<河川部>

水文研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


国土情報を活用した水文循環解析手法に関する研究

研究期間:平10〜平13
担当者 :金木 誠、深見和彦、松浦 直

 河川計画・管理において、河川流出特性を把握し予測することは基本的な要件である。しかし、河川流域は改変を不断に受けるとともに、流量観測値のない中小河川等では単純ではあるが課題も多い合理式に依存する事例も少なくなく、健全な水循環系を確保しながら河川計画・管理を最適化していく際の障害となっている。本研究は、総合的な流域管理に資するため、情報化社会の進展とともに整備が進みつつある国土情報を有効に活用した「将来予測型」の水文循環解析手法を開発することを目的とする。
 10年度は、その手法の有力候補として土木研究所が開発を進めてきた2つの対照的な定数分布型流出モデルをとりあげ、実流域への適用を通してモデリング手法やパラメータ設定に関する問題点の抽出を行った。


水循環機構と降雨浸透能に関する基礎的研究

研究期間:平10
担当者 :金木 誠、深見和彦、鈴木俊朗、松浦 直

 流域の健全な水循環系の構築が大きな課題となっており、降雨−流出機構を解明し、緑地の保全・雨水貯留浸透施設の設置など各種対策の実施効果が評価できる水循環・流出モデルを構築することが求められている。
 本研究は、地形や地質、植生・土壌分布など広域にわたる自然・地理情報から降雨浸透能値を評価し、土地利用別の水文物理特性と流出特性との関係を考慮したモデルを構築することを目的とし、土研分布型モデルの表層部分をNoilhan-Plantonモデルに改良した。


マイクロ波センサを活用した積雪分布観測技術に関する研究

研究期間:平9〜平12
担当者 :金木 誠、深見和彦、松浦 直

 積雪物理量の空間分布を把握することによって、河川・ダム流域内の水資源賦存量評価や融雪出水予測の精度向上を図り、豪雪地帯における雪の有効利用と災害防止を図ることは重要な課題である。本研究は、全天候型のマイクロ波センサを活用して積雪物理量の空間分布を観測する手法を開発し、その精度と限界を明らかにすることを目的とする。
 10年度は、1)新潟県中越地方を研究対象域として地理情報データベースを概成させるとともに、2)カナダ国RADARSAT衛星搭載の合成開口レーダ(SAR)画像と同期した地上積雪観測及びマイクロ波応答特性の分析を中心に実施した。後者では、北陸地方における後方散乱係数と積雪水量との間の関係について、平地水田域での特性を明らかにした。


低水観測精度の向上方策に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :金木 誠、吉谷純一、鈴木俊朗、松浦達郎

 河川感潮部や堰の背水影響区間では、水面勾配の変動、流速分布の短期変動や流向の逆転等のため、従来型の回転式流速計を用いた流速測定や、通常のH−Q曲線式による水位観測値から流量への変換が困難である。一方で平成6年夏の全国的な渇水時に問題が顕在化したように、きめ細かな河川の水量・水質管理に対する社会的要請の高まりを受けて、特に河川下流部における低水観測の精度向上が今後の河川管理上重要な課題となっている。
 本調査は、電波流速計や超音波ドップラー流速分布計(ADCP)等による河川流速観測技術の進歩を背景として、流量観測精度の改善を図り、もって、計画及び管理技術の向上に寄与することを目的とする。
 10年度は、右図の「流量観測のための新たな手段の検討」に関し、近年開発された新しい観測機器について、より観測条件の厳しい洪水時における現場での適用性について調査を行った。  


分布型流出予測モデルの実用化に関する調査

研究期間:平7〜平10
担当者 :金木 誠、深見和彦、鈴木俊朗、松浦 直

 洪水予測や河川計画のための流出解析を行う場合、流域内の局所的な土地被覆変化や降雨の時空間分布特性等を考慮でき、かつ、物理的な流出機構を反映させた定数分布型流出モデルは一つの有力な手段として期待される。本調査は、3000km2程度以上の流域において洪水流出予測に適用可能な定数分布型流出モデルを開発すること、及びGIS処理技術やデータベースの充実を背景として、流出解析の作業効率の向上を図り、今後の流域管理実務に資することを目的とする。
 10年度は、富士川で構築した定数分布型流出モデルについて、最近の5洪水を対象として、現場で実際に洪水予測に用いられている定数集中型モデル(貯留関数法)と比較した。その結果、定数分布型流出モデルは従来モデルと同レベルの予測精度を確保できることが示されたが、同時にパラメータ同定等における問題点も明らかとなり、今後への課題を示すことができた。


流域管理のための水循環モデリングに関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :金木 誠、吉谷純一、松浦達郎

 本調査は水利用及び水質の各視点から、水資源開発や高度水利用といった各種施策が流域全体の水利用や物質の循環に与える影響・効果を表示するシミュレータを開発し、それを河川管理施策に反映させる手法を提案することを目的とする。
 10年度は、シミュレータの構造に着目し、利水安全度を正確に評価するための疑似流量発生方法、統計処理単位、水収支などの不確実性を処理する手法と残流域の扱い方の比較検討を行った。その結果、複数観測所での関係を用いて疑似流量を作成し、月単位で自然流量を作成し、水収支の不整合である調整量は用いないこととした。


降下火砕堆積物流域における地下水流動に関する調査

研究期間:平7〜平10
担当者 :金木 誠、鈴木俊朗

 火山活動によって生産される降下火砕堆積物に覆われている流域では、一般的に土壌の間隙率が高いことから他流域に比べて豊富な地下水を有する例が多い。しかし、近年このような流域で地下水湧水量が減少し、平常時の河川流量が減少する事例が見られるようになった。狩野川水系黄瀬川流域はこうした流域の代表例である。この原因としては、土地被覆変化による地下水涵養量の減少や地下水の過剰揚水等が考えられる。
 本調査では、このような流域における土地利用変化が地下水涵養量に及ぼす影響の予測手法を開発することを目的とし、黄瀬川上流部を事例として水文観測データ(雨量・流量・水質・水温)、および地質・土地被覆等の情報を用いて地下水流動機構を把握し、地下水涵養量を予測するための水文モデルを作成する。
 10年度は、9年度に構築した物理的分布型流出モデルを改良するとともに、地下水涵養施設を設置した場合を想定してシナリオ分析を行い、地下水涵養施設の効果を評価した。


流量計画手法に関する調査

研究期間:平7〜
担当者 :金木 誠、吉谷純一、鈴木俊朗

 本調査は、洪水防御計画の根幹となる基本高水の信頼性を把握し、高いものにするため、必要と考えられる諸検討を実施するものである。
 基本高水流量を計算する手法としては、降雨データを確率解析して求めた確率降雨を流出モデルに入力する手法や、流量データを直接確率解析して算出する手法が考えられる。こうした解析は、確率水文量の推定、降雨の時空間分布の推定、流出解析といった複数のプロセスから構成されている。従って、基本高水の信頼性(誤差)を把握するためには、個々のプロセスの信頼性(誤差)を把握するとともに、個々のプロセスの誤差が最終的に基本高水の信頼性にどの程度の影響を及ぼすかを、把握する必要がある。
 10年度は、観測値にoutlier(はずれ値)が含まれる場合に、推定された確率水文量にどのような影響が及ぶのかを調査した。調査手法としては、9年度に検討した確率水文量の信頼性評価手法を応用した。


流量観測技術の向上に関する調査

研究期間:平5〜
担当者 :金木 誠、吉谷純一、新行内 利隆、松浦達郎

 河川流量は、河川管理者が河川計画・管理を適切に行うための基礎情報であり、精度の高い河川流量を把握することは、河川管理者にとって重要な課題である。また一方で、観測作業の省力化に対する要請も大きくなってきている。
 本調査は、近年の河川流速観測技術の進歩を背景として、流量観測精度の改善及び省力化を図り、流量観測技術の向上に寄与することを目的としている。
 10年度は、流量観測精度向上を目的として、実河川における洪水時に水圧式水深流速計を用いた流量観測を行った。その結果、流速は数秒から10数秒で変動していること、観測された流速の鉛直分布は、一般的な対数分布則よりも水深による流速変化が大きい分布をしていること等が観測された。仮に、吃水2mの浮子で流量観測を行った場合、今回観測されたような流速分布を持つ流れでは、約8%の過大評価となる可能性があることが示された。


流速計の検定調査

研究期間:
担当者 :金木 誠、新行内 利隆、松浦達郎

 低水時の流量観測に際しては、一般に流速計による方法が用いられている。この場合、流速計の検定精度が流量の観測精度に直接影響を与えるため、定期的な検定によって、一定の精度を確保しておく必要がある。


流域管理シミュレータの適用に関する調査

研究期間:平10〜
担当者 :金木 誠 、吉谷純一、松浦達郎

 本調査は水利用及び水質の各視点から、水資源開発や高度水利用といった各種施策が流域全体の水利用や物質の循環に与える影響・効果を表示するシミュレータを、実際の流域に適用し、それを実際の河川管理施策に反映させることのできるようにシミュレータを改造し、意志決定の支援に役立てることを目的とする。モデル改造は、地球環境変化等の外的環境変化の影響組み込み、各種代替案の評価、代替案の総合評価を行った。


レーダ雨量計活用計画に関する調査

研究期間:平4〜
担当者 :金木 誠 、深見和彦、松浦 直

 本調査は、建設省レーダ雨量計データの現場における高度利活用方策の検討を目的としている。
 10年度は、平成9年9月より直交二偏波レーダとして実運用が開始された九州地建北部レーダ(釈迦岳レーダ)の定量観測範囲内において地上雨滴観測を実施し、釈迦岳レーダデータから求めた上空の雨滴粒径分布と比較・解析することにより、雨滴粒径分布の時空間分布特性に関する考察を行った。
 その結果、直交二偏波レーダを用いることにより、降雨の発達・減衰に伴い形状が変化する雨滴粒径分布の時空間分布特性を観測できることがわかり、今後の降雨予測への応用可能性が示された。