研究成果概要


国総研資料 第 832 号

【資 料 名】 港湾構造物に優占する侵略的外来種 ムラサキイガイの糞の形態的特徴

【概   要】  侵略的な外来生物であるムラサキイガイは国内の港湾構造物表面に付着し,その遺骸に加えて多量の糞が底面上に堆積することによって,底質の悪化,底層水の貧酸素化,および生物群集組成の変化を引き起こす.その対策をしていくためには,ムラサキイガイの糞の環境への影響を定量的に把握する必要がある.しかし,実海域において懸濁態有機物の中からムラサキイガイの糞を定量的に測定する方法は無く,底質環境への影響の定量的評価は行われていない.そこで本研究では,ムラサキイガイの底質環境への影響の定量評価に向けて,ムラサキイガイの糞の形態的特徴を用いて懸濁態有機物の中からムラサキイガイの糞を判別する手法を開発することを目的とする.
 東京港内で採集した20個体のムラサキイガイから計60個の糞を採取して実体顕微鏡で観察した.糞の特徴として,定量的な2項目(糞の長さ,糞の最大幅)と,定性的な10項目(輪郭に関する6項目:形が細長,形が扁平,幅が均一,縁付近が不透明,長軸中心線付近が不透明,全体が不透明.彫刻に関する4項目:縦筋がある,縁に横筋模様がある,長軸中心線付近に横筋模様がある,長軸中心線付近に穴がある)を調べた.また,ムラサキイガイの糞の形態的特徴が,種特異的であるかについて,他の海洋生物の糞の形態に関する情報を収集し検討した.
 全てのムラサキイガイの糞に共通する特徴は形が細長であり,90%以上の糞に該当するその他の特徴は,幅が均一,形が扁平,縦筋がある,の3点だった.これら4点の特徴をすべて備えた糞の割合は全体の86.7%だった.これら4点の特徴を持つ糞を排泄する海産無脊椎動物種は6種確認されたが,ムラサキイガイと同所的に生息する種はムラサキイガイほど優占しないため,ムラサキイガイの糞の量の推定に際し,大きな誤差要因とはならないと考えられた.したがって,上記の4点の形態的特徴に基づくことによって,懸濁態有機物の中からムラサキイガイの糞を視覚的に高確率で判別できると考えられる.

【担当研究室】 海洋環境研究室

【執 筆 者】 秋山 吉寛,井芹 絵里奈,岡田 知也



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