研究成果概要


国総研資料 第 916 号

【資 料 名】 市民参加型調査によって得られた東京湾のアサリ稚貝の分布

【概   要】  干潟は海域の生態系サービスを人々が享受できる貴重な空間である.その干潟の生態系サービスに対して,アサリ(Ruditapes philippinarum)が果たす役割は大きい.アサリは,濾過食者として水質浄 化,漁業対象種として食料供給,および潮干狩り対象種として親水利用等のサービスをもたらしている.ところが,そのアサリの生息量は全国的に減少している.干潟の生態系サービスを維持・向上させるためにも,アサリの生息量の回復が求められている.近年の研究によって,産卵場から着底場までの幼生の移動によるネットワークの維持が,東京湾のアサリの存続には重要であることが示された.しかし,東京湾において,アサリの稚貝がどの場所にどの程度着底するかは未だに良く判っていない.そこで,アサリ稚貝の着底・加入に関する多くのデータを取得するために,アサリの稚貝量調査と環境学習会を合わせた市民参加型調査を企画した.本資料では,市民参加型調査の取り組みを今後の参 考事例として紹介するとともに, 2014 年および2015 年の2 年間で収集したデータについて報告する.
 本調査では,市民の参加し易さおよび調査データの精度の担保の面から,「調査シートの充実化」,「調査の統一化・単純化」,「見分け方教室の開催」の3 つの工夫をした.「調査シートの充実化」では,調査シートに調査の際の注意点や見分け方のポイントを記載した.「調査の統一化・単純化」では,調査方法を調査票に明記し,調査内容を殻長の1 mm 単位の計測のみとした.
 2 年間の調査結果から,東京湾内の稚貝の着底について,次のことが示された.@同じ干潟でも加入時期(幼生が着底し殻長1 mm 以上に成長した時期)が年によって異なる場合がある.A同じ干潟でも稚貝の加入回数および加入量が年によって異なる場合がある.B稚貝の加入量は,湾央で多く,湾 奥で少ないと推測される.

【担当研究室】 海洋環境研究室

【執 筆 者】 井芹 絵理奈,秋山 吉寛,黒岩 寛,岡田 知也



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