<河川部>

海岸研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


非均衡状態の海浜過程に関する研究

研究期間:平8〜平12
担当者 :佐藤愼司、山本幸次、福島雅紀

 一般に安定な遠浅海岸ではバーが発達している。しかしながら、近年砂浜海岸の侵食が著しく、その原因として沖合の海底面低下が関与していることが指摘されている。このような海岸では、波と均衡状態にあるバーが縮小、消滅している事例が見られる。バーは砕波の大規模な乱れによる浮遊砂によって形成されるものであり、その発達機構を検討するためには大規模実験が不可欠である。そこで、大規模実験によりバーが海浜安定化に与える影響を明らかにし、バーを安定化させる手法やそれに代わる構造物を開発し、新しい海浜安定化手法を提案する。
 10年度は、バーの固定位置の決定するために、一時化で生じる海浜変形を調べた。


海岸域における漂着油の挙動及び回収技術に関する研究

研究期間:平10〜平12
担当者 :佐藤愼司、加藤史訓、福島雅紀

 本研究の最終目標は、海岸に漂着した重油の効率的な回収技術を提案することである。
 10年度は、海浜変形を考慮した前浜への重油漂着機構に関して室内実験により検討を行った。その主要な結論は以下のとおりである。 1)バームが形成されると、バームの陸側斜面に重油が多く堆積した。 2)前浜に漂着した重油が波浪により再流出することにより、新たな漂着がなくても水中油分が検出され  た。よって、漂着した重油は速やかに回収されることが望ましい。


沿岸漂砂量調査

研究期間:昭46〜平10
担当者 :佐藤愼司、山本幸次、福島雅紀

 波による海浜地形変化機構については多くの研究が行われているが、砕波帯内での流体運動、漂砂、海浜過程などの現象については今なお不明な点が多い。このため、漂砂量の一般的な評価も困難な状況にある。これは砕波帯内における物理現象が非常に複雑で測定が困難なこと、長期的な海浜過程データの蓄積が少ないことによる。そこで、本研究では各地の海岸で長期的な海浜変形について調査を行うとともに、高波浪時の集中観測を行い、各海岸における漂砂特性を解明する。
 10年度は、阿字ヶ浦観測桟橋で長期間にわたって計測されてきた全データに基づいて、長期的な地形変化について整理した。


土砂供給システムに関する調査

研究期間:平9〜平10
担当者 :佐藤愼司、笠井雅広

 近年、海岸環境に対する意識の高まりなどから、コンクリートブロックに代わり、養浜、サンドバイパス等の土砂供給を基本とした海岸侵食対策に対するニーズが高まっている。そこで本調査は、安定した海浜を形成させるための養浜手法の検討、効率的かつ経済的なサンドバイパス手法の検討、最適な供給土砂量や現地海岸における土砂供給法について実例調査や模型実験を行い、特に沖合養浜の効果について検討を行うものである。
 9年度は平面水槽内での移動床模型実験により、沖合から採取した土砂を砕波点付近へ養浜した場合に生じる海浜変形や波浪制御効果について検討した。
 10年度は前年度に引き続いて移動床模型実験を行い、波浪パターンの違いに対する養浜効果の違いを明らかにした。


沿岸域の環境保全技術に関する調査

研究期間:平7〜平11
担当者 :佐藤愼司、加藤史訓

 本研究の最終目標は、沿岸域の水環境および海岸植生等の保全手法を提案することである。
 10年度は、沿岸域の生態系と海岸保全施設との関係を解析する上で必要となる、海岸域の底生生物の生息実態とその生息環境について解析を行った。その主要な結論は以下のとおりである。
 1)底質諸量間および底質諸量と水質諸量との関係が明らかになった。
 2)底生生物の個体数および種類数と底質のCODとの関係が明らかになった。
 3)中央粒径やCOD等の底質諸量により出現する底生生物の種類が変化することが、干潟から礫浜までの広い範囲で確かめられた。


高波浪時の沿岸水理に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :佐藤愼司、笠井雅広、福島雅紀

 海岸保全施設の設計は既往最大の津波、高潮や高波浪を計画外力としている。しかし、これらに匹敵しない海象条件でも、構造物の被災、越波、侵食等の災害が生じている場合がある。これらの要因として、砕波帯内で卓越する長周期変動などが考えられるが、このような現象は台風などの高波浪の来襲に伴って生じるため、観測体制を整備するのは困難であり、そのメカニズムは完全には解明されていない。そこで本研究は、高波浪下で生じる砕波帯内外の水理現象を解明し、高波浪時の災害予測とその対策のための沿岸水理モデルを確立することを最終目標としている。
 10年度は、茨城県波崎海岸に建設中のヘッドランド縦定周辺で現地調査を行い、大規模突堤近傍で観測された離岸流や長周期変動の発達機構を解明するとともに、これらが海浜地形に与える影響を明らかにした。


海岸事業の事業効果に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :佐藤愼司、笠井雅広、加藤史訓

 海岸事業の便益評価あたっては高潮、侵食災害に対する被害軽減便益を評価対象便益としてきたが、公正な便益評価により国民のニーズを事業に反映させていくためには、利用環境の整備や自然環境保全といった環境整備便益、精神的被害軽減便益等についても評価項目に加え総合的な便益評価を行うことが必要である。本研究では、利用便益等の評価を加えた総合的な海岸事業の便益評価手法を確立することを最終目標としている。
 10年度は国民が海岸に対して持っている価値意識を定量的に把握するため、沿岸と内陸の2都市において、海岸における、1)利用、2)自然環境、3)高潮・津波防災、4)侵食防災に対する価値意識についてCVM調査を行い、それぞれについての価値意識を定量化し、沿岸、内陸域での価値意識の違いを明らかにした。


海象情報に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :佐藤愼司、福島雅紀、加藤史訓

 海岸侵食対策を考える場合、有義波高、有義波周期、平均波向などの統計値を参考にすることが多い。本研究の最終目標は、これらの統計値に生データも含めた高度な海象情報を取得・管理する技術を開発することである。
 10年度は、9年度に作成した海象年表作成プログラムを用いて、平成9年に各海象観測所で取得された海象データを整理した。ここで用いたプログラムに関しては、その信頼性が9年度の不具合修正によりかなり向上したが、異常水理現象や誤データへの適応性の面で問題が残ることが確認された。また、異常水理現象等を解明するために生データの重要性が指摘され、生データの保存方法および情報公開に関して検討が行われた。


流域総合土砂管理のもとでの海岸保全計画に関する調査

研究期間:平10〜平13
担当者 :佐藤愼司、山本幸次、加藤史訓

 全国各地で問題となっている海岸侵食の一要因として、河川からの供給土砂量の減少が挙げられる。また、流砂系でみても砂防、ダム、河川の各々に土砂に関する問題が蓄積している。このことから、流砂系全体で一貫した土砂管理を行い、各々の問題を解決しようと模索されている。流砂系を考慮した海岸保全を行うにあたっては、河川から供給される土砂の質と量、土砂流出と河口部海岸の変形機構、海岸での土砂の移動機構などを明らかにする必要がある。そこで、本研究では既存・継続の海岸調査の資料を解析するとともに、河口部を中心とした現地海岸において波、流れ、漂砂の観測を行う。また、河口部の生態系についても調査を行い、河川からの流出土砂の環境への影響を評価する。
 10年度は、熊野川を土砂供給源とする七里御浜海岸を対象として観測とその結果の解析を行い、海浜変形の原因と砂礫層の分布特性を明らかにした。


海岸保全施設の平面形状、構造の改良・開発に関する調査

研究期間:平10〜平13
担当者 :佐藤愼司、加藤史訓、福島雅紀、山本幸次

 本研究の最終目標は、防災・利用・環境を総合的に考慮した海岸保全施設を提案することである。
 10年度は、津波による円柱構造物周囲の洗掘機構に関して大型室内実験により検討を行った。その主要な結論は以下のとおりである。
 1)洗掘の面積や体積は波高に比例し、その関係は汀線に対する円柱の位置により異なっていた。
 2)津波の遡上・流下過程において洗掘深は動的に変化した。津波遡上時の洗掘深は、瞬間的には最終  的な洗掘深の5倍となった。
 3)円柱近傍の地盤では、津波の遡上時に有効応力が顕著に低下する。