研究成果概要


国総研研究報告 第 44 号

【資 料 名】 港湾構造物に生息する付着生物群集の全国比較

【概   要】  本研究では,三大湾(東京湾,伊勢・三河湾,大阪湾)および主要な港湾域(苫小牧港,秋田港,新潟港,舞鶴港,洞海湾)の防波堤や護岸に生息する付着生物の分布状況を2009年度の冬季に調査し,優占種,多様度,および群集の類似性を整理した.調査対象を付着生物に限り,単年度かつ冬季限定ではあるが,全国の調査地点に対して統一した手法を適用してデータを得たという点で他に類を見ないデータであり,港湾域における生物群種構造の記録として報告する.さらに空間変異,緯度勾配および局所的な要因(構造形式,堤前波高,水深など)との関連性を検討するために,各海域の共通性と特異性について基礎的な解析を実施した.
 海域ごとの傾向としては,それぞれの海域ごとに異なる優占種が出現し,東京湾,秋田港,新潟港では主にムラサキイガイが第一優占種となり,その他の海域では他の二枚貝,小型甲殻類,多毛類など複数の分類群が第一優占種であった.20〜30年前と比較すると,特に洞海湾において優占種が著しく変化していた.東京湾および大阪湾では湾スケールの大規模な空間構造を持つという特徴が見られたが,伊勢・三河湾ではそうした大規模な構造は顕著ではなく湾内に複数の分布構造を持っていることが示唆された.全国的な傾向を見ると,多様度について苫小牧港から洞海湾までの3大湾を除く主要な5 港では他の多くの生物種で見られるような緯度による変化(緯度勾配)が見られた.
 付着生物の種数や多様度についての局所分布をみると,種数は平均水面下1.0〜6.0mの範囲で最大となり,個体数および湿重量は平均水面付近で最大となっていた.多様度は水深が浅いほど低い値となり,水深が深くなるほど高くなる傾向を示した.特に,平均水面付近では特定の種が優先して多様度が低くなる傾向があった.港湾構造物の構造形式や材質の違い,数十年スケールの建設年数と付着生物の種数や多様度との関連は明確では無かったものの,種数の最大値は波高が大きくなるにつれて減少していた.
 港湾域に生息する付着生物に関し,各海域の各地点および地点間の多様度,群集構造,局所的な種組成に関する基礎データが得られ,生物共生型港湾構造物の企画,立案時の目標設定や施工,管理時の評価に資する情報としての活用が期待される.

【担当研究室】 海洋環境研究室

【執 筆 者】 上村了美,吉田潤,岡田知也,古川恵太



表 紙 300KB
中 扉 330KB
目 次 276KB
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