<下水道部>

水質研究室 平成1年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


環境ホルモン生成物質の水環境中での挙動に関する研究

研究期間:平11〜平14
担当者 : 田中、小森、白崎

人や生物へ、内分泌攪乱作用を引き起こす化学物質の問題が指摘されているが、それらの物質の中には、ノニルフェノール(NP)のように水環境中での分解により生成する物質もある。このため、効率的な負荷の削減を可能にするために、NPを生成するノニルフェノールエトキシレート(NPEO)等の水環境中での挙動を把握する必要がある。  11年度は、綾瀬川の水を用いた生分解実験により、NPEO、NP濃度の経時変化、及び分解生成物の把握を行い、NPEO、NP濃度は経時的に減少すること、ノニルフェノキシカルボン酸(NPEC)が蓄積する場合があることを確認した。また、綾瀬川の底泥を用いた溶出実験を行い、NPEO、NPが溶出する可能性を明らかにした。


河川水質と水生生物相との関係の把握

研究期間:平8〜平11
担当者 : 田中、高橋、東谷、矢古宇

 近年、化学物質の製造、使用は増加の一途をたどっており、それらの中には有害な物質も含まれるため、水域汚染が懸念される。しかし、従来より用いられている個別物質を対象とした化学分析法では、定量分析が困難な物質や未知の有害物質には対応できない、複合影響を評価できない等の問題がある。そこで、生物を用いて生物に対する影響そのものを評価する手法であるバイオアッセイ(生物検定)が、多種類の物質が含まれる排水や環境水の毒性を総合的に評価する手法として注目されつつある。 本調査は下水や下水処理場からの放流水の毒性をバイオアッセイを用いて評価するための手法を確立することを目的としている。  近年化学物質の中に、生物の内分泌系を攪乱する恐れのある物質いわゆる環境ホルモンが存在し、下水からも検出されることが指摘されており、建設省においても河川及び下水道の実態調査を実施していることに鑑み、11年度は環境ホルモンの生物影響を組み換え酵母を用て測定する方法を検討した。また、下水試料の測定を実施した結果、下水処理により女性ホルモン作用が削減されることが推察された。


下水処理施設での有機有害物質の挙動に関する研究

研究期間:平8〜平11
担当者 : 田中、小森、岡安、竹歳、東谷

 本研究は、下水道に流入する可能性のある有害物質のうち揮発性有機物(VOC) 11項目の実験装置を用いた挙動調査と実施設における挙動把握を目的としている。 11年度は、実験装置を用いたVOC挙動調査、VOCの生分解性、VOCモニターの開発について実施した。実験装置を用いたVOC挙動調査では、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、キシレンについて調査した。流入する物質のほぼ100%は初沈を通過するが、エアタンで4〜83%揮散し、終沈流出水に26〜65%残留することがわかった。活性汚泥によるベンゼンの生分解性試験を行い、ベンゼンは活性汚泥中の微生物により容易に分解することが確認された。VOCモニターの開発では、流入下水を測定対象としたモニターを試作し、約4ヶ月間のモニタリングを行い良好な結果を得た。


都市排水に含まれる水道原水影響物質の評価手法に関する基礎的研究

研究期間:平10〜平12
担当者 : 田中宏明、小森行也、高橋明宏

 本研究は特に都市排水が、下流で水道原水として使われる場合問題となる、多環芳香族化合物(PAH)やその他の変異原をもつ物質を検出し、評価する方法を確立することを目的としている。今年度は、下水道に関する環境変異原の文献レビューを行い、下水中の変異原の検出には細菌が使われているが、極めて限られた物質しかその原因が求められていないことが分かった。また、下水処理水にみられる変異原の由来を探るための基礎的検討を行った結果、下水の変異原性は分子量としては分子量1000を越える比較的大きな物質に由来すること、流入下水と二次処理水の変異原性は極性か異なっており、下水処理の過程で流入水に含まれている変異原性物質が分解や修飾を受けて極性が変化したことが推察された。


生態系から見た下水処理水の評価方法に関する調査

研究期間:平8〜平11
担当者 : 田中、高橋、東谷、矢古宇

 本研究は、水生生態系を保護するための水質条件としてはどのようなものが必要か、またその条件設定のためにどのような調査研究方法があるのかを文献的に調べるとともに、限られた我が国での情報を補うために都市を中心とした河川などの水質とそこに形成される水生生物相の関係についての基礎的知見を現地調査などにより把握することを目的としている。  11年度は、下水処理水の放流先河川を変更した際の河川の水質変化及び生物相の変化について調査を実施した結果、下水処理水の放流先では水質が安定するため、特定の付着藻類が生育しやすく、自然の条件に比べて生育している付着藻類の季節変化が抑えられること、底生動物は付着藻類に比べ、河床材料等の影響を受けやすく、付着藻類よりも水質の変化に影響を受けにくいこと等が推察された。


下水中の微量化学物質の新しい検出技術に関する調査

研究期間:平11〜平13
担当者 : 田中宏明、小森行也、高橋明宏、岡安祐司

 現在、下水中には、人や生物に対して、内分泌かく乱作用や毒性作用を示す微量化学物質が含まれている可能性が指摘されている。これらの物質の現行測定法では、特殊な分析機器を必要とし、高度な技術が要求される。本調査では、微量化学物質の検出方法の簡易化、迅速化を図ることで、広範にわたって微量化学物質の挙動を監視することを可能とし、また、下水道の適切な維持管理に応用することが可能となる。下水中の毒性の検出方法としては、硝化細菌を用いたバイオセンサの利用を検討している。また、内分泌かく乱化学物質の検出手法としては、従来からのGC/MS、LC/MS等の機器分析に代わり、簡便に測定ができるELISA法の適用性を検討している。                    


流域循環系に占める下水道整備効果に関する調査

研究期間:平8〜平12
担当者 : 田中宏明、小森行也、白ア亮、竹歳健治

 本調査は、河川流域における水や様々な汚濁物質の循環に対して下水道整備が与える影響や効果、またそれに係る資源投入量等を把握し、今後、総合的な水管理を進めていく上で、下水道整備において改善すべき課題を検討する目的で行うものである。 11年度は前年度に引き続き、河川の流量・流出負荷量に対して流域の下水道整備が与える影響を把握するため、下水道整備途上の汚濁河川流域を対象に調査を行った。その結果、晴天時の流出負荷量は下水道整備等の汚濁対策により減少していたが、水質に関してはわずかな改善か、逆に悪化しており、産業排水や単独浄化槽等の影響が示唆された。また、降雨時の流出負荷量については、流出規模に必ずしも比例しない事例も見られたため、堆積負荷の掃流力だけでなく、堆積量自体の影響が推測された。


下水道での有害化学物質の管理に関する調査

研究期間:平8〜平11
担当者 : 田中、小森、岡安、竹歳、矢古宇、東谷

 本調査は、下水道に定常的・突発的に流入する恐れのある種々の有害化学物質について下水道での動態予測、処理への影響、人の健康に与える影響評価方法の検討等、有害化学物質の管理方法を確立することを目的としている。  11年度は、内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)に関する問題が顕在化し、社会問題となっていることから、10年度に引き続き環境ホルモンを調査対象物質とした。ノニルフェノール(NP)と前駆物質のノニルフェノールエトキシレート(NPEO)の活性汚泥処理プロセスでの挙動調査を行い、その実態を明らかにした。また、17β−エストラジオールのLC/MSを用いた機器分析について検討し、良好な結果が得られたので分析方法を提案した。


水質事故対策技術に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 : 田中、白崎、小森

水質事故では、流出初期の迅速な対応が、被害の軽減という観点から効果的であるが、現状は事故発見、通報の遅れとともに油流出以外の事故では事故原因物質の特定に多大の時間を要している。このような問題点の改善のため、各地建技術事務所・開発土木研究所と共同で、河川管理者の早期の水質事故の発見、水質事故処理技術の開発などを検討し、水質事故発生時に迅速な対応が図れることを目的とする。 この中で、土木研究所では油の流出予測手法と油分及び毒物の検出技術の検討を担当しており、11年度は、ラグランジュ的手法を用いて油の流下予測計算を行い、油が流下する際の特性を把握した。その結果、適当な粒子個数の平均位置を先端位置と定義することが計算結果を安定させることや、無次元化を行い、流速分布、川幅、拡散係数より算出されるペクレ数を用いることにより拡散の状況が推測できることを明らかにした。


河川水中のエストロゲン様物質に関する調査

研究期間:平11〜平11〜
担当者 : 田中、高橋、東谷、矢古宇

 環境中に存在する物質に由来する環境ホルモン作用の総合的作用を把握する事を目的とし、In vitro でエストロゲン活性を測定する方法を検討した。11年度は操作が簡易な事、毒性物質に対する耐性が高い事等の利点から遺伝子操作により環境ホルモン作用のうち女性ホルモン活性(エストロゲン活性)を測定する機構を組み込んだ酵母菌(組み換え酵母)を用いて河川水のエストロゲン作用を総合的に評価する手法(酵母法)について検討を行った。(1)河川水試料を酵母法で測定するための前処理法の検討、(2)河川水実試料の測定を行った結果、(1)条件を変え、固相抽出と溶媒抽出を比較した結果、溶出溶媒にメタノールを用いる固相抽出法が最も多く試料のエストロゲン活性を回収できた。(2)春期、夏期、秋期、冬期の試料を延べ119検体測定した結果、それぞれのエストロゲン活性(17βエストラジオール活性当量)は春期が0.01〜20ng/L、夏期調査が0.02〜4ng/L、秋期調査が0.04〜2ng/L、冬期調査が0.05〜20ng/Lであった。


水質事故対策技術に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 : 田中、白崎、岡安

水質事故では、流出初期の迅速な対応が、被害の軽減という観点から効果的であるが、現状は事故発見、通報の遅れとともに油流出以外の事故では事故原因物質の特定に多大の時間を要している。このような問題点の改善のため、各地建技術事務所・開発土木研究所と共同で、河川管理者の早期の水質事故の発見、水質事故処理技術の開発などを検討し、水質事故発生時に迅速な対応が図れることを目的とする。 この中で、土木研究所では油の流出予測手法と油分及び毒物の検出技術の検討を担当しており、11年度 は、油のサンプリング手法、分析手法の検討、油の濃度変化に与える因子の把握を行った。その結果、油の採取に関しては、表面をすくう方法が最も効率的であること、蛍光光度法は河川水を対象とした場合ガソリンについては回収率が低いこと、および油濃度の経時変化には、水温が影響を与えることを明らかにした。


利根川水系水質実態調査

研究期間:平8〜平12
担当者 : 田中宏明、小森行也、白ア亮、竹歳健治

 本調査は利根川水系の水質、負荷量変化とその流域の土地利用、人口、産業活動の変化や水利用の高度化との関係について、現在までの状況を調査・解析し、データベース化するとともに、将来の水質動向に関する検討を行うものである。それにより、利根川水系における水循環や物質循環を明らかにし、下水道整備をはじめとした水質保全に関する施策の評価手法の確立に資することを目的としている。  11年度は前年度に引き続き、利根川水系の水質実態調査を行い、窒素、リン、クロロフィル、全有機ハロゲン(TOX)及びその生成能(TOXFP)、トリハロメタン生成能(THMFP)、農薬等について水質の現況を把握した。また、前年度までに収集した流域フレームのデータ整理を行った。