<下水道部>

汚泥研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


病原性微生物の下水処理過程での制御に関する研究

研究期間:平9〜平12
担当者 :尾崎正明、落 修一、北村友一

 クリプトスポリジウム原虫による集団下痢の発生が大きな社会問題となっている。こうした病原性微生物は、下水道施設に流入してくることが懸念されるが、下水処理過程での病原性微生物の挙動は十分に解明されていないため、その挙動の解明、制御と対策に関する研究を行う必要がある。
 10年度は、下水処理過程でクリプトスポリジウムオーシストを制御するために重要となるオーシストの比重、ゼータ電位、凝集沈殿特性、活性汚泥への吸着特性を室内実験から明らかにした。
 その結果、オーシストの比重は、1.05から1.06の範囲にあった。下水中のオーシストのゼータ電位は−20mVであった。オーシストを添加した流入下水のPACによる凝集実験から、SSの除去率が最も高くなるPAC注入率でオーシストの除去率も最大となり、このときのオーシストの除去率は98.4%であった。活性汚泥によるオーシストの除去率は、処理時間4時間で99.6%の除去率が得られた。


下水汚泥焼却灰及び溶融スラグの安全性に関する研究

研究期間:平10
担当者 :尾崎正明、久保忠雄

 循環形社会の形式や最終処分場の延命のために、資源の有効利用を図ることが社会的急務となっている。そうした状況において、建設副産物についてはアスファルトコンクリート発生材や建設発生土等のリサイクルが推進されてきている。また、下水汚泥については、その焼却灰や溶融スラグの種々の利用方法が開発され実用段階にきている。
 本研究では、下水汚泥焼却灰や溶融スラグの有効利用における原料としての安全性を確保するために、高流動コンクリート混和材への利用を想定した球形化灰の製造方法と金属類の溶出について調べた。また、原料や製造方法が異なる溶融スラグからの金属類の溶出を弱酸性と強酸性の条件により調べた。


下水汚泥処理過程における重金属等有害物質の制御に関する研究

研究期間:平10〜平12
担当者 :尾崎正明、久保忠雄

 本研究は、下水汚泥処理過程における重金属等有害物質の挙動を把握するとともに、汚泥中の重金属等の制御技術、リサイクル製品の安全性評価手法について検討し、下水汚泥のリサイクルを進めることを目的としたものである。
 10年度は、今後普及すると考えられるバグフィルターの有無に注目して焼却炉における物質収支を調査し、バグフィルターの有無により重金属等の移行率が異なり、バグフィルターを使用した場合、重金属等の種類によっては焼却灰中の含有量が大きくなる可能性があることを明らかにした。
 また、リサイクル技術として有望な球形灰の高流動コンクリートへの適用について検討し、原料である焼却灰にあらかじめCaを添加することで、球形灰を用いた場合に生じるAlなどの溶出を抑制することが可能であることを明らかにした。


汚泥性状の変化に対応した汚泥処理に関する調査

研究期間:平8〜平11
担当者 :尾崎正明、落 修一、北村友一

 生活様式の変化や下水高度処理の拡充は処理する汚泥の量と質に変化をもたらす可能性が高く、これらの変化に円滑、且つ効果的に対応して行ける技術的な方法や条件を明らかとしておく必要がある
。  10年度は、厨芥流入による嫌気性消化プロセスとコンポスト化への影響、高分子凝集剤の生分解性等について調べ、以下の結果を得た。1)厨芥の流入による嫌気性消化法への影響を消化温度:35、55℃,消化日数:10,15,20日の条件で調べた結果、厨芥の増加分はメタンガスの生産増に繋がるものであった。一方、2)コンポスト化においては分解・発行の遅延をもたらすものであった。3)基本構造が異なる12種類の高分子凝集剤の生分解性を調べた結果、下水汚泥に多く用いられている凝集剤は比較的生分解を受けやすいものであった。


有機質資材の融合化と利用に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :尾崎正明、原田一郎、落 修一

 本研究は、地方部における下水道整備の進展に伴い、地域特性に応じた下水汚泥の緑農地利用を推進するため、他の有機性廃棄物との融合化を検討し簡易なコンポスト化手法を開発するものである。
 10年度は、代表的な農業系廃棄物である茎葉類を副資材に用いた発酵実験及び牛糞との融合コンポスト化実験を行い操作因子を検討した。また、前年度に引き続き牛糞融合コンポストの施用試験を行った。その結果、茎葉類の混合は発酵初期の通気性確保に効果があり、野積み方式における茎葉類混合コンポストの適切な仕込み条件が示された。一方、牛糞融合コンポストに関しては、野積み方式で転送を行った場合脱水汚泥のみでも発酵が確認され、また、農作物に対する適正な施用量が推定できた。


中小都市における広域的な汚泥処理システムの開発に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :尾崎正明、久保忠雄、石崎隆弘

 中小都市の処理場から発生する汚泥は量的に少なく、個々の下水処理場毎に汚泥処理施設を設置することは建設費の増大から経済的でないだけでなく、エネルギー面からも非効率となる。したがって、各処理場から発生した汚泥を1箇所の処理場に集約し、処理・処分・利用することが重要であり、これらに対応した研究が不可欠である。
 10年度は、中小都市に適した汚泥の有効利用施設であるコンポスト施設に着目し、1)副資材の違いによる臭気物質の発生状況に関する調査、2)人の健康に影響を与える揮発性有機物の発生状況に関する調査を実施した。この結果、1)では副資材として、もみがら、バーク、コーヒーかすを用いて室内発酵実験を行い、硫黄化合物の抑制効果について調査を行った。副資材添加により、硫黄化合物の発生期間は短縮することが明らかとなり、バーク及びコーヒーかすは副資材無添加と比べて硫黄化合物の抑制効果もあることが分かった。2)では対象物質のうち、6物質が検出されたが、全てのサンプルで検出された物質はトルエンとホルムアルデヒド出会ったが、人の健康に影響を与える濃度ではなかった。


下水道システムのLCAに用いる原単位に関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :尾崎正明、久保忠雄、原田一郎、石崎隆弘

 これまでの下水道では、汚れた水を浄化して自然界に還元するあるいは再利用することを目的として様々な処理方式を開発してきた。今後はさらに、地球環境の保全という視点から見た場合の合理性を備えることが必要となっている。下水道が地球環境に与える影響度を評価するには、建設あるいは維持管理におけるCO2、N2O、CH4などの排出量原単位を明らかにしておかなくてはならない。本調査の目的は、これらの排出量原単位を合理的に明らかにすることである。
 10年度は、小規模処理方式の1つであるOD法について、現在稼働している処理場の土木建築施設、機械電気設備の処理プロセス構成を調査し、LCAのためのインベントリーを作成した。原単位としてはエネルギーとCO2を対象とした。10年度の調査により、同じOD法の処理場であれば、単位延べ床面積あたりのCO2原単位は同じような数値を示すことと、OD法の処理場では維持管理に係わるCO2排出量が1ライフサイクルの80%を占めることがわかった。