<下水道部>

汚泥研究室 平成11年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


下水中病原性微生物の同定方法に関する研究

研究期間:平11〜平14
担当者 : 森田弘昭、落修一、北村友一

 本研究は、下水中の病原性微生物を迅速かつ簡便に検出する技術の確立を目的としている。平成11年度は、フローサイトメトリを用いてクリプトスポリジウムのオーシストを迅速に検出する方法について検討を行った。その結果、オーシストに特異的に反応する蛍光抗体染色試薬によりオーシストを染色することで、検出できることが明らかとなった。しかしながら、試料に夾雑物が多く含まれる場合には、これらの影響を抑制する必要があることが分かった。


病原性微生物の下水処理過程での制御に関する研究

研究期間:平9〜平12
担当者 : 森田弘昭、落修一、北村友一

 本研究は、クリプトスポリジウムの下水処理における制御手法を確立することを目的としている。平成11年度は、クリプトスポリジウムのオーシストの不活化の判定に用いる脱嚢試験の条件、及び水温と不活化率の関係について実験を行った。その結果、オーシストの至適脱嚢条件は、pH2.75、37℃、30分間という条件の前処理のあと、37℃の脱嚢液中での2時間以上の保温であった。オ−シストの不活化は水温に大きく左右され、不活化率が90%となるまでの時間は60℃では約5分、50℃では190分、40℃では14日であったが、20℃では100日経過しても不活化率40%程度であった。


下水汚泥処理過程における重金属等有害物質の制御に関する研究

研究期間:平10〜平12
担当者 : 森田弘昭、川嶋幸徳

本研究は、下水汚泥処理過程における重金属等有害物質の挙動を把握するとともに、汚泥中の重金属等、特にSe,Asの制御技術、リサイクル製品の安全性評価手法について検討し、下水汚泥のリサイクルを進めることを目的としたものである。11年度は、前年度と同様に稼働中の焼却施設での実態調査を実施するとともに、新たに室内実験を行い、焼却灰捕集温度や汚泥性状などと焼却設備内の重金属等の挙動の関係について検討を行った。この結果、高分子凝集剤を用いた汚泥では、一定温度以上で灰を捕集することで灰中Se含有量の低減が可能で、現在の熱回収システムに大きな影響を与えずに制御可能であることがわかった。一方、Asおよび消石灰・塩化第二鉄を用いた場合のSeについては焼却炉内で気化していないと考えられ、捕集温度の制御による灰中含有量の低減は困難であった。


下水汚泥中内分泌かく乱物質の消長に関する調査

研究期間:平11〜平13
担当者 : 森田弘昭、落修一、川嶋幸徳

 我が国の下水処理場にも内分泌かく乱化学物質の流入が確認されており、それが水処理系から汚泥処理系へ移行した際の挙動・消長を明らかとする必要がある。11年度は,(1)汚泥試料の分析方法を検討した結果、試料中の水分を低減することと、分析工程から固相抽出操作を省くことが有効であった。(2)施用先土壌における挙動を長期に渡って調べるライシメータ実験に着手した。(3)嫌気性消化実験より、ノニルフェノールやノニルフェノールエトキシレート、エストロゲン様活性は投入汚泥中よりも増加する傾向が得られた。C汚泥製品5種類についてノニルフェノールを初めとする6物質の溶出を調べた結果、中性付近での溶出量が多く、酸性となるほど溶出しずらい傾向を示した。


汚泥性状の変化に対応した汚泥処理に関する調査

研究期間:平8〜平11
担当者 : 森田弘昭、落修一、北村友一

 下水の性状には生活様式や社会活動が大きく反映されている。これからは、下水の高度処理の進展・拡充に加え、下水道システムを活用した都市系排出物、中でも厨芥の輸送・処理が期待されており、これにより汚水処理プロセスで回収される固形物の量も質とともに大きく変化して行くことが予想される。  本調査では、特に受ける影響が大きいと思われる厨芥流入に着目して既存の汚泥処理プロセスへの影響を実施設の運転管理データや実験により調べた。その結果、厨芥の流入があったとしても既存の汚泥処理プロセスの中で大幅な施設の改変なく対応できることが示された。また、嫌気性消化プロセスを有する場合には厨芥流入を効果的にメタンガス生産・エネルギー利用に繋げられることが分かった。


有機質資材の融合化と利用に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 : 森田弘昭、原田一郎、斎野秀幸

 本研究は、地方部における下水道整備の進展に伴い、地域特性に応じた下水汚泥の緑農地利用を推進するため、他の有機性廃棄物との融合化を検討し簡易なコンポスト化手法を開発するものである。11年度は、簡易なコンポスト化を目指すために、コンポスト化過程における強制通気の影響、含水率調整にコンポスト製品を返送した場合の操作因子、及び厳冬期の発酵条件の検討を行った。その結果、強制通気は発酵初期に効果があるがその後調整する必要があること、コンポスト製品を返送する場合は仕込み時の含水率を65%以下にすること、厳冬期は切り返しのタイミングを選び発酵温度を下げすぎないようにする必要があることがわかった。


下水道システムのLCAに用いる原単位に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 : 森田弘昭、原田一郎

 本研究は、環境に及ぼす負荷をできるだけ抑制した下水道システムの構築を図るため、ライフサイクルアセスメント手法(LCA)を用いて、下水道施設による環境負荷を定量的に把握するとともに、その評価手法を確立するものである。11年度は、前年度に引き続き、施設規模と負荷量との関係を明らかにするため、実際の処理区を対象に積上げ法を用いて二酸化炭素(CO2)およびエネルギーの負荷量を算出した。とくに、土木・建築に関しては影響の大きい管渠を中心に検討を行い、一方、設備については負荷の大半を占める運転データの精査を図ることとした。その結果、土被りの増加に伴い管径の影響が小さくなる傾向がみられ、負荷量はヒューム管より塩ビ管の方が大きく見積もられた。また、引用する原単位の課題が明らかになった。さらに、運転状況の実態を反映させた場合でも、設備が及ぼ負荷のうち運転が8割程度を占め、全体ではスケールメリットの可能性が示唆された。