【資 料 名】 |
秋季東京湾におけるアサリ(Ruditapes philippinarum)浮遊幼生の出現密度の時空間変動 |
【概 要】 | アサリは日本各地の干潟や浅場に生育し,潮干狩りなどのレクレーションの対象として,また食材
として日本人に最も馴染みのある食用二枚貝である。アサリの現存量は全国的に激減しており,その主な原因として,東京湾では,アサリ
の主要な生息場所である干潟や浅場の埋め立てによる消失が挙げられる。開発が進んだ東京湾においてアサリ資源を回復させるには,
孵化後しばらくの間浮遊生活を送るアサリ幼生が,どの様に分散していくのか把握した上で,生息場所の造成や保護を行う事が有効と考え
られる。アサリのみならず,海産の底生生物および付着生物の多くは浮遊幼生期を持つことから,浮遊幼生の移流経路に関する知見は,近
年注目されている環境保全・自然再生事業を行う海域を選定する際の基礎データとしても非常に重要である。そこで,アサリの初期生態を解
明することを目的として,東京湾に約3.5kmの間隔で設けた65測点で,アサリ幼生の出現密度を2001年8月2,6,10日と同年10月15,19,23日
の日程で計6回測定した。8月の観測結果については,国土技術政策総合研究所研究報告(2003年6月,第8号)において発表した。本報では
10月の観測結果を基に,秋季東京湾におけるアサリ幼生の殻長成長速度や浮遊期間,発生場所などを考察する。アサリ幼生の最大出現密
度は,D型幼生では5390個体m-3,殻長期幼生では2670個体m-3であった。殻長組成の経時変化から,10月のアサリ幼生の殻長成長速
度は8〜9μm d-1,浮遊期間は15日と推定された。孵化後間もないと考えられる殻長110μmの幼生の水平分布から,自然あるいは人工
の干潟や浅場だけではなく,港湾区域のような水深のある場所もアサリ幼生の供給源となっていることが示唆された。同一の個体群と考え
られる幼生の出現密度の水平分布を比較した結果,分布の中心は湾口部へ移っていることが明らかとなった。秋季に卓越する北偏風によっ
て,発生したアサリ幼生の多くは湾外へ流出していると考えられる。幼生の浮遊期間の延長や,この時期に頻繁に来襲する台風による風雨が,
幼生の流出を助長している可能性がある。 |
【執 筆 者】 |
粕谷智之,浜口昌巳,古川恵太,日向博文 |
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