成され、施工後十分な時間が経過すると流出がとまるかどうかが対策の要・不要のポイントとなります。そのため、突堤の中での現象を調べてみました。

 ある海岸を模して1/5のスケールで突堤模型を構築しました。構造は、砂の上に粒径5〜15cmの礫を、1.5mの高さまで法勾配2割で盛ったものです。天端幅0.6m、堤体幅6.6m、水深はのり先より1mです。

 この状態で、陸側に砂を設置すると、重力により、砂が堤体中に落下し、水中で概ね1割程度の勾配となることがわかります。(図A

 図Bは、図Aの状態から、波高10cm(現地波高50cmに相当)の波をかけ、砂の形状に変化が無くなるまで16時間、波を作用させたところ、陸側より砂がさらに流出し、図Aで1割の勾配の砂面が、図Bでは概ね1.5割となることがわかります。

 図Cは、図Bの状態から波高を20cm(現地波高1.0mに相当)として造波させたものである。砂の流出が進み、養浜砂が表のり先に達し、さらに海側には養浜砂が流出していることがわかる。この状態では、対策工を施さない場合、堤体から砂が流出し続けることが推察できます。なお、砂の流出もとは、平均水位が裏のりと交わる部分であり、図Cでは陥没が発生していました。

 この実験は模型実験であり、水位、波高など必ずしもすべての海岸にあてはまるものではありませんが、現地波高1mという条件は、どの海岸でも発生する可能性がある波高であり、図Cの状況が発生している可能性が高いと考えられます。


図A 造波前


図B 造波後(波高10cm)


図C 造波後(波高20cm)
back