<道路部>

交通安全研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


道路及び交通流の安全性評価法に関する研究

研究期間:平8〜平10
担当者 :三橋勝彦、石倉丈士

 道路の安全性の評価については、一般に事故データが用いられているが、データの収集・整理に時間がかかり、迅速な評価が行い難いという短所がある。これらの問題点を補う手法として、車の動きや運転者の行動等の交通現象を観測することによって危険度を評価する錯綜手法がある。しかしこの手法は、危険な現象かどうかの判断を観測者の主観的な判断に委ねるため、定量的な指標を設定する必要がある。
 本研究では、錯綜手法の定量的な評価方法の確立を念頭に、既存文献、定点観測等により錯綜現象の分類を行うと共に、ブレーキやアクセルの踏み込み、走行速度の変動、車両にかかる加速度等のデータを自動的に収集する車両を活用して走行調査を行い、道路における危険度評価と潜在する危険度の抽出を行う手法の検討を行った。また、走行調査の結果から、運転挙動の変動が大きいところでは錯綜現象が生じやすく、交通事故が発生しやすいことを把握した。


移動・交通環境における共生特性に関する研究

研究期間:平9〜平11
担当者 :三橋勝彦、高宮 進

 高齢社会の到来に対し、高齢者の社会参加や活動の妨げとなる要因をなくし、様々な人々が同時に利用しやすい製品・生活環境を創造する(共生できる社会を実現する)ことが望まれている。道路においてもまた、高齢者を含めた不特定多数の人が安全で移動しやすい環境を実現していくことが必要である。本研究では、高齢者の心身特性等を把握し、歩行・自動車利用など様々な道路利用の場面で高齢者を含む様々な人々が利用しやすい道路空間の姿を導く。
 10年度は、高齢者に対するアンケートやグループミーティングにより、高齢者の移動が困難となる場面を調査・整理した。その結果、高齢者は体力の低下に基づく移動困難だけではなく、混雑した場面や相手の挙動が予測できない場面など、他の道路利用者との関係の面でも困難さを感じていることがわかった。


歩行者等支援システムに関する調査

研究期間:平8〜平12
担当者 :三橋勝彦、高宮 進

 歩行者ニーズの多様化や高齢化の進行等に対応した歩行者サービスのあり方として、単に物理的な歩行空間やネットワークを確保するばかりでなく、適切な情報提供により、分かりやすく使いやすい環境を整備することが必要となってきている。このため本課題では、高齢者・障害者を含む歩行者の移動を支援するものとして、歩行者への情報提供システムの研究開発を行う。
 システムの開発にあたっては、システムの構成、利用者、通信等の技術それぞれの観点から、検討を行うことが必要である。10年度は、視覚障害者への情報提供に関して、視覚障害者の特徴を考慮した音声案内システムの整備の考え方をまとめた。また歩行者への情報提供に関しては、民間で開発中のシステムを試用して、実用場面に向けてのさらなる課題・改善点を抽出した。


道路関係データベースの標準プラットフォームに関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :三橋勝彦、鹿野島 秀行

 交通事故分析は、科学的な交通安全対策の立案の基礎をなすものである。交通事故分析にはデータと分析手法が必要となるが、データの一つとして、交通事故統合データベースが整備されており、近年はデジタル道路地図(以下DRMと略記)の活用による高度化が図れられている。
 ところで、道路に関するデータベースは様々なものが整備されているが、その位置情報の表現方法はほとんど統一されていないのが現状である。
 本研究はDRMを道路に関するデータベースの位置表現方法の標準に据えることを目標に、データ整備の方法を調査するものである。10年度は各種道路関係データベースの位置表現方法を調査し、DRMとキロ程の対応データの整備が必要であることがわかった。


交通安全施策の立案に関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :三橋勝彦、鹿野島 秀行

 交通安全の長期的な構想を体系化し、次期交通安全五箇年計画に向けて、評価という観点を踏まえた、より科学的な交通事故削減策を打ち出すことが必要とされている。
 本調査はそのために必要となる基礎資料を得るものである。
 10年度は、事故多発地点緊急対策事業箇所における交通安全対策実施の事前事後の交通事故件数の変動を分析した。その結果、当事業全体の事故削減効果は約25%程度であることがわかった。


安全情報支援システムに関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :三橋勝彦、安藤和彦

 道路交通の安全性、円滑性を確保するために重要となる情報について、今後一般的に提供すべき情報内容の高度化を前提として、提供する情報の内容、質、量を把握するとともに、運転者が走行中に受容できる情報量を、定量的に把握するために既往研究の整理を行った。その結果、情報量の定量化が可能であること、情報量と運転者の理解度に相関があることを把握した。


道路事業の評価に関する調査(その1)

研究期間:平9〜平12
担当者 :三橋勝彦、池田裕二、鹿野島 秀行

 近年、道路事業の進め方の改革の一環として、客観的な評価に基づく事業採択が行われることとなっている。このため、道路整備による効果・影響の評価や、各種事業の効果を評価する手法を確立することが必要となっている。本調査は、交通事故発生件数を道路交通指標を用いてモデル化し、道路事業が交通事故削減に及ぼす効果を予測するための手法について研究を行うものである。
 10年度は、前年度に構築したモデルを用いて、人口50万人程度の都市圏にバイパスを設置した場合の交通事故削減効果の推計を行った。


事故地図データベースを活用した安全計画策定支援に関する試験調査

研究期間:平8〜平12
担当者 :三橋勝彦、鹿野島 秀行

 我が国の交通事故発生件数は相変わらず増加の一途を辿っており、交通事故分析に基づく効率的・効果的な交通安全対策の立案・実施が要請されている。その中で交通事故分析は複雑な交通事故発生要因を解明していく上で必要不可欠であり、最新の技術を用いた交通事故分析の高度化の一環として、当研究室ではGISの適用を検討してきている。
 10年度はGISを用いた事故多発地点の面的抽出手法の検討を行い、実際に抽出し、結果について考察した。その結果、抽出の際の適切なメッシュ規模についての知見を得た。


住区内等の面的交通安全対策に関する試験調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :三橋勝彦、高宮 進

 住宅地や商業地などの道路は、歩行者にとって安全で快適であることが必要である。このため、コミュニティ道路として整備したり、コミュニティ・ゾーンなどの面的交通安全対策を行うことが検討されている。一方、このような道路整備に対しては、住民との合意形成が大きな課題となっている。
 本課題では、住区内での交通安全対策について検討するとともに、住民参加のプロセス等についても検討する。10年度は、我が国で実施されているコミュニティ・ゾーン事業の住民参加形態について調査し、事業を実施している地区の3割でワークショップ方式の住民参加が行われていることがわかった。また神奈川県藤沢市でのワークショップに参加して、住民の自覚の醸成など住民参加(ワークショップ)の効果を把握した。


新道路照明の開発に関する試験調査

研究期間:平9〜平10
担当者 :三橋勝彦、石倉丈士

 本調査では、新たな技術として、紫外線を照射する事によって自ら発光する蛍光材に着目し、これを区画線に応用する事によって視認性を向上させることをを目的とした。
 10年度は、夜間の霧中時における蛍光材を含有した区画線(以下・新型区画線と略)の発光性能と視認性について実験を行った。その結果、霧中時・雨天時・夜間において従来型の区画線よりも視認性向上に寄与すること、及び霧中時にヘッドライトのみで新型区画線を視認する場合に必要とされる発光輝度を明らかにし、その時の最適な紫外線照射量と蛍光材含有量の提案を行った。


事故データに基づく安全施設等整備に関する調査

研究期間:平10
担当者 :三橋勝彦、安藤和彦、若月 健

 本調査は、統計データを用いて曲線部事故発生状況を把握するとともに、曲線部において速度を抑制するために多数設置されている段差舗装と二輪車の関係に着目し、段差の状況(幅、高さ)や二輪車の種類、走行速度などの諸条件を変化させて走行実験を行い、安全性を考慮した効果的な設置方法を検討するための基礎資料を得ることを目的として実施した。その結果、高さの高い段差舗装は二輪車への影響が大きく、また、段差舗装内での減速は二輪車の状態を不安定にすることがわかった。


交通弱者の安全対策等に関する調査

研究期間:平10
担当者 :三橋勝彦、高宮 進、石倉丈士

 歩行者の安全で快適な通行を実現するためには、歩道整備において従来から考慮されてきた通行性、安全性、快適性の確保に加え、今後は、高齢者・障害者を含めた大多数の人の利用を考慮し、歩道や歩行者専用道路、歩車共存道路などにより歩行空間を連続的に構成することが必要である。
 本課題では、高齢者や障害者の通行を考慮した望ましい歩行空間の姿を導く。10年度は、歩道の勾配や段差を小さくし、沿道出入口による歩道の波打ちを防止できる、歩道面の高さが低い歩道構造の適用性について検討した。実験の結果、自動車から受ける危険感等は歩道幅員を拡げることにより解消でき、また歩道面の高さを低くしても評価は変わらないという結果を得た。


異種新素材を用いた防護柵の構造等に関する調査

研究期間:平10
担当者 :三橋勝彦、安藤和彦

 車両防護柵は、一般に車両衝突時に変形する機能が求められ、変形性能に優れる金属材料がこれまで用いられてきた。しかし、近年資源の有効利用の観点から、木製材料、樹脂材料等についても利用の可能性について検討が求められるようになってきた。本調査は、これらの新しい材料のうち、木製材料の利用を中心に材料特性調査および、シミュレーションによる強度解析を行った。その結果、木製材料は現在最も多く用いられているC種レベルに適用できる可能性が高いことが判明した。


交通流の改善による安全対策手法に関する調査

研究期間:平10
担当者 :三橋勝彦、石倉丈士

 本研究は、平面交差点の交通安全対策を検討するにあたり、抜本的な対策の一つとして近年欧米で着目されているロータリー交差点について知見を得るとともに、我が国での適用性について検討するものである。
 10年度は、ロータリー交差点と十字型平面交差点の交通容量、標準設計による経済性の比較検討、ロータリー交差点通過時の速度抑制効果、既設ロータリー管理者に対するヒアリングから有効性について検討を行った。その結果、交通容量は十字型平面交差よりも低下するものの、標準設計による経済性の比較では、概算ではあるが事業費は同等レベルであった。速度抑制効果については、実験により速度抑制効果が確認でき、交通安全に寄与する可能性を見出し た。また、ヒアリングにより、十字型平面交差点等よりも安全性に優れていること、歩行者、自転車の横断処理に困難さがあることを把握した。