<下水道部>

三次処理研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


水系における病原性微生物の挙動に関する研究

研究期間:平10〜平13
担当者 :鈴木 穣、小越 眞佐司、諏訪 守、畑津 十四日

 上水道取水源上流域での下水道普及の進展や国民の水辺回復要求の高まり、水の循環・再生利用の必要性増大等の現状を受けて、水系の衛生学的基準のあり方について再検討する必要が高まってきている。しかし、放流先水系での病原性微生物の挙動についてはいまだ不明な部分が多い。本研究は、このような衛生学的基準についての判断資料となすべく、消毒方法や水系状況の相違に伴う下水処理水中の病原性微生物の水系での挙動について調査を行うものである。
 10年度は文献調査および水中における微生物挙動に関する基礎実験を行った。


下水処理水の安全性向上に関する研究

研究期間:平8〜平11
担当者 :鈴木 穣、畑津 十四日

 下水道の普及に伴い環境水中に占める下水処理水の割合は増加しており、また、都市域における水資源として下水処理水が再利用されるなど、下水処理水に求められる安全性のレベルは高まっている。しかし、消毒を強化した場合の塩素消毒によるトリハロメタン等の副生成物の問題や新しい塩素代替消毒技術の安全性などは十分に検討されていない。そこで本研究では、下水処理において現在導入されている、塩素、オゾンおよび紫外線消毒の安全性について消毒副生成物の観点から検討を加え、より安全性の高い消毒方法の検討を行うことを目的としている。
 10年度は、消毒副生成物の生成に及ぼす原水水質の影響および活性炭による副生成物除去実験を行った。


地球温暖化抑制のためのCH4, N2Oの対策技術の開発と評価に関する研究

研究期間:平10〜平11
担当者 :(新下水処理研究官)酒井憲司、(三次処理研究室)鈴木 穣、與儀和史、(汚泥研究室)落 修一、原田一郎

 下水処理場から排出されるメタンおよび亜酸化窒素を抑制する技術について、水処理プロセスと汚泥処理プロセスごとに検討を行った。
 水処理プロセスについては、標準活性汚泥法と嫌気好気法のパイロットプラント実験を行うことにより、嫌気好気法がCH4の排出抑制対策となることが明らかとなった。しかし、不十分な硝化が進行する場合にはN20の排出量が増加するため、運転条件について注意が必要である。
 汚泥処理プロセスについては、下水汚泥焼却炉からのN2O排出対策として有効性が明らかとなっている燃焼温度の引き上げに関し、ライフサイクルコスト分析(LCC)現価法を用いてコスト変化を推計した。その結果、トータルコストの増加率は、既設炉の場合10.0〜15.0%でそのうち補修費分が半分以上を占めたのに対し、新設炉では4.1〜7.3%となった。また、温室効果の削減量は、下水汚泥1DStあたりCO2換算で0.62〜1.54t、削減率は24〜45%となり、このとき必要なコストは新設炉が既設炉の半額以下となった。以上の結果から、温室効果ガスの排出削減に必要なコストを抑制するには当初設計時からの対策が効果的であることが示唆された。

病原性微生物の発生源および対策に関する調査

研究期間:平10〜平13
担当者 :鈴木 穣、小越 眞佐司、諏訪 守

 近年、我が国においても病原性原虫類のクリプトスポリジウム等による大規模な集団感染事例が発生し、新たな感染症として注目されている。本調査においては、このような病原性微生物等に関して発生源を明らかにするとともに、その対策さらには、集団感染症発生時における除去能力の向上を目的として負荷削減手法の検討を行うものである。
 10年度は、クリプトスポリジウムに関して測定方法、活性汚泥処理法による除去能力の把握および除去効率の向上に関する検討を行い、また、下水中からのウイルスの検出方法について検討した。


下水処理・資源回収のための最適システムの開発に関する調査

研究期間:平7〜平10
担当者 :鈴木 穣、重村浩之

 下水処理場は良好な処理水質を得ることを主目的としているが、エネルギーを使用して流入する物質を汚泥や排気ガス等に変換する、いわば物質の変換システムでもある。下水処理場の評価基準が消費エネルギー、排出ガス、資源の有効利用、水環境に与える影響等と多様化してきていることから、これらの評価基準のもとに下水処理システムを最適化し、環境に対する負荷を最小にする必要がある。本研究は多様な評価基準に対して適した下水処理システムを提示することを目的とする。
 10年度は、7〜9年度までに行われた現地調査による処理場の物質フローおよびエネルギー消費量のデータをまとめて、処理法による比較を行った。また、9年度に引き続き、可溶化された生汚泥の遠心分離濾液を無酸素槽に投入するシステムについて検討し、安定した窒素除去に貢献することを示した。最後に、本調査結果をもとに、多様な評価基準に対する適した下水処理システムを提示した。


下水処理水再利用システムの評価に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 :鈴木 穣、小越 眞佐司

 近年、下水処理水は都市の代替水資源として認識され、様々な用途に再利用されている。現在、下水処理水が再利用されている割合は全処理水量の1%程度であり、制度も確立されておらず、試行的な段階にあると云える。本調査は、下水道を介して広域的に行われるシステムを中心に、再利用システムの整備効果を総合的に評価する手法を検討することによって、適切な再利用の普及に資することを目的としている。
 10年度は調査の初年度に当たり、1) 既存再利用施設の建設・維持管理に関する費用調査を行い、目的、用途、規模等と費用との関係について整理した。2)幾つかの下水処理水再利用用途について実際の水質を調査し、再生処理法との関係を検討した。


窒素・りん除去法の省エネルギーに関する調査

研究期間:平10〜平13
担当者 :鈴木 穣、重村浩之

 本調査では、今後の増加が予定される窒素・りん除去法の消費エネルギー削減のため、単位プロセスごとあるいはシステムとしてのエネルギー効率の改善について検討し、効率改善に関する最適運転手法等を提案することを目的にしている。
 10年度は、嫌気槽における撹拌の省エネ化として、間欠曝気撹拌を検討した。その結果、間欠撹拌において連続撹拌よりも脱窒処理成績は劣ったが、りん除去成績はほとんど変わらず、良好な成績が得られた。また、好気条件下でのエネルギー効率改善のため、固定化担体を用いた装置の硝化反応について調べ、曝気風量が0.18立方メートル/分以上で全面曝気を行っているときにおいて、結合固定化担体添加率の増加と共に、総括酸素移動容量係数が増加することがわかった。


流域における原虫類実態調査

研究期間:平10〜平11
担当者 :鈴木 穣、諏訪 守

 埼玉県越生町で発生したクリプトスポリジウムによる大規模な感染症は、越生町の上水源である越辺川伏流水にクリプトスポリジウムのオーシストが混入し、浄水過程で除去しきれなかったオーシストを含む水道水が各家庭に給水されたことが原因であり、9千人近い感染者が発生した。一方、関東圏内の主要河川で行ったオーシストの実態調査では、検出濃度・割合とも低いが、ジアルジアのシスト、大腸菌群数、SS濃度の上昇時にオーシストの検出傾向が示された。このため、流域内に汚染源の存在が推定される河川等で、降雨時の汚濁負荷上昇時における原虫類の汚染状況の把握を目的として実態調査を行った。なお、本調査は関東地方建設局の委託を受け10年度から実施している。