<砂防部>

地すべり研究室 平成11年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


すべり面の土質強度定数決定に関する研究

研究期間:平10〜平13
担当者 : 地すべり対策工の設計・安定解析において、すべり面強度の決定は極めて重要である。しかし、試験費用上十分な量の試料が採取できないこと、一部の試験結果ではすべり面全体の代表性に乏しいことなどから、実際に土質試験が行われることは少ない。そこで10年度から、ボーリングコアサンプルを用いた少量の試料による簡便な試験法の研究を行っている。
 11年度は、地すべりのすべり面強度をボーリングコアの土質試験から求める際に、使用可能なコア範囲を明らかにすることを目的として、コアの物性変化とその範囲について、軟X線撮影と蛍光X線分析、試料観察による検討を行った。その結果、ボーリング掘削時におけるコアへの影響は、コア端から数mmの領域にごく弱い物理的影響が認められる可能性があるものの、化学的(鉱物学的)変化は全く認められないことが判明した。なお、岩種によっては、掘削後の取り扱いによって変質を起こすので取り扱いに注意する必要がある。。


道路建設に伴う地すべり被害の減災技術開発

研究期間:平11〜平13
担当者 : 綱木亮介、杉本弘之、柳原幸希

 現在、地すべり対策工の設計は、二次元安定解析によって行われることがほとんどであり、道路の切土に伴う地すべりにおいても同様である。しかし、地すべりの形状が複雑であったり、道路線形によっては、二次元的な安定解析では不適切な場合も生じる。地すべり研究室では、道路の切土に伴う地すべりの安定評価に三次元解析を導入して、地すべり発生を予防するための評価手法を研究している。
 11年度は、三次元安定解析の最適な適用範囲を明らかにするために、三次元安定解析事例の収集をおこない、二次元安定解析と三次元安定解析の対策工費と調査費を合わせたトータルコストの比較をした。その結果、ほとんどの事例で三次元安定解析の方がトータルコストを縮減できていることが明らかになった。


地すべり斜面における残留間隙水圧の残留率決定手法に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 : 綱木亮介、富田陽子

 貯水池周辺の地すべり対策工の設計のためには、貯水位の降下に伴う地すべりブロック内の残留間隙水圧の残留率を適切に評価する必要がある。しかしながら、地山が不均質である、透水係数等の物性値の評価が難しい、といった原因から、その評価が容易ではないのが実状である。そこで、ダム貯水池周辺の地すべり地における計測事例の収集・整理、モデル斜面や実際の事例に関する浸透流解析等によってこの値を適切に評価するための手法についての検討を実施している。
 11年度は、主として浸透流解析の解析パラメータの値の選定及び残留間隙水圧の残留率の設定法に関する基礎的な検討を実施した。その結果、パラメータの値が解析結果に及ぼす影響や残留間隙水圧の評価のための因子が明らかとなった。


数値標高モデル地図を用いた地すべり地の抽出技術に関する調査

研究期間:平11〜平13
担当者 : 綱木亮介、山越隆雄、杉本弘之、柳原幸希

 地すべり研究室では11年度から数値標高モデル(DEM)を用いた斜面の危険度評価技術に関する調査を行っている。
 11年度は、DEMを用いて地すべり地を自動抽出することを目的として、対象範囲をグリッドで区切って地すべりを含むグリッドを抽出する方法と、地形分類を行って地すべり地形を抽出する方法を試みた。その結果、地すべりを含むグリッドを抽出する方法では、傾斜とラプラシアンの組み合わせが地すべり地形抽出の指標となりうることが示唆された。また、地形分類によって地すべり地形を抽出する方法では、滑落崖と緩斜面の区分をすることができた。


植生の浸透防止効果に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 : 綱木亮介、冨田陽子

 植生は生態系の維持とともに地表面の侵食防止や表層崩壊防止機能を有し、砂防上有効である。しかし一方で、山地渓流では豪雨時に多量の流木が発生し、土砂等の氾濫被害を助長する事例が見られる。流木の発生量等は、降雨や風といった気象要因のほかに上流域の地形、地質、植生、土地利用、砂防施設の配置等の影響を受けると考えられる。それらの諸要因と流木の発生量および流出量の関係を把握することは、砂防の観点から山地を整備・管理する上での基礎資料となる。
 11年度は、流木と流域内の諸特性との関係を把握することを目的に、流木等流出物の継続的観測が可能で、かつその流域特性データが比較的入手しやすい流域として、多目的ダムの流域に着目し、その貯水池の滞留物(貯水池には流木以外にも土砂や塵芥、水草等様々なものが流入する)の量・内容とその発生源である上流域の自然・社会特性を把握することで、山地管理の指標を探ることを試みた。なお、今回の調査は土砂管理以外の山地の管理についての指標を得ることを目的としているため、土砂については言及していない。


地すべり対策工の計画・設計・施工方法に関する調査

研究期間:平9〜
担当者 : 綱木亮介、杉本宏之、柳原幸希

 地すべりの移動機構の解明や対策工の設計を行うためには、すべり面の土の変形、強度特性を明らかにしなければならない。一般にすべり面の強度定数は逆算によって求められているが、すべり面の形成機構や粘土鉱物の含有量を考慮に入れた強度定数の算定までは至っていない。すべり面粘土の風化形成過程を解明し粘土鉱物の特性による強度定数の変化を把握しておくことは重要であり、実際の地すべり対策工の計画・設計に際しても利用できると思われる。
 11年度は、岩石の風化に着目して「風化の要因」を検討するということですべり面の形成に起因するとみられる岩石のX線回折・化学分析を行い風化の関連性を考察した。その結果、岩石の風化(溶脱)による新鮮岩と風化岩の化学組成変化の相関性が明らかとなった。風化の傾向としてすべり面を形成している凝灰岩中の方解石の溶脱に伴い風化が進行すると考えられる。また、X線回折により緑泥岩(クロライト)からスメクタイトへの変成が見られた。


地すべり運動機構調査

研究期間:平9〜平12
担当者 : 綱木亮介、冨田陽子

 ダムの建設に伴い、貯水池周辺の地すべりの不安定化が時として問題となる。地すべりの多発する地質帯の一つである新第三紀層が広く分布する横川ダムの貯水池の周辺においても、幾つかの地すべり地形が散見される。そこで、平成9年度からこの区域の地すべりの特性を把握することを目的として調査を実施している。
 11年度はモデル・サイトの三次元データを得るため、地質構造や地下水の分布特性の調査を行うとともに、地下水位や変位量の継続観測を実施した。その結果、当該斜面における地すべりブロックの地史的な位置づけ、三次元的なすべり面の分布形状、地下水位の変動状況等が明らかとなった。


大規模地すべりの地下水流動機構調査

研究期間:平9〜
担当者 : 綱木亮介、冨田陽子、柳原幸希

 一般的に地すべりにおいて行われている地下水流動調査は、ボーリング孔内に食塩等の電解物質を投入、溶解させ、流入地下水の比抵抗値の変動より流動状況を知るものである。しかしながら、この方法では、計測開始時にピックアップの上下によって孔内水の攪拌が生じたり、各深度ごとの測定に要する時間のため同一時間での比抵抗値の評価ができない場合がある。そこで、新たに開発した溶存酸素をトレーサーとした地下水検層(以下「溶存酸素検層」という)は、ボーリング孔内に酸素ボンベで一定時間酸素を送り込んだ後、その減少速度を計測するというものである。この検層方法では、まだ解析事例が少ないこともあり、流動層の計測の規定化が必要である。
 11年度は、食塩及び溶存酸素検層の特徴を明らかにするために複数の滞水層を有する模型土槽を使用し、単層・複層の滞水層をモデル化して溶存酸素検層及び食塩検層を行った。その結果、溶存酸素検層では、流速が比較的速く単一の流動層の場合には、食塩検層に較べ的確に流動層を把握できることがわかった。しかし、流速が遅い単一の流動層や流速の速い下降流現象の検出には、困難を要することが明らかとなった。


地すべり調査・対策手法の技術開発に関する調査

研究期間:平9〜
担当者 : 綱木亮介、山越隆雄、柳原幸希

 これまでの地すべり監視は、カメラの映像によるものと、伸縮計のように移動量の計測によるものが一般的である。しかし、崩壊直前、直後の地すべり地は、直接移動量を計測するための計器類の設置、計測が困難である場合が多い。
 11年度は、監視カメラと画像処理センサーを組み合わせた市販の監視システムにより、監視を行うと同時に、画像処理センサーによって移動量を計測するための実験を行った。その結果、認識板に岩石等の凹凸のある物体を使用すれば、日中でも移動量を検知し易いという結果が得られた。認識板にレーザー光を照射させた場合、日中では光の届く近距離ではコントラストを浮き立たせるという効果は期待できるが意味を持たない。夜間の測定では、岩石に模した人工石タイルに照射させることにより検知し易いという結果が得られた。