<下水道部>

水質研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要

水道水源河川における汚濁物質モデルに関する研究

研究期間:平7〜平10
担当者 :田中宏明、白崎 亮、岡安祐司

 「特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する基本方針」が求めているような、トリハロメタン生成能(以下、「THMFP」)濃度での指定水域の水質予測を行うためには、単に各種発生源での汚濁負荷量の調査のみならず、流達過程や閉鎖性水域での変化量を予測する必要があるが、現在のところ充分には把握されていない。このためトリハロメタンや全有機ハロゲン化合物といった消毒副生成物の原因となる生成能の水域でのモデル化を行うため、これらの物質の水域での消長の把握を行っている。
 10年度は、生活排水由来のTHMFPの分解過程、底泥からのTHMFPの溶出及び利根川での実測値の解析を行った。その結果、THMFPの分解に水温の与える影響は小さいこと、手賀沼底泥からのTHMFPの溶出量は田からの流出量と同オーダーであること、利根川の期間平均値ではTHMFPとChl-a、CODとの間に正の相関があることなどがわかった。


河川水質と水生生物相との関係把握

研究期間:平8〜平11
担当者 :田中宏明、高橋明宏

 近年環境基本法では、生態系の多様性を維持するとの新たな視点が取り込まれ、建設省においても環境政策大綱や河川審議会、都市計画審議会において河川や都市空間での生態系保全施策の必要性が強く打ち出されている。生態系、特に水生生態系を保全するためには、生息空間構造、流況、生物相互作用、食物源の他に、水質が大きな役割を果たしていると考えられる。
 本研究では、水生生態系を保護するための水質条件やその条件設定のための調査研究方法を文献的に調べるとともに、都市を中心とした河川などの水質とそこに形成される水生生物相の関係についての基礎的知見を現地調査などにより把握することを目的としている。
 10年度は、前年度に引き続き下水処理水が主に流れる都市河川において水生生物相の調査と水質調査を実施した。調査の結果、河川水質、特に下水処理水中の消毒成分が付着藻類等の河川の生物相に影響を与えていることが推察された。


下水処理施設での有機有害物質の挙動に関する研究

研究期間:平8〜平11
担当者 :田中宏明、小森行也、岡安祐司、竹歳健治

 平成5年12月に水質汚濁防止法に基づく人の健康に係る水質項目(有害物質)に関する排水基準が改正されたことにより、下水処理施設においても、新たに9種類の揮発性有機物と3種類の農薬の排出が規制されることとなった。しかしながら、排水中の有害物質が基準値以下の場合は、そのまま下水道に流入する可能性がある。また、家庭等、規制対象外の施設からの有害物質の流入の可能性も否定することができない。そのため、下水道での対応策の検討が必要である。さらに、人の健康に影響を及ぼす可能性のある物質で、平成5年3月の水質保全局長通達により要監視項目に指定されているものについては、水質汚濁防止法、下水道法ともに規制対象項目としていないため、そのまま下水道に受け入れているのが現状である。将来の規制化を考慮し、削減対策を検討する必要がある。現在のところ、これらの物質の下水処理施設での除去状況、気相や汚泥への移行に関する知見は不十分であり、下水道における動態の解明ならびに対応策が望まれている。
 本研究は、有害物質のうちVOC 11項目(有機有害物質)について実験装置を用いた挙動調査と挙動調査に不可欠な大気・汚泥中の分析方法の検討を目的としている。
 10年度は、1)VOC実態調査、2)VOC挙動調査、3)VOCの生分解性について実施した。


都市排水に含まれる水道原水影響物質の評価方法に関する基礎的研究

研究期間:平10〜平12
担当者 :田中宏明、小森行也、高橋明宏

 本研究は特に都市排水が、下流で水道原水として使われる場合問題となる、多環芳香族化合物(PAH)やその他の変異源をもつ物質を検出し、評価する方法を確立することを目的としている。
 文献調査結果から、海外での報文から流入下水のPAHレベル、下水処理過程で除去を考慮すると水道水の規制と同じレベルにあり、希釈容量がある場合問題とはならないが、都市雨水排水は、無視できないレベルであると考えられる。また、ベンゾ(a)ピレンの下水の水試料への適用は固相抽出よりも溶媒抽出による場合の方が回収率が高かった。また汚泥の前処理方法としてはエタノール−アルカリ環流法がアセトン超音波抽出よりも回収率が高かった。


生態系からみた下水処理水の評価方法に関する調査

研究期間:平8〜平11
担当者 :田中宏明、高橋明宏

 近年、化学物質の製造、使用は増加の一途をたどっており、それらの中には有害な物質も含まれるため、水域汚染が懸念される。しかし、従来より用いられている個別物質を対象とした化学分析法では、定量分析が困難な物質や未知の有害物質には対応できない、複合影響を評価できない等の問題がある。そこで、生物を用いて生物に対する影響そのものを評価する手法であるバイオアッセイ(生物検定)が、多種類の物質が含まれる排水や環境水の毒性を総合的に評価する手法として注目されつつある。
 本調査は、下水や下水処理場からの放流水の毒性をバイオアッセイを用いて評価するための手法を確立することを目的としている。10年度は、1)様々な種類のバイオアッセイを実際の下水試料に適用し、実態の把握を行うとともに、それぞれのバイオアッセイについて適用性を検討した結果、使用する生物種により検出している毒性物質の種類が異なる可能性があること、下水処理場の生物処理により毒性が低減するが、消毒プロセスにより毒性が上昇する場合があることが明らかとなった。2)下水試料中の変異原性についてその由来を検討した結果、分離に用いるHPLCの条件を検討することで変異原物質の分離がある程度可能であると考えられた。3)魚類等の野生生物の生殖に影響を及ぼす可能性が指摘されている環境ホルモンについて、バイオアッセイを用いた測定方法を検討した結果、遺伝子組み替えを行った酵母菌を用いて下水中の女性ホルモン作用を評価するための基礎データを得た。


流域循環系に占める下水道整備効果に関する調査

研究期間:平8〜平12
担当者 :田中宏明、小森行也、白崎 亮、竹歳健治

 本調査は、河川流域における水や様々な汚濁物質の循環に対して下水道整備が与える影響や効果、またそれに係る資源投入量等を把握し、今後、総合的な水管理を進めていく上で、下水道整備において改善すべき課題を検討することを目的で行うものである。
 10年度は前年度に引き続き、河川の流量・流出負荷量に対して流域の下水道整備が与える影響を把握するため、下水道整備途上の汚濁河川流域を対象に調査を行った。その結果、対象河川における流出負荷量は、流域の汚水処理状況や土地利用状況などの流域特性の影響を受けていることが示唆された。


下水道での有害化学物質の管理に関する調査

研究期間:平8〜平11
担当者 :田中宏明、小森行也、岡安祐司、竹歳健治

 現在、生産・使用されている化学物質は数万種に及ぶと言われている。これらの化学物質は、生活に欠くことのできない有益な物質であることは言うまでもないが、人の健康を害するものも少なくない。人の健康を害する一部の物質については、環境や下水道への排出が規制されているところであるが、多くの化学物質は未規制のままである。生活排水、工場排水等を処理した後、環境へ戻している下水道においては、今後一層、有害化学物質を適切に管理することが重要な課題となる。
 本調査は、下水道に定常的・突発的に流入する恐れのある種々の有害化学物質について下水道での動態予測、処理への影響、人の健康に与える影響評価方法の検討等、有害化学物質の管理方法を確立することを目的としている。
 10年度は、内分泌撹乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)に関する問題が顕在化し、社会問題となったことから、環境ホルモンを調査対象物質とした緊急調査を行った。建設省が平成10年度に実施した「水環境における内分泌撹乱化学物質に関する実態調査」で調査対象とした化学物質のうち、ノニルフェノール(NP)と前駆物質のノニルフェノールエトキシレート(NPEO)の活性汚泥処理プロセスでの挙動調査を行い、その実態を明らかにした。また、建設省の実態調査で下水からの検出率が比較的高かった物質を対象として、活性汚泥処理実験装置を用いた実態調査を行った。


バイオセンサーの下水道施設への適用に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :田中宏明、白崎 亮、岡安祐司

 下水処理施設の維持にあたっては、処理後の放流水の水質監視及び排水処理プロセスの制御用に多くの水質センサーが用いられているが、その多くは物理的・化学的な水質項目を測定するセンサーが中心となっている。これらのセンサーにおいて、水温、pH等の化学反応を伴わない基本項目を測定するものについては、精度の高い測定値が得られているが、他の多くのセンサーについては、精度、感度、維持管理性等の点で必ずしも満足のいく状態ではない。
 下水処理場の放流水水質監視としては、BOD5の測定が義務づけられており、下水処理プロセス制御のための水質指標としても重要度が高い。しかし、公定法によるBOD5の測定は、測定に5日を要し、その結果をリアルタイムに把握して処理プロセスの管理に反映することは困難であり、BODの短期間での測定の要望は高い。
   本調査は、このような背景から、バイオセンサーの実用化に関する調査で得られた知見を元にBODを迅速に測定できるバイオセンサーをモニター化するための技術を開発し、それを実用化するための調査を行うことによって、下水道の維持管理性を向上させることを目的とする。
 10年度は、バイオセンサーに用いる微生物のBOD成分の資化特性、保存方法について検討を行った。また、従来の知見を元に、可搬型のバイオセンサーを製作し、下水処理水への適用性を検証した。


水質事故対策技術に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :田中宏明、白崎 亮、岡安祐司

 水質事故では、流出初期の迅速な対応が被害の軽減という観点から効果的であるが、現状は事故発見、通報の遅れとともに油流出以外の事故では事故原因物質の特定に多大の時間を要している。このような問題点の改善のため、各地建技術事務所・開発土木研究所と共同で、河川管理者の早期の水質事故の発見、水質事故処理技術の開発などを検討し、水質事故発生時に迅速な対応が図れることを目的とする。
 この中で、土木研究所では油の流出予測手法と油分及び毒物の検出技術の検討を担当しており、10年度は、ラグランジュ的手法を用いて油の流下予測計算を行い、油が流下する際の特性を把握した。その結果、河岸でも、河川中央の最大流速で伝搬する可能性があること、伝搬時間を打算する際には、先端位置の定義、適切な粒子個数の設定といった課題があることが確認された。


水質事故対策技術に関する調査

研究期間:平10
担当者 :田中宏明、白崎 亮、岡安祐司

 水質事故では、流出初期の迅速な対応が被害の軽減という観点から効果的であるが、現状は事故発見、通報の遅れとともに油流出以外の事故では事故原因物質の特定に多大の時間を要している。このような問題点の改善のため、各地建技術事務所・開発土木研究所と共同で、河川管理者の早期の水質事故の発見、水質事故処理技術の開発などを検討し、水質事故発生時に迅速な対応が図れることを目的とする。
 この中で、土木研究所では油の流出予測手法と油分及び毒物の検出技術の検討を担当しており、10年度は、n-ヘキサン抽出法の揮散過程での油の減少割合の検討及び蛍光光度法による油の測定について検討を行った。その結果、n-ヘキサン抽出法では加熱過程でガソリンが比較的揮散する可能性があること、蛍光光度法は感度、安定性とも高いことが確認された。


利根川水系水質実態調査

研究期間:平8〜平12
担当者 :田中宏明、小森行也、白崎 亮、竹歳健治

 本調査は、利根川水系の水質、負荷量変化とその流域の土地利用、人口、産業活動の変化や水利用の高度化との関係について、現在までの状況を調査・解析し、データベース化するとともに、将来の水質動向に関する検討を行うものである。それにより、利根川水系における水循環や物質循環を明らかにし、下水道整備をはじめとした水質保全に関する施策の評価手法の確立に資することを目的としている。
 10年度は、前年度に引き続き、過年度の水質及び流域状況の実態把握を目的として、流域フレームのデータ収集及び整理を進めるとともに、利根川水系の水質実態調査を行い、窒素、リン、クロロフィル、全有機ハロゲン(TOX)及びその生成能(TOXFP)、トリハロメタン生成能(THMFP)、農薬等について水質の現況を把握した。


毒物センサーを用いた河川水質監視技術に関する調査

研究期間:平10
担当者 :田中宏明、白崎 亮、岡安祐司

 河川等において、毒性物質が流入した際の検出・対応方法としては、現在のところ、河川管理者の直接的な監視、もしくは他の数種の水質センサーによる異常値の検出からの類推に頼る以外方法がないのが現状である。それらの毒性物質を早期に発見することは非常に重要であり、そのために毒性物質を対象としたモニタリングを行うことが有効である。
 本調査では、その様な毒物の流入に対して、迅速に検知し対応することができる、硝化細菌を用いたバイオセンサーを利用した毒物モニターを実用化し、河川水質監視に適用することを目的とし、実施するものである。10年度は、毒物モニターを河川水質監視施設に設置し、適用性を検証するとともに、維持管理の項目、頻度について調査・整理した。