<下水道部>

下水道研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


下水管の堆積物の特性に関する研究

研究期間:平9〜平11
担当者 :笹部 薫、檜物良一、豊田忠宏

 下水管きょ内の堆積物は、流下阻害や悪臭の発生、腐食性物質による管きょ損傷など、維持管理上の様々な問題を引き起こす。よって、より効率的な維持管理のため、堆積させない設計法および堆積物発見・除去手法等の確立が必要である。ここでは、堆積物の基本特性や原因を明かにし、管きょ設計法および堆積防止技術開発に供することを目的とする。
 10年度の調査では堆積物の特性把握として、リアクターを使用し、堆積物による水中への硫化水素の寄与を調査した。また、堆積物中の硫酸還元菌量の測定について、基礎的な検討を行った。リアクターを使った実験では、堆積物層の厚さよって、硫化物生成量に差が生じることを確認した。硫酸還元菌の培養については、数種の培養法について比較検討を行った。


熱帯・亜熱帯地域の下水道施設計画に関する研究

研究期間:平8〜平12
担当者 :笹部 薫、山下洋正(三次処理研究室)、鈴木 穣、小越 真佐司、與儀和史

 本研究は、熱帯・亜熱帯地域の開発途上国に適した下水道技術の確立を目的としており、10年度は以下の研究成果を得た。地域特性に応じた汚水収集方式、衛生施設配置方式の検討を行った。衛生施設の選択については、給水状況、土壌の透水性、地下水位等が選定基準として挙げられている場合が多かった。汚水収集方式については、標準的な下水道が最も広く用いられているが、低コスト下水道についても、既存衛生施設の転用が可能な場合など条件次第では適用の可能性があると考えられた。全体計画の策定においては、財政能力を考慮した段階的整備手法の採用等が重要であると考えられた。下水処理方式に関しては、通性ラグーンおよび曝気式ラグーンについて、処理の安定性、適正な負荷条件等について検討した。


都市雨水の資源利用を考慮した下水道整備に関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :笹部 薫、山下洋正、豊田忠広

 本研究は、都市雨水を有効に管理・利用していくための下水道整備手法の提示を目指しており、都市における新たな水資源の開発および都市の水循環適正化を目的としている。
 10年度は、文献調査および統計資料解析により、雨水の資源利用に適した都市形態の選定を行い、その都市域における都市雨水の水量水質のマスバランス現状を把握し、また収集系におけるユニットプロセスの変換量について検討した。


管渠システムのコスト縮減に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 :笹部 薫、檜物良一、吉田敏章

 下水道整備は今後とも一層の事業推進が求められているが、昨今の財政状況の下においては整備コストを一段と縮減することが求められている。下水道事業費のうち約7割を管きょ施設が占めており、管きょ施設のコスト縮減は急務である。管きょ施設のコスト縮減に当たっては、まずそのシステムの現況分析を行い、技術の発展に伴い見直すべき事項を抽出する。従来の設計基準の根拠について現時点での再検討が必要である。最終的には建設コストと維持管理コストの双方をふまえたライフサイクルコスト(LCC)により適正な管きょ施設のコスト縮減方策を定める。
 10年度には、管きょ施設に係る自治体のコスト縮減取り組み状況を調査し、それに伴う維持管理上の課題について検討した。さらに実績値より維持管理の各作業に係るコストを算出した。また新下水道システムの現況と問題点の調査を行ったが、システムとしての信頼性は高く新たな選択肢としての利用は可能であった。


下水道整備による環境改善効果に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 :笹部 薫、岡本 誠一郎、吉田敏章

 下水道整備による環境改善効果を評価することが、本研究の目的である。10年度の目的は、公共用水域における水質向上による価値を把握し、身近な水域における環境改善による便益を仮想評価法により計測し、さらにヘドニック価格法の適用性について検討することである。水環境の価値に関する整理では、下水道が主に寄与できる水質向上という観点からまとめた。仮想評価法による便益計測では、居住市町内の水域における水質向上に対する支払意思額として、水域の規模や水質向上の度合いにより差があるが、2,190〜3,290円/世帯/月という値が得られた。また、ヘドニック価格法による便益計測では、7,608円/m2の地価上昇が推定された。


汚水管の機能改善に関する調査

研究期間:平8〜平12
担当者 :笹部 薫、檜物良一、豊田忠宏

 下水道施設の機能障害の内、整備の主流となっている汚水管に関する主要な機能障害についての効果的な予測・診断・対策手法を確立することを目的とする。特にその実態及び発生メカニズムに関する研究が不十分な汚水管における硫化水素腐食と浸入水の問題に焦点を当て実態調査および実験を実施するものである。  10年度における硫化水素に関する調査では、中継ポンプ場及びその上流の自然流下管路における硫化水素の生成状況調査を行った。ポンプ場上流部において汚水が管内貯留された時とこの管内貯留汚水がポンプにより吐き出された時のいずれの場合にも、硫化物の発生が認められた。汚水管への浸入水に関する調査は流域下水道接続点の流量デ−タを基に検討を行った結果、雨水の一定割合が短時間の内に汚水管に浸入し、汚水量を急増させていることが判明した。