<砂防部>

砂防研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


斜面樹林帯中の土砂移動モデルの作成に関する研究

研究期間:平10〜平11
担当者 :南 哲行、小山内 信智、清水孝一、竹崎伸司

 樹木は土砂移動に対して抵抗として働くため、崩土や土石流を捕捉し、林内での堆積を促進する。そこで、土砂災害防止と緑を保全する要望に応えるには、山麓部に樹林帯を整備することが考えられる。本調査は、樹林帯の土砂捕捉効果を明らかにし、樹林帯規模や効果量を定量的に求める手法を確立するとともに、移動土砂を捕捉する樹林帯の整備手法を提案するものである。10年度は実験によって得られた成果を基に土砂捕捉を崩土の流下距離算定式、樹林帯の抵抗モデルの検討を行った。


大規模斜面崩壊による災害の防止対策技術等の開発

研究期間:平9〜平10
担当者 :南 哲行、山田 孝、石田哲也、(新潟試験所)加藤信夫、石田孝司

 本研究は、融雪水に起因する斜面崩壊・土石流の発生特性解明およびこれの警戒・避難基準設定手法の作成を目標としている。10年度は前年度より継続して行った気象・融雪・土壌水分等の観測データを元に、山地における融雪現象の実態把握とこれの推算手法の検証、原稿の土石流警戒・避難基準への適用性の検討および斜面表土層中土壌水分変動の積雪期と非積雪期との比較等を行った。この結果、実用的な融雪水量推算手法の提示、現行の土石流警戒・避難基準へ融雪水を加えた際の問題点抽出と改良案の提示、積雪・融雪期の土壌水分変動特性の把握等の成果を得た。


山林火災地域での土砂流出特性とその影響に関する共同研究

研究期間:平10
担当者 :南 哲行、水野秀明、(急傾斜地崩壊研究室)金子正則

 1997年にインドネシアで発生した山林火災は、数ヶ月にわたり炎上を続けた。山林火災等によって植生が消失した裸地斜面の卓越した流域では、土砂流出量が増大するため、土石流による災害や急激な河床上昇による洪水氾濫が懸念されている。しかしながら、災害ポテンシャルの増大を定量的に評価する手法は確立しておらず、防災計画への反映がなされにくい状況にある。そのため、山林火災等によって植生が消失した裸地斜面における土砂侵食の実態および裸地斜面からの河道への土砂流出の実態を把握・分析し、その結果を適切かつ有効な防災計画の策定に役立てる必要がある。


河川・土砂等の水文環境の変動に関する観測研究

研究期間:平2〜平11
担当者 :南 哲行、山田 孝、石田哲也

 熱帯地域の山腹斜面で発生する土壌表面の侵食は、焼畑などの人為的な作用によって影響を受けると考えられる。タイ国北部では、山腹斜面での焼畑が休耕期間をおいて断続的に行われている箇所が多く見られるものの、焼畑によって土壌表面の浸透能がどのように変化し、その影響で土壌表面の侵食にどのような影響が及ぶのかについて研究された事例はほとんどない。
 本研究は、タイ国北西部のメタン川流域に位置する焼畑休耕地を試験斜面として、焼畑による土壌表面の変化を把握するため、現地で定水位の透水実験および簡易な人工降雨実験を実施した。現地実験では、2つの斜面からの表面流の流出と侵食量に顕著な違いが見られた。


沖縄地方における赤土砂の生産場、流出場での経済的かつ効果的な対策工法の開発に関する調査

研究期間:平10
担当者 :南 哲行、山田 孝

 沖縄地方では流域での赤土砂流出によって、河川・海洋域の濁水、景観問題が深刻化している。赤土砂の流出を効果的かつ経済的に軽減するためには、その生産減である圃場等での対策が必要不可欠となり、そのためには、赤土砂の生産機構を物理的に解明する必要がある。
 本研究の目的は、従来の研究では取り扱われていない圃場の耕作ステージに伴う受食性変化について着目し、様々な耕作(耕うん直後、植え付け後)ステージの圃場での侵食形態と影響範囲、土砂生産量の時系列変化を現地調査ならびに人工降雨実験によって明らかにすること、その結果を基に圃場の耕作ステージに伴う赤土砂の生産変化を考慮した流域レベルでの赤土砂流出予測手法を提示すること、である。


水系一貫とした土砂管理技術に関する調査

研究期間:平6〜平10
担当者 :南 哲行、山田 孝、水野秀明

 近年、豪雨時の大量の土砂移動に伴う河床変動、それに伴う土砂・洪水氾濫、貯水池における堆砂、河口閉塞、海岸の侵食など、土砂移動に伴う諸問題に対して、山地流域から海岸に至る流砂系一貫して、早急な対策を講じることが求められている。このような観点から山地流域に着目してみると、計画降雨時のピーク流出土砂量のコントロールのみならず、下流への土砂供給の平滑化、流木対策、環境・景観との調和など多くの機能が求められている。このような背景から、本調査は、平時、豪雨時を含め流砂系の総合的な土砂管理技術の開発を目的とする。
 9年度まで、山地流域における土砂移動の実態、及び、遊砂地、流木対策施設、透過型砂防ダム等の対策設備に関する調査を行ってきた、10年度は、これらの調査結果に基づいて、山地流域における土砂管理手法の概念について整理した。


透過型砂防ダムの土砂調節機能に関わる数値シミュレーション等に関する調査

研究期間:平10
担当者 :南 哲行、水野秀明

 本研究の全体目標は、土石流を確実に捕捉できる透過型砂防ダムの設計、並びに配置手法の開発である。そのためには、透過型砂防ダムによる土石流の捕捉モデルを開発しなければならない。透過型砂防ダムが土石流を捕捉するためには、@土石流に含まれる石礫による透過部分の閉塞、A土石流の流下終了時までの閉塞状態の維持、が満たされなければならない。段階@、Aには、それぞれ個々の石礫の挙動が大きく影響を及ぼす。ところが、既往研究では個々の石礫の挙動を考慮したものはほとんどない。そこで、本研究では、個々の石礫の挙動を考慮した捕捉モデルを開発することとする。
 10年度は、段階@のモデル化を目的として、透過部分の閉塞過程について個別要素法を用いて数値計算を行い、9年度の水路実験結果を再現した。なお、石礫の運動モデル(個別要素法)に加えて、流木が砂礫に与える力に関するモデル、ダム模型のモデルを作成した。その結果、計算値は実験値より低いものの、それを概ね再現できた。また、透過部分で架橋を形成している砂礫の間に大きな応力が伝達されていることが分かった。


土砂災害発生予知および検知手法に関する調査

研究期間:平8〜平11
担当者 :南 哲行、山田 孝、水野秀明

 土石流による災害を防止するための有効な対策手法の一つとして、高い信頼性をもつ土石流検知システムの開発が急務となっている。そのためには、様々なセンサーを組み合わせることによって個々のセンサーのデメリットを相互に補完し、結果として適切な土石流の検知ができる総合的なシステムの開発が必要とされている。
 10年度は、そのために必要となる各種センサーの精度について、桜島野尻川での各種センサーの作動、誤作動を調査し、それらの精度を明らかにした。


地震による土砂災害対策に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :南 哲行、千田容嗣、石田哲也

 我が国は地震が多発する地域に位置しており、砂防構造においても地震力に対する検討が行われている。しかし、砂防事業が主に実施されている山地では地震動の観測体制が不十分であるため、砂防設備の地震応答特性について未知な点が多いことから、砂防設備において地震動観測を行い、砂防設備の基礎および堤体の震動特性を明らかにし、砂防ダム耐震設計の一層の高度化、合理化を図る必要がある。平成7年1月の兵庫県南部地震を契機として8年度より地震計を全国の砂防ダムに設置し、得られたデータを使って砂防ダムにおける地震応答特性等について検討を行っている。9年度は距離による地震動の減衰実態、地震観測点の岩盤深さについて検討した。10年度は砂防ダムに隣接する地山の地震動応答特性、砂防ダムの地震動応答特性の検討を行った。その結果、地山の地震動応答特性では、砂防ダムの付近を示した気象庁発表の震度と概ね同様の震度を示し、応答卓越周波数は7Hz、アーチ式砂防ダムと鋼製砂防ダムで概ね10Hzであることが分かった。また、地山と砂防ダム天端との加速度応答比率が重力式砂防ダムでは2以下であることが分かった。


土砂災害に対する警戒避難体制の整備手法に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :南 哲行、山田 孝

 現行の土石流警戒避難基準雨量設定手法では、危険度の判定がリアルタイムの雨量データ及び既往最大降雨データによってなされているため、空振り率が大きくなるという問題がある。この解決のためには、短時間降雨予測技術の適用性を明らかにしたうえで、その適切な導入手法を確立する必要がある。1時間〜3時間程度先の短時間降雨予測は、土砂災害予測において最も利用されるもので、実用的には、数100m〜数kmの空間分解能が要求される。
 本研究では、現行の短時間降雨予測予測手法の精度(気象庁降水短時間予測手法による精度、建設省のレーダ雨量計による予測精度)を整理し、土石流警戒避難基準雨量の運用にあたっての問題と解決手法を整理した。


複合型土砂災害の対策手法に関する調査

研究期間:平10
担当者 :南 哲行、山田 孝

 秋田県八幡平、鹿児島県出水市針原川等での土石流災害を契機に、地すべりや深層崩壊に起因した土石流(以下、複合型土石流という。)への効果的な対策手法の開発が急務の課題となっている。複合型土石流の特徴の一つは崩土が河道に流入した後も運動を継続し土石流化することである。その過程において、地山に含まれていた直径数m〜10mにも及ぶメガブロックが破壊され、流動化が促進されると考えられる。そのメカニズムを物理的に明らかにすることが、複合型土石流の発生機構を明らかにすることにつながり、ハザードマップの作成や危険渓流の抽出、効果的な対策手法の開発を行う上で重要となる。
 そこで、複合型土石流の発生時例、崩土の流動化がなされていない場合として天然ダムの発生時例を基に、どのような地形要因が崩土の流動化に影響しているのかをまず整理した。次いで、秋田県八幡平で平成9年に発生した複合型土石流の堆積物において複数箇所でのトレンチ掘削を行い、メガブロックの破壊実態や境界層の発達過程等を詳細に観察することによって、崩土の流動化要因について考察した。


良好な環境を回復する砂防設備の計画・設計法に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 :南 哲行、小山内 信智、(地すべり研究室)冨田陽子

 資源リサイクル、環境への負荷軽減は、地球環境問題からも全ての個人・事業者が取り組むべき課題となっている。砂防事業も例外ではない。現在多くの砂防工事現場では、工事用資材を山地流域外部から持ち込み、工事によって発生した掘削土砂や伐木などを山地流域外部へ持ち出しているが、山地流域内で工事用資材の資源循環型社会が構築できれば、それは地球環境問題に対する取り組みの一つとして評価されるものと考えている。
 このような観点から我が国古来の伝統的砂防工法に着目した。江戸時代から昭和初期にかけて多用された自然素材及び現地発生材料を用いた砂防工法全般を「伝統的砂防工法」と定義した。この伝統的砂防工法は、コンクリートや鉄材を多用した近代的な砂防工法に対して、資源リサイクル・環境への負荷軽減などの観点から優位性がみられる。本研究は、このような伝統的砂防工法の現在の砂防事業への適用性について検討するものである。 、それは地球環境問題に対する取り組みの一つとして評価されるものと考えている。
 10年度は、文献等を中心に伝統的工法の防災効果(土砂かん止効果)を、施設の耐用年数及び植生復旧の成果を指標として検証し、伝統的砂防工法を適用する場の条件について整理した。


渓畔林を活用した流路整備に関する調査

研究期間:平9〜平12
担当者 :南 哲行、小山内 信智、竹崎伸司

 10年度の目標は、平成10年8月末に、栃木・福島県境での豪雨により引き起こされた流木の実態を把握することを目的に那珂川左支川余笹川で空中写真判読と現地調査を行った。その結果、流木の発生源は主に河道内の植生であると判断した。これは過去長期にわたり余笹川で大規模出水がなかったため、安定した河道内で樹林化が進行していたことが背景にある。また山腹崩壊に伴う流木化は比較的少なかった。流木の堆積が多く観察された箇所は、スパンの小さい橋脚部や段丘・砂州上であった。また余笹川で発生し、そこに堆積しなかった流木は、その多くが海岸まで流出していたものと考えられる。


融雪型土石流の発生特性に関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :南 哲行、山田 孝、石田哲也、(新潟試験所)石田孝司

 本研究は、融雪水に起因する斜面崩壊・土石流の発生特性解明およびこれの警戒・避難基準設定手法の作成を目標としている。10年度は岩手県八幡平山系赤川流域をモデル流域とし、融雪に関する気象・水文特性を把握するための観測機器の設置・観測による融雪現象の実態調査を行った。ここで観測体制と観測結果について報告する。


土石流危険渓流に関する調査

研究期間:平10
担当者 :南 哲行、水野秀明

 本研究の目的は、土砂災害(土石流・土砂流)として報告された事例から、土石流危険渓流として調査すべき渓流の特徴を抽出し、さらに、調査項目、観測資料の整理手法、及び、それらの観測資料に基づいた土石流発生の危険性に関する判断手法を開発する。
 今回対象とした事例は、平成4年から平成9年にかけて報告にあったものの内、直轄区域のものを除いた580事例(577渓流)とした。これらの事例を基に、全事例に対して@保全人家戸数と土石流災害発生件数、A流域面積と土石流災害発生件数、B流域面積別の土石流発生件数、C流域面積と流出土砂量との関係、D土石流災害発生した渓流のうち土石流危険渓流として登録されていた割合について整理し、さらにその中でも土石流危険渓流として登録されていた渓流での事例に対して、E最急渓床勾配別の土石流災害発生割合、F発生流域面積別の土石流災害割合、G最深堆積土砂厚の平均値と土石流災害発生割合、H危険度ランク別の土石流災害発生割合、I発生流域面積と流出土砂量との関係について整理した。
 以上の検討結果から、(1)保全人家戸数が1戸でも存在する場合には土石流危険渓流として調査対象とすべきであること、(2)渓床堆積物の状況や山腹の状況を継続的に調査し、その状態を把握する必要があること、といった結論を得た。


融雪に起因した土石流の発生機構に関する調査

研究期間:平9〜平12
担当者 :南 哲行、山田 孝、石田哲也、(新潟試験所)石田孝司

 本研究は、融雪水に起因して発生する斜面崩壊・土石流の発生場の特性や水文特性を把握し、これらの発生機構の解明と発生予測手法の確立を目標としている。10年度は前年度から継続して行った気象・融雪・土壌水分等観測データを元に、山地における融雪現象の実態把握と、これを踏まえた斜面表層土層中土壌水分変動の特性把握を行った。この結果、積雪・融雪期の斜面への水供給特性を把握することができた。また、表土層中土壌水分変動状態との関係において、非積雪・融雪期との比較により変動特性の差異等を把握した。


渓流整備保全手法に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 :南 哲行、小山内 信智、竹崎伸司

 現在、砂防事業を実施するにあたっては、周辺環境に調和したものであることが前提となっれいる。そのため、事業実施個所周辺、あるいは広く流域全体の環境を把握するための調査を適宜実施しているが、環境対策を行った箇所のその後の評価については、調査手法も明確に示されておらず必ずしも十分に行われているとはいえない。そのため、既存の調査手法を整理すると共に、環境対策箇所への追跡調査を試行し、それらを踏まえて今後の砂防事業にとって必要な体系的な渓流環境調査手法を検討した。


山地河川の河床変動に関する調査

研究期間:平10
担当者 :南 哲行、水野秀明

 平成9年9月から平成10年6月にかけて開催された河川審議会総合土砂管理小委員会の報告では、今後「場の連続性、時間の連続性、土砂の量と質、水との関連」と言った視点から流砂系一貫とした土砂移動の将来予知予測技術に関する現状の技術を向上させるために、流砂系一貫とした土砂移動の実態を把握する必要があるとされている。
 そこで、本研究では姫川水系浦川、安倍川、天竜川水系小渋川を対象とし、土砂移動を量・質(粒径)・時間の観点から整理した。その結果、@粒径0.075mm未満の土砂は河床に堆積することなく山地流域から流出し、A粒径0.075mm以上の土砂はほとんど流出した場合と、一部が流出し、残りが山地流域に滞留していた場合の両方があったこと等が明らかとなった。


砂防林の効果に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :南 哲行、小山内 信智、竹崎伸司

 樹林帯には崩土や土石流を捕捉し、その林内において土砂の堆積を促進させる効果がある。本課題の目的は、そのような樹林帯の持つ土砂堆積促進効果量を評価する手法を確立することである。今年度は、湾曲流路における樹林帯の持つ側岸侵食抑制効果を検討するために水理模型実験を行った。その結果、湾曲水路の両岸にある樹林帯には側岸を設置した場合、侵食面積が減少した。内湾側、外湾側ともに樹林帯を設置した場合、侵食面積が減少した。ただ実験ケース数が非常に限られていたため、樹木専有面積率・床固工感覚・曲率等を変化させる実験を11年度に行うことが必要である。


砂防設備による瀬と淵の保全創造に関する調査

研究期間:平7〜平10
担当者 :南 哲行、小山内 信智、竹崎伸司

 渓流環境に関して、特に渓畔林の保全に着目した砂防事業実施の際の配慮事項を検討することを目的とし、渓畔林の砂防上の機能のうちの渓岸侵食に与える影響を重判別分析を用いて分析した。


土石流検知センサーの開発に関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :南 哲行、山田 孝

 現在も尚、全国的に頻発する土石流災害を防止するためには、砂防施設の整備に加え警戒避難体制の確立(災害直後に行方不明者の救出作業を行う際の二次災害防止を含む)が非常に重要となる。その手段の一つとして、センサーによって土石流の流下を確実に検知することが急務の技術的課題となっている。そのためには、各種のセンサーを総合的に組み合わせることによって各々の欠点を補完することによってセンサーシステム全体の検知精度を高め、結果として様々タイプの土石流、様々な地形・地質条件でも確実に土石流検知を行うことができることが必要とされる。本研究では、総合的な土石流検知システム構築手法の考え方を整理した。