<環境部>

交通環境研究室 平成11年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


戦略的環境アセスメントに関する研究

研究期間 :平11〜平13
担当者  :大西博文、上坂克巳

 環境アセスメントについては、現行のある程度計画が熟してから始められる事業アセスメントに加え、より早い段階で、長期政策、各種公共事業五箇年計画や広域道路網整備計画等を総合的に取り扱う戦略的環境アセスメント(SEA)の必要性が高まっている。本研究では道路事業に対してSEAを実施する方法論の基礎研究を行うもので、重要な評価項目となると考えられるCO2についてその算定・削減にも資するものである。
 11年度は、道路計画を対象としてSEAを行う場合を想定し、その実施時期やCO2発生量等の評価すべき環境要素などに関する基礎的な検討を行った。さらに、幹線道路のルート比較、道路整備五箇年計画について 、評価指標の計画方法の検討を一部行った。


微生物による窒素酸化物分解機能を活用した大気浄化技術に関する研究

研究期間 :平11〜平13
担当者  :大西博文、山田俊哉、大城 温

 当研究室では、微生物の働きを利用し、沿道の窒素酸化物を吸収し無害な窒素と酸素を排出するシステムの開発を行っている。本システムは、大気中の窒素酸化物を吸収液に溶解させる吸収塔と、吸収液中の窒素酸化物を窒素に還元する微生物反応槽とに別れており、吸収液だめ及び前処理槽を介して吸収液が循環している。11年度は、吸収塔の運転条件が吸収効率に及ぼす影響と微生物反応槽の仕様に関して検討した。これらの検討結果を踏まえ、容量が30L程度のシステムを実験室内で稼動させ、二酸化窒素濃度が0.1ppmの大気を毎分
250L/minで通気したところ、本システムは前述した大気中の二酸化窒素の約20%を除去するとの結果が得られた。


道路におけるビオトープネットワークの計画手法の開発

研究期間 :平9〜平12
担当者  :大西博文、上坂克巳、川上篤史

 本研究は、道路空間を活用した地域の生態系ネットワークを構築するための計画手法の開発を目指している。過年度では、生態系ネットワーク構築の計画手順として構想−基本計画−整備計画の3つの策定段階を提案し、そのうち構想段階の策定プロセスをケーススタディ等を行うことによって開発した。11年度は、この策定プロセスを検討するのに、過去からの緑の変遷及び将来の社会環境(インフラ整備、土地利用など)の状況を検討項目に新たに取り入れ、ケーススタディを行うことによって生態系ネットワーク構想の策定プロセスの改良を行った。また、この結果より、生態系ネットワーク計画策定における構想−基本計画−整備計画の各段階で出すべきアウトプットを再整理した。


道路におけるビオトープの整備手法の開発

研究期間 :平8〜平12
担当者  :大西博文、上坂克巳、川上篤史

 道路の緑地は、都市部において生物の生息空間として重要であり、生態系ネットワークの一部として利用できると考えられる。しかし、盛土のり面の脇には側道が付随することが多く、移動能力の低い動物では側道がのり面への進入の妨げになっている可能性がある。そこで、平成11年度には分断の影響を受けやすい地表徘徊性の昆虫類を対象として、盛土のり面への進入可能性(側道による分断の影響)を検討した。その結果、地表徘徊性昆虫類・オサムシ科昆虫類共に、側道の幅員が増すにつれ盛土のり面と側道の反対側の近接緑地で確認された種の共通性が低下することを確認した。特に幅員10mの側道では、オサムシ科昆虫の進入は困難になることを確認した。


都市域の交通部門における温暖化防止施策の総合的評価に関する研究

研究期間 :平9〜平11
担当者  :大西博文、山田俊哉、小根山裕之、大城 温

 本研究では、地球温暖化の原因となる温室効果ガスのうち二酸化炭素(CO)について、都市交通部門におけるCO排出量の予測モデルを作成し、このモデルを使ってCO排出量削減施策の効果を推計した。また、宇都宮市を対象とするケーススタディにより施策効果の予測を行った。11年度は、10年度までに作成したモデルの改善と、予測可能な削減施策を拡大するためのサブモデルの作成を行った。
 その結果、CO排出量削減施策の効果は自動車走行台キロの削減による効果だけでなく、走行台キロの削減に伴う旅行速度の向上による効果も同程度以上あるという結果が得られ、道路交通の円滑化施策もCO排出量削減に大きく貢献することがわかった。


環境アセスメント技術に関する調査

研究期間 :平10〜平13
担当者  :大西博文、上坂克巳、山田俊哉、大城 温

 谷や盆地のような局所的に閉じた地形においては、逆転層発生時には大気汚染物質が滞留し、大気汚染の影響が顕著になると考えられるが、現在のところこのような地形による逆転層の影響を予測できないため、その予測手法の確立が必要である。
 11年度は、谷内部の逆転層の出現状況および気象状況を把握するため、詳細な現地気象観測および同地点における大気拡散実験を実施した。また、そこで得られたデータをもとに、局地気象モデルにより接地逆転層の出現しやすい気象パターンについて気象の再現計算を行い、実際の気象状況との整合性を検討した。その結果、概ね気象状況を再現できていることが確認できた。


浮遊粒子状物質等の予測手法の拡充に関する調査

研究期間 :平11〜平13
担当者  :大西博文、山田俊哉、大城 温

 浮遊粒子状物質を構成する成分は、発生源別にそれぞれ特徴を有している。本研究では、自動車の排気管から排出される粒子状物質を捕集した試験ろ紙を分析することにより、その成分の特徴を整理した。
 その結果、ガソリン車の成分は、道路端における浮遊粒子状物質の成分と比べ、硫酸イオンが多く、アンモニウムイオンや硝酸イオンが少ない傾向がみられ、ディーゼル車の成分は、有機性炭素と元素状炭素の合計が全体の4分の3程度を占めていた。また、ディーゼル重量貨物車は速度が増加すると有機性炭素と硝酸イオンが減少し、縦断勾配が増すと、元素状炭素及びアンモニウムイオンが増加し、有機性炭素が減少する傾向がみられた。


騒音対策新技術の予測・評価に関する調査

研究期間 :平11〜平14
担当者  :大西博文、上坂克巳、木村健治

 本研究では、近年新しく開発された道路交通騒音対策の新技術を用いた場合の騒音予測・評価方法について研究を行っている。平成11年度は、環境アセスメントの重点化予測を行う場合などに必要な音響模型実験の精度向上を図るために、模型材料の実効的流れ抵抗に関する研究を行った。この結果、スポーツグラウンドや草地などに相当する道路沿道の地面を模型実験で再現する場合には、麻やタオル地(縮尺比1/10の場合)を使用すればよいことなどを確認した。


低騒音舗装の機能性向上に関する試験調査

研究期間 :平6〜平11
担当者  :大西博文、近藤 升、青木理恵

 排水性舗装は排水機能と騒音低減機能を有しており、路面滞水や道路交通騒音に対する対策として有効である。しかし、車両の通過台数の増加に対応して舗装の空隙が詰まり、その機能がしだいに失われていくといわれている。そのため、排水性舗装の経年的な騒音低減特性を明らかにすることを目的とし、平成6年に一般国道に試験施工された4種の排水性舗装および密粒舗装の区間において騒音測定を行ってきた。その結果、排水性舗装の施工6年目の騒音低減効果はどの舗装でも2〜3dBであり、良好な減音効果を維持していることが分かった。


道路交通振動の環境アセスメント技術の高度化に関する試験調査

研究期間 :平11〜平14
担当者  :大西博文、上坂克巳、川上篤史

 直轄国道管理調査の一環として実施されている振動測定により道路交通振動の実態を把握するとともに、交通条件および地盤状況等と振動の関係を調査し、今後の道路計画および道路管理における環境対策の立案のための基礎的資料を得ることとしている。なお、この振動測定では各地建における測定地点を3グループに分割して毎年そのうちの1グループの測定を行っている。
 11年度は、グループ2の測定結果を交通条件、路面および地盤状況等の別に整理し取りまとめた。測定地点177点のうち、要請限度を超えた地点はなかった。また、道路交通振動予測式から算出された予測値と実測値を比較した結果、全体的に実測値よりも予測値の方が多少高い傾向にあった。


大気汚染の予測・低減技術に関する試験調査

研究期間 :平7〜平11
担当者  :大西博文、山田俊哉、大城温

 本研究は、交通施策による大気汚染低減効果の予測を目的として実施している。11年度は、予測に必要な広域的な交通−環境シミュレーションモデルを構築するために、大気汚染物質の排出・拡散シミュレーションの入力データとなる、交通施策による交通状況へのインパクトの推計について検討した。ここでは、交差点立体化、ロードプライシングの2つの施策を取り上げ、これら施策の交通状況へのインパクトの推計手法を検討するとともに、交通シミュレーションモデルSOUNDを用いて、これらの施策による時間別の交通状況がどう改善するかを推計した。


道路による動物の生息域への影響低減技術の調査研究

研究期間 :平10〜平14
担当者  :大西博文、上坂克巳、川上篤史

 本研究では、道路による動物の生息域の分断の影響を低減する技術の開発を目指している。11年度にはオランダの運輸公共事業水管理省道路水利技術研究所との共同研究「道路による生息域の分断防止対策に関する研究」の一環として我が国で日蘭ワークショップを開催した。ワークショップでは日本とオランダの「道路による生息域分断の防止技術」と「生態系ネットワークの形成」に関して、具体的な整備方針や対策技術の情報交換および討議を行った。その結果、オランダでは計画−設計−施工−維持管理段階において、常に行政担当者や事業者、NGOが相互に協議を行いながら事業を進めていることがわかった。


低公害大型車等の導入が都市交通環境に与える影響に関する調査

研究期間 :平11〜平13
担当者  :大西博文、山田俊哉、小根山裕之、大城温

 本研究では、低公害車等の導入により都市交通環境を改善する効果を定量的に把握することが目的である。
 11年度は、専門家の予測評価や自動車メーカーの開発動向の整理、将来のエネルギー需給の見通し等から、低公害車の普及シナリオを整理した。また、10年度までに作成した都市交通部門におけるCO2排出量の予測モデルの改善と、予測可能な削減施策を拡大するためのサブモデルの作成を行った。
 その結果、CO2排出量削減施策の効果は自動車走行台キロの削減による効果だけでなく、走行台キロの削減に伴う旅行速度の向上による効果も同程度以上あるという結果が得られ道路交通の円滑化施策もCO2排出量削減に大きく貢献することがわかった。


SPMの二次生成物質、PM2.5、巻き上げ粉塵等の道路沿道実態の調査

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、山田俊哉、大城 温

 一般道路の沿道でPM2.5の濃度を測定することにより、沿道におけるPM2.5の実態を把握した。また、測定に用いた3手法を比較し、各手法の特徴を整理した。その結果、沿道のPM2.5は、バックグラウンドと比べ、ほとんどの時間帯で濃度が高かった。また、フィルター振動法及びβ線吸収法は、米国のEPAが標準手法としている重量測定法に対し、濃度が低く測定され、フィルター振動法とβ線吸収法とを比較するとフィルター振動法のほうが濃度が若干低く測定される傾向がみられた。


環境保全措置の効果についてのエコロード等による追跡調査

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、上坂克巳、川上篤史

 道路による動物の移動経路の分断による影響を緩和する対策としてボックスカルバート、コルゲートパイプ等による動物用道路横断施設が設置されている。しかし、保全対象とする動物種毎の適した設置方法や利用頻度などの効果については未解明な点が多い。そこで、今後動物用に道路横断施設を設置するためには、動物が選好する横断施設の構造や設置位置等を検討する必要がある。
 そこで本研究では、既設の道路において道路横断施設の動物による利用状況(動物種、利用時刻、利用頻度等)を長期にわたり低労力かつ効率的に調査する方法としてカメラ等による自動撮影方法を開発することを目的とする。


高架構造物音の分析

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、上坂克巳

 道路橋18橋における高架構造物音等の測定データの分析を行った。まず、それら橋梁構造並びに単独大型車両走行時における速度と高架構造物、床版の振動加速度等のピークレベルを整理し、ピークレベルの周波数分析を行った。次に大型車両の走行速度と高架構造物音の関係及び橋梁構造と高架構造物音の関係について分析した。その結果、高架構造物音と低周波音は床版の振動加速度と密接な関係を有し、高架構造物音の速度依存性が認められた。また鋼橋における高架構造物音はコンクリート橋を上回る可能性が示唆された。


騒音の重点化予測手法

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、上坂克巳、木村健治

 本研究では、平面道路上に高架道路が併設された場合における騒音の予測方法の適用範囲を明らかにした。まず、遮音壁の高さや設置位置が異なる3ケースの模型実験を行った後、これに対応する予測計算をスリット法により行い、模型実験と予測計算の結果を比較した。この結果、遮音壁を高架道路の両端よりも外側に設置した条件では予測式を適用できること
を確認した。


凍結防止剤の自然環境への影響実態の調査

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、山田俊哉、上坂克巳

 凍結防止剤が流入する公共用水域及びその周辺において、塩化物イオン濃度を調査し、凍結防止剤が水生生物に及ぼす影響について検討した。また、凍結防止剤が陸域生物に及ぼす影響に関する既存資料を収集・整理した。その結果、凍結防止剤が河川へ流入する地点近傍の塩化物イオン濃度は、水生生物の許容濃度と比べ概ね低い値であり、許容限度を超えるのはわずかの時間のみであった。凍結防止剤が植物に及ぼす影響としては、「薬剤成分が路面から流出し根から吸収されることによる影響」と「飛散した成分が葉に付着することによる影響」とに大別され、その内容を整理した。


マニュアルの運用に関する調査

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、山田俊哉、大城 温

 道路交通に起因する浮遊粒子状物質のうち、過年度までの調査で排気管から粒子として排出される量が算出されたが、この他、二次生成物質や巻き上げによる寄与があることが指摘されている。平成11年度は、沿道における二次生成物質の生成量を把握することを目的とし、車道部端から風下方向にかけての浮遊粒子状物質の濃度変化と成分変化を調査し、車道部端から風下側の濃度変化について測定結果と二次生成物質等を考慮しないで予測した結果とを比較した。その結果、排気管から排出された物質による二次生成物質が沿道のSPM濃度に及ぼす影響は確認されなかった。


排水性舗装の騒音低減効果実態調査

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、近藤 升

 排水性舗装上を走行する自動車の騒音レベルは、施工後徐々に上昇していく。しかし、騒音レベルの上昇の程度に地域差があるため、その主たる影響要因が施工直後からの交通量(累積交通量、大型車累積交通量)によるものなのか、経過時間によるものかはわかっていなかった。平成11年度は、過年度分を合わせて延べ37箇所の排水性舗装区間の路側におけるLAeqと試験車のパワーレベル及びタイヤ近接音の測定結果を用い、排水性舗装の騒音レベルの経年変化について検討した。その結果、騒音レベルの上昇は経過月数や累積交通量よりも大型車累積交通量とより強い相関を持ち、上昇の程度は対数関数的に推移することがわかった。また、パワーレベルとタイヤ近接音の間にある程度の関係が認められた。


路面排水実態の調査

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、山田俊哉

 路面排水の流出状態とその水質に関する知見を得ることを目的とし、国道及び高速道路において雨水ますに流入する直前の路面排水を所定の時間間隔で採水し、流出量の測定と汚濁物質濃度の分析を行った。
 汚濁物質濃度は、総じて降雨初期に高く、時間の経過に伴って減少する傾向がみられた。平均値でみると、生物化学的酸素要求量と化学的酸素要求量は低い値で、浮遊粒子状物質及びノルマルヘキサン抽出物質含有量も、各々1地点で高い値となったが、他の2地点では低い値であった。蒸発残留物については、2地点で凍結防止剤の散布等の影響により高濃度が観測された。


多孔質弾性舗装に関する調査

研究期間 :平11
担当者  :大西博文、近藤 升

 多孔質弾性舗装は、排水性舗装の騒音低減効果が3dB程度に対して10dBを越える効果がある。このため、将来の低騒音舗装として期待されているが、湿潤時すべり摩擦性能の向上が大きな課題であった。11年度は湿潤時すべり摩擦性能を向上させた4種類の試作品を試験走路に敷設し、各試作品の騒音測定を行った。その結果から、多孔質弾性舗装の騒音低減効果は、舗装材料の硬度と連続空隙率に大きく影響されていると考えられる。特に、タイヤ近接音に関しては舗装材料の硬度の影響が顕著に現れた。