<環境部>

環境計画研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


地域特性を活かした地域計画及び施設設計の手法に関する研究

研究期間:平9〜平12
担当者 :寺川 陽、並河良治、長野幸司、舟橋弥生

 魅力ある地域づくりをすすめる上で、地域の個性をどのように活かしていくかが重要な課題となっている。今後、地域らしさを踏まえた質の高い社会資本整備を図っていくためには、それぞれの地域の特性を抽出評価し、それを総合的に社会資本整備に活かしていくための手法を確立する必要がある。
 10年度は、9年度に整理した地域特性を活かした地域計画の考え方及び地域構成要素票を前提として、地域特性を活かした地域計画の方向性の検討を行った。また、地域構成要素抽出票については、整備の方向性の検討をもとに必要な修正を行った。


住民の整備イメージの抽出手法及び経済指標を用いた住民評価手法の検討

研究期間:平9〜平12
担当者 :寺川 陽、並河良治、舟橋弥生

 地域の特性をふまえた効果的な環境整備を進めるためには、まず人と自然の共生に関して、住民はどのような生態系に配慮した社会資本整備の状態を望んでいるのか、また、それは地域によってどう異なるのか等、生態系保全について住民が抱くイメージを把握する必要がある。本研究は、各地の住民の持つ生態系に配慮した社会資本整備イメージをアンケート調査を用いて抽出する方法について検討するとともに、経済指標を用いて価値評価を行うことを目的としている。
 10年度は、公園及び水辺空間について各地域の住民が望む整備イメージの地域差、及び、自然生物に関する情報提示の有無による認識差の把握のための調査を行った。その結果、公園に求められる機能では自然についての重要度が高く、機能についてある程度の地域差が存在すること、望まれる自然は一定レベルまでであること、公園、水辺については家の近くよりも歩いていける距離、自転車で行ける距離にあるのが望ましいと考えられていることが明らかとなった。


建設事業が水域の生態系に及ぼす影響の予測技術の開発

研究期間:平10
担当者 :寺川 陽、並河良治、(緑化生態研究室)藤原宣夫

 本調査は、建設事業が生態系に及ぼす影響を予測する技術を開発するための検討を行うものである。
 10年度の調査は、建設省所管の各種事業が生態系に及ぼす影響を把握するために行う事前調査手法に関する検討、影響を評価する手法検討、影響を予測するための手法の検討及び事後評価の手法の検討を行った。検討に際しては、環境影響評価法に基づく主務省令の分類を反映し、都市系(面整備)、河川系、道路系ごとに、また、予測・評価のための手順に従って行った。なお、本調査の成果は、環境影響評価のためのマニュアルに反映されるものである。


建設分野における外部コストの評価手法の開発に関する研究

研究期間:平10〜平12
担当者 :寺川 陽、並河良治

 本研究は、環境や機会費用のようにこれまでコストとして算入されていなかった社会的な費用(外部コスト)を明示的に算出する手法の開発を目指すものである。
 10年度は、研究の初年度として、外部コストの範囲の検討、諸外国における外部コスト組み込みの実態調査、外部コスト算出を行う際の評価軸の検討及び具体的な項目に関する事例計算(ケーススタディー)を行った。ケーススタディーでは、外部コストの評価指標のうち重要度と評価・算出の難易度を考慮し、建設副産物の中間処理場の立地・稼働に伴う外部コストをヘドニック法によって試算した。その結果、処理場1箇所1年当たり1.8億円の外部コストが生じていることが算出された。


地域特性を踏まえた人の感性の計測・評価手法に関する研究

研究期間:平10〜平11
担当者 :寺川 陽、並河良治

 歩行の目的、理由は様々であるが、通勤や通学など、時間や手段を自分の都合で決められないものも多いが、一方、散歩や買い物など行うかどうか、またいつ行うか等を自由に選択できるものもある。後者が季節により、地域によってどのように変化するかを調査することにより、気候を含む地域特性が歩行行動に与える影響の程度や影響の与え方が明らかになるものと考え、快適な歩行空間整備を図る上での基礎的知見を得ることを目的として、札幌市、静岡市及び鹿児島市の3地区で夏、秋及び冬の3時点で歩行者の実態調査を行った。その結果、歩行者の行動に季節変動が生じていることが明らかになった。


湖沼等における糸状藻類を活用した富栄養化対策に関する研究

研究期間:平6〜平10
担当者 :寺川 陽、天野邦彦、福渡 隆、田中康泰

 過剰な栄養塩類が流入する自然湖沼や人工湖等の閉鎖性水域では富栄養化が進行し、好ましくない植物プランクトンが異常に増殖する要因となっている。これらの異常発生した植物プランクトンは、水の華(アオコ)、水道水のカビ臭、魚類のへい死、親水活動の阻害など様々に深刻な問題を引き起こしており、早急な解決が望まれている。この様な背景のもと、本研究はこれらの自然湖沼や人工湖沼における富栄養化現象を生じさせないよう、糸状藻類の栄養塩吸収能力を活用した富栄養化対策技術(糸状藻類活用システム)の開発をめざした。
 10年度はこれまでに行った成果の取りまとめを行った。


建設環境情報のデータベース化に関する研究

研究期間:平6〜平10
担当者 :寺川 陽、安陪和雄

 近年、インターネット等の普及により国内外の情報の取得・提供が極めて簡便に行えるようになった。建設省においても、公開型水文データベースの構築、あるいは、河川GISの構築等、情報化に向けた施策を推進しているところである。本研究は、霞ヶ浦流域を対象にインターネットにより外部から容易にアクセス可能な流域水環境データベースを構築するものである。
 10年度は、前年度までに作成した霞ヶ浦流域の水循環・物質流動に係わるGISデ−タベースをインターネット上で公開する手法を検討するとともに、最終年度として、過去5カ年の研究成果を再整理し、GISが流域水環境データベースのツールとして有用であることを示した。


ITS全般に関する調査(ITSの社会化・受容化調査)

研究期間:平8〜
担当者 :寺川 陽、並河良治

 ITSは、高度情報技術を活用した、交通渋滞、交通事故等さまざまな交通問題の解決の切り札として、また、高度情報通信社会の先導として、さらに、新産業を創出するものとして開発が行われている。本調査は、今後のITS技術開発の方針設定に資する情報を提供するため、ITSの提供するサービス内容及びその水準について、消費者の感性に訴えるものがどのようなものかを明らかにすること及びITSによって社会・経済活動や生活様式に起こり得る変化の可能性について見通し、それを踏まえた国民のニーズを把握することを目的としている。
 10年度は、ITSの提供するべきサービス内容及びその水準について調査する手法についてサービスの構想期から成熟期に至る各段階毎にどのような調査手法を用いるべきかを整理した。


道路事業の評価に関する調査(その3)
(道路の環境保全施設や付加的施設の経済評価に関する調査)

研究期間:平8〜平10
担当者 :寺川 陽、並河良治、小栗 ひとみ

 本研究は、これまで付加的な整備と見なされていた歩道の景観整備の経済評価を行ったものである。評価に当たっては、その適用性の広さから注目されているCVMを用いた。CVMは、積極的に適用しようとする動きがある一方、その信頼性に疑問を持つ人々も多く、数々の検証がなされてきている。本研究も公共事業におけるCVM適用の可能性を検証するため、支払方法の違いによるWTPの変化を確認することを目的として行ったものである。調査の結果、支払い回数を多くすれば合計のWTPの値も大きくなることが確認された。一方、支払い先の違いによるWTPの額には差が見られなかった。また、支払いを拒否する理由は、事業は、税金で行うべきであるとするものが多いことが分かった。


湖沼の総合的富栄養化対策技術に関する調査

研究期間:平7〜平11
担当者 :寺川 陽、天野邦彦、福渡 隆

 土木研究所では、深層部の嫌気化防止対策を目的としている深層曝気施設を開発した。本施設は全層曝気施設と異なり、底層の栄養塩が多量に含まれている水塊を表層に供給することがなく、また浅層曝気循環施設によって流入河川水の濁質等をダム湖中層以深に導いたものを、再浮上させることなく底層のみDOの供給ができる特徴を有している。
 10年度は、効果検証に必要となる本施設の流速等について、三春ダムで現地観測を行い、表層曝気施設と同様の評価手法を用いて評価可能であることが分かった。


湖沼の環境評価に関する調査

研究期間:平6〜平10
担当者 :寺川 陽、並河良治、舟橋弥生

 本調査は、環境のような非市場財の評価手法としてTCM(Travel Cost Method:旅費法)、HTCM(Hedonic Travel Cost Method:ヘドニック旅費法)、CVM(Contingent Valuation Method:仮想市場評価法)及びAHP(Analytic Hierarchy Process:階層化意志決定法)などの様々な調査法について他の評価法と比較を行うとともに実用上の課題を整理し、環境評価を行う際の指針を形成することを目的としている。
 10年度は、CVMによるミティゲーション事業の評価手法について検討を行った。その結果、各ミティゲーション措置についての経済価値、自然環境認識とCVMの関係を見出すことができた。


土地利用変遷が湖沼流域の物質循環に及ぼす影響の評価手法に関する調査

研究期間:平10〜平13
担当者 :寺川 陽、安陪和雄、

 湖沼の富栄養化対策を講じる上で、流域の視野でとらえた総合的なアプローチが不可欠である。そのためには、湖沼管理者として、湖沼流域の水循環及びそれに伴う物質流動を把握し、湖沼から見た流域の各種インパクトの評価を行う道具(湖沼流域管理システム)を有していることが必要である。
 10年度は、湖沼流域管理システムにおけるGIS活用の方向性を検討するため、情報の処理時間に影響を与える空間データモデルについて検討した。その結果、GIS活用にあたっては、ベクター型データモデルを基本とし、必要に応じてラスター型データモデルを選択することが望ましいとの結論を得た。


道路景観シミュレーションシステムの開発

研究期間:平8〜平10
担当者 :寺川 陽、並河良治、小栗 ひとみ

 道路事業の実施にあたり、景観設計は重要事項の一つである。施設の建設に際しては、事業の各段階において、周辺環境との調和を視覚的に容易に予測・評価することが求められる。本研究は、総合技術開発プロジェクトで開発を行った建設省版景観シミュレーションシステムを、道路の景観設計支援の手段として拡張するものである。
 10年度は、道路景観を対象とした「景観評価支援システム」の構築を目的として、地方部道路景観の景観特性や評価構造の分析を行い、定量的な景観評価ルールを設定するための基礎的なデータを整理するとともに、定性的な景観評価ルールの設定方法について検討を行った。


運転者から見た走行景観の検討

研究期間:平8〜平10
担当者 :寺川 陽、並河良治、小栗ひとみ、 (交通環境研究室)大西博文、小根山 裕之

 これまでの道路整備においては、機能性と経済性が重視され、ややもすると景観面への配慮が欠けていたために、運転者に圧迫感などの不快感を与える場合もあった。そこで、本研究では、運転者から見た道路景観の評価手法を確立し、景観シミュレータの改良による走行景観予測・評価ツールの開発を行った上で、それを用いて運転者から見た良好な景観を実現するための道路施設デザインを提案するもので ある。
 10年度は、ビデオ映像を用いた景観評価実験および感性影響計測を通じて、走行景観が運転者の感性に及ぼす影響の定量的な計測・評価を行った。


流域水管理への地理情報システムの利用に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :寺川 陽、安陪和雄

 本研究の目的は、意志決定支援システムの一形態としての流域水管理システムにおけるGIS活用技術の確立である。10年度は、9年度までにプロトタイプ構築したGISデータベースとシミュレーションモデルを操作性の観点から評価し、これらをシステムとして統合する技術について検討した。その結果、PC上で作動するGISと汎用的なオブジェクト指向ソフトウェアを連携することによりユーザーフレンドリーなシステム構築が可能であるとの結論を得た。


流動制御システムに関する調査

研究期間:平6〜平10
担当者 :寺川 陽、天野邦彦、福渡 隆、田中康泰

 研究テーマ名となっている流動制御システムは、閉鎖性水域であると共に春から秋にかけて水温成層を形成することがその水質変化特性を大きく規定しているダム貯水池において、種々の装置により貯水池内における流動状況を変化させることにより、水質面の問題を軽減することを目的としている。
 10年度は、このうち曝気循環装置による水温成層破壊過程を現地貯水池において観測し、現地貯水池における曝気循環装置の効果的運用方法を確立するため、季節変化による貯水池内水温構造の変化と曝気循環装置による人為的な水温構造の変化について調べた。10年度は、当該貯水池において、大規模出水が2度あり、貯水池全体の混合が急速に起こるという特異的な年度であったが、調査結果からは、曝気循環装置による人為的水温成層破壊と自然の要因による季節的変化の特性が示され、水温の連続観測が装置運用についての判断基準となることが示された。


貯水池の水質保全に関する調査

研究期間:平9〜平10
担当者 :寺川 陽、天野邦彦、福渡 隆、田中康泰

 一部のダム貯水池末端においては、淡水赤潮と呼ばれる藻類の発生と集積が起っている。それに伴い、数々の利水障害の原因ともなっており、この様な利水障害を発生させる淡水赤潮の発生と集積を制御する事が望まれている。
 10年度は貯水池末端における流動と淡水赤潮の集積の関連を調べて対策に資するため、現地観測により淡水赤潮藻類の分布の日周変化と流れについての調査を行った。


底泥からの汚濁防止対策に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :寺川 陽、天野邦彦、田中康泰

 利根川流域にある渡良瀬貯水池は、リン等栄養塩濃度が高く、らん藻類の大量増殖に伴うカビ臭問題が顕在化している。既往の水質調査結果から、湖底に蓄積した汚濁堆積物からのリンなど栄養塩の溶出による内部負荷が貯水池の水質に大きく影響していることが判明している。このため、これまでリンなど栄養塩の溶出抑制を目指し、曝気及び干し上げ等如何に嫌気的な底泥を酸化させるかという試みが行われてきたが、 酸化または乾燥による現地底泥のリン吸着特性及び吸着能の変化に関する知見は余りないために、このような試みの効果について評価することが困難であった。
 このため、10年度は、底泥の酸化および乾燥によるリン吸着能ポテンシャルへの影響について検証実験を行った。現地湖心部の表層底泥を用いたバッチスケール規模の室内実験から、底泥のリン吸着能に及ぼす乾燥などの影響が確認され、また異なる酸化処理プロセスを受けたそれぞれの底泥試料中の易反応性鉄(labile-Fe)の量の変化がリン吸着メカニズムに関連があることが分かった。


シビックデザインに関する調査

研究期間:平10
担当者 :寺川 陽、並河良治、長野幸司

 魅力ある社会資本整備を推進するためにシビックデザインの導入は不可欠であるが、各業務の中で必要十分に景観検討が行われているとはいいがたい状況である。また環境影響評価法の実施にあたって、環境の構成要素の一つである景観の検討がどのように位置づけられるかを明確にしておく必要がある。
 10年度は、道路事業を例に取り、事業の流れと景観検討業務の関係を整理し、それぞれの段階における景観検討の留意点を抽出するとともに、現時点における景観検討業務の課題・問題点を整理した。また、想定される課題の中で即効性のあるものとして、デザイン検討業務の仕様書における明確化について検討を行った。


環境影響評価技術指針作成

研究期間:平10
担当者 :寺川 陽、並河良治

 本調査は、環境影響評価法に基づいて、制定された技術指針省令を環境アセスメントの実施に際して適用するために必要な技術指針の運用について検討するものである。検討に当たっては、建設省所管の各事業に共通する第二種事業の判定基準について詳細に検討した。また、各事業毎に作成作業がなされている事業特性及び地域特性の把握の考え方、影響要因の細区分、環境要因の細区分、評価を行う標準項目、調査及び予測の標準手法並びに環境保全措置の考え方等に関して、建設省として齟齬のないように整理・調整を行った。


人工生態礁による富栄養化対策に関する調査

研究期間:平10〜平15
担当者 :寺川 陽、天野邦彦、福渡 隆

 ダム湖等における富栄養化現象の対策には、大きく分けると窒素やリンのような栄養塩類を直接除去する手法と、富栄養化現象の原因である藍藻類が異常増殖しないように環境を制御する手法がある。
 土木研究所では、後者の一手法として人工生態礁を開発し、10年度は土師ダムでの隔離水界実験を行った。天候が実験に相応しくなく藻類の大増殖が生じなかったため明瞭な差異は認められなかったが、表面の25%以上を人工生態礁で覆うことで透明度が上がることが分かった。


1/fゆらぎ理論を用いた道路空間デザインに関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :寺川 陽、並河良治、小栗ひとみ

 ゆとりある社会を実現するためには、人間の感性に適合した社会資本の整備が不可欠である。1/fゆらぎは自然界に広く存在するゆらぎであり、人間の快適性を規定する一つの大きなファクターとなっていることが判明してきた。本調査は、1/fゆらぎを道路空間のデザインに取り入れることにより、道路景観が人々の感性に訴える程度を計測し、道路空間整備における快適性向上の手法として、1/fゆらぎの適用手法をとりまとめるものである。
 10年度は、佐世保市の都市計画道路を対象としたケーススタディを行い、歩道空間における1/fゆらぎ理論の適用範囲を検討した。


1/fゆらぎ理論を用いた道路修景に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :寺川 陽、並河良治、小栗ひとみ

 今後の社会資本整備に際して、国民の満足度向上の要求に応えていくためには、機能性、効率性、品質およびコストの視点に加えて、より人間の感性にあった「快適性」の視点が求められている。人間が心地よいと感じるものの多くは、1/fゆらぎのリズムを持っており、生体リズムもまたこのゆらぎを示すことから、人は体内リズムと同じゆらぎを持つ外的な刺激を快適に感じると推測されている。本調査では、より快適な道路空間の創出をめざして、道路景観設計への1/fゆらぎの適用手法について検討を行うものである。
 10年度は、前年度試験施工を行った国道330号線のゆらぎ歩道区間(舗装材の配色に1/fゆらぎを適用)を対象として、1/fゆらぎの導入による快適性向上効果の定量的な計測および評価を行った。