研究成果概要


国総研資料 第 889 号

【資 料 名】 浮遊幼生に着目した生息場の空間配置の検討

【概   要】  沿岸域の生態系を,より一層多様かつ持続可能な状態に再生させていくためには,生態系ネットワークや生活史に代表されるような水域全体に渡る生物の移動や繋がりを考慮したシースケープ(Seascape:多様なタイプの生息場によって構成される沿岸域の空間)のデザインが必要である.本研究では,内湾性の一時性浮遊生物(メロプランクトン)の浮遊幼生期に着目し,着底する生息場の外から様々な距離を移動してくる浮遊幼生が生息場に着底する割合(着底率)と,生物生息場の空間配置について,概念的に検討できる数値モデルを提案すること,および基本的なSLOSS問題(1つの大きな生息場と多数の小さな生息場のどちらが良いか?)の計算ケースを実施することによって,幼生の放出源となる母体の位置が不明な海域における生物生息場の配置を検討する際の要点を示すことを目的とする.
 片側有限の一次元空間[0,∞]の中に内湾域[0km,100km]を設け,100kmを超える区間を外海域とした.内湾域に浮遊幼生を保有する母体と,幼生の着底する生息場を配置し,幼生の着底率に基づき,生息場の配置を評価した.幼生の平均分散距離の範囲は,10cmから10000kmまでである.
 様々な平均分散距離の浮遊幼生の着底率と生物生息場の空間配置について,概念的に検討できる数値モデルを提案した.また,本モデルを用いて浮遊幼生の着底場におけるSLOSS問題を検討した結果,内湾域に中程度に偏って分布する浮遊幼生の着底場を無作為に配置する場合,幼生の着底率は,生息場を分割して配置すると高まること,および生息場を散らばせて配置すると高まることが明らかとなった.多数の小さな着底場を配置することで,より種多様性の高い着底場となることが期待される.

【担当研究室】 海洋環境研究室

【執 筆 者】 秋山 吉寛,井芹 絵里奈,岡田 知也



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