<環境部>

地質研究室 平成11年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


古環境変化に基づく災害発生時期推定法に関する研究

研究期間: 平11〜平15
担当者 : 脇坂安彦、品川俊介、大谷知生

本研究は地層や地形面の形成年代を推定する、新たな方法の開発を目的としている。11年度は、火山灰(テフラ)層序学的方法によって堆積年代が明らかになっているローム層を対象に、ローム層の磁気的な性質や色の変化と、植物珪酸体分析による古環境推定結果やすでに明らかになっている地球環境変化史とを比較した。その結果、ローム層の初磁化率や色の変化が古環境変化を反映したものと考えられ、これらの変化パターンを用いた地層対比の可能性が示された。


地形地質環境の多様性を考慮した多自然型土地作りに関する研究

研究期間: 平11〜平15
担当者 : 脇坂安彦、佐々木靖人、大谷知生、品川俊介

 地形地質環境を考慮した環境保全の基本コンセプトを示した。また、地形地質環境の的確な調査法として、表層土壌の新しい調査法(土壌深調査棒、土壌スプリットサンプラー)を開発した。さらに、樹木に覆われた試験山地域において、上記の調査法等を活用して、微地形・土壌・地下水・植生の関連性を調査した。その結果、微地形・土壌・土壌水分、ならびにそれらの環境形成プロセスを考慮すると、いくつかの地形地質環境ユニットが識別された。また、一部の植生分布はこのようなユニットに規制されていることがわかった.。


断層をまたぐ土木構造物の防災上の研究

研究期間: 平8〜平11
担当者 : 脇坂安彦、梶川昌三、品川俊介

 本研究は、活断層の地盤変位に対する土木構造物防災を目指している。11年度は活断層の詳細位置の客観的認定を目的にした空中写真判読結果の記載法および、写真判読上の留意点をとりまとめた。また伏在断層の活動に伴い生じる地表変位の大きさの把握を目的に、10年度に作成した阪神地区における沖・洪積層地盤物性値モデルおよび、11年度に作成した単純な水平構造をもつ仮想沖・洪積層地盤物性値モデルについて、伏在断層が運動した場合の地表面に現れる変位量を2次元有限要素法により計算した。いずれのモデルにおいても弾性変形を仮定した場合と弾塑性変形を仮定した場合の結果に大差がなかった。


地震ハザートマップの作成手法の開発に関する調査

研究期間: 平11〜〜14
担当者 : 脇坂安彦、梶川昌三、品川俊介

 本研究は地震防災対策に必要な地震ハザードマップの作成に関してその作成手法の確立を目指している。11年度は、地震ハザードマップ作成に関する基本情報となる地盤のモデル化に必要な地盤情報の取得を目的として、比較的簡易で安価な物理探査であるS波微動探査法の特性について検討した。その結果、本探査法のアレー半径と探査深度限界の関係、および既存の深層ボーリングの検層結果等との比較により、本探査の精度、分解能等が明らかとなった。また、深部の地盤構造・物性構造が、エッジ効果・焦点効果などの地震波の増幅にどのような影響を及ぼすのかを二次元の地盤モデルを用いて地震応答計算により検討した結果、基盤の形状により振幅分布が大きく変化することが明らかとなった。


岩盤・斜面崩壊に対する合理的なリスク評価手法の開発

研究期間: 平11〜平15
担当者 : 脇坂安彦、佐々木靖人、梶川昌三、大谷知生

 GISを用いたリスク評価システムの構築をめざし、GISに適した面的調査技術の調査、面的な斜面ハザード評価及びリスク評価手法の調査、ならびにGIS活用手法の調査を行い、GISを活用した道路斜面の面的なリスク評価システムの開発目標を定めた。この結果、開発すべきシステムは、斜面災害危険度をハザードマップとして面的に表示するとともに、路線としてのリスクの表示ができるシステムとし、さらに降雨時などのリアルタイムな危険度の表示も可能なシステムをめざすこととした。また、平成11年の広島豪雨災害箇所を例に、GIS及び地形データのみを用いた斜面災害危険度の予測を行った。


岩盤斜面の調査法及びモニタリングに関する試験調査

研究期間: 平9〜平13
担当者 : 脇坂安彦、佐々木靖人、梶川昌三、大谷知生

 岩盤内部の亀裂の分布状況や連続性を調査するエアートレーサー試験を開発した。11年度は、前年度に引き続きエアートレーサー試験の現地適応実験を行い、実用例を増やすとともに、レーザースキャナーを用いた地形計測手法、岩盤表面の地質脆弱部抽出のための近赤外スペクトルカメラの開発を行った。その結果、エアートレーサー試験では、よく開口した亀裂におけるトレーサー移動速度が0.1〜0.2m/sであること、レーザースキャナーにより微細地形の抽出が可能なこと、近赤外スペクトルカメラは可視領域のものと比較して鉱物種によるスペクトル形状の違いが明瞭で、岩質の判別に有利であることなどがわかった。


ダム基礎におけるゆるみ岩盤の評価に関する調査

研究期間: 平9〜平13
担当者 : 脇坂安彦、佐々木靖人、大谷知生

 ダムのゆるみ事例を調査したところ、調査ダム全体の22.9%でゆるみが設計上の課題となっていることがわかった。また、ゆるみを生じやすいいくつかの岩型があることがわかった。ゆるみの精査法として、地質研究室の開発したエアートレーサー試験をダム基礎調査用に改良し、いくつかのダムに適用した。その結果25m離れた別の横坑からトレーサーが流出し開口亀裂の連続性が確認された。


ダム地質図作成技術の高精度化に関する調査

研究期間: 平7〜平11
担当者 : 脇坂安彦、佐々木靖人、品川俊介

 亀裂を有する火山礫凝灰岩において、弾性波トモグラフィの一種である音響トモグラフィの適用性を検討した。音響トモグラフィによって岩盤の弾性波速度や減衰率を面的に算出し、岩種やルジオン値、RQDなどの実測値と比較したところ、弾性波速度は岩種と相関が見られた。また減衰率は全体にばらつきが大きく明瞭な相関は認められないものの、減衰率の特に大きな箇所は高透水性岩盤が広く分布する箇所にほぼ一致した。


雲母族鉱物がコンクリートに与える鉱物化学的影響に関する試験調査

研究期間: 平7〜平11
担当者 : 脇坂安彦

 有害鉱物と従来からいわれているもののうち黒雲母については、それを含んだ岩石を骨材として使用した場合のモルタル・コンクリートの性質が網羅的に調べられているわけではない。そこで、黒雲母を骨材とした場合のモルタルの品質低下現象の把握、低下現象のメカニズムの解明、黒雲母含有骨材の有効利用法の開発を目的に研究を行った。11年度は黒雲母を含んだモルタルの強度および凍結融解抵抗性が低下する原因の究明をOHPフィルムを疑似雲母として用いた実験により行った。その結果、強度や凍結融解抵抗性の低下は、黒雲母と同様にOHPフィルムでも生じ、それらの低下の原因は物理的なものであることが分かった。


志津見ダム本体コンクリート用骨材の適用性に関する調査

研究期間: 平9〜平11
担当者 : 脇坂安彦

 志津見ダムでコンクリート用骨材として使用予定の黄鉄鉱を含んだ岩石等を対象として、各種試験を実施し、黄鉄鉱によるコンクリートの品質低下現象の把握、品質低下現象の機構解明、有効利用法の検討を行っている。平成11年度は昨年度に引き続き志津見ダムの骨材を使ったコンクリートの各種試験、純粋な黄鉄鉱を使ったモルタルの各種試験を行うとともに、新たに強制的に酸化させた骨材を使用したコンクリートの曝露試験を実施した。コンクリートの各種試験の結果、特定の骨材の組み合わせで、耐久性が低下することがわかった。