<河川部>

河川研究室 平成11年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


粒径集団別供給土砂量のマクロ予測手法に関する研究

研究期間:平9〜平14
担当者 : 藤田光一、諏訪義雄、横山勝英、平舘治、東高徳

 本研究は、粒径別の土砂について、生産・運搬・堆積といった動態を水系スケールで一貫して予測する手法について検討するものである。昨年度までの検討で涸沼川流域の細粒土砂(ウオッシュロード)動態は高い精度で把握可能となったものの、河道内の地形変化に直接影響を与える河床起源の土砂の動態については把握手法が確立していない。平成11年度は、涸沼への流入地点において粗粒径の土砂が堆積することに着目し、堆積量調査を実施して移動量を明らかにした。この結果から既存の流砂量式と堆積量との比較を行ったところ、芦田・道上式等の流砂量式で粗粒径土砂の動態が把握可能であることが明らかとなった。これにより、粗粒径土砂についても土砂動態マップに描くことが可能となった。


河川下流域の流れおよび物質循環と環境管理に関する研究

研究期間:平11〜平14
担当者 : 藤田光一、諏訪義雄、横山勝英

 河川下流域では微細土砂が堆積して底質を形成するが、底質は自然環境にとって重要である一方で、洪水疎通のための河積を維持する上では障害となる場合がある。そのため、河川下流の感潮域において土砂供給および堆積機構を解明し、河道管理技術を構築することが必要である。本研究ではその前段階として、多摩川河口において土砂動態の観測手法について検討し、さらに断面通過土砂量を潮位変動による移動量と洪水時の輸送量について計算し比較検討した。その結果、超音波流速計の音響強度より濁度分布が推定できることが明らかになった。さらに、流速と換算濁度を用いて断面通過土砂量を算定したところ、約10日間の潮位変動による通過量は中規模洪水の数十分の一程度となり、洪水時の通過量の方が遙かに大きいことが分かった。


河口部における土砂動態と地形変化に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 : 藤田光一、服部敦、吉田昌樹

 本調査は、河道変化や流域からの供給土砂の質・量の変化と、沿岸域の地形変化や堆積土砂の質・量の変化変化について調査を行い、流域の土砂動態の変化が沿岸域の地形変化に与える影響を明らかにすることにより、河道〜河口〜海岸を一貫した土砂管理のあり方について検討を行うことが目的である。本年度は、関川流域とその沿岸域のうち、主に本川直轄区間について調査を行い、その結果、河道拡幅後の大規模出水による河床材料の著しい細粒化や河床上昇等、土砂動態の変化に関する有益な情報が得られた。得られた情報は、河口維持や汀線維持等の土砂管理手法を検討する際の基礎資料となる。


安全面における現河道の実力把握手法の開発と河道マネジメントへの応用

研究期間:平11〜平13
担当者 : 藤田光一、諏訪義雄、東高徳 

 平成11年度は、近年発生したいくつかの洪水災害の事例分析を行い、研究初年度として洪水に起因する構造物の破壊から災害発生に至る過程を災害防止・被害軽減技術開発という観点から分析・整理した。この整理結果を基に、研究必要テーマの洗い出しと既往の研究成果、現在進めつつある研究課題の位置づけ整理を行った。


水系土砂動態変化に伴う河川の自然形成システムの変質とその再生手法に関する調査

研究期間:平11〜平14
担当者 : 藤田、服部、瀬崎

 出水時における河道地形・構成材料の変化と植物群落の形成・遷移との関連が明らかになるのに伴って、河道地形・構成材料の変化がきっかけとなって、河川生態系全体が変質したことがわかってきている。本研究では、変質の直接的原因となった河道地形と地被構成材料の変化を特定するとともに変質のプロセスを明らかにし、その成果に基づき生態系というシステムを保全するための手法(河道地形・地被予測モデル)と基本構想(流域スケールでの土砂管理、新しい河道計画)を提案する。平成11年度は、近年、礫河原の樹林化が生じた多摩川永田橋地区の事例をとりあげ、樹林化のきっかけとなった河床低下の発生要因と今後の河床変動の動向を予測し、その結果に基づいて河床変動制御の観点からシステム保全のためのキーポイントを整理した。


新素材・新工法を用いた防御工の開発

研究期間:平9〜平12
担当者 : 藤田、諏訪、服部、瀬崎、東

 河岸および堤防のり面の防御工に対する最近の要望事項として、従来と変わらない治水安全性を確保しつつ河川環境保全に資する機能を備えていること、かつ低コストであることが挙げられる。また、防御工設置についても、より早期に治水効果が向上でき、かつ必要最小限の設置で済むように計画的に行うことが、従来にもまして強く求められている。本研究は、上記の要望に適合した防御工とともに、防災的観点から設置必要性を説明する際のツールとなる河岸侵食の予測手法を開発することを目的としたものである。11年度には、下記の検討をそれぞれ行った。
 侵食防止シート:10年度までに得られた知見を総合して、シート作成マニュアルを作成し、それに基づいて、第2次プロトタイプシート(全11種)の作成を行った。これらのシートについて、強度、耐久性、施工性、侵食防止効果に関して試験・実験を行い、作成マニュアルおよび侵食防止効果の評価方法について再検討した。また、第1次プロトタイプシートを用いて、1)実際と同じ使用形態である植生が繁茂した状態でのシートの侵食防止効果および植生根によるシートの固定効果に関する実大実験と、2)シートを設置した模型堤防のり面を実験ヤードとして、草刈り機、車両などの積載による変形・破壊に対する耐久性、およびたき火による耐燃焼生に関する実物実験を実施した。
 ポーラスコンクリート:10年度に引き続き、巨礫の衝突に対する耐衝撃性について検討した。11年度では、ひび割れ破壊に対する耐性については、ポーラスコンクリートが普通コンクリートより高いことを実験より明らかにした。
 ふとんかご:中込材の移動限界をもって設計する従来のふとんかご設計法に変えて、金網の性能を考慮した、流水によるかごの変形量をかご材の剛性によって許容量以下に抑える新しい設計法を提案する事を目的としている。11年度は、実物大のふとんかごを用いた金網剛性試験と高流速水路実験により、この新しい設計法について検討を行い、一部課題は残るもののそれが妥当であることを示した。
 河岸侵食予測手法:10年度に引き続き、小貝川49.2kmの湾曲部外岸の侵食量観測を実施した。11年7月に比較的大きな出水があり、この出水前後の横断測量結果より、大きいところで1.5m程度の河岸侵食の発生が確認できた。この侵食の特徴は、平水時には水面より上に表れる河岸上部が崩落したが、それに対して水中部では顕著な侵食が確


阿武隈川支流荒川河道計画

研究期間:平11〜平13
担当者 : 藤田、瀬崎

 阿武隈川支流荒川は、平成元年洪水によって複数箇所で破堤・護岸の破壊など甚大な被害を受けたため、帯工27基、水制53基の配置を中心とする平成元年計画が策定され、改修が進められてきたが、帯工15基、水制0基が完成した時点で発生した平成10年洪水時に、帯工が既に完成していた地点近傍で破堤した。現地災害調査を行った結果、砂州の形成が被災に本質的に関わっているとの推測から、本研究では移動床水理模型実験によって、平成10年洪水の被災メカニズム解明と平成元年計画による改修工法の有効性を検証する。さらに、平成元年計画以外の工法についても有効性を検討し、計画の改良に資するものとする。平成11年度は、河川水理模型の製作と検証実験を実施した。


河川における現地観測手法と計測器の開発

研究期間:昭61〜平12
担当者 : 藤田光一、諏訪義雄、横山勝英、平舘治、東高徳

 水系一貫した土砂動態の把握は、河道内の地形変化予測や物質輸送が自然環境に与える影響の評価に当たり重要である。本研究は、そのための合理的な観測手法および把握手法の開発を目的としたものである。平成10年度は涸沼川流域の細粒土砂動態を明らかにし、その整理手法として水系土砂動態マップを提案した。平成11年度は、細粒土砂に加えて、河川の下流域や高水敷など、土砂堆積地点の自然環境に大きな影響を与えるものと考えられるリンおよび有機物の動態把握を目的として、洪水時に流域スケールの土砂・物質同時観測を実施した。観測の結果、リンおよび有機物の輸送は、細粒土砂が密接に関わることを明確にするとともに、各支川流域からの物質供給特性や動態を、土砂動態マップと同様の手法で整理可能であることを示した。


破堤時の災害規模予測手法とその軽減対策に関する調査

研究期間:平7〜平12
担当者 : 藤田光一、坂野章、平舘治、二村貴幸

 破堤時の災害を効率的に軽減するには、従来の改修方式に加え、発生しうる災害を想定した危機管理方策を防災施設整備の面でも充分に検討しておくことが重要である。本調査は、破堤氾濫に伴う災害規模を考えた河道改修と堤防強化のあり方、破堤発生時の緊急対応による被災軽減策について、主として水理実験および解析に基づいて提案することを目的とする。平成10年度洪水の被災データ分析によって、橋梁近傍の洪水被害規模と河道諸元との関連性が重要であることが判明したため、平成11年度はこのメカニズム解明のために、水理模型実験による検討を実施した。


河川生態工学調査

研究期間:平7〜平21
担当者 : 藤田、服部、瀬崎

 本研究は、河川生物相互の関係と河川の物理・化学的環境と生物との関係からなる河川生態系を理解した上で、現在の河川生態系の姿と河川改修が生態系に与える影響について定量的な評価を与えることを目標としている。それらの知見から、治水と環境の維持・創造とを両立させた河川管理方法の施策・検討に判断材料を提供する。本研究は平成7年度から、多摩川・千曲川を対象とした調査を継続実施しており、11年度は、夏季に発生した洪水前後の河川環境の変化に着目して現地調査・数値解析等を行った。調査結果から、草本・木本植生の定量的な破壊基準を提示し、高水敷に堆積した土砂による植生土壌の物理・化学環境の変化を把握することが出来た。


堤防高度化に関する調査

研究期間:平10〜平13
担当者 : 藤田光一、諏訪義雄、東高徳

 堤防の越水は、浸透・侵食とともに破堤の主要な原因であり、堤防の対越水強化は重要な課題である。これまでに、2次元実験により、標準的な部分に対する設計法や対策工が実用化されている。しかし、実際の堤防は地理的制約等により3次元的に不連続な形状の場合があり、このような部分では、越流水が堤防形状の影響を受けると考えられる。よって今年度は、縮小3次元実験を行い、対越水強化対策の検討を行った。その結果、同じ越流水であっても越流水が集中する堤防の弱点箇所が発生する事を明らかにした。これは、堤防の安全度評価上重要な現象であることを示し、弱点箇所の予測図、対策手法について考察を行った。


那珂樋管周辺河道水理模型実験

研究期間:平8〜平11
担当者 : 藤田光一、坂野章、平舘治

 霞ヶ浦導水事業で、那珂川の取水口である那珂樋管は河道湾曲部外岸側に位置し、かつ平水時流量の約半分の量を取水する。取水の際に仔鮎の取水口への迷入が懸念され、その防止対策が求められている。前年度までの実験より、仔魚の濃度が主流部で濃いことを前提にした場合、仔鮎の迷入防止及び洪水時河道の安定性のためには、低水路法線形の修正と置換工を組み合わせることが有効であることを確認した。11年度はその詳細検討として、置換工や台形堰(取水口中央2門以外の14門の堰高を1.5m高くしたもの)の取付、及び取水口の幅や位置等が迷入状況に与える影響について検討した。これらの実験により、最適な河道の法線形及び対策工を提案した。


常願寺川河道計画に関する調査

研究期間:平7〜平12
担当者 : 藤田光一、坂野章、平舘治、二村貴幸

 常願寺川では、近年の河床低下によって既設の護岸や水制の根入れ不足が生じ、これら河川構造物の安全性確保が急務となっている。平成10年度までの検討から、河岸侵食箇所の対策として水制や縦工等の対策工の効果と問題点を確認しながらそれらの最適な配置計画について提案した。平成11年度は、その最適な配置を持つ河道における長期的な河道安定性の調査の一環として、上流からの供給土砂量が下流河道に及ぼす影響(平面形、縦横断形等)を把握し、土砂管理の重要性を確認した。