沿岸域は生物多様性と生態系機能が高く,供給,調節,文化,基盤の4つの生態系サービスを提供出来る場である.特に運河域などの水際線は生物の生息場としての機能等の高い生態系サービスを提供できる場として重要である.その沿岸域における生態系サービスの向上においては,沿岸域の環境を統合的に評価すること,さらに大型の生物(魚や鳥)などを指標として分かり易く評価し実践的な管理につなげていくことが重要である.そこで,本研究では,内湾域から干潟を含む浅海域までの沿岸域一体を生息場とする生物(マハゼ)を利用して沿岸域の環境を総合的に評価することを将来的な目標とし,マハゼの個体群動態の解析手法の実証的な開発を目的とし,東京湾を対象海域として基礎的な調査・検討を行った.
調査は2009年から2012年にかけて行われた.対象海域においてマハゼを採取し,採取された全個体について全長計測を実施するとともに,その一部分については耳石解析を行った.
その結果,以下の4つの知見を得た.
・当該期間における東京湾に生息するマハゼのふ化時期は既往文献よりも長期化し11月〜8月であり,成長速度は毎年異なることを考慮する必要があること.
・全長組成分布における分散値の時系列変化とコホート解析より得られるふ化群組成は,場所毎のマハゼの加入・滞留の状況の違いを捉えることができる解析手法として有望であること.また,特定のふ化群出現頻度を空間的に解析することにより,マハゼの移動経路と影響範囲を推定できる可能性があること.
・局所的なマハゼの出現状況は微地形やその場の水質分布に関係があり,環境指標として活用できる可能性があること.
・広域的なマハゼの見かけの成長速度と出現特性は河口部や運河とその地先の海域を含めた総体的な地形や湾内の水質分布などと関係があり,市民参加型のマハゼの棲み処(すみか)調査で湾レベルでの広域的な環境状況を把握,評価することが出来る可能性があること. |