研究成果概要


国総研資料 第 739 号

【資 料 名】 海洋レーダを利用したインバージョン手法に基づく津波初期水位の推定精度に対するレーダ観測時間の影響

【概   要】  本研究は海洋レーダ観測により得られる視線方向流速をインバージョン解析の応答関数に用いて津波初期水位を逆推定し,レーダ観測時間(受信波の積分時間)の影響および観測時間とトレードオフとなる流速分解能の影響に着目して予測精度を検討した.本研究のインバージョン解析は,推定された津波初期水位を初期条件として津波数値計算により地震発生後24時間以内に激甚被災地を探索することを目的としたものである.本研究で明らかとなった事項は次のとおりである.

1)単純地形モデルによる数値実験により観測時間の影響検討を行った.インバージョン解析による津波初期水位,津波波形の推定精度は,津波の卓越周期が短いとレーダ観測時間が長くなるにしたがって低下するが,ある程度以上の卓越周期では観測時間の影響は小さく推定精度は良い.また,最大津波流速に対して流速分解能の大きさが大きくなると推定精度は急激に低下する.

2)続いて,東北地方太平洋沖地震を対象とし,初期水位を藤井・佐竹の断層モデル(Ver.4.2)により与え,岩手県沖および宮城県沖に2台のレーダを仮想的に配置した数値実験を行い,単純地形モデルで得られた結果について検証した.レーダ観測点において最大流速に対する流速分解能の比率は最大でも2%以下と小さく,流速分解能は推定精度にほとんど影響しなかった.また,観測時間によらず津波初期水位,津波波形の推定精度は良好であった.これらの結果は,単純地形モデルによる検討結果と整合する.ただし,観測時間を長くすると最大波を過小評価してしまう可能性があることが分かった.

3)インバージョン解析に用いる最適な観測時間は,観測津波の最大波の推定精度を維持しつつできるだけ長い観測時間を選択することが重要である.実際の海洋レーダの観測では最大波を観測した後,津波の卓越周期と最大流速を確認してから解析に用いる流速を計算するための最適な観測時間を設定することで推定精度の向上が期待できる.


【担当研究室】 沿岸域システム研究室

【執 筆 者】 藤良太郎,日向博文



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