<環境部>

地質研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


岩石の化学的風化に関する研究

研究期間:平8〜平10
担当者 :脇坂安彦、品川俊介

 本研究は酸性降下物の種類と岩石・鉱物の化学的風化作用に伴う諸性質の変化を明らかにすることにより、酸性雨による岩石劣化現象を解明することが目的である。
 10年度は様々な粒径の輝石粉末と硫酸溶液との反応実験について、鉱物粒子の比表面積測定および顕微鏡観察の結果をあわせて考察を行った。その結果鉱物の割れ方、孔隙やクラックの分布が比表面積に影響していると推測され、粒径と比表面積との関係は単純でないことがわかった。また粒径が異なると単位表面積あたりの溶出量が変化し、粒径によって支配的な反応が異なることが予想された。以上より鉱物と溶液との間の反応実験を行う場合、粒径の違いが実験結果に影響することがわかった。


土木構造物の防災的見地からの第四紀断層に関する研究

研究期間:平8〜平11
担当者 :脇坂安彦、梶川昌三、品川俊介

 本研究は第四紀断層の変位に伴う災害防止を目標にしている。8年度に考案した山岳域における客観的な線状模様抽出法の正断層地域における妥当性を検討する目的で、鴨川地溝帯南西部において本方法の適用を試みた。その結果、おおむね良好な線状模様抽出が行えることがわかった。また伏在断層の活動による地表面変位の出現位置・大きさを知る目的で、阪神地区における沖・洪積層地盤物性値の3次元モデル化を行い、2次元有限要素法による伏在断層の垂直変位に伴う地表面変位分布のシミュレーション計算を行った。その結果、沖・洪積層厚が2,000mに及んでも、地表面に大きな変位が現れることがわ かった。


地球環境データベースによる土木構造物の立地安定度評価に関する研究

研究期間:平10
担当者 :脇坂安彦、佐々木 靖人

 不良な地盤の周辺で安全な土木構造物を合理的に築造し管理するために、予測地域の地盤情報だけでなく、予測地域以外の地盤情報(間接的な地盤データベース)を活用することが望まれる。そこでダムの地質調査データを用いて、様々な地形情報と地質情報のセットからなる地盤情報データベースを構築した。次にこれらの情報の中で地形情報を説明変数、地盤の深さ方向のせん強度を目的変数とする予測式を算出した。最後に、予測したい地域の様々な地形情報を判読して、その地形情報を変数として予測を行った。この結果、山岳地の風化に依存する岩盤強度分布を大まかに予測でき、概略的な立地安定度評価が可能であることがわかった。


トンネル坑口部の設計に関する試験調査(その1)

研究期間:平9〜平13
担当者 :脇坂安彦、佐々木 靖 人、大谷知生

 トンネル坑口部には岩盤斜面が多く見られ、岩盤崩壊に見舞われる危険性がある。岩盤崩壊は斜面内部に存在する亀裂、偏応力が原因となるが、従来からの目視観察ではこれらの状況を的確に捉えることは困難であるという問題点があった。そこで本試験調査では、岩盤内部の亀裂の分布状況や連続性を調査する試験方法の開発を目標にした。
 10年度は空気の拡散性を利用して亀裂の分布や連続性を調査するエアートレーサー試験を考案し、現地適用実験を行った。その結果、トレーサーを混入した空気が岩盤斜面内部の亀裂を通じて移動することが確認でき、亀裂の連続性の推定に活用できることがわかった。


地山評価と支保設計に関する試験調査(その2)

研究期間:平7〜平13
担当者 :脇坂 安彦、佐々木 靖人、大谷知生

 本研究の目的は、トンネルの掘削時における地山評価をより合理的に行う手法を開発し、トンネルの支保設計の合理化や経済性の向上を図るものである。
 10年度は、切羽観察を合理的に行う方法として、主に可視領域(一部赤外領域)の分光計を用いた切羽面の岩質判定手法を開発し、室内試験、および変質した花崗岩からなる現地での適用試験を行った。その結果、スペクトル特性を用いて花崗岩の変質の程度やこれに起因する岩盤の強度を面的に推定できることがわかった。


岩盤中の弱層の生成環境に関する調査試験

研究期間:平6〜平10
担当者 :脇坂安彦

 岩盤中の粘土から構成されるいろいろな弱層は、ダム堤体敷きにおける位置や性状によっては、ダム軸やダムタイプの変更や施工時の各種処理が必要になってくる。従って出来るだけ調査の初期の段階で弱層に関する詳細性状が把握されていることが望ましい。そこで本調査試験では、弱層を構成する粘土(弱層粘土)の鉱物学的、化学的分析から弱層の成因を判定する手法を確立することを目的として各種検討を行った。
 10年度は弱層粘土の色彩を取り上げ検討した結果、色彩が弱層粘土の化学組成を反映しており、成因判定の有効な指標となることが分かった。


ダム地質図作成技術の高精度化に関する調査

研究期間:平7〜平11
担当者 :脇坂 安彦、佐々木 靖人

 本研究はダム基礎岩盤としての適否を支配する不均質で微細な地質を面的に把握し、ダム地質図上に高精度に表示する方法の検討を目的とする。
 10年度は不均質な透水性を示す砂礫層及び溶岩からなるダム基礎において、透水性の分布を面的に調査する方法として音響トモグラフィの適用性を検討した。音響トモグラフィによって岩盤の透水性を面的に算出し、ルジオン値などの実測値と比較したところ、透水性の細部については算出値と実測値で違いがみられるが、溶岩と砂礫層の透水性の違いなどは概略整合した。


雲母族鉱物がコンクリートに与える鉱物化学的影響に関する試験調査

研究期間:平7〜平11
担当者 :脇坂安彦

 有害鉱物と従来からいわれているもののうち黒雲母については、それを含んだ岩石を骨材として使用した場合のモルタル・コンクリートの性質が網羅的に調べられているわけではない。そこで、黒雲母を骨材とした場合のモルタルの品質低下現象の把握、低下現象のメカニズムの解明、黒雲母含有骨材の有効利用法の開発を目的に研究を行っている。
 10年度は黒雲母を含んだ骨材と中庸熱フライアッシュセメントとで作製したモルタルの凍結融解抵抗性が低下する(9年度の結果)原因の究明を行った。その結果、凍結融解抵抗性が低下するのは、雲母の混入により引張り強度が低下するためであることが分かった。


環境アセスメント技術に関する検討(マニュアル検討)〜地形地質〜

研究期間:平10
担当者 :脇坂安彦、佐々木 靖人

 環境影響評価法が平成11年6月より施行されるに伴い、早急に環境影響評価の具体的な手順(マニュアル)を整備する必要がある。そこで本研究では、道路の環境影響評価のうち「重要な地形及び地質」という環境要素を対象に、その選定法、調査範囲の設定法、合理的な調査・予測・評価方法などに関する調査を行った。その結果、「重要な地形及び地質」に関する影響として、@直接的な地形改変、A周辺地下水の変化、B周辺の劣化や不安定化、を想定して評価する手法を開発し、一連の流れをマニュアル案としてとりまとめた。


志津見ダムの本体コンクリート用骨材の適用性に関する調査

研究期間:平9〜平10
担当者 :脇坂安彦

  志津見ダムで堤体コンクリート用骨材に使用する予定である岩石のなかには、コンクリートに対して有害であるといわれている黄鉄鉱が含まれている。しかしながら、黄鉄鉱の有害性の詳細は現状では不明である。そこで、志津見ダムで使用予定の岩石等を対象として、黄鉄鉱によるコンクリートの品質低下現象の把握、品質低下現象の機構解明、有効利用法の検討を行っている。
 10年度は9年度に引き続き曝露試験、乾燥湿潤試験、酸性溶液試験を行うとともに、新たにオートクレーブを用いた耐酸試験を実施した。その結果、特定の粗骨材と細骨材の組み合わせで耐久性が劣るものがあること、黄鉄鉱の影響には粒径依存があることが分かった。