LPプロジェクトの概要

はじめに

近年、集中豪雨や度重なる台風の上陸により、全国各地で大規模な水害が発生しており、とりわけ、局所的な豪雨の影響を受けやすい中小河川において甚大な災害が発生しています。

これらは、いまだ災害に対する施設の整備水準が低いことも大きな要因ではありますが、地球温暖化の影響ともいわれている激しい雨の増加や雨の降り方などの自然的状況の変化に加えて、少子高齢化などの社会的状況の変化に伴う地域防災力の低下及び災害時要援護者の増加などに起因した新たな災害の様相を呈するものでもありました。

こうした状況の中、財政面の制約の厳しさ、上下流・本支川の治水安全度バランスの考慮などといった状況と折り合いを付けつつ、河川管理者、地域の防災対策を担う関係自治体、さらには地域住民が一体となって、

  •   効率的・効果的な治水対策の推進
  •   災害発生時における実効的な危機管理の実現
  •   住民などの危機管理意識の向上

を目指していくため、流下能力等のデータにより河川の整備状況を把握・評価し一般に公表していくことが必要と考えています。

しかしながら、中小河川では、河道縦横断測量、水位・流量観測等が十分に実施されていない箇所も多く存在し、流下能力などの基本的かつ重要な情報が不足しているのが実情です。

以上の背景から、全国の1級水系内の中小河川について、従来のデータ収集・解析手順にこだわらず、簡便な手法で全国同一の尺度による治水安全度評価を実施することを目指して、中小河川の測量“空白区”を一挙に解消すべく、広範囲の地形データを高密度で簡便に取得できる航空レーザ測量を活用して治水安全度評価を行いました。


LPプロジェクトの流れ

LPプロジェクトでは、航空レーザ測量により全国一級水系の中小河川の三次元地形データを各地方整備局等が取得するとともに、国土技術政策総合研究所(以降、国総研)が中小河川治水安全度評価システムを開発し、簡便な流出計算及び水位計算手法を用いて全国同一の尺度をによる治水安全度評価を行いました。

なお、国の管理区間については、既存の流下能力評価結果を今回の水系全体の河川整備状況評価に使用しています(図-1)。


図-1 一級水系の河川整備状況の調査・評価・公表のフロー図


航空レーザ測量の概要

(1)航空レーザ測量とは?

航空レーザ測量は、図-2に示すとおり、航空機に搭載した航空レーザスキャナから地上に向けてレーザパルスを発射し、反射して戻ってきたレーザパルスを解析することで三次元地形データを取得する技術です。三次元地形データから河道横断形状や氾濫原の地形形状などを得ることができます。

図-2 航空レーザ測量の概念

(2)フィルタリング処理の重要性

治水安全度評価に使える河川の横断形状を航空レーザ測量による三次元地形データから得るためには、ノイズ除去した地表面データ(オリジナルデータ)から、様々な除去対象物を取り除き、地盤高データ(グラウンドデータ)を作成する必要があります。この過程をフィルタリング処理と呼びます。

治水安全度評価に必要な地盤高データを作成するために、本プロジェクトでは、表-1を主な除去対象物とし、プログラム処理により地表面データに自動フィルタリングを行います。オルソフォト(航空写真)と見比べながら、自動フィルタリングによる河川周辺にある除去対象物の取り除きの過不足について、人的に詳細処理(手動フィルタリング)を行います(図-3)。

表-1 主なフィルタリング項目


図-3 フィルタリング処理の過程


現況河道横断図の作成

簡便かつ機械的に河道横断図を生成できるように不整三角形網モデル(Triangulated Irregular Network:TIN)を採用しています。図-4のように、河道中心線に直交する任意の横断測線上の標高を、レーザデータから作成されたTINより自動的に生成するシステムを開発しました。

図-4 TINによる河道横断図作成


流量計算および水位計算の方法

中小河川においては、流量や水位の計算に必要なモデル作成とそこで使われる水文・水理パラメータの検討が実測データなどに基づき行われていないことの方が多い状況です。本プロジェクトにおいては中小河川の流下能力計算を全国共通的に実施することを目的とし、従来の解析手法にこだわらず、安価で効率的かつ簡素な手法として、流量計算は「合理式」を、水位計算は「一次元単断面不等流計算」を全国一律で採用することにしました。


おわりに

(1)評価結果

今回の公表では、図-5のように区間ごとに「何年に1回くらい降るような大雨に耐えられるか」という視点で治水安全度を平面的に表現しています。今後は、各地方整備局や河川事務所等、あるいは都道府県などの現場からの意見聴取を行い、それを反映して他の表現方法についても柔軟に検討していく予定です。

図-5 治水安全度評価結果イメージ

(2)評価の精度向上と危機管理への展開

本検討の成果が、今後、都道府県において治水安全度評価の精度向上に資する基盤データとなることを期待するとともに、中小河川を含む水系全体の治水安全度に関するより客観的で正確な認識の醸成に貢献し、近年の厳しい財政状況の中でも、様々な技術や工夫を通じて、地域における水害リスクの着実な低減やより実効的な危機管理の実現さらに住民等の危機管理意識の向上につながっていくことを期待しています。