<耐震技術研究センター>

耐震研究室 平成10年度に実施した調査・試験・研究の成果概要


信頼性理論に基づく耐震設計法に関する研究

研究期間:平8〜平10
担当者 :運上茂樹、大住道生

 平成7年1月の兵庫県南部地震では、土木構造物が甚大な被害を受けた。従来の土木構造物の耐震設計法は、各種の不確定性の内在する事象を一義的に定義し、これに対してある安全率を有するように設計する手法がとられてきた。しかしながら、諸外国では設計規範が限界状態設計法に移行しようとしており、こうした構造設計法では、設計変数の不確定性を合理的に設計に取り込むことができ、構造物の信頼性を高めることが可能になる。本研究では、構造信頼性理論を背景にし、構造物のより合理的な耐震設計体系の基礎となるべき設計方法の確立を目的とするものである。
 最終年度である10年度は、道路橋示方書X耐震設計編の限界状態設計法の試案を作成するとともに、各種部分安全係数の基礎資料を収集、整理し、部分安全係数の設定方法を検討した。


インテリジェント耐震構造技術に関する日米共同研究

研究期間:平7〜平11
担当者 :運上茂樹、足立幸郎

 橋梁構造物は震災復旧に重要な役割を担うため、被災しにくくかつ修復が容易な構造物であることが望ましい。本研究は近年開発がめざましいインテリジェント材料(自己診断材料、自己修復材料)を活用し、震後に容易に被害状況を診断でき、さらに復旧が容易なインテリジェント耐震構造技術の開発を行うことを目的とする。
 10年度は、自己診断機能に優れるインテリジェントセンサーに着目し、これらインテリジェントセンサーの最大履歴ひずみ検出性能について検証実験を行い、その検出特性の把握を行った。


鉄筋コンクリートアーチ橋の耐震設計法に関する基礎的研究

研究期間:平9〜平10
担当者 :運上茂樹、近藤益央

 平成7年1月17日発生した兵庫県南部地震は、道路橋を始めとする各種の構造物に大きな被害を引き起こした。これを契機として、一般的な形式の鉄筋コンクリート橋脚については、構造物の非線形域での変形性能を考慮に入れた設計法に関する研究が精力的に行われ、技術基準に取り入れられることとなった。一方、アーチ橋のような大規模な橋梁は兵庫県南部地震において地震力が強い地域には存在せず、大きな被災を生じた例は見られなかった。しかしながら、このような構造系の大地震時の挙動に関する研究は、従来ほとんど実施されておらず、こうした構造系の動的耐力やじん性の評価法に関しては未解明な点が数多くある。特にアーチ橋に関しては最も重要な部材であるアーチリブには地震時に高軸力が作用することから、じん性は非常に小さいことが予想される。
 以上のような背景のもとで、本研究は諸外国における高軸力を受ける鉄筋コンクリート部材の動的耐力やじん性の評価法に関する知見を取り入れるとともに、現在までに得られている鉄筋コンクリート部材の挙動に関する研究結果を踏まえ、アーチ橋に対する大規模地震時の挙動を検討し、耐震設計法を開発することを目的とするものである。
 10年度においては、鉄筋コンクリートアーチ橋の大規模地震時の挙動特性を動的解析により検討するとともに、高軸力を受けるアーチリング部材を対象にその破壊特性、耐力、変形性能を実験的に検討した。


道路施設の耐震性向上に関する共同研究

研究期間:平10
担当者 :運上茂樹、足立幸郎、近藤益央、大住道生

 我が国は、世界有数の地震国であり、平成7年1月の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)以降、公共構造物の耐震安全性の確保は重要な課題として位置づけられ、現在、各種の技術基準が改訂されつつある。さらに、耐震安全性の確保のみならず経済性も兼ね備えた合理的な耐震技術を開発するとともに、開発された技術が合理的に取り入れられるように技術基準の形で実務に反映していくことが必要とされている。一方、インド国は北部を中心に地震発生多発地帯に位置しており、これまで、多くの地震被害が発生していることから、インド国としても合理的な耐震技術に関する技術基準の整備・向上が重要な課題とされている。
 本共同研究は、地震時に避難路や復旧物資の輸送路として重要となる道路施設に着目して、アジア地域の地震環境と耐震技術の現状に関する調査を行うとともに、各種の開発技術の合理的な技術基準への反映方法に関する研究を行うことを目的とするものである。
 本研究では、アジア地域に於ける地震多発地帯であるインドの地震発生状況及び被害状況を分析するとともに、日インド両国の耐震技術基準の比較を行うことにより、アジア地域に適応可能なグローバルスタンダードの作成に必要となる基礎資料を入手することが出来た。


橋梁システムの地震時限界状態設計法に関する試験調査

研究期間:平8〜平12
担当者 :運上茂樹、足立幸郎

 兵庫県南部地震の被災教訓として、橋梁全体系を考慮した設計法確立の必要性が指摘された。したがって、構造部材別に行われる現行の道路橋の耐震設計から、基礎-橋脚-支承と橋梁システム全体として耐震安全性を照査する設計法の開発が必要とされている。
 10年度は、材料特性等のばらつきを考慮した場合における橋梁システムの地震時挙動の変化に着目し、モンテカルロシミュレーションを用いた橋梁システムの信頼性評価を行った。また実験による橋梁システムの耐震安全性能評価手法の体系化に関する検討を行った。


道路橋橋脚の耐震設計法の高度化に関する調査

研究期間:平9〜平13
担当者 :運上茂樹、星隈順一、近藤益央、林 昌弘

 平成7年兵庫県南部地震による道路橋橋脚の被災の重大性に鑑み、現在こうした大規模地震に対する耐震設計法について、フレームワークが体系化され平成8年道路橋示方書の改訂に盛り込まれた。しかしながら、鉄筋コンクリート橋脚や鋼製橋脚の動的耐力や変形性能の評価法、変形性能と地震動の特性との関係、帯鉄筋の配筋細目等については、これまでの研究成果のみではまだ十分とはいえず未解明な点も残っている。このため今後さらに研究を進めて、道路橋橋脚の耐震設計法の高度化技術の開発を図っていく必要がある。
 鉄筋コンクリート橋脚模型の動的載荷実験を行い、載荷履歴パターンが鉄筋コンクリート橋脚の変形性能に及ぼす影響について検討を行うとともに、道路橋示方書に規定されるタイプIの地震動とタイプIIの地震動に対する標準的な載荷履歴の与え方について検討を行ってきた。10年度においては、鉄筋コンクリート橋脚の塑性ヒンジ長の推定にあたって、軸方向鉄筋の座屈長と塑性ヒンジ長の関係について検討し、軸方向鉄筋の座屈長の推定に関する検討を実施した。
 また、大地震に対して十分な変形性能および動的耐力を有する鋼製橋脚の耐震設計法を開発し、鋼製橋脚を有する道路橋の耐震性の向上を図る必要がある。10年度は補剛材の細長比、軸力比といったパラメータが鋼製橋脚の終局状態における鋼板の終局ひずみに与える影響について解析的に検討した。また、鋼製橋脚の変形性能を検討する目的で、鉄筋コンクリート橋脚の塑性ヒンジ理論に基づいて鋼製橋脚の終局変位と終局ひずみの関係式を求め、塑性ヒンジ長すなわち橋脚の損傷領域が終局ひずみに与える影響について検討を行った。


合成構造の耐震設計法の開発

研究期間:平7〜平11
担当者 :運上茂樹、長屋和宏、林 昌弘

 現在道路橋示方書では、鉄筋コンクリート橋脚や鋼製橋脚については部材の非線形域の特性を考慮した地震時保有水平耐力法により耐震設計することとされている。コンクリートを充填した鋼管柱や鉄骨鉄筋コンクリートなどの鋼とコンクリートを合成した構造については鋼とコンクリートの両者の利点を兼ねることが可能となり、耐震設計上も高強度、高じん性の構造を設計することも可能と考えられる。しかしながら、これらの合成構造の動的耐力や変形性能、地震時の挙動については、まだ十分に明らかにされていないのが実情である。本研究は、合成構造における模型供試体を用いた繰り返し載荷実験データの蓄積を図り、荷重−変位特性の推定手法を検討し、合成構造の耐震設計法を確立することを目的とする。
 10年度は鉄骨鉄筋コンクリート柱の交番繰り返し載荷実験を行い、合成構造の動的耐力、変形性能を検討した。実験のパラメータとしては、載荷実験における載荷繰返し回数とし、これらが動的耐力、変形性能に及ぼす影響を検討した。その結果、合成構造橋脚の変形性能の載荷繰返し回数の影響については、繰返し回数が多いほど終局変位が小さくなった。また、水平耐力−水平変位関係について保耐法と載荷実験データとの比較を行い鋼材を鉄筋に換算することにより水平耐力−水平変位関係を概ね推定できることを確認した。


道路構造物の震災調査・復旧技術と耐震補強技術に関する試験調査

研究期間:平10〜平11
担当者 :運上茂樹、足立幸郎、長屋和宏

 兵庫県南部地震における教訓を将来の地震被災時の復旧活動に生かすために、地震被災の調査から復旧までの一連の震災復旧技術を整理し、合理的な震災復旧技術の開発を行う必要がある。耐震補強技術については、兵庫県南部地震以降、鋼板巻立て工法等構造物の変形性能を高める工法が用いられているが、さらに迅速かつ施工性の容易な復旧・補強技術が求められている。
 これらの背景のもと、10年度は兵庫県南部地震において用いられた被災調査技術、応急対策技術、本復旧技術を整理及びとりまとめを行った。また、耐震補強技術に関しては、ラーメン橋脚梁部の補強法に関する実験的検討を行った。


大規模地震を考慮した地中構造物の耐震設計法に関する試験調査(その1)

研究期間:平10〜平13
担当者 :運上茂樹、星隈順一、長屋和宏、大住道生

 兵庫県南部地震以降、土木構造物の耐震設計法が地震時限界状態設計法へと移行していく趨勢にある中、地中構造物の耐震設計では、地盤の非線形応答特性、構造物の非線形応答時における耐力の評価等、地震時限界状態設計法において必要不可欠な指標の評価手法に関する研究が十分ではない。大規模地震に対する地中構造物の安全性を適切に評価するためにも、地震時限界状態設計法の確立が求められている。
 10年度は、非線形応答特性を考慮した地盤の地震時最大変位の推定方法を提案するとともに、構造物の非線形応答を考慮した耐震性の簡易判定法を提案した。


長大橋梁の耐震設計法の合理化に関する試験調査(その1)

研究期間:平10〜平14
担当者 :運上茂樹、足立幸郎、林 昌弘、長屋和宏

 長大橋梁の耐震安全性を高めつつコスト縮減を図るためには、長大橋梁の地震時限界状態を明らかにし大規模地震時における挙動及びその評価法を確立する必要がある。
 10年度は高強度材料を用いた長大橋梁RC主塔部材に着目し、帯鉄筋による拘束効果の変形性能への影響に関して実験検討を行った。その結果、高軸力下における高強度RC部材の変形性能は軸力による付加曲げ効果により小さくなること、高強度RC部材の変形性能は横拘束鉄筋により向上すること、高強度RC部材の塑性ヒンジ長は横拘束鉄筋量の増大とともに短くなる傾向にあることがわかった。


せん断補強筋設計施工法に関する試験調査(その2)

研究期間:平8〜平10
担当者 :運上茂樹、林 昌弘

 本研究は、コンクリート構造物の合理的なせん断補強鉄筋の設計法を開発し、大地震時のコンクリート構造物の安全性の向上を図ることを目的とする。
 10年度は鉄筋コンクリート(RC)ラーメン橋脚T型隅角部の模型供試体を用いた繰返し載荷実験を行い、T型隅角部の動的耐力及び変形性能を検討した。検討の結果、RCラーメン橋脚T型隅角部に損傷が発生するかの判定方法として、はり柱節点部に生じる引張主応力度とコンクリート引張強度を比較する手法が利用できることを確認するとともに、梁の主鉄筋の定着を確保することにより隅角部に損傷が発生しても急激な耐力低下が起こらないことを確認し、隅角部の設計法としてとりまとめた。


鉄筋コンクリート橋脚の配筋合理化に関する検討

研究期間:平10
担当者 :運上茂樹、足立幸郎、近藤益央、林 昌弘、長屋和宏、大住道生

 兵庫県南部地震の被災を教訓に道路橋示方書が平成8年11月に改訂された。この改訂により鉄筋コンクリート橋脚(以下、RC橋脚)では耐震性の向上を目的に帯鉄筋や中間帯鉄筋の量が大幅に増大するとともに、フックなどの構造細目も厳しくなり現場での施工性の低下が指摘されている。このため、1)帯鉄筋や中間帯鉄筋を密に配筋すべき橋脚の範囲の合理化、2)高施工性を有する帯鉄筋の配筋方法、3)高施工性・高耐震性構造の適用について検討し、耐震安全性を確保したままで構造の合理化を図るとともに、従来よりコストパフォーマンスに優れた橋脚構造の開発が求められている。
 本調査は、これらのニーズを勘案しRC橋脚の損傷領域評価、スパイラル鉄筋・インターロッキング式橋脚など新しい構造の適応性に関する検討を目的した模型供試体を用いた載荷実験およびRC橋脚における耐震性能の評価法の高度化を目的とし、塑性ヒンジ長に大きな影響を与える軸方向鉄筋の伸び出し量および座屈長の検討に関する載荷実験を行った。
 その結果、RC橋脚の構造細目における損傷領域の影響が明らかとなった。また、PC鋼線、スパイラル鉄筋を用いた高施工性構造では帯鉄筋を用いた構造と同程度の耐震性能を有することが確認された。RC橋脚の耐震性能評価の高度化については、RC橋脚の軸方向鉄筋の伸び出し量の推定式を提案するとともに、軸方向鉄筋の座屈長に関しては、載荷実験より求めた帯鉄筋のバネ値より座屈長の推定が可能であることを確認した。


横断歩道橋の耐震設計に関する検討

研究期間:平10
担当者 :運上茂樹、足立幸郎

 兵庫県南部地震により、横断歩道橋においては階段フック部の損傷に起因する階段部の落橋や支承部ボルト切断などの被害、地下横断道においては軽微なひび割れ等の被害を受けた。これらの被災原因を解明し立体横断施設の耐震設計法の高度化を図ることが求められている。
 本検討では、横断歩道橋に対する耐荷力解析及び変形解析を行うことにより、被災に基づく耐震性向上手法の検討を行った。また、地下横断道においては標準構造物を対象として地盤の変形を考慮した地震応答解析を実施することにより地下横断道の地震時応答特性を明らかにした。