<河川部>

都市河川研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


都市河川流域における浸透施設による水環境の改善に関する基礎的研究

研究期間:平10〜平12
担当者 :末次忠司、河原能久、木内 豪、大谷 悟

 都市河川流域において、開発に伴う流出増による浸水被害を軽減するとともに、都市の健全な水循環を確保するために浸透施設を設置する事例が多くなっている。浸透施設の設置された流域では、地上に降った雨は、屋根、道路などを通って流下していくが、その過程で地表面に存する有機物、油脂、重金属等の汚濁物質や有害物質が混入し、浸透施設を通じて地中に浸透していく。
 本研究は、浸透施設を通って地中に浸透する汚濁物質や有害物質の地中での浄化過程を把握し、健全な水循環系の確保に寄与することを目的とする。
 初年度である10年度は、浸透施設に流入する雨水の水質を既往調査結果により調査し、本調査で対象とする物質をおおむね特定した。そして、特定された物質について、予想される地中での挙動についてとりまとめた。


社会基盤等を活用した省エネ及び都市の気候緩和に関する研究

研究期間:平10〜平14
担当者 :末次忠司、河原能久、木内 豪、小林裕明

 本研究では、都市域におけるヒ−トランド現象を軽減するための各種対策の効果や費用を評価する。舗装の熱を熱電半導体により電気に変換して活用するシステムの開発、都市河川等の水熱エネルギ−の利用による排熱や排ガスの削減効果の検討、都市気候を再現する数値モデルの開発を行い、都市気候を緩和するのに有効な対策を提案することを目標としている。
 10年度では、1996年時点での人工排熱量の算出、2010年時点での東京都23区に水熱エネルギ−利用の地域冷暖房システムを導入した場合の、省エネ、排熱・排ガス削減の効果の算定を目的とした。結果として、下水処理場、ポンプ場、河川の水熱エネルギ−を水熱源から1km以内の都市開発事業予定地区で利用する場合には、その地区で29%の省エネ、40%のCO2排出量削減が可能となること等が知られた。


都市河川等を活用した防災対策技術の開発

研究期間:平10〜平14
担当者 :末次忠司、河原能久、舘 健一郎

 地区内に存在する都市施設の一つである都市河川が防災上果たす役割を明らかにするとともに、効果的な対策に結びつけるための技術を開発する。都市河川が有する特性として、河川水、河川空間に着目 する。
 10年度は、都市河川等の水利用による防災対策技術の検討の一環として、河川等を消防水利として利用する際の問題点、消防水利利用に配慮した河川の整備手法を調査してまとめた。また、災害時緊急用水(生活用水)としての都市河川等の利用可能性を把握するため、都市内に存在する水利ポテンシャルを調査し、災害時の需要量に対する充足度の検討を行った。


浸水被害軽減のための各種施設の組合せに関する調査

研究期間:平10〜平13
担当者 :末次忠司、木内 豪、大谷 悟、岡部 勉

 都市域の雨水排水対策として、下水管路、都市下水路の他、雨水調整池、排水機場、地下貯留管、雨水貯留浸透施設等の整備が行われているが、これら施設を都市の実状に応じて組み合わせることにより、事業費の削減、浸水被害の軽減が期待される。一方、将来の整備水準について、都市へ与える影響、水循環保全効果及び住民の広い意味での受益者負担を踏まえて決定される必要がある。本調査は、各種施設の組合せによる浸水被害軽減効果を算出するとともに、都市活動への影響、住民の受益者負担を踏まえた都市雨水対策を提案するものである。
 10年度は施設整備の効果を計測するための準備として、都市雨水排水の地表面流出と下水管路網内を一体的に計算できるシミュレーションモデルの改良を行った。土木研究所で開発したPWRIモデルについて、流域データ入力方法の変更、地表面の流出、氾濫計算方法の変更(二次元不定流モデルの採用)、その他所要の改良を行った。また、浸透施設、貯留施設、逆流防止施設等の各種施設の計算モデル(サブルーチン)を作成し、PWRIモデルと一体化させた。


河川ネットワーク構築による都市機能向上に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :末次忠司、木内 豪、舘 健一郎、小林裕明

 わが国の多くの都市域には、河川、農業用排水路、都市下水路等が数多く存在する。それらを機能的にネットワーク化することで、治水、利水、親水、環境、防災など様々な面での機能向上が期待できる。
 本調査は、河川や水路のネットワーク化による機能向上を評価するとともに、これらの活用手法、さらにはこれらを有効に活かす都市整備の手法を検討するものである。
 10年度は、河川ネットワークの各種機能を活用した都市整備手法をとりまとめるため、河川ネットワーク整備事例、河川ネットワーク整備推進に係る問題点などを調査した。


都市河川の快適性向上に関する調査

研究期間:平9〜平12
担当者 :末次忠司、河原能久、舘 健一郎

 本研究の目標は、都市河川の水質改善や親水整備等の諸施策が、都市河川における快適性向上にいかに寄与するかを評価する手法を開発することにある。そのために、都市河川の快・不快要素の特定や評価構造の分析、都市河川の水量、水質の予測モデルの開発、河川空間の快適性評価モデルの開発を行い、それらを統合して都市河川の整備事業による快適性向上の効果を評価するシステムを構築する。
 10年度は、中小都市河川として千葉県海老川を対象として、水量の予測モデルを作成するとともに、流域の基礎データの収集、整備を行った。作成した分布型物理モデルを流域に適用し、2年間の海老川の日流量を良好に再現することを確認した。


河川事業の経済的評価手法の改良に関する調査

研究期間:平10〜平12
担当者 :末次忠司、大谷 悟、岡部 勉

 河川事業の整備水準は諸外国に比べて十分とは言えず、 今後、積極的に整備を行っていく必要があるとともに、整備にあたっては広く国民の合意形成を図っていかねばならない。そのためには、河川事業の経済効果を客観的に評価する手法を確立することが必要である。これまでに開発された調査手法では、治水、環境ともに改良の余地が残されている。そこで、本調査は、既存の経済評価手法の課題を踏まえた上で、わかりやすい河川事業の経済評価手法の改良を行うことを目的とする。
 10年度は、産業連関表を用いた河川事業のフロー効果の計測を行うとともに、停電の一般家庭への影響について調査を行った。河川事業のフロー効果は、相対的に地域経済における公共投資の比率が高い地域ほど乗数効果が高くなる傾向があることが確認された。また、一般家庭における停電の影響は、テレビが見れない、照明がつかない、料理ができない等日常生活にかなり影響することが確認された。


経済評価を考慮した効率的な河川事業に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :末次忠司、大谷 悟、岡部 勉

 我が国の社会資本整備の水準は、先進諸国と比較して必ずしも高いものとは言えず、今後も着実に整備を推進しなければならない。そのためには、事業の効率化、重点化、透明性の確保を一層進め、国民の理解と協力を得ることが不可欠となっている。本調査は、その一つの施策として、治水、環境を含めた河川事業の経済的評価手法を確立し、その評価を大きな判断要素として効率的な河川事業の実施方法を確立することを目的とする。
 10年度は、河川環境整備の評価手法として、CVM(仮想状況評価法)をとりあげ、その適用性について、現地でのアンケート調査をもとに考察を行った。その結果、一対比較法の場合、提示金額の段階数による差はなかったが、郵送アンケート調査と電話アンケート調査の結果が大きく開いており、母集団の属性が異なることが原因している可能性があることがわかった。


首都圏外郭放水路に関する水理模型実験

研究期間:平4〜
担当者 :末次忠司、木内 豪、小林裕明、岡部 勉

 首都圏外郭放水路において、流入立坑の形状を決定するには水理学的に慎重に検討する必要がある。今回、実験により検討する第3立坑は、倉松川・中川からの洪水が流入するため、従来各河川毎にドロップシャフトを建設する予定だった。しかし、コスト縮減の観点から1本のドロップシャフトとする方がコストの面で優れている為に再検討されている。この検討にあたって、水理学的に、1)立坑内部における流況 、2)圧力流れ時における損失水頭、3)減勢池底面に作用する衝撃圧を実験により明らかにする必要がある。
 10年度は、3種類(模型形状1、2、3)の第3立坑形状案について水理模型実験を行い、比較・検討を行った。
 第3立坑の形状としては、実験より損失水頭が小さい模型形状2が優れていることが確認された。


鶴見川地下放水路に関する調査

研究期間:平7〜平10
担当者 :末次忠司、木内 豪、舘 健一郎、小林裕明

 本調査は、鶴見川地下放水路の計画・設計に伴う課題のうち、主に水理模型実験により現象が把握される項目を取り上げ、その解決を図り、最適な地下河川の施設設計を図ることを目的とする。
 10年度は、流入施設における導水路のスロープ勾配、漸縮水路の鉛直角・水平角、漸縮水路下流端の開口幅が流況、損失水頭、減勢池底面での衝撃圧等へ及ぼす影響の把握を試みた。実験の結果、検討対象とした6つの形状のなかで、損失水頭及び連行空気量の点で最も優れている施設形状を選択した。


地下河川構造基準に関する調査

研究期間:平10〜平11
担当者 :末次忠司、木内 豪、小林裕明、岡部 勉

 本研究は、経済性を考慮したトンネル河川の設計基準策定のための基礎データを得るために、縮尺1/30の標準馬蹄形トンネル河川模型を用いた水理実験を行うものである。
 10年度は、断面割増率、流量、勾配をそれぞれ変化させて、流木の滞留状況や断面閉塞時の流下能力の変化を確認した。実験の結果、現在の基準で設定されている割増率を縮小できる可能性が確認され、また、割増率が等しい場合でも、設計流量や勾配等により流下物の閉塞状況が違うことが判明した。


水防災データベースの開発

研究期間:平6〜
担当者 :末次忠司、舘 健一郎、小林裕明、岡部 勉

 近年、氾濫発生時の危機管理策としての、総合的な氾濫原管理の重要性が認識されてきており、様々な氾濫原管理手法の効率的適用手法の確立が望まれている。本調査では、様々な氾濫原管理手法を対象に、その効果や適用における制約等を検討し、総合的な氾濫原管理手法の確立を目指す。
 10年度は、全国の水防管理団体の現状に関する調査を実施するとともに、8月に発生した災害を対象に、住民の避難行動の実態、水防活動、情報収集・伝達を中心とした危機管理活動、氾濫原の樹林帯の氾濫流制御効果等に関する調査を実施した。住民の避難行動実態調査については、避難者の時系列行動や避難路の選択、浸水深別の避難速度について検討を行った。