ETC2.0: 「ETC2.0」プローブ情報

ETC2.0に関する取り組み

ETC2.0は、道路(路側機)と車両(車載器)が双方向通信することにより、従来よりも拡大された情報提供や安全運転支援等を受けられるサービスです。路側機は全国の高速道路に約1,700箇所、直轄国道に約1,900箇所設置されており、この内の高速道路ではその時の道路状況に応じたダイナミックなルートガイダンスの情報や、前方の障害箇所等の画像情報、事故多発地点等で安全運転を支援する情報等、従来よりも幅広い情報を受けることができます。

またETC2.0サービスに対応する車載器を搭載した車両は、プライバシー対策がなされた形で「走行履歴」「挙動履歴」を蓄積しており、その車両が路側機の下を通過する際にこれらの情報をプローブ情報として収集し、道路交通行政に幅広く活用しています。(プローブ情報の収集は、利用者の同意を得て実施しています)

ETC2.0の概要
ETC2.0の情報提供内容 (1)
ETC2.0の情報提供内容 (2)

ETC2.0車載器を搭載した車両から収集するプローブ情報は、集約・加工処理することで、道路の調査・研究、道路管理等に活用されています。

走行履歴データを収集し分析すると、道路の区間毎や日時毎の通過速度等がわかります。渋滞が頻発する区間の把握や交通円滑化施策の立案等に活用できます。

挙動履歴データを収集し分析すると、急ブレーキ(急減速)が多発する地点等がわかります。ヒヤリハット箇所の把握や交通安全施策の立案等に活用できます。

またETC2.0車載器の搭載車両を管理する事業者からの申請があった場合に、その車載器のIDの情報を特定したプローブ情報(特定プローブ情報)を抽出し、車両の運行状況を管理することもできます。特定プローブ情報は、特車通行許可を簡素化する「特車ゴールド制度」にも活用されています。

プローブ情報の概要、活用イメージ

その他、ETC2.0車載器の搭載車両を対象に、都心部を迂回して環状道路(圏央道)を利用して移動場合の高速道路の料金を割り引く施策や、高速道路の休憩施設の間隔が長く空いている区間において、高速道路からの一時退出を可能とする「賢い料金」等の施策にも活用されています。

ETC2.0料金割引
高速道路からの一時退出

個別研究内容

1 車両運行管理

物流事業者等には、より安全で効率的な運送を実現するため、自社の車両の現在位置やドライバーの運転状況(安全性等)を把握したいというニーズがあります。オンラインのデジタルタコグラフやドライブレコーダー等により、これらの状況をリアルタイムに把握できるサービスがありますが、機器の購入・設置費用、通信費用、サービス利用料等、一定のコストが発生します。

国土交通省では、ETC2.0車載器を搭載した車両が高速道路や一般道に設置されているETC2.0の路側機を通過した際に把握できる通過情報や移動履歴等の情報を、車両運行管理等のサービスに活用する社会実験を、2015年度から実施(19者参加)し、その効果を検証しました。

図1.ETC2.0車両運行管理支援サービスのイメージ

ETC2.0プローブ情報を用いた車両位置表示サービスを利用した19者中17者が、車両位置の確認による迅速な対応やドライバーや荷捌き作業員の待ち時間短縮に効果がある等、本サービスが役に立つと評価しました。一方で路側機が設置されていない区間では情報収集が遅れ情報を入手できるまでのタイムラグが生じてしまうことの課題への指摘もありました。

また急ブレーキ多発箇所を表示するサービスを利用した7者中6者が、急ブレーキ多発箇所を把握でき、運転手の安全運転意識の向上や急ブレーキ回数の削減に効果がある等、本サービスが役に立つと評価されました。

ETC2.0プローブ情報を活用した車両運行管理は、情報収集タイミングが路側機の下を通過した時のみであるため情報収集のリアルタイム性は限定されるものの、通信費用が発生しないことや、車両側に必要な機器がETC2.0車載器のみである手軽さ等のメリットがあり、実験参加者からも一定の評価を得ました。

社会実験での検証を経て、現在ではETC2.0を搭載した車両の走行位置や急ブレーキ等のデータを配信する「ETC2.0車両運行管理支援サービス」の本格導入を開始しています。詳細は公募により選定した配信事業者(一財 道路新産業開発機構)のHPをご確認下さい。

図2.車両位置表示サービスのイメージ、評価
図3.急ブレーキ多発箇所表示サービスのイメージ、評価

2 可搬型路側機

国土交通省では、ETC2.0プローブ情報を渋滞の分析や災害時の通行実績把握等をはじめとして、道路交通分野の各種分析に幅広く活用しています。

ETC2.0プローブ情報は走行中にETC2.0車載器内部のメモリに蓄積され、そのデータはETC2.0プローブ情報収集用路側機(以下、「路側機」という。)を通過した際に収集されます。しかし車載器にはメモリ制限(走行履歴おおむね80km程度、挙動履歴31事象)があり、これを超えた分の古いプローブ情報は新たな情報に上書きされます。なお既存の路側機の設置箇所は高速道路と直轄国道に限定されています。このため、既存の路側機から遠い地域や国道等を使わない道路交通区域では、プローブ情報の収集が困難になります。

この様な地域のETC2.0プローブ情報の収集を効率的に行うため、国総研では、可搬型のETC2.0プローブ情報収集用路側機(以下、「可搬型路側機」という。)の開発を行いました。

可搬型路側機の設置による効果

可搬型路側機は、任意の箇所に機動的に設置することを目的としているため、対象箇所周辺に国土交通省の専用光ネットワークがないことを想定し、無線部から通信事業者の回線を経由して各地方整備局内の制御部と通信を行います。制御部に収集されたETC2.0プローブ情報は既存の路側機と同様に処理サーバに送信され、関東地方整備局の統合サーバで集約・処理されます。

可搬型路側機の構成

国総研では現在、試行的に可搬型路側機を設置しETC2.0プローブ情報の収集を実施しています。中国地方整備局や広島県内および岡山県内の地方自治体等の協力の下、イベント開催地や観光地周辺等の各地域にて、それぞれ1週間程度の期間で可搬型路側機を設置・情報収集を実施しています。そのうちの一つとして、観光地である倉敷市美観地区周辺に可搬型路側機を設置した事例を紹介します(設置期間:2019年11月22日(金)から28日(木)の1週間、使用した可搬型路側機4台)。

今回の試行では、観光地周辺の車両による来訪者特性の把握や交通特性の分析に可搬型路側機が有効であるかを検証するため、倉敷市美観地区周辺の各大型駐車場に1台ずつ計4台設置し、広い範囲でより多くのETC2.0プローブ情報の収集ができるよう工夫しました。その結果、設置場所によって差異はあるものの1週間で1か所あたり数百~千台前後の車両からETC2.0プローブ情報を収集しました。

倉敷市美観地区における可搬型路側機を用いたETC2.0プローブ情報の収集

今後は、可搬型路側機から収集されたETC2.0プローブ情報を基に、可搬型路側機の有無による情報量の比較検証、渋滞分析や経路分析をはじめとする道路交通分野の各種分析等を行い、可搬型路側機の設置効果や有効性について評価を行います。併せて、国や地方公共団体等の道路管理者が地域交通の課題解決等に可搬型路側機を活用することを想定し、可搬型路側機の活用事例集、および設置方法や運用にあたっての留意事項を取り纏めたマニュアルを作成する予定です。

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