<砂防部>

急傾斜地崩壊研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


崩土の衝撃力発生機構に関する研究

研究期間:平6〜平10
担当者 :門間敬一、海老原 和重

 急傾斜地や沿道斜面等での斜面対策において危険範囲の予測や対策工事を合理的に行うためには、斜面崩壊の発生機構を明らかにするだけでなく崩壊土砂の流動機構及び施設に衝突する際の衝撃力の発生機構についても検討する必要がある。
 9年度までは既往の実験結果を詳細にわたり吟味することによって崩土の流動の支配パラメータ実験自体の精度、算定した流速(モデル)と実験で観測された流速との比較をした。その結果、実測流速と算定流速との間にばらつきが生じることがわかり、モデルに結びつけるにはこのばらつきについて考察を進める必要が生じた。
 10年度にはモデルの式中の係数に注目し、係数設定のための室内実験および解析、衝撃力の計測誤差(衝撃力の変動(揺らぎ))の検討を行い、係数の算定式を構築するともに、衝撃力のばらつきについて考察を行なった。


地震による斜面崩壊発生機構に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :門間敬一、小嶋伸一、海老原 和重

 兵庫県南部地震や平成9年の鹿児島県北西部地震等、近年多くの地震が発生し、それにより引き起こされるがけ崩れにより多数の死傷者や家屋被害が生じている。このような斜面災害に対し効率的な斜面崩壊対策を行うには、地震による斜面崩壊の機構を解明し、地震や地震後降雨に対する斜面危険度評価手法等を確立していく必要がある。
 10年度は、地震後の現地調査箇所選定のために50mメッシュ数値地図を用いた斜面の崩壊発生危険地形の特徴を検討した。その結果、50mメッシュでは精度が粗くなるが、斜面傾斜や縦断形状が崩壊に与える影響が大きいことがわかった。また、降雨時の斜面の安定解析のための基礎的な研究として不飽和状態での土質試験を行った。


自然を生かした斜面安定化工法等に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :門間敬一、金子正則

 急傾斜地崩壊防止工事を施工する際に、残された既存の樹木が高木であれば、強風の作用等によって人家の方向に倒れた場合に、人家等に損壊を与える可能性がある。したがって斜面上の高木を残す場合には、がけ崩れによる被災を防止するための施設の設置に加え、高木が倒れたときの被災防止や高木が倒れないようにする工夫なども併せて講ずる必要があると考えられるが、現段階では後者について特段考慮していないのが実状である。
 10年度は、具体的な対策手法を検討するにあたり、急傾斜地崩壊危険箇所において斜面上に存在する高木の倒木発生と高木の倒木による人家等の被災に関する実態調査を実施した。


急傾斜地の岩盤崩壊危険度に関する調査

研究期間:平9〜平10
担当者 :門間敬一、小嶋伸一

 急傾斜地に対する危険度評価手法は、これまでは主に表土の滑落といった現象を中心に検討されてきたが、急傾斜地崩壊危険箇所内の一部では岩盤が露出している斜面が認められ、岩盤斜面崩壊に対しても危険度評価手法を確立する必要がある。しかしながら、岩盤斜面崩壊の素因、誘因は十分に明らかになっておらず、危険箇所点検の手法も岩盤斜面に対して十分ではない。
 このことから、10年度は、急傾斜地崩壊危険箇所点検表と8年度道路防災総点検表−岩石崩壊により、危険箇所における岩盤斜面の現地調査し、危険箇所点検において必要な点検項目の検討を行った。その結果、開口亀裂等の要因の追加が必要なこと、高さや傾斜等の要因は細分が必要なこと、サンプル数は少ないが急傾斜地の危険度評価における重要な要因が明らかとなった。


斜面崩壊対策に関する新工法調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :門間敬一、金子正則

 鉄筋挿入工法の頭部プレートは、地山の拘束効果を高め、砂地盤では効果的な大きさが存在することは既往の研究で確認されているが、プレートの寸法・形状を決定する手法は存在しないのが現状である。よって、異なる地盤状況ごとに寸法・形状の異なるプレートの効果の判定を行う必要がある。そこで、砂地盤と粘性土地盤からなる試験土層において、鉄筋頭部に取り付けた寸法・形状の異なるプレートに上方から載荷荷重を与えたときの沈下量の測定を行った。
 10年度は、前年度の正方形プレートを用いた試験に引き続き、正三角形プレートを用いた試験を実施した。


雪崩の警戒避難システムに関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :門間敬一、金子正則

 10年度は雪崩の発生条件について分析し、発生危険度評価及び予測式を構築し検証するほか、樹木の効果評価モデルを検討した。
 1)主成分分析:ドカ雪型表層雪崩では、発生前6日間の平均風速、雪庇有り、発生区上端標高、発生当日積雪深、発生前2日間累計降雪量が顕著に寄与する。弱層形成型表層雪崩は、明瞭な傾向がなかった。
 2)数量化U類:ドカ雪型表層雪崩における要因は、1)と同様で数量化の結果、判別効率は95.9%に達した。
 3)要因分析の結果に基づき、北陸方式の雪崩発生予測モデルを発展させ、精度が高くかつ汎用性の大きい新たなモデルを構築した。内部検証の結果、以下に示す計算方法による、全的中率は95%、空振り率は48%で、外部検証の結果、的中率は67(4/6)%であった。
 4)斜面上の植生の樹種、密度並びに樹木の機械強度をもとに樹木が持つ、流動中の雪崩の防護、減勢効果を評価したところ、雪崩衝撃力が1〜2tf/m2程度の場合、衝撃力は樹木によって約38%程度低減しうる。また今回収集した事例とその周辺では、樹冠密度55%以上の樹林がある地区での表層雪崩の事例がなかった。


落石防災対策の合理化に関する試験調査(その1)

研究期間:平7〜平10
担当者 :門間敬一、小嶋伸一

 道路の落石・岩盤斜面対策は、道路防災上の重要な課題の一つである。本課題は、落石発生源としての岩盤斜面の崩壊に至る動態観測手法を確立することを目標とし、7年度より新潟県内の試験斜面において動態観測を実施した。
 10年度は、岩盤斜面の異常な変動を見分けるために、周期挙動の補正手法の検討及び岩盤斜面の挙動機構を把握する一手法として1/10スケールで亀裂の詳細調査を行った。
 計測データの周期変動の補正手法として重回帰分析を行ったが、本斜面では計測機器の精度もあり、通常の回帰分析でも十分であった。また、割れ目系の詳細調査により、冷却節理等(初生構造と考えられる)の連続性の良い割れ目とは別に、過去の岩盤崩壊に起因して形成されたと推定される亀裂系が認められた。


斜面崩壊危険度評価に関する調査

研究期間:平10〜平14
担当者 :門間敬一、海老原 和重

 がけ崩れ災害実態調査は、がけ崩れ対策を効率的に進める上で極めて重要な情報提供となるため、昭和44年より数カ年周期で行われている。
 今回の調査では昭和47年〜平成9年までに発生したがけ崩れ災害デ−タ10,686件を使ってがけ崩れ災害のマクロ的特性の整理を行った。
 その結果、水成堆積岩類の崩壊が比較的多く占め、表土崩壊が5割を占めていることがわかった。また、8年度調査と比較をすると崩壊高、崩壊幅、斜面長が小さくなっていることがわかった。


崩壊発生予測システムに関する調査

研究期間:平7〜平11
担当者 :門間敬一、海老原 和重

 現在、斜面崩壊や地すべりの崩壊発生予測には伸縮計等で地表面変位を観測し、そのデータを解析する方法が行われている。一方、従来手法では困難であった斜面の微少変動段階からの動態観測にAE計測・解析システムを用いようという研究も行われている。本調査では、これら複数の方法を組み合わせた総合的な斜面崩壊発生予測システムについて検討を行い、従来より高度かつ正確な斜面崩壊発生予測手法を開発することを目的としている。
 そこで10年度は、現地斜面においてAEによる斜面動態計測実験を行い、崩壊に起因するAEと降雨に起因するAEのパラメータの特徴を検討した。


岩盤斜面の動態観測に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :門間敬一、小嶋伸一

 岩盤斜面は、落石や崩壊により災害を引き起こすことが知られている。本研究は、岩盤斜面の動態観測手法を確立することを目標としている。
 10年度は、7年度より開始した動態観測を継続して行った。これらの観測結果を使って岩盤斜面の動態把握のための計器計測の適用性を検討した。
 その結果、観測データには1日周期の変動が認められ、計器自体の温度特性が大きいと推測された。岩盤の挙動の特徴は、経時変化図の他に、温度補正・温度相関図を補助的に用いることにより捉えやすいことがわかった。


AEを利用した大規模崩壊予測システムに関する調査

研究期間:平6〜平10
担当者 :門間敬一、海老原 和重

 現在、斜面崩壊や地すべりの崩壊発生予測には伸縮計等で地表面変位を観測し、そのデータを解析する方法が主流となっているが、十分精度が高いとはいい難い。そこで、より精度の高い崩壊発生予測システムを開発すべく、AEを用いた斜面崩壊発生予測システムについて検討を行っている。
 斜面の崩壊の多くは降雨が誘因となっているが、AEを用いた斜面崩壊発生予測システムでは降雨による多量のAEを検出しており、降雨に起因するAEと斜面変動に起因するAEをいかに分離するかが問題となっている。そこで10年度は、降雨に起因するAEを推定することを試み、その推定方法を見いだした。


地震後降雨による斜面崩壊発生危険度評価に関する調査

研究期間:平10
担当者 :門間敬一、小嶋伸一

 兵庫県南部地震では、地震後の降雨による新規崩壊の発生や崩壊地の拡大による2次災害の危険性が注目され、緊急調査等が実施されている。しかしながら、地震後の降雨による斜面崩壊の発生・拡大や規模の評価手法は定まっておらず、専門家の判断にゆだねられている。
 そこで本課題では、1)斜面崩壊に対する地震の影響範囲や危険箇所抽出手法、2)崩壊発生の危険度評価手法を提案するために、1)既往資料による地震に崩壊発生範囲の検討及び数値地図を用いた地震及び地震後の崩壊発生箇所の地形的特徴の検討、2)危険度評価手法の整理を行った。


岩盤モニタリングシステムに関する調査

研究期間:平8〜平14
担当者 :門間敬一、小嶋伸一、小林 豊

 10年度は、全国13箇所において、岩盤斜面の計測等を行った。主な計測機器は、地表面伸縮計・地盤傾斜計・表面亀裂変位計・地中亀裂変位計・地中傾斜計・AEセンサ・温度計(岩盤内を含む)・雨量計であり、場所によって間隙水圧計・土圧計・落石検知センサ・風向風力計・地震計が設置されている。また、場所により定点光波測量・定点デジタルカメラ撮影・ITVによる観測も行った。
 観測箇所の多くは、通常の日変動が計測されていると考えられるが、近畿地方建設局「天鳥橋西」の岩盤斜面では、対象岩盤のうち傾動を続けていたA2・A1ブロックが平成11年2月27日に、A3ブロックが3月15日に相次いで転倒崩壊し、関係する計器の貴重なデータ及び画像等が得られた。