<環境部>

緑化生態研究室 平成11年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


都市内における自然環境保全の効用に対する住民の評価に関する研究

研究期間:平9〜平13
担当者 :藤原宣夫

 本研究は、自然的緑地の効用と保全すべき緑地の水準を求めるため、生物とのふれあい等、自然環境の様々な効用に対する住民の評価と、自然的緑地の現況との関係を明らかにすることを試みたものである。
 11年度は、関係解明への中間段階として、自然的緑地の現況に影響されると推測された「住民の生物とのふれあい頻度」と「ふれあい満足度」との相関関係について、東京都内6地区でのアンケート結果を基に解析した。その結果、ふれあい頻度を因子分析することにより求められた各地区の第一因子、第二因子の因子得点と、住民のふれあい満足度との間に有意な相関関係が認められた。


都市の水域における環境条件と植物相及び鳥相との関係の把握

研究期間:平8〜平11
担当者 :藤原宣夫、木部直美、百瀬浩

 本研究は、都市域にある湿地を生物の住み場所として保全、整備する際の基礎的知見を得ることを目的に、湿地環境の環境条件とそこに生息する鳥類との関係を把握するものである。
 11年度は、千葉県、茨城県にまたがる利根川沿いの手賀沼から印旛沼にかけての地域をモデル地域として、既存の調査資料及び過年度の現地調査結果を元に、鳥類の生息状況と湿地の面積、形状、植生、周辺の土地利用等の要因との関係を総合的に解析した。


都市の水域における生態系ネットワークの計画手法の開発

研究期間:平9〜平12
担当者 :藤原宣夫、日置佳之、須田真一

 本研究は、都市の水域における生態系ネットワ−クの計画手法を開発することを目的としている。首都圏の平野部には、谷戸と呼ばれる地形が特徴的に存在するため、これを単位とした計画の手法の開発を試みることとし、事例研究地には、谷戸地形が典型的に見られる茨城県水戸市を選定した。対象生物は魚類及び水生昆虫類を対象とした。9年度は、谷戸水路に生息する魚類の種多様度と水路構造の関係を、また、10年度は魚類の生活史と水路構造・周辺水域(とくに水田)との連続性の関係について研究を行った。
 11年度は広域的な魚類の分布を調査した。その結果、魚類の種や成長段階によって、移動性や生息場に違いがあることが示唆された。


都市の水域における植物生育及び鳥類生息空間の保全創出手法の開発

研究期間:平8〜平12
担当者 :藤原宣夫、木部直美、百瀬浩

 都市の水域は、生物の成育・生息空間として貴重な空間でありその保全が強く求められている。本研究では、このような生物の成育・生息空間の保全創出を目標とした事業を進めるにあたって有効な流れを整理するとともに、既存の技術をモニタリング調査等によって評価し、さらに新たな技術開発を行うことを目的としている。
 11年度は、水辺のビオトープ計画マニュアルを作成するため、目標の設定方法から空間設計手法、整備後のモニタリング手法及びモニタリングを活かした維持管理手法までの項目について検討した。


建設事業が水域の生態系に及ぼす影響の予測技術の開発

研究期間:平8〜平12
担当者 :藤原宣夫、石坂健彦、百瀬浩

 平成11年6月より施行された環境影響評価法における環境影響評価では、生態系の予測・評価について「上位性」、「典型性」、「特殊性」から注目される種・群集を抽出して、これらの生態、他の動植物との関係、生息・生育環境に係る影響を把握することとされている。しかし、注目種の抽出要件や生息・生育空間の評価手法など、実施にあたって整理や効率化を図るべき課題も少なからず残されている。
 11年度は、栃木県宇都宮市東部を事例として既往文献資料やGISデータベースを活用した効率的な注目種の抽出手法及び地形と植生等の統合によりGISデータベースとして整備した自然空間単位を生物の生息・生育環境として評価する手法の検討を行った。


生態情報の統合化及び活用に関する研究

研究期間:平11〜平14年
担当者 :藤原宣夫、木部直美、百瀬浩

 本研究は環境アセスメントの効率化のため、既存自然情報やリモセン技術等により把握した地域の自然概況をGISデータベースとして整備し、アセスの各段階で必要な情報を提供するシステムの開発を目的としている。
 11年度は、栃木県宇都宮市周辺をモデル地域として、植生・地形・土地利用・気候等の環境情報をGISデータとして整備し、この内植生と地形の情報を統合して環境評価の基本単位となるエコトープ区分をGIS上で行う手法を検討した。また、アセスの動植物・生態系に関する手続きを整理し、必要な情報の種類や処理手順の概略について検討したほか、高解像度衛星画像を用いた植生の図化手法にも着手した。


都市緑地調査における人工衛星技術の活用に関する研究

研究期間:平11〜平13
担当者 :藤原宣夫、山岸裕

 本研究は、人工衛星を用いて都市における緑地の調査把握手法並びに緑地の活力度、CO2固定量等緑地を評価・解析する手法を開発すること目的とするものである。
 11年度は、東京都練馬区をケーススタディエリアとして、高分解能及び従来型人工衛星、航空写真等のリモートセンシング画像により、都市内緑地総量(緑地面積、樹木総本数、樹種等)を把握した。さらに、現地調査、行政資料等により得られたデータと各画像の精度及び広域利用可能性の比較を行い、都市域及び全国域での適用可能性を検討した。


広域的生態ネットワーク計画に関する研究

研究期間:平8〜平11
担当者 :藤原宣夫、日置佳之

 本研究は、数市町村程度を単位とした生態系ネットワ−クの計画手法を開発することを目的とするもので、空中移動性動物である鳥類と、陸上移動性動物である両生類を対象として、緑地や浅い水域が持つ生態ネットワークの構成要素としての機能を明らかにしようとするものである。
 11年度は、事例研究地である茨城県水戸地域において、越冬期の鳥類と両生類のポテンシャルマップ(植生と地形を説明変数として、これらの種群の潜在的分布を示す図)の検証調査を行った。その結果、越冬期の鳥類では、耕地・水辺モザイクメッシュ、湿性オープンランドメッシュ、市街地・集落メッシュでは50%以上の的中率を示したものの、他の種類のメッシュで的中率が低かった。また、両生類では、樹林エコトーンメッシュ・湿田〜樹林エコトーンメッシュが61.76%と比較的高い的中率を示したものの、他の種類のメッシュでは総じて低くかった。こうした検証結果から、ポテンシャルマップの作成方法について改良を検討する必要が示唆された。


人為的活動による都市緑地における炭素収支変動の評価に関する研究

研究期間:平11〜平13
担当者 :藤原宣夫、山岸裕

 11年度は、緑化によるCO2削減効果を評価するため、緑化樹木のCO2固定量の算出方法を検討した。樹木の木質部には乾燥重量比にして50%程度炭素C(以下「C」という)が含まれ、このCはすべて大気中のCO2に由来する。したがって、樹木のCO2固定量は木質部の成長量を算出することにより得られる。そこで、代表的な緑化樹木に対し樹幹解析を行い、樹高・幹径の樹齢と対応した成長過程を明らかとし、成長予測式を策定した。この式を基にすれば、特定の樹齢あるいは大きさの樹木1本が、1年間に固定するCO2量を算出できるため、緑化した樹木の本数と大きさが解れば、緑化事業によるCO2削減効果の評価が可能となる。


住民参加による地域での生物多様性保全手法調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :藤原宣夫、日置佳之、須田真一

 本調査は、住民参加による地域での生物多様性保全手法を開発する研究(環境庁、建設省、農林水産省、林野庁の4省庁合同調査)の一環として、都市域での住民参加による生物調査について事例的研究を行い、住民参加型でなおかつビオトープネットワーク計画などに寄与し得る精度のデータを収集する手法を開発することを目的に行うものである。
 11年度は、東京都武蔵野市の協力を得て、生物調査を行う市民団体として「武蔵野自然指標調査会」を発足させ、同会による武蔵野市内全域を対象とした、指標性の高い生物の分布調査を開始した。陸域の指標生物としてチョウ類を、水域の指標生物としてトンボ類を選び、これらを誘致する小規模な施設(チョウ類吸密用の花、およびトンボ産卵用の池)を市内の学校・公園等の30数ヶ所に設置し、そこに集まった生物を調査した。


ビオトープのネットワーク化に関する研究

研究期間:平7〜平11
担当者 :藤原宣夫、日置佳之、金子弥生

 本研究は、ビオトープネットワーク計画の基礎として、さまざまな動物種群の生息地を図化する手法を目指しており、これまで鳥類、両生類について、サンプルエリアの設定による調査とこれに基づく生息地の図化を行ってきた。
 11年度は、哺乳類を対象とし、水戸市とその近郊で、食肉目(アカギキツネ (Vupes vulpes)、アナグマ (Meles meles)、タヌキ (Nyctereutes procyonoides)、テン (Martes melampus)、ニホンイタチ (Mustera itatsi)の分布、げっ歯類のニホンリス(Sciurus lis)とムササビ(Petaurista leucogenys)の林分ごとの分布を調査した。アカギツネは丘陵地と常磐道以東の平地の一部で生息が確認され、人為的な食物や環境を利用し、涸沼川水系や那珂川を移動のための回廊として利用している可能性が考えられた。アナグマは、常北地域の一部の山塊にのみ生息していることから、分布が退行傾向にあると推測された。テンも、常北町付近の山塊と笠間地域や筑波山系のみで情報が得られた。タヌキ、ニホンイタチは山地から平地にかけて広く分布していた。ニホンリス及びムササビの生息林分の平均面積は21.8±14.7(SD)haで、山塊から100m以内の林分に多く分布していた。


都市内緑地による温室効果ガス削減に関する調査

研究期間:平11〜平13
担当者 :藤原宣夫、山岸裕

 本調査は、代表的都市緑化樹木を対象に、樹幹解析等により、樹木単体のCO2固定式を求めるものである。
 11年度は、イチョウ、プラタナス、ケヤキを対象とした。まず、累積二酸化炭素固定量を求める際に必要となる樹高、胸高直径、枝幅、及び葉、枝、幹、根のそれぞれの生重、乾重を求める調査を行うとともに、垂直に1m毎の各階層の葉、枝、幹、根の分布を調べる樹木の形態調査を行った。さらに、年二酸化炭素固定量を求める際に必要となる樹幹解析を行った。その結果、胸高直径と累積二酸化炭素固定量、年胸高断面積成長量と年二酸化炭素固定量の間に高い相関が見られた。また、年輪解析により、樹高・胸高直径の樹齢と対応した成長過程を明らかとし、成長予測式を策定した。この式を基にすれば、特定の樹齢あるいは大きさの樹木1本が、1年間に固定するCO2量を算出できるため、緑化した樹木の本数と大きさが解れば、緑化事業によるCO2削減効果の評価が可能となる。

下水汚泥および植物発生材のリサイクルに関する調査

研究期間:平11〜平13
担当者 :藤原宣夫、石坂健彦、石曽根敦子

 本調査では、下水汚泥と剪定枝葉の有効利用として、両者の混合堆肥を、のり面緑化の基盤材として利用するために、その堆肥化方法と品質について検討している。
 11年度は、含水率60%、C/N比20の混合条件において堆肥製造を行い、堆肥の性状を判定した。その結果、堆肥施用による発芽と幼植物の生育への障害は見られなかった。また、堆肥の成分分析結果から、重金属の基準値は全て満足しており、施肥効果の基準値もCEC以外の全ての基準値を満足していた。


のり面の自然復元手法に関する試験調査

研究期間:平9〜平13
担当者 :藤原宣夫、石坂健彦、石曽根敦子

 公共工事にて出現するのり面は、侵食防止のため従来外来草本で被覆する方法が多用されてきたが、今後はかかる防災機能に加え、周辺環境と調和した樹林の復元が求められている。本研究では各種のり面緑化工法事例の施工後の状況を、周辺環境と調和した樹林の復元という点から評価するとともに、木本類の生育特性を育成試験等によって把握することなどにより、播種工、苗木植栽工等の各種工法の適用・施工基準等の策定の検討をする。
 11年度は、のり面緑化に際し、周辺環境に調和した樹林を育成するために、当該のり面に如何なる植生を育成すべきかという目標植生の設定方法及びその課題等についてケーススタディを踏まえて検討・整理した。


道路による動物の生息域への影響低減技術の調査研究

研究期間:平10〜平12
担当者 :藤原宣夫、石坂健彦、百瀬浩

 栃木県宇都宮市東部周辺(東西24×南北11km、面積約320km2)及び長野県松本市北部周辺(東西16×南北13km、面積約210km2)を調査地として、希少猛禽類の生息状況把握のため、営巣分布などの調査を行った。栃木調査地ではオオタカとサシバが高密度に営巣していたほか、ツミ、ノスリ、チョウゲンボウの営巣を確認した。調査地内の都市部を除く地域ではオオタカの巣がほぼ均等に分布しており、オオタカのなわばりが飽和状態に近い密度で分布していることをうかがわせた。長野地域ではオオタカ、ノスリ、ハチクマ、トビ、チョウゲンボウの営巣を確認した。栃木調査地でオオタカ1つがいの行動圏を電波テレメトリー法で追跡したところ、メスは冬期から繁殖期にかけて行動圏を変えたのに対し、雄は同じ行動圏に冬から繁殖期にかけて留まることが確認された。


街路樹の健全度判定手法に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :藤原宣夫、石坂健彦、石曽根敦子

 台風等により発生する街路樹の倒伏が問題となっており、倒伏の原因のひとつとして、腐朽があげられる。本研究では、腐朽による倒伏を未然に防ぐために、ガンマ線透過率より内部状況を推測する非破壊腐朽判定装置の開発を行うことを目的とした。
 11年度は、樹木内部の空洞率を0%から100%まで、10%間隔で変化させた供試体を製作し、そのガンマ線透過率の測定結果をもとに、空洞率とガンマ線透過率の関係式を作成した。また、実際の腐朽木のガンマ線透過率と関係式から得られる計算値を比較し、関係式の予測精度を確認した。


ダム湖における生物ふれあい空間の整備技術の開発

研究期間:平10〜平14
担当者 :藤原宣夫、木部直美、百瀬浩

 本研究は、ダム湖の生物生息空間としての機能を向上させる技術の開発を目的としている。
 11年度は、栃木県東荒川ダム湖畔で行った環境整備効果を検証するための調査を実施した。池の造成や植樹等の環境整備をしたダム湖岸と同じダムの未整備湖岸において生物の生息状況を調べ両者を比較した結果、未整備湖岸には水位変動域の1年生草本を主とする群落や常時満水位より上部の乾生の草地、更に上部の森林といった環境が見られたが、水生植物が生育するような植生は見られなかったのに対し、環境整備湖岸では、水生植物が生育する植生が見られた。また、これらの植生帯では未整備湖岸では見られなかった水生動物が多種確認された。


新素材・新工法を用いた防御工の開発

研究期間:平9〜平12
担当者 :藤原宣夫、西廣淳

 ポーラスコンクリートを用いた河川護岸緑化工法の研究として、11年度には、実河川に施工されたポーラスコンクリート護岸実施箇所を対象に植生調査を実施し、植生の現状と施工場所の条件等との関係について検討し、ポーラスコンクリート護岸上に植生を維持するために配慮すべき点を明らかにした。
 11年度は、堤防における雑草の繁茂を抑制するシート材の研究として、張芝をしたシートサンプル上における芝の生育状況および雑草の発生・生育状況を調べた。その結果、一部の雑草種の発生と成長を多少抑制できるシートがみとめられたものの、十分な効果を上げる事は困難である事が示唆された。


希少猛禽類の把握手法に関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :藤原宣夫、石坂健彦、百瀬浩

 栃木県宇都宮市東部周辺(東西24×南北11km、面積約320km2)及び長野県松本市北部周辺(東西16×南北13km、面積約210km2)を調査地として、希少猛禽類の生息状況把握のため、営巣分布などの調査を行った。栃木調査地ではオオタカとサシバが高密度に営巣していたほか、ツミ、ノスリ、チョウゲンボウの営巣を確認した。調査地内の都市部を除く地域ではオオタカの巣がほぼ均等に分布しており、オオタカのなわばりが飽和状態に近い密度で分布していることをうかがわせた。長野地域ではオオタカ、ノスリ、ハチクマ、トビ、チョウゲンボウの営巣を確認した。栃木調査地でオオタカ1つがいの行動圏を電波テレメトリー法で追跡したところ、メスは冬期から繁殖期にかけて行動圏を変えたのに対し、雄は同じ行動圏に冬から繁殖期にかけて留まることが確認された。


大規模公園におけるビオトープの計画・保全手法に関する調査

研究期間:平6〜平14
担当者 :藤原宣夫、日置佳之、木部直美、須田真一

 本研究は、大規模公園で生物多様性が高いビオトープを計画する手法を開発することを目的とし、とくに水辺のビオトープに焦点をあてて、その保全・復元・創出の方法について研究を行ってきた。
 11年度は、湿地の植生遷移に焦点を当てた。調査地は、国営みちのく杜の湖畔公園(宮城県川崎町)内にある釜房湖畔の面積約30haの土地で、10年度の調査によって、「適潤立地」、「一時的過湿立地」、「過湿立地」、「水位変動立地」の4つに区分されている。11年度は、1961年、1975年、1984年、1994年の4年代の相観植生図を作成するとともに、高木層の樹齢を調査し、遷移に要する時間を明らかにした。その結果、1)適潤立地と一時的過湿立地では遷移がもっとも速く進み13年程度でヤナギ群落が成立する。2)過湿立地では15年程度でヤナギ群落が成立する。3)水位変動立地では物理的撹乱の影響で遷移の進行が遅く20年以上かかってもヤナギ群落が成立しないところが多い、という知見が得られた。


海浜地における緑化手法に関する検討

研究期間:平11〜平15
担当者 :藤原宣夫、石曽根敦子

 亜熱帯地域に属する沖縄県は、珊瑚礁等の独特な海浜地をもつことから、海洋性リゾートの場としての利用要求が高い。しかし、海浜地の開発により、人工的な護岸の整備が進み、海岸植物が消失した海岸景観が目につくようになった。本研究では、海浜地の植生景観を再生するため、自然岩礁に類似した構造を有するポーラスコンクリート人工基盤を用いた海浜地の緑化手法を検討している。
 11年度は、沖縄本島の数カ所において、ヤエヤマヒルギ、ミズガンピなどの植栽試験を行い、植栽場所(地盤状況による生存可能性)や、緑化域(水深からの相対高さに対する生存域)の検討を行った。