<耐震技術研究センター>

振動研究室 平成11年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


地震動の局所的な変動特性に関する研究

研究期間:平10〜平14
担当者 : 田村敬一、中尾吉宏、松本俊輔

 我が国の平野部では、洪積層及び沖積層が複雑な地盤を構成している事例が数多く見られ、この様な地点においては複雑な地盤構成が地震動特性の分布に影響を与える。また、概ね一様な水平成層地盤においても地震動は箇所ごとに変動し、その変動特性が構造物の地震応答に影響を与えることが知られている。以上のような観点から、本課題は、地震動の時空間変動を体系的に評価する手法の開発を目的とするものである。11年度は、幕張・習志野地区高密度強震観測場のアレー記録を用いてコヒーレンスを算出することにより、地震動の箇所ごとの変動状況を把握するとともに、地震動の時空間変動モデルを構築するための基礎として、コヒーレンスの予備的なモデルを提案した。


上部構造の応答を考慮した基礎構造の地震時挙動に関する研究

研究期間:平11〜平14
担当者 : 田村敬一、東拓生、小林寛

 従来、橋梁などの土木構造物では、上部構造と地盤−基礎構造系を分離して、それぞれが十分な安全性を有するように耐震設計がなされてきた。これは主として、上部構造の応答を考慮に入れた基礎構造の地震時挙動については解明されていないことによるものである。構造物全体系として十分かつ合理的な安全性を有するような設計体系を指向するためには、上部構造と地盤−基礎構造系の一体としての地震時挙動を把握することが必要である。そこで、11年度は、上部構造を数値モデル、地盤及び基礎構造を実際の模型とするハイブリッド振動実験を実施することにより、弾性域を対象として、上部構造の応答の影響を考慮した地盤−基礎構造系の地震時挙動を系統的に明らかにした。


橋脚の破壊過程解明と最適補強法の開発

研究期間:平11〜平13
担当者 : 田村敬一、小林寛

 橋脚の損傷・破壊に関しては、橋脚の独自の振動特性のみならず、地盤−基礎構造系を含めた橋梁全体系としての振動特性が大きな影響を及ぼすことが知られているが、特に、地盤−基礎構造系の振動特性については未解明の部分が多く、基礎構造の損傷・破壊が橋脚の損傷・破壊に対してどのような影響を及ぼすかは明らかにされていない。このような観点から、本研究では、地盤−基礎構造系を含めた振動実験を行い、基礎構造との連成を考慮した橋脚の損傷・破壊メカニズムを系統的に解明し、橋脚の最適補強方法の開発に資することを目的としている。11年度は、橋梁全体系(地盤−基礎構造−橋脚−支承−桁)の振動実験手法の検討を行い、実験手法の有効性を確認した。


断層の破壊過程を考慮した地震動推定と構造物の振動特性に関する基礎的研究

研究期間:平11
担当者 : 田村敬一、片岡正次郎

 将来発生する大地震に対しては、特にその震源近傍における地震動を推定することにより、適正な耐震性を有する構造物の設計を行う必要がある。近年、震源断層、地盤構造をモデル化して理論的に地震動を推定する手法、すなわち理論的手法を用いた震源近傍の地震動の推定が試みられている。この手法を将来発生する地震に適用するためには、どこで、どのような地震が発生するのかという、震源断層の破壊モデル(断層モデル)を設定する必要があるが、その設定法は確立されていない。本研究では、理論的手法による地震動推定に用いる断層モデルの設定法を提案し、推定地震動の変動やその原因等を明らかにするとともに、推定された地震動に対する構造物の振動特性を把握することを目的としている。11年度は各断層パラメータの評価式を作成し、断層面におけるくい違い量分布の特徴を把握するとともに、震源近傍の地震動に対する構造物の応答に関する検討を行った。


地盤条件等を考慮した設計地震動の高精度化の研究

研究期間:平8〜平12
担当者 : 田村敬一、片岡正次郎、松本俊輔

 本研究では、従来の岩盤立地に加えて他の地盤条件の地点における原子力施設の立地可能性を検討するにあたり、設計地震動の高精度化に資することを目的として、地盤条件による地震動増幅の影響を評価する手法について検討を行う。また、非常に強い地震動に対する構造物の挙動を評価するために、非線形挙動をとる系の地震応答特性を数値解析により検討し、前述の結果とあわせて、地震動の地盤条件による増幅特性や対象とする系の非線形性を考慮した設計地震動の設定手法について検討する。11年度は、第三紀層の上に第四紀地盤が堆積した地盤モデルの地震応答解析を行うことにより、原子力施設を第四紀地盤に設置する場合の設計地震動の設定位置、設計速度応答スペクトル、最大速度振幅、振幅包絡線を提案した。


大地震時における橋梁基礎と地盤との相互作用に関する試験調査

研究期間:平9〜平12
担当者 : 田村敬一、東拓生、小林寛

 兵庫県南部地震を契機に、従前より非常に強い地震動を考慮することが必要となった。そのため、より一層の地震時の地盤特性や基礎本体と地盤との動的相互作用の把握が必要となり、これらを踏まえた基礎の設計法を確立する必要がある。そこで、本調査は、大地震を想定した場合の合理的な橋梁基礎の耐震設計法の確立を図ることを目的として、基礎構造物に作用する地震力の評価法、大地震時における液状化地盤の橋梁基礎の地震時挙動等について検討するものである。11年度は、地震動レベルに応じた地震時せん断応力比Lの検討を行い、地震動レベルが深さ方向の低減係数rdに与える影響について明らかにした。また、液状化過程に着目した杭基礎の地震時挙動に関する模型振動実験を行い、液状化進行過程において杭基礎に過渡的な共振現象が発生する場合が存在することを示した。


地盤流動を考慮した橋梁基礎の耐震設計法に関する試験調査

研究期間:平7〜平11
担当者 : 田村敬一、東拓生、小林寛

 地表面が傾斜した地盤や護岸近傍の地盤では、地震時の液状化により地盤に流動的な変形が生じ、橋梁基礎に被害が生じる可能性がある。平成7 年兵庫県南部地震の際には、埋立地盤の水際線構造物の移動に伴い地盤流動が発生し、橋梁基礎に変状が生じている。しかしながら、地盤流動が橋梁基礎に及ぼす影響については未解明の部分が多く、地盤流動に対する橋梁基礎の安全性を確保するためには、地盤流動量、基礎に作用する流動力、対策工法等について検討を行う必要がある。
 以上のような観点から、本課題は地盤流動の発生条件及び地盤流動の評価法について検討し、橋梁基礎の耐震設計法及び対策工法の提案を行うことを目的とするものである。 11 年度は、地盤の流動に伴う地盤の変位並びに橋梁基礎に生じる変位及び断面力を算定をするための解析手法を提案し、その結果を実測値と比較することにより、解析手法の妥当性を検証した。


構造物の塑性化を考慮した設計地震動に関する試験調査

研究期間:平8〜平12
担当者 : 田村敬一、中尾吉宏、松本俊輔

 大規模プロジェクトの計画地点は過去の大地震の震源域に近く、兵庫県南部地震において生じたような非常に強い地震動に対しても構造物の安全性を確保するためには、構造物の塑性化を適切に考慮した耐震設計を行う必要がある。本研究は、この点を鑑み、構造物の非線形応答に影響を与える地震動特性を考慮した設計地震動の設定手法を開発し、強い地震動を想定した耐震設計の精度の向上に資することを目的としている。11年度は、入力地震動と1質点系の非線形応答の関係を明らかにすることにより、入力地震動の特性に基づく1質点系の非線形応答の簡易推定方法を提案するとともに、2質点系の非線形応答を評価する方法として2質点系と等価な1質点系を用いる方法について検討した。


地震ハザートマップの作成手法の開発に関する調査

研究期間:平10〜平14
担当者 : 田村敬一、片岡正次郎、中尾吉宏

 合理的な地震防災計画の策定や設計地震動の設定のためには、地震動特性の地域性を適切に考慮する必要がある。現行の各種耐震設計基準類では、既往のハザードマップにより地震動特性の地域性を考慮し、設計地震動を定めている。既往のハザードマップ作成に用いられてきた地震情報は、計器観測による過去百年程度の地震情報及び過去千数百年の歴史地震情報であるが、数百年から数千年以上とされる活断層の地震発生間隔を考慮すれば、十分な期間の情報が用いられてきたとは言えない。本課題は、既往の地震情報とともに、近年、蓄積されつつある活断層の情報を考慮した合理的なハザードマップ作成手法を開発することを目的とする。11年度は、活断層の最新活動時期、活動間隔等の情報を考慮した地震危険度解析を行い、活断層に起因する地震の発生確率の評価方法が地震危険度に及ぼす影響を明らかにした。


大規模地震を考慮した地中構造物の耐震設計法に関する試験調査

研究期間:平10〜平13
担当者 : 田村敬一、中尾吉宏、松本俊輔

 地中地震動の分布特性は、従来、観測記録が限定されていたこともあり、十分に明らかにされておらず、特に、兵庫県南部地震で生じたような非常に強い地震動が生じた場合の地震動の分布特性については未解明の部分が多い。また、立地条件の制約、施工技術の進歩等により、従来に比べ深い位置に地中構造物が設置されるようになってきており、工学的基盤以深の地震動特性についても把握することが必要となってきている。本研究では、地中構造物の耐震設計の高度化・合理化を図るために、非常に強い地震動が生じた場合の地中地震動の分布特性及び工学的基盤以深の地震動特性について検討することを目的とする。11年度は、地盤条件が異なる実地盤モデルに強度等の特性が異なる地震動が生じる場合の地震応答解析を行い、典型的な地盤モデルの理論解と比較することにより、理論解の実地盤モデルに対する適合性を明らかにした。


大規模地震を想定した長大橋梁の耐震設計法の合理化に関する試験調査

研究期間:平10〜平14
担当者 : 田村敬一、片岡正次郎、中尾吉宏、松本俊輔

 東京湾口、伊勢湾口等において超長大橋の建設が計画されているが、これらの地域は過去の大地震の震源近傍に位置し、極めて厳しい地震環境下にあるため、大規模地震を想定して設計地震動を設定する必要がある。一方、震源断層の破壊過程をモデル化して強震動を合成する、断層モデルを用いた地震動推定手法(以下、断層モデル手法)が提案されてきており、大規模地震の震源近傍で発生する強震動についてもその有効性が認識されつつある。本課題は、断層モデル手法の実用性を高め、その推定地震動に基づく設計地震動の設定手法を提案することを目的としている。11年度は、断層モデル手法の実用性の向上を図るとともに、断層モデルの震源位置及びくい違い量分布を変化させて種々の断層モデルを系統的に設定することにより、推定地震動の変動を把握した。


谷状地盤における地震動分布特性に関する調査

研究期間:平7〜平11
担当者 : 田村敬一、片岡正次郎、松本 俊輔

 急峻な地形を有する地域に建設される大規模ダムに地震時に入力される地震動は一様ではなく、例えば、ダム底部とダム袖部には異なる地震動が作用すると考えられる。したがって、ダムの耐震設計の合理化・高度化を図るためには、ダムの建設サイト周辺における地震動の分布を予測し、その分布に基づいて設計地震動を設定する必要がある。本研究は、不整形地盤に建設されるダムなどの大規模構造物の設計用入力地震動の合理化・高度化に資することを目的として、谷状地盤における地震動特性に関する検討を行う。11年度は、谷状地盤における地震動増幅を表す指標として平均増幅率を提案し、形状の異なる様々な谷状地盤のモデルについて平均増幅率を計算することにより、谷状地盤の形状が平均増幅率に及ぼす影響を明らかにした。