<耐震技術研究センター>

防災技術課 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


震災対策計画の高度化に関する研究

研究期間:平8〜平10
担当者 :杉田秀樹、野崎智文、遠藤和重

 地震発生後、公共土木施設の管理者は、被害状況の把握、緊急対応、復旧対策などの対策を迅速かつ的確に実施することが求められる。したがって、混乱期の中で所管施設の被害状況・対策状況に関して適切な情報管理を行う必要がある。このような体制計画にあたっては、必要な機器システムの構築、それらを扱う体制のあり方等に関して、平常時から意を払う必要がある。
 本課題は、震災防災情報システムを構築する際の考え方およびシステムに利用可能な様々な技術を検討する目的で8年度に開始され、10年度を最終年度としている。最終成果としては、「地震防災情報システム整備マニュアル(案)」を取りまとめた。


強震計管理費

研究期間:昭56〜平12
担当者 :杉田秀樹、葛西信寛

 土木研究所では、局所的な地形・地盤条件が地震動特性に及ぼす影響の解析を目的として特定地域に多数の地震計を系統的に配置する高密度観測と、構造物や周辺地盤上に強震計を配置して構造物や地盤の地震時振動特性を把握するための一般強震観測を実施している。本課題は、土木研究所が所有する観測施設の継続的な維持管理、観測記録の処理・蓄積および地震動の伝搬特性に関する基礎的な検討を行うことを目的とする。
 10年度は、1)高密度強震観測施設の保守点検と観測記録集の作成、2)一般強震観測施設(土研所有分12箇所)の保守点検、3)アナログ/デジタル記録変換システムの再構築、4)強震観測事業の効果的な推進に向けた課題整理、5)観測施設・観測記録データベースの拡充を実施した。


都市型震災における土木構造物の社会的影響評価手法に関する研究

研究期間:平8〜平10
担当者 :杉田秀樹、野崎智文、遠藤和重

 大規模地震が発生し交通施設に被害が生じた場合には、物流が阻害されることにより生産活動が低下するため、その影響によって被災地域の生産活動が低減し、さらにその影響は全国の生産活動にも波及する。交通ネットワークの耐震対策計画にあたっては、このような経済的影響にも基づいて検討する必要がある。
 本研究は、8〜10年度にわたって、交通施設の被害による経済的な影響を定量評価する手法を開発し、その手法に基づいた推計アプリケーション(Earthquake Assessment System for Socioeconomic Effect : EASSE)を開発することを目的としている。
 10年度は最終年度にあたり、EASSEを用いて実際の地域における耐震対策計画の箇所優先順位検討を模擬的に行った。


公共土木施設の耐震性水準の横断的整合に関する研究

研究期間:平10〜平12
担当者 :杉田秀樹、野崎智文、遠藤和重

 道路、河川管理施設等の公共土木施設の耐震設計にあたっては、その対象とする入力地震動及び求められる耐震性能が地域内で整合が取れており、適切な投資配分で行われる必要がある。しかし現在のところ、各施設の設計には異なる基準が用いられており、必ずしも整合が取れているとは言い難い。本研究は、複数の構造物の耐震性水準を、その整合性を保ちながら合理的に設定するための手法について検討し、耐震対策事業の効率化に資するものである。
 10年度は、複数構造物の耐震対策内容を比較し、選択するための、耐震性水準、性能レベルの表示法を提案したほか、地域における耐震対策効果を最大にする耐震対策内容を設定する計算法を検討した。


地区施設等の救出・救護・避難問題への効果分析

研究期間:平10〜平14
担当者 :杉田秀樹、金子正洋

 平成7年兵庫県南部地震による市街地の甚大な被害を背景に、各地域で推進される防災まちづくりを技術面から支援することを目的として、10年度より5箇年計画で建設省総合技術開発プロジェクト「まちづくりにおける防災評価・対策技術の開発」が開始された。本総プロでは研究領域を、1)地区の防災要素の影響評価手法の開発、2)地区の防災対策技術の開発、3)計画支援技術・防災対策推進方策の開発に分類し、公共施設整備の市街地災害抑制効果、地区レベルの防災対策、及び、住民・行政職員の合意形成支援ツールに関する研究を実施する。
 本研究は、救出・救護・避難問題に対する幹線系道路の信頼性評価モデルを開発することを目的として、幹線系道路の障害危険度評価手法及び緊急活動に伴う交通需要評価手法の検討を行うものである。
 5箇年計画の初年度である10年度は、阪神淡路大震災など既往地震時における実態情報を収集・分析し、幹線系道路における地震時機能障害と緊急活動の特性に関する知見を得た。なお本総プロでは、「防災まちづくり総プロ研究開発委員会(学・官)」「共同研究推進会議(地方公共団体・公団)」「防災まちづくり研究会(官・産)」を組織し、産学官の連携のもと研究開発を推進している。


道路ネットワークの耐震性・防災機能の向上に関する試験調査

研究期間:平8〜平11
担当者 :杉田秀樹、野崎智文、遠藤和重

 大規模地震が発生した場合、地震発生直後の救急・救援活動、緊急輸送活動を支える道路ネットワークの機能は非常に重要であり、ネットワーク全体としての耐震性を確保する必要がある。本研究においては、道路ネットワークの各区間の被災状況が与えられた場合に、ネットワーク全体としての耐震性、各道路区間の耐震性に関する重要度を定量的に評価する手法を検討する。
 10年度は、三種類の形態の道路ネットワークに対して、様々な被災パターン、補強パターン、交通規制パターンを設定し、道路ネットワーク耐震性指標を算出し、それらを比較することによって、地震に対する道路ネットワークシステムの機能を確保するためのハード対策、ソフト対策の効率性を定量的に評価した。


震災直後における道路の早期啓開支援システムに関する試験調査

研究期間:平7〜平11
担当者 :杉田秀樹、金子正洋

 兵庫県南部地震以後、各種公共・公益施設の管理においては、個別の管理施設の耐震性の向上が図られる一方で、予算制約等によるそのようなハード的対処の限界も認識されはじめ、今ある手段を如何にうまく使うかというソフト的対処による被害の軽減手法へのニーズが注目を集めている。
 本課題では、情報を有効に使うことで震災直後の道路管理者の初動活動を支援し、最終的な被害を軽減する手法、すなわち道路施設の震害予測システム及び情報伝送システムの開発を行っており、10年度は、システムの動作環境向上のための改良、地震動分布予測手法の検証、盛土被害予測手法に関する検討を行った。


河川施設の耐震強化判定法に関する調査

研究期間:平8〜平10
担当者 :杉田秀樹、金子正洋

 平成7年兵庫県南部地震を背景に、河川堤防の耐震強化事業が7年度より開始された。また、河川砂防技術基準(案)、9年改訂”では、一般堤防は平水位の地震作用に対して浸水による二次災害を生じないこと、高規格堤防は計画高水位以下の地震作用に対して安全であること等、河川堤防の耐震性水準に関して当面の目標が示された。しかし、高レベル地震動に対してどこまで大震性能を保証するかについての考え方は必ずしも明確でない。耐震強化事業の将来計画策定に向けて、耐震強化水準や事業優先度を判断するための技術的根拠の明確化が求められている。
 本研究は、近年の事業評価手法の主流である費用対効果分析により、河川堤防が保有すべき耐震性水準の合理的な選択手法を検討するものである。
 最終年度である10年度は、耐震性水準の選択フローを提案するとともに、実務への適用を図る上で解決すべき技術的課題を整理した。また、堤防沈下量評価モデルの高度化に向けて既往震災事例を追加調査し、別途開発した即時震害予測システム”への適用を図った。さらに、設計地震外力の合理化に向けて建設省地震計ネットワーク活用WG(事務局災害対策室)に参画し地震計ネットワーク活用方針”をとりまとめた。


河川施設の強震計の点検調査

研究期間:平10
担当者 :杉田秀樹、葛西伸寛

 建設省が所管する公共土木施設の一般強震観測は、昭和32年に近畿地方建設局管内の猿谷ダムにSMAC型強震計を設置して開始された。
 平成10年3月現在、建設省・公団・自治体が所管する約340箇所の施設で観測が実施されており、観測された地震波は各種構造物の耐震設計基準や地震動特性の研究に活用されている。
 本課題は、一般強震観測のうち建設省が河川施設に設置した観測施設を対象として、強震計の年1回の動作確認としての保守点検、地震記録の回収、数値化の一次解析を行うことを目的としする。
 10年度は、27箇所の強震計保守点検を行い、また、「河川堤防における強震計配置計画(第3期)」の推進を図った。


震害予測システムの構築に関する調査

研究期間:平9〜平11
担当者 :杉田秀樹、金子正洋

 関東地方建設局では、7年度より管理施設に作用した地震動に関する情報を震後即時に収集する地震計ネットワークを構築している。また、これと平行して、得られた地震動情報を利用して管理者に管理施設の被害状況を即時に予測して与える震害予測システムの開発を行っており、既に道路の液状化と橋梁の被害を予測して与える機能の開発を終えている。これは初動体制の確立の迅速化を図ることを目的としたものである。本課題では、既存のシステムに、河川堤防の被害状況を概略予測する機能を付加する。
 10年度は、河川堤防の液状化危険度予測システムの開発を行うとともに、河川堤防の沈下量予測手法の検討を行った。