平成22年度 第5回 国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
(第三部会)

  議 事 録



1. 開会/国総研所長挨拶

2. 分科会主査挨拶

3. 議事

(1)
本日の評価方法等について(確認)

(2)
平成21年度終了研究課題の事後評価
@国際交通基盤の統合的リスクマネジメントに関するに関する研究
A低頻度メガリスク型の沿岸域災害に対する多様な効用を持つ対策の評価に関する研究

(3)
平成23年度開始予定研究課題の事前評価
B沿岸域の統合的管理による港湾環境の保全・再生に関する研究

(4)
平成23年度開始予定研究課題の報告
C港湾地帯における高潮被害評価と対策に関する研究

4. その他

5. 国総研所長挨拶/閉会



平成22年度 第5回 国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会(第三部会)

平成22年12月2日


1.開会/国総研所長挨拶

【事務局】 只今から平成22年度第5回国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会(第三部会)を開会いたします。それでは、国総研所長からご挨拶申し上げます。

【所 長】 今日は早朝からお集まりいただきまして、ありがとうございます。
 先程ご説明がありましたとおり、今年は1回分科会を増やさせていただきまして、夏に要求しております事項立ての新規課題要求と切り分けさせていただいて、1回余計ご足労願っているわけですけれども、実は狙いが3つほどあります。

 1つは、数カ月後ろに下げるということで、新規課題、事後評価いずれも少し整理して、ブラッシュアップ、あるいは展望をはっきりするということで時間を取るということ。

 2つ目は、従来はどうしても夏に要求する事項立て=プロジェクト研究ということで、本省由来のいわゆる事業調査、事業に関わる物が殆んど入ってこなかった。実はそれが予算の大宗を占めるのですが、そこからもう少し積極的にプロジェクト研究に手を挙げてもらえないかと思って企画した訳でございます。この2つは、わずかですけれども効果があったのではないかと思っております。

 3つ目ですが、通常であれば、今ごろになると翌年度の予算が大体様子ぐらいわかってくるのですが、残念ながらこれに関しては今、全く闇の中でございまして、来年以降少し効果が出て来るかなと思っております。

 いつもどおり率直なご意見等をよろしくお願いしたいと思います。

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2.分科会主査挨拶

【事務局】  それでは、主査にご挨拶をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【主 査】 委員の先生方、国総研の皆様、朝早くからお集まりいただき、どうもありがとうございます。
 先ほど所長からもお話がありましたが、国総研のプロジェクトを十分練り上げて、しっかりした評価に基づいてやるということでこの会が設定されたと承知しております。それは大変良いことで、我々も、出されてくる課題が全体の構想の中にどのように位置付けられてやられるのかということが毎回個々の課題を見ただけでは分からないものですから、本日はそういう点でのご説明も事前にお願いしてありまして、そういう国総研全体の研究の枠組み、戦略に従って進むように我々の方も十分評価させていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

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3.議事

 (1)本日の評価方法等について(確認)

【主 査】 それでは、早速議事に入らせていただきまして、まず(1)「本日の評価方法等について」についてご説明をお願いします。

【事務局】 それでは、個別の評価方法の説明の前に、今年度の新規プロジェクト研究の選定の検討の新たな取り組みについて概要をご説明したいと思います。

 先ほどの所長からの挨拶の中にもありました通り、平成23年度の新規のプロジェクト研究の選定に当たりまして、今年度は研究評価委員会の分科会を夏とこの時期に分離開催させていただきまして、事業調査費研究等につきまして、プロジェクト研究となるようなブラッシュアップ期間を確保させていただくことになりました。7月には概算要求課題の新規、いわゆる行政部費による研究のみを事前評価いただきまして、この時期にはそれ以外、事業調査費のプロジェクト研究の新規の事前評価を事後評価とあわせてしていただくということにさせていただきました。これによりまして、昨年までのタイトな検討スケジュールから、十分な検討期間を取らせていただくことができました。各課題につきましては、所内で分野横断的かつ継続的に多様な視点からブレーンストーミングを行う場を設定して参りました。


 その結果でございますけれども、平成23年度に新たに開始する予定課題を9件設定しております。事業調査費による研究が3件、行政部費によるものが5件、総プロによるものが1件の計9件ということになります。行政部費、総プロにつきましては事前評価を既に夏にいただいておりますので、今回は報告ということにさせていただきまして、ご意見をいただきたいと思います。今回ご評価いただくのは、初めてご説明させていただきます事業調査費による3件ということになります。これは全体の数字でございます。

 お手元の資料2−2に全体の一覧表を示しておりますけれども、これは23年度に実施しますプロジェクト研究の一覧表でございまして、今回検討して新たに設定しようとするのがbP2〜20までの9課題でございます。


 このうち、本日の第三部会の対象は2課題でございます。

 まず「沿岸域の統合的管理による港湾環境の保全・再生に関する研究」、これは今回初めてご説明いたします事業調査費による研究でございまして、本日事前評価をいただきたいと思います。

 そして「港湾地帯における高潮被害評価と対策に関する研究」、これは7月の当分科会で評価済みのために今日は報告のみとさせていただきます。7月以降この課題につきましても所内でブラッシュアップ等を重ねましたので、その進捗状況を中心に簡単に報告させていただきまして、ご意見を頂戴するということにさせていただきたいと思います。

 それでは、個別の評価方法について説明させていただきます。


 資料3をご覧下さい。

 まず評価の目的ですけれども、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」等に基づきまして、公正かつ透明性のある研究評価を行い、評価結果を研究活動、研究体制の整備・運営等に的確に反映することによりまして、下の3つの○に書かれていることに資するということを目的といたしております。

 評価の対象につきましては、今ご説明がありましたプロジェクト研究の課題の事後評価2件と23年度から開始予定のプロジェクト研究の課題の事前評価1件となっております。

 次の3番の評価の視点と項目でございますけれども、事後評価の課題に対しましては、必要性、効率性、有効性の観点を考慮し、目標の達成度と研究の実施方法、体制の妥当性について、自己点検結果をもとに評価を行っていただきます。事前評価につきましては、必要性、効率性、有効性の観点を考慮し、自己点検をもとに、実施すべき、一部修正して実施すべき、再検討すべきという様に評価を行っていただきます。

 評価の進め方につきましては、個別の研究課題につきましてこの後担当の研究者が説明した後、評価を行っていただきますけれども、本部会におきましては、他の部会及び欠席の委員等から事前に伺っている意見はございませんでしたので、説明終了後、主査及び各委員から意見をいただきまして、事後評価、事前評価につきまして評価シートにご記入いただきます。そして、本日の審議内容及び評価シートの集計結果に基づいて主査に総括を行っていただきます。


 事後評価につきましては、説明が15分、質疑応答が20分、評価が5分の計40分となっております。事前評価につきましては、説明が10分ですが、質疑と評価、コメントシートへの記入と主査による総括を含めまして15分の計25分となっております。報告につきましては、説明が5分、議論が5分となっております。


 なお、結果の取りまとめでございますけれども、本日の評価結果は、審議内容、評価シートに基づきまして、主査の責任において取りまとめた後、研究評価委員会の委員長の同意を得て国土技術政策総合研究所研究評価委員会の評価結果といたします。


本日の評価結果は議事録をもとに公表いたします。


 次に資料4をご覧下さい。先ほど主査からお話がありました研究の位置づけ等の資料になってございます。これは、昨年度終了した物、現在実施中の物、来年度実施予定のプロジェクト研究と事項立て研究課題の一覧となっております。これはお手元にお配りしております参考図書の小冊子の研究方針に書かれております国土交通省が重点的に取り組む研究分野であります4本の柱、この青い枠の所、それから総合的な手法、一番下の茶色の所ですけれども、この分類した中のどこに各研究課題が位置付けられているかを示した物になっております。本日評価いただきます課題はこの黄色の部分になっております。


 ◎が事後評価の課題、○が事前評価、△が報告となってございます。ということで、本日の最初の案件、リスクマネジメントは3つ目の「国際競争力を支える活力ある社会の実現」という柱、2番目の低頻度メガリスクと報告の港湾地帯における高潮評価は「安全・安心な社会の実現」、もう1つ、報告課題の沿岸域の統合的管理の件は「環境と調和した社会の実現」と、こういう柱の中で位置付けられております。


 こちらからは以上でございます。

【主 査】 今の事務局の説明に関して何か質問とかご意見はありますでしょうか。
 

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(2)平成21年度終了研究課題の事後評価

〈事後評価〉@国際交通基盤の統合的リスクマネジメントに関する研究

【主 査】 それでは早速、議事の2番目、「平成21年度終了研究課題の事後評価」に入りたいと思います。  最初に「国際交通基盤の統合的リスクマネジメントに関する研究」について、事後評価についての説明をお願いいたします。

【国総研】 それでは簡単にご説明させていただきます。

〔パワーポイント映写 以下、画面ごとに ・ の表示

・ 国際交通基盤と書いていますが、港湾・空港と補足させていただいて、その統合的リスクマネジメントということです。

・ 背景でございますが、大体首都圏に一極集中している拠点空港、国際空港・港湾が実際に何かの災害でやられた時に、他の空港、国際的な拠点空港・港湾をパッケージで国全体で広域的に代替し関係者が連携して復旧曲線を高めてやる、これに対して統合的という概念でくくってみたものでございます。

・ リスクの変遷だけご説明いたしますと、空港の方はもともとハイジャック等よど号を初めにして、そこから阪神大震災の時も災害とかは余り対応していず、そのままストンと来ている所がございます。
 港湾の方は、最初は何もやっていなかったのですが、阪神大震災の教訓を受けまして、今回、統合的という意味ではポイントになります横断的な対策協議会とか防災業務計画を順次、今、整備局を中心に整備している所です。ただ、そこの手法については、阪神大震災あるいはその直後の厳しい財政事情を踏まえたもの推察しますが、湾内で1つしか被災しない、あるいは耐震化率30%という整理になっております。

・ 課題だけ詳しく説明させていただきますと、本来これはリスク分析の段階と、実際それを防ぐという意味での業務継続計画等の2つの段階で大体整理されるのですが、今回新たに参加環境の段階というのを入れさせていただきました。ここは港湾と空港で温度差がございまして、リスク分析の段階という意味では空港はほとんど災害を考えて来なかった。港湾の方も阪神の時の決め撃ちで、それ以降の発展はなかった。ただ、色々な関係者が参加する段階につきまして、あるいは業務継続計画につきましては、先程お話ししたように、港湾の方は概ね治癒している、色々な物を確保しつつある、ところが空港の方は関係者の参加環境が不十分である。そういった所で、共通認識としての被害の規模の共通認識、あるいは参加障害についてどうなっているのかという整理がなされていない。さらに、業務継続計画の中心となります先程言った代替施設能力の検証だとか業務継続計画の具体的な検討の雛形みたいなものが無い。これを1つの課題として整理しています。

・ 検討のフローについてもこれに準じた形で実施させていただいています。

・ 体制につきましては、現場のある話なので現場を見ない訳には行きませんので、現場との良好な関係を用意して進めました。

・ 最初にリスク分析の高度化の所ですが、ここに港湾と空港の境界があって、それぞれ発生確率論的に整理しました。もともと首都圏直下型とか決定論的に一発のシナリオでやっている所を、例えば本当にそれが港湾・空港にとってクリティカルなのか、破局的なのかということを分析しております。特に空港につきましては、今までテロだとかハイジャックを中心として人命中心でやっていた物を、経済損失、影響期間の長さであったり、港湾については色々調べても同様の結果ということで、それぞれ発生頻度と結果重大性という意味では大規模地震が一番大きいのではないかと整理しています。

・ その上で、他では余りやっていないのですが、今回新しく脆弱性の評価というのをやってみました。それぞれ空港も港湾も限られている物ですから、脆弱性ということで、空港につきましては、母都市からの迂回ルートが乏しい、あるいは海上空港が多いということで、空港は耐震化してピンピンしているけれども長期孤立化するというのが一番問題だと。港湾の方は、先程お話ししました様に1港しか想定していないけれども、2港同時被災した時に大変なことになるということが港湾の弱さということで、この部分に着目して整理していきます。

・ 特に今回、港湾の方でございますが、耐震化30%というのは阪神の直後に厳しい財政事情で決まったものと推察され、この効果を阪神の震災の復旧曲線に30%上乗せして整理したのがこういった虹色の曲線でございますが、アンケートだとか棚卸し資産データの在庫回転期間から見るユーザー側からの復旧曲線とかなり大きな乖離があって、30%というのは果たして十分なのかというのがここで出て来てしまったという所です。

・ 次に、湾内2港被災のリスク分析で、あまり具体的なことが出来ませんので、理想的な港湾1、2、3、4、5を2つの湾と外に並べてみて、それぞれ1つやられた時、2つやられた時で整理してみました。この辺はちょっとわかりにくいのですけれども、これも先ほどの阪神の実績を使って需要と供給から被災港の能力を算定して、それぞれ整理してみた所、1港被災では30%で十分貨物の滞留は起こらないのですが、2港被災では、1週間後以降、1日当たり3,000個弱のコンテナ供給力不足が出て来ています。従って、30%というのは、かなり効果は限定的と考えております。

・ 次に、港湾の方はここで大体終わってしまうのですけれども、空港の方は、共通認識を作るという意味で、直接損失の算定というのを今回モデルで提案して試算してみました。特に滞留というモードを貨物に入れて、取止、迂回、こういった場合分けで整理して、直接損失額。それから、回復シナリオを、当時色々な整理から設定しまして、こういった書いてある所が色々な仮定でございます。

・ それで試算した数字といたしましては、取止、迂回、滞留で、それぞれ約1月の累計として2,000億程度の直接損失が出てきている。

・ 更に、産業連関を使わせていただいて、生産額の影響、粗付加価値の影響で約数千億の損害ということで、だからしっかりやりましょうという共通認識を作らせていただいています。

・ そういった中で、参加環境の問題でございますけれども、この様に多岐にわたることは皆さんもよくご存じでございます。ただ、運行関係、テロ、ハイジャック、事故なんかの関係は空港というのは非常にしっかりした物がありますが、その外側は非常に希薄な関係でございます。

・ 特にやっかいなのが、コアとなります航空会社の動向でございます。今回の多国籍化、海外の方では多国籍化がどんどん進んでいる。それからLCCという格安。多国籍化しますと、代替空港は国外の方が良いんじゃないかとか、LCCでしたら、被災して儲からない所よりは儲かる所に機材をさっさとリースしてしまうということで、逃げられてしまう。そういった中で、災害対策基本法もチェックしてみますと、日本通運なんかは実は指定されているのですが、残念ながら航空会社は一切無指定ということで、かなりエアラインが逃げてしまうということが起きます。

・ これに対して、先ほどの共通認識のもと、統合的な業務計画を共有化すること、それから動機づけとして緊急融資だとか、これはなかなか難しいのですけれども、成田のスロットについて優先配分するとか、こういった施策が必要になると提案しております。

・ 次に、参加環境が整った時に代替輸送はどうなるのかという所で、こういったモデルで算定しております。こちらは成田空港について被災時のシナリオ供給曲線を設定しまして、それをもとに、1日、1週間、特に1週間後以降大幅に中部と関空から増便するというようなシナリオで計算しております。

・ 旅客の方はこの辺で大体治癒してうまく行くのですけれども、残念ながら貨物の方は、特に中国でございますが、単純な増便だけでは無理で、貨物専用便をどんどん供給して行かないと大きな不利益を被るということが出てきております。

・ 最後に業務継続計画の雛形の作成で、幸い昨年3月にフェデックス機が成田で事故を起こしました。その時の教訓などを関係者からヒアリングさせていただいて、他にも中越地震、バンコクの空港占拠事件なんかをやりまして、ちょっと整理してみました。

・ 雛形のイメージですが、従来の業務継続計画の中では個々の主体ごとに作るのですが、これを統合しなければいけないと。この中身について、先ほどのヒアリングを基に雛形を作ってみました。

・ まず体制でございますが、従来の運行安全以外にも、もうちょっと幅広い関係というのを、緩やかですけれども、提案させていただきました。特に情報共有という所を中心に。

・ その上で雛形の緊急時の対応というのを、実際はもっと詳細なのですけれども、今はプレゼンで簡単にさせていただいていますが、各主体ごとに、それから発災以降の時系列で整理して行きまして、黄色の所がクリティカルパスということで、事前に関係者でよく調整が必要だと。

・ ここもそうですが、海外の相手国の協力要請とかいったかなり高度な調整が入って参ります。この辺もそうですが、大体一番の問題は海外との調整というのが大きな課題。

・ それを踏まえまして、一応海外との調整も含む許認可について、事前にこういう整理をいたしまして、雛形として共有を図って行きたい。

・ あと情報の共有。空港の場合はどうしてもテロ、ハイジャック等がありまして、保安事案で秘匿性が優先されることがございますが、災害の場合はそうは言っていられないだろうということで、どういう情報を誰宛にどういう時間軸で流して行くか、また、その共有するシステムの概念につきまして今回の研究で提案させていただきます。

・ 最後に成果の反映ということで、先ほどの3つの段階でございますが、リスク分析高度化の成果につきましては、シナリオが絞り込まれますので、空港につきましては、来年から羽田空港の統合的計画というのを行政サイドで検討していただけるということで、是非これに反映。関空、中部も独自の物をお持ちなのですけれども、これに反映していただきたい。港湾の方は、今、地方整備局で作成しています統合的な業務継続計画について修正をお願いして行く。それから、港湾の方でもう1つありました耐震化効果の評価につきましては、関係者に施設計画として反映していただくようにお願いして行きたいと思っています。
 更に、参加環境の整備の成果などは、特にスロットの優先配分などにつきましては新たな制度設計。これは正直難しい所がございますので、今日ご用意した様式Cの評価の所は△で、今後かなり努力が必要と考えております。

 最後に業務継続計画の雛形の提案でございますが、これもやはり羽田の計画だとか、関空、中部の施設計画等々に反映して行きたいと思っております。

 今後の課題ということで、利害調整等ややこしい話を若干残しております。

・ 事前評価でのご指摘事項でございますが、幾つかいただいたのですが、例えば長期・広域的なリスクに重点化ということで、先程の災害に着目して、その結果重大性、脆弱性等によって考慮するなど、検討の中でこの図に示すように対応させていただいた所でございます。以上でございます。

【主 査】 どうもありがとうございました。
 それでは、早速委員の皆様からのご意見をいただきたいと思います。本日の会議には、他の第一部会、第二部会からの委員も参加していただいておりますので、どうぞ忌憚のないご意見あるいはご質問をいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【委 員】 2つほど教えていただきたいのですが、1つ目は、空港に関する経済モデルを検討されているのですが、港湾はその部分が抜けているような気がしたので、2つのバランスはどうなっているのでしょうか。

【国総研】 今回の研究の対象とはしていませんが、被害額につきましては、整備局が今実施しています業務継続計画で個別に算定しております。

【委 員】 2つ目は、「統合的」というのはどういう意味で使われているかということです。これはもともとintegrated approachのintegratedだと思うのですけれども、一般には、幾つかの学問手法、ディシプリンを使って統合的に検討する、例えば経済学手法と社会学手法を併用するとか、それをintegrateするという意味に使われているのですけれども、ここではどういう意味で「統合的」とおっしゃっているのですか。

【国総研】 多分スタートする時に担当者の肩に力が入ったのだと思うのですが、実際は関係者が余りにも横断的にいますよねと。実は港湾の方も相当おります。この複数の主体に対してお互い連携して調整するという仕組みが従来の防災業務計画ではなかった。残念ながら空港とか港湾というのは道路などと違って施設管理者が全部排除して何かするということは実質できないものですから、そういった意味で「統合」という言葉、ちょっと力が入り過ぎて不適切かもしれないのですけれども、当時そういう言葉を使って表題とさせていただいた次第です。

【委 員】 「協働的」というような方が相応しいような気がするのですが。

【国総研】 おっしゃるとおりです。「横断的」とか「連携を踏まえた」とか、そこは評価の過程の中で最終的にどうして行くかご指導いただければと思います。

【主 査】 他にいかがでしょうか。

【委 員】 とても有益な研究だと思いますけれども、最後の「成果の反映等」というフローの中に航空会社という言葉が無いような気がいたしまして、どちらかというとお役所側の対応かなと見たのですが、そこら辺についてはいかがでしょうか。

【国総研】 いわゆる役所、具体的に言いますと羽田の空港事務所という空港を管理している所の業務継続計画が作成されている所ですけれども、この23年〜25年というのは関係者を全部横断的に踏まえて、当然エアラインもその主役の一人として計画を立てる予定と聞いておりますので、そこで今回まさにこれを反映していただこうということで、有効に使っていただけると考えています。

【主 査】 他にいかがでしょうか。

【委 員】 このように非常に包括的にリスクのマネジメントを整理・研究されたということは非常に素晴らしいことだと思うのです。マネジメントと言いますと、そのマネジメントをする主体が必ずいるわけですね。だから、ここではあくまでも国という立場でのリスクマネジメントという形で整理されて来られたということだろうと思うのですが、今後は色々なマネジメントの主体、非常にたくさんの主体が関わって来られるので、それぞれの主体がリスクのマネジメントを出来るような俎上を使っていかれる。それから、その間でのコミュニケーションの確立、時間がかかると思いますけれども、そういうことを今後継続して考えて行っていただきたいと思います。
 もう1点、米国の多発テロが色々な新しいリスクマネジメント研究の発展の契機になったということで進めて来ているのですが、今ホットなWikileaksの問題ですね、情報システムを過度に統合して逆の問題が起こってしまった。ここから5年間は、今起こっているやつをどう考えて行くかということでまた世界が動いていくのだろうと思いますが、日本もキャッチアップというのか、そろそろ先導的にそういうこともお考えいただきたいと思います。

【国総研】 そういう意味では、9・11の時に港湾の方でアメリカ側から提案されてきた脆弱性の評価という項目などを入れていただいていますので、これを空港にも適用してみた所でございます。ただ、おっしゃるとおり、最終リスクを誰が負って、それを誰が配分して、どこで管理して行くのかというのは非常に深い議論だというのは承知しておりますので、引き続きしっかりやっていきたいと思います。

【主 査】 これからの議論をもう少し整理する意味で、研究全体の枠組みをお伺いしたいのですけれども、リスクマネジメントについてはどういうことをターゲットにするのか。ここでは業務継続というのが随分言われていますけれども、リスクへの対応では、復興だとか起きた直後の人命の救助だとか、色々な要素があると思うのです。そのターゲットを何にしたかが第一点です。次にこのスライドの3枚目ですか、「リスクマネジメントにおける課題の整理」という所で色々出て来ているわけですけれども、それをやる時に、計画書にはハードとソフトの手法を使いますと書いてあるのですけれども、この点はどうでしょうか。復興だったら勿論ハードの壊れた所を直さなければいけないという話になりますよね。それと同時に、ソフトであれば、被害分析のツールを整理するとか、予防的にそういうものが起きた時の手順を決めておくとか、あるいは情報のシェアをどうやって行くかということをどのように整えるかとか、色々なツールがあると思います。そうした手法としてハードとソフトの色々な手法を組み合わせるのだけれども、そのどの部分をやったのか。その辺を整理して下さい。

【国総研】 前段のご質問につきましては、正直なところ業務継続計画だけに絞った問題にしております。ただ、前段のリスク分析という所で、目的が業務継続計画という所に絞られてしまうのですけれども、それに沿ったシナリオ分析をする。そして、対象が保安事案であったり、もっと別の事案であっても、手法としてはこれを応用出来るものと考えております。
 後段のお話でございますけれども、ここではソフトの話しかしておりませんが、施設能力の検証のところで、関空、中部空港が受け入れ能力として十分なのかどうかという所で、シナリオによっては不十分な所も出ております。それにつきましては提案をしておりまして、例えば夜間駐機のスポット数を増やすことによって空港の滞留能力を増やせるということで、最後の方の紙にございましたが、そういった提案を関空、中部の方にして行きたい。非常に効率的な投資ではないかと考えております。

【主 査】 何で今みたいなことを聞いたかというと、これは4年前に聞かせていただいて、その時の委員の先生方の期待感が高かった。非常に国際的に色々なことが起こり得る情勢になって来ている、その時に我が国の基幹的な空港とか港湾といった交通インフラのダメージを最低限に抑えて、現在では想定できないようなリスクに対しても対応出来るような、ある種のツールというか手順の様な物が出て来るのではないか、それを非常に期待しますみたいな意見が多かったのですね。それが当初の目的だったと思うのですけれども、どのレベルまでそういうものが達成されたか、一言で言えば、何がこの研究の主要な成果なのかをもう一遍、少し整理して説明していただけるとありがたいと思います。

【国総研】 その期待感の所なのですが、非常によくわかりまして、実はこれはこちらの港湾の方のテロ対策をやった時の条約文のレコメンデーションに結構しっかり書かれております。そこでは、最終リスクを誰が負うのかと。これは原子力事故災害とかで、日本でしたら事業者が無限責任を負うことになっているのですが、それは現実的ではないということで、アメリカはある一定規模以上は政府がリスクを負うという政策判断のようです。ただ、実は日本は、例えば原子力事故災害対策基本法なんかはそういう所まで担保されていなくて、議論が曖昧のままになっております。他方、実際の個別のリスクマネジメントを誰がやるのかというのは、現場を支配している、コントロールしている者がやるべきだということで、これも先ほどの条約文のレコメンデーションに整理されています。その意味では、先ほどの参加環境の整備ということなのですけれども、今回の場合、空港でしたらエアラインが現場を非常に強く支配しております。まずここをしっかり引きずり込むということが実地の課題としてあるのではないかということで、この参加環境の整備という項目を、本来でしたらこの上2つだけなのですけれども、入れてみた所でございます。そういう意味では本来この項目は違和感があるはずなのですけれども、これを入れるということで整理させていただきました。それから、手法的にはリスク分析の高度化ということで、先ほどの最終リスクを負う人間が評価をする。それは日本政府になってくると思います。各国の場合。ただ、そのシナリオに基づいて、共通認識を持ってエアラインを初め参加環境整備と、こういう整理でやって行きたいと思ったわけです。

【主 査】 どうもありがとうございました。では、その他にご質問がありましたらお願いします。

【委 員】 最初の方の説明にあったのかもしれませんが、手元のスライドで見た限りで気になった点を2点だけ申し上げます。
 1点は、空港や港湾自体にはそんなに大きなダメージはないけれどもアクセスする部分にダメージを受けた場合の評価をされたかどうかというのが1点。

 もう1つは、空港に関するご説明が多かった様ですけれども、代替空港というのはもう少しローカルな物も入っていたのかどうか。例えば、昨夜たまたま昭和の空港の歴史を調べていたことから、伊丹か何かで事故があった時に岡山空港が代替空港として使われたということがありまして、そういう最寄りの空港、例えば成田の場合は、使えるかどうかは別として福島とか、いきなり関空に飛ばないで、そういう配分もあり得るのかなと思ったものですから、その辺の検討はどうされたか。 この2点をお伺いします。

【国総研】 後段の方から話しますと、この絵で、実は小さい話だったのであえて書いていなかったのですけれども、福島だとか仙台からも既存便は飛んでおりますよね。実際空席がある場合もありますので、一応それが満席になるということでここでは計算しております。あと、若干の増便が可能かどうかというのは福岡空港を想定しておりまして、これはCIQの方のヒアリングから、ここだったらお客さんが少々増えても対応出来るというのをいただいて、福岡空港は若干乗せさせていただいております。ご存じのとおり、日頃から天候不良とかで、ダイバートというのですか、こういうことはよくあることなので、そこの対応は出来るものと考えております。
 1つ目は、実は空港は耐震化というのは結構しっかりやっておりまして、阪神淡路級が来てもそれほど大きな被害は出ない。確かにシステム関係はあるかもしれませんが、天候がよければ目視でしっかり着陸出来る。そういった中で、これがまさにそうなのですが、関係者ご自身でシナリオをお考えになっていまして、アクセスで完全に孤立化するだろうと。最初のここにピークがありますのは、今成田空港に来ている飛行機がそれぞれの国に帰るだろうというところでこのピークがあって、その間アクセスが駄目なのでお客さんが来るに来れないということで、それに対して供給側もこういうステップで、これはアクセスの復旧を鉄道会社さんとかに成田空港会社がヒアリングしてこういった曲線を作っているという形になっております。

【主 査】 その他にご質問かご意見はありませんでしょうか。

【委 員】 この研究の成果はいつからどこに反映されるのでしょうか。具体的に何年にどこでどのようにということを教えていただきたい。仮にそれが具確定な場合、国総研としてこの成果をもってどのような行動をされるのか。以上、お願いします。

【国総研】 空港につきましては、羽田空港で平成23年、来年から、先程お話しした各エアラインだとかアクセス事業者も含めた統合的な計画を作成しますので、これに直接、国際線が入ったこともありまして、反映していこうと。成田は当然ヒアリングしてやっているのですが、関空、中部につきましては、今これをご説明中でございます。  港湾につきましては、地方整備局がつくっていますシナリオに、もう既に出来た物と今から作る物がありますので、それに反映していただくように整備局と協議する所でございます。
 他方、施設計画は財政的事情があるので、まずはそこに出て行くことなのですが、問題は、参加促進の制度設計などにつきましては、今エアラインの経営はなかなか厳しいものがあるので、いきなり表に出て議論はできない状況にあります。

 そういった中で、では駄目だったらどうするのかという所ですが、まずはやんわりと提言して行くしかないというのが今の状況でございまして、まずはこういった研究資料等で発表させていただいてじわじわ促して行くしかないというのが現実でございます。

【委 員】 リスクマネジメントの主体が日本国政府という話がありました。大規模災害が起きたりテロが起きた時に、最初に官邸の方にどうなっているんだという話が来て、そこから委員会が立ち上がったりすると思うのです。一方で、こういう研究を国総研のある部門が計画的に進めている。これが官邸等と直結していないようでは、十分なリスクマネジメントができていないような気がするのです。私は、少なくとも今の縦割り行政の中では成果が出た段階において、きちっと上まで成果を説明しておく必要があると思うのですけれども、既存の統合計画とか地方整備局の計画に漸次反映させていくというようなことでこの研究の価値が本当に十分に出るのかどうか、その辺が気になります。要は、テーマであれば本当は国総研挙げて官邸と話をするぐらいのことに持って行かないとちゃんとした研究がなされたことにならないと思うのですけれども、いかがでしょうか。

【国総研】 これまた先程の条約等にも出ているのですけれども、どこで足切りするのかと。優先順位があって、このためだけに国の資産を無限大に投入することは出来ないものですから、確かにどこで最終リスクを負う者が、これだけではなくて色々なもの、先ほどの原子力事故災害とかそういったものを踏まえて、どれを優先的に採用して、どこから足切りするのかという判断が必要だということは確かですが、残念ながらそういうシステムが太平洋戦争以来無いというのが現実でして、それはまさに先生方からお願いして世論を作って行く所からスタートするかと思っています。そういう意味では、お前ら不甲斐無いというのはおっしゃるとおりでございますので、頑張って行きたいとは思いますが、よろしくお願いいたします。

【主 査】 今の話は研究のまとめとして非常に重要な所なので、時間が来ていますけれども伺います。要するに、行政のシステムの中にリスクマネジメントするような仕掛けがなければいけない、それがあることを前提にしてこちらでは研究していて、その成果を行政のシステムのどこに反映しますかというご質問だと思うのです。一足飛びに官邸に行かなくても、ここに書いてあるように、港湾局の計画だとか、空港ごとの総合的な計画とか、そういうのがあって、その中にリスクマネジメントというパートがあれば、そのパートの中には、この研究で開発されたような、将来のリスクを予測や、もし起きた場合の対応策が入ってくれば、それは十分生かされたことになると思います。そうなんですけれども、成果の反映の所が個別の羽田とかの話になっている。日本の港湾や空港の運営管理計画の中のどの部分にリスクマネジメントの仕掛けがあって、それは足りているのか足りていないのか、それが整備された時にこの研究の成果が生かされるのか。そういう現実のリスクマネジメントの仕掛けのここに反映しますというような形で説明されれば、この成果がどこに生かされるのかが良く見えるということだと思います。そこがちょっと我々にはわからないので、どこに成果が生かされるのかというのを説明していただいた方が先生方の理解にも繋がると思います。

【国総研】 港湾と空港はそれぞれ大きく2つの系統に分かれております。
 1つは、先ほどの変遷の所で、法律あるいは条約という形でございますが、災害につきましては、災害対策基本法以下、災害の種類は別として、一応統一的な法律が整備されています。ただ、その中では、優先順位をどうつけなさいだとか、そういった統合的な思想というのは正直無くて、それぞれの事態想定のもと計画を立てなさいと。それに対して、本来評価をして最終的にどれを優先しましょうという仕組みは残念ながらない所でございます。

 もう1つ、保安対策といいますか、ハイジャック、テロ関係につきましては、空港はICAOの条約、港湾はSOLAS条約に基づいて、港湾は更に国内法で港湾保安法というのを整備して対応していますが、これは管理テロだとかハイジャックという社会事象に限ってシナリオを作っていまして、一応災害対策基本法はそれをカバーする形にはなっていますが、事故災害だとかそういう名前で項目を挙げているに過ぎない。

 その意味では、実際個別に上に上がっていって、個別の協議の中で、種々の事情から決まった。その時に、リスクを総合的に評価して、どれを優先して、どれを足切りしたというような手法はとられていない、またそういう法令の制度、仕組みは出来ていないというのが実態でございます。

 ただ、若干、港湾保安法の中だけは、条約の方がしっかりしていた物ですから、評価をして優先順位をつけなさいと明示的には書いてあり、そういう回路が法律に含まれています。具体的に言いますと、評価というのが法律に書いてあるのは港湾保安法だけで、他の災害関係の法律は評価の概念が無い物ですから、では誰が評価して足切りをやる、どれを優先するというのが無い仕組みになっております。

【主 査】 どうもありがとうございました。さらに追加のご意見が無いようでしたら、 評価シートの記入をお願いいたします。評価シートに従って書いていただいた物をその後集計させていただくことになります。よろしくお願いいたします。

(事後評価シート回収)

【主 査】 どうもありがとうございました。
 まず評価ですけれども、殆んどの委員の先生方のご意見が、研究の実施方法、体制等の妥当性については概ね適切であった、目標達成度においても概ね目標を達成出来たということでございますので、そのように評価させていただきます。

 これは実は始めた時の事前評価のコメントにもあるのですけれども、ゼロからの出発なので、しっかり研究して良い成果を出して欲しいということで大変高い期待が述べられておりまして、そういう意味では色々な良い成果を出していただいたということだと思います。

 一方、この質疑応答、ご意見の中でもありましたけれども、この成果が空港と港湾のリスクマネジメントの仕組みのどこに生かされるのかということについて是非今後も検討して下さい。

 それから、統合的マネジメント、統合的にやるということの意味合いが良く分かるようにして下さい。

 それから、対応シナリオ、幾つかリスクがあるわけですけれども、具体的なマニュアルの整備など、実際に制度に反映する時に、ツールとしてはっきり見える形にすべきではないか、それからそういう物を含めて航空会社の業務継続計画に反映する様なことが必要ではないかという風に、この成果を実際に反映するそういう仕組みに繋げる所が非常に重要だと。そういう意味では、対象とするリスクや克服の方法の総合化も含めて今後も更に研究をやっていただくのが重要なのではないかという様な意見だったと思います。

 まだ評価の中身としては十分ではありませんが、今のようなコメントをつけて、両方とも概ね適切であったと評価したいと思いますが、委員の先生方、いかがでしょうか。

 それでは、そういうことでお認めいただきました。どうもありがとうございました。

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〈事後評価〉A低頻度メガリスク型の沿岸域災害に対する多様な効用を持つ対策の
評価に関する研究

【主 査】 次の課題に移りたいと思います。「低頻度メガリスク型の沿岸域災害に対する多様な効用を持つ対策の評価に関する研究」についてご発表をお願いします。

【国総研】 よろしくお願いいたします。

〔パワーポイント映写 以下、画面ごとに ・ の表示〕

・ 研究テーマは「低頻度メガリスク型の沿岸域災害に対する多様な効用を持つ対策の評価に関する研究」です。18年度より4年間研究しております。

・ この研究のスタートでございますが、この研究の対象は高潮、津波を考えてございす。こちらに対する防災の考え方といたしましては、従来は、ある防護水準を設定して、それに対応する外力、計画外力に対して十全に防護するということですが、それを超えた場合にどうするかという所で若干思考停止に陥りがちな所があります。ところが、この研究の前に、インド洋大津波、ハリケーン・カトリーナといったものが発生いたしました、これはまずいなと。計画外力を上回る災害への対策も考える必要性があるのではないか、と考えたところがこの研究のスタートとなってございます。
 では何を入れていけば計画外力を上回る災害の対策を考えられるのかということですが、取っ掛かりといたしまして、計画外力を超える災害に対しては海岸保全施設は機能しないわけですので、その他の施設、建物とか植栽とか、そういう施設の減災性能に着目しましょうと。そして、減災性能を有する施設の平常時における効用、こういった海岸保全施設以外の施設の平常時における効用といったものを取り込んで新たな防災の考え方というのが出来ないかという問題意識で取り組んでいます。

 これに基づきまして、まず建物、植栽といったものは本当に減災性能があるのか、有効な減災性能なのかということ。それから、多様な効用、既に平常時の効用と申し上げましたが、そういったものを取り込む方法としてはどうやれば良いのか、行政の方から聞かれるだろうと思われます。ここをまず、プレリミナリーな形で構築するというのがこの研究のメインの目的になっています。

 そして、その考え方を作っただけではまずく、実際に適用して行く為にどうしたら良いのかも問題です。実は、背後へのある程度の被害というのは想定しますので、関係者が広がって来ます。背後の住民あるいは背後の他のインフラ事業者にも広がって来ますので、そういった多くの関係者を取り込んで行く合意形成モデル、あるいは、海岸保全施設だけではない、他のインフラ等の情報も入れていった統合的マネジメントシステム、こういったものの構築方策の検討も行っています。

 そして、減災効果評価の手法の開発といたしましては、シミュレーションと模型の2つの方法で検討を行っています。

・ そのシミュレーションと模型実験ですが、シミュレーションでは、高潮と津波、そして高度に集積している都市としての東京と地方都市、こういうパターンを考えています。こちらは事前にもコメントをいただいておりまして、この4種、2×2で対応してございます。そして、建物、道路の嵩上げ、植栽といったものの減災効果、到達時間の遅延あるいは浸水深の低減というのを出しています。
 実験の方では、若干モデルは簡易なものにならざるを得ないのですが、遡上距離の減少とか浸水深、流速の低減等を解析しています。

・ まずシミュレーションの方ですが、こちらは橘港の事例を紹介しています。最大水位と最大流速の違いを表現し、建物無と建物有りで比較しています。最大水位の方ですが、建物無しに比べて建物有りの方は背後の地域で最大3mの水位低下を確認しています。流速の方では、なし、ありで最大2m/sの流速低下を確認しております。これは1つはモデルの問題であり、実際に建物が建っている地区で、建物無しでシミュレーションするよりも、建物有りでシミュレーションした方がより精度が上がるということで、合成地盤モデルと呼んでおりますが、これを採用するのが良いのではないかということ。もう1つは、仮想的に、建物が無い所に建物を作った時にどれほどの効果があるか、こういったものを示しているものと考えています。

・ もう1つの事例で、道路を高床式にした例ですが、オレンジ色の所を高くしています。

・ 他の道路のすりつきもありますので高くできない所もあって、効果が少し弱くなりますが、現況と高床式にしたものの比較で、背後の所で効果が出てきまして、到達時刻が5分から10分程度遅くなったという結果になっています。

・ 次に東京の方で、これは高潮で、全面地盤を50cmほど上げて、植栽を、粗度で表現して施した時の効果です。

・ 現況と対策をした時の比較ですが、嵩上げした地盤のその背後で50cm強ぐらい効果が上がっています。

・ 次に実験ですが、縮尺は1/100、時間縮尺は1/10で30cmの立方体を配置しまして、遡上距離や浸水深、流速の違いを計測しています。もう少し他にも色々検討していますが、見易さの為に簡単なところで、規則配置30cm間隔で並べた場合、25cm間隔で並べた密集配置、そして不規則に並べた場合を比較しています。

・ その結果、これは遡上距離ですが、青い線が構造物無、その下の方に固まっている線が構造物有りで配置の仕方の違いによるものです。ここはセンチ表記していますが、縮尺1/100ですので、そのままメートルで考えることも出来ます。波高を3m、4m、5mで実施していまして、200〜600mぐらいの幅で遡上範囲がばらついており、この範囲で100mとか200mぐらいの効果が出て来ています。1つのモデルに対するものとして、そういう結果を得ています。

・ 次に水深ですが、青い丸が構造物無し、それに対して、構造物有りが赤、緑、赤四角の白抜きです。当然、建物にぶつかって、波が来てからしばらくは高い所が出てきますが、一定程度過ぎると効果が現れて来るという形になります。
 数値的には、この効果が150mぐらい先から出て来ておりますが、この水位の差がさらに遡上距離の差に繋がりますし、一番効果が出ている所で50cm近く効果が上がっていますので、床上が床下浸水になるという様な所がこのあたりから出て来るということになります。

・ 次に評価手法の構築です。1つ仮想的にモデルを作っていますが、都市的な集積のある所で公園をマウンドアップしています。それによりまして、通常、人的被害あるいは資産の被害でカウントすることが多い訳ですが、更に、計画外力を超えて背後のインフラに被害が出ますので、そこを明示的に扱った場合、災害時の効用は約300億という数字で出て来ております。一方、平常時の効用ですが、立地資産への収益増、あるいは保険料の低減、そういう所まで考慮いたしまして、年間4億という数字がこのモデルでは出て来ています。これを式で表せば、災害時に対して平常時の効用も考えましょうという非常に簡単なものですが、要は計画外力を超える点まで考えるかどうかという所が問題であり、これを考えるようにしましょうというのが今回の提案になる訳です。

・ 先程の効用を計算する時に背後のインフラへの影響というのも明示的に扱わなければいけませんので、こういったインパクトフローも取りまとめました。

・ また、仮想的モデルに対してではありますが、このように便益の帰着構成表を整理しています。項目といたしましては主体と、便益の帰着する先、こういったものを整理してございます。

・ このような作業を経まして、発生確率200年1回の高潮を想定していますが、災害時の効果としたしまして、便益28億円、それに対して総便益105億円という数値が出ています。したがいまして、多様な効用、特に平常時の効用まで拡張した場合、従来の評価に比べて投資限界が数倍以上になる可能性があるということを示せたのではないかと考えています。

・ 一方、これを現地に適用する場合、まだまだ行政レベルでは抵抗があるかなと思うのですけれども、住民、また防護水準をどうするかという所から議論していかないといけません。それをどうしようかということで、合意形成モデルというのを提案しています。信頼を作る所から始めなければいけないということで、CAUSEモデルを参考にして、要はきめ細かくステップを経て合意形成して行くということですが、従来のやり方に対してこういった新たなステップを設けて合意形成をして行く必要があるということを提案しています。

・ 次に統合モデルですが、統合マネジメントシステム、概念の提案ではありますが、他のインフラの情報も入れる必要がありましょう、また、ちょっと文脈が変わりますが、多少施設マネジメントの要素も考慮いたしまして、点検・劣化予測する為の海岸保全施設データベースというのも入れておく必要がありましょうと考え、これらを統合する為に、GISの利用で統合モデルを作って、先ほどの合意形成モデルの中で活用して行こうということを提案させていただいております。

・ この研究を取りまとめるに当たりまして、1つには、計画外力を超える災害に対する備えを検討する1つの方向性、行政の方で被害をある程度受けることを想定した検討というのはなかなか踏み込みにくいのでありますが、そこを何とか踏み込めるようにしようということが1つの目的です。Non-Regret Policyと書いておりますが、後悔しないといいますか、災害が来なくても効果があるという考え方で、他のインフラ、そして平常時の効用を取り込んだ考え方を示した訳ですが、建物の存在や道路嵩上げ等によっての減災効果は多少考えても良さそうですよという結果を出せたのではないかと考えています。他方、今回のモデルでは数百mのスケールで出てきますので、そういう規模で考える必要があるということがわかったということになります。また、多様な効用を定量的に評価する為の手法を提案いたしまして、ケーススタディで投資限界が数倍以上に向上する可能性があることを示したわけで、多少行政の方でも考えてみようかなと思っていただけるのではないかと考えております。
 さらに、実際に適用する際のツールといいますか、闇雲に取りかかって理解もされないということになってはいけませんので、きめ細かく対応して行く合意形成システムを幅広く検討出来るように、統合防災マネジメントシステムのコンセプトデザインを示しました。まだ防護水準をどうするかということではありませんが、環境あるいは利用、それと防護をどうするのか、どういうレベルで考えて行くのかということを、背後の住民を巻き込んで検討を進めて行くというものは実際に行われています。そのうちここでは、当研究室の前任者とか、私も関わったものを紹介してございます。

 また、統合防災マネジメントシステムにつきましても、コンセプトデザインを示した訳ですが、高潮、津波に対する背後のインフラの影響というのは色々な場面で問題視されて来ております。土木学会でもそういった検討をされておりまして、当研究室からも議論に参画させていただいております。

 今後といたしまして、各地整でもいろいろ課題を抱えていまして、例えば維持管理の方でどうして行こうかとか、あるいは本省では地球温暖化対策というのも検討しております。そういった中でこういった考え方を提案して行きたいと思ってございます。

 どうもありがとうございました。

【主 査】 どうもありがとうございました。それでは、委員の先生方からのご質問、ご意見をお願いしたいと思います。

【委 員】 今年の8月から来られたということで、ご自分が関わられた部分が余り無いのかもしれませんが、気になる点を幾つか伺います。
 1つは、シミュレーションの時のモデルの設定の仕方についてなのですが、高床式というのですか、高床化道路ですか、これを設定することは構わないのですけれども、現実に港湾区域ですと大型車両が沿道を利用する場合は、これは非常に問題で、沿道の敷地の嵩上げも同時に行わないと利用性が確保できないという問題があります。ですから、バリアとして堤防のように作るということは可能だと思うのですけれども、港湾区域でこういうことが本当に実現可能かという問題があるような気がします。それが1点。

 もう1つは、建築物が多々あることを想定していらっしゃいますが、建築物の強度はどう評価されているかです。港湾施設ですと倉庫のような非常に簡易な建築が多くて、側面からの力に関してそんなに強度があるとは思えないということで、建物がどのぐらい耐え得るのか、その時の想定の津波から受ける水圧の評価。津波のスピードの問題もありますけれども、もっと問題なのは、これは砕波した時を考慮しているかどうか。つまり、波が砕けるような津波なのか、単にボワっと盛り上がってくる津波なのかで被害状況は全然違うはずですよね。この辺をどう評価されたかがよくわからない。

 というような気がしましたので、もう答えがあるなら伺いたいと思います。

【国総研】 最初の道路での対応ですが、おっしゃるとおり、実際にどういう道路かというのを考えて検討する必要があろうかと思います。ここは実際の道路で考えたというよりも、まだモデル的に考えています。他の道路とのと擦り付きを考えてこのように上がったり下がったりになった訳ですが、もし必要であれば、幹線道路と側道を分けて、側道側を下に通すとかいう対応も可能かとは思われます。いずれにしても、実際の地区での検討では平常時の機能を損なわない様にしなければいけないというのはその通りだと思います。それは実際に検討して行く時に課題としなければいけないと思います。
 もう1つは建物の強さですが、この研究ではそこまで掘り下げる所までは至っておりません。ただ、流体力は重要でございますので、シミュレーション、実験ともに数値は出しています。そういったもので検討して行くようには考えているところですが、シミュレーションについては、まだ精度について、実験との比較もこれからして行かなければいけないと考えており、今の所、研究の到達ステップとしてはご質問いただいた所の手前で終わっているところでございます。

 お答えになりましたでしょうか。

【委 員】 3つほどお伺いしたいと思います。この研究をやっている間でも、例えばバングラデシュに来たサイクロン・シドルとか、ミャンマーに来たサイクロン・ナルギス、それから去年はサモアに津波が来たわけです。こういう事例は災害の知識が行き渡って住民の行動が変わって行く中で新たに起きた災害ということで、大変参考になると思ったのですが、この研究でもそういう最近の事例について研究の中に入れ込むということをされたのかどうかというのが1つ目の質問です。

【国総研】 今のご質問に対して、この研究ではそこまで扱えていません。ただ、ミャンマー、サモアの時には私は現職に就いておりませんで、正確には理解できていないかもしれませんが、つい先日起きたインドネシアの津波では、その前の地震で津波が来なかったが為に避難しなくて被害を受けたという報告を受けております。そこは現地での適用を考える際には十分考慮して行かなければいけないと思っております。

【委 員】 次に、諸外国の事例がオランダ、韓国と書いてあるのですが、これはどちらも高潮です。どちらも津波ではないと思いますので、津波に関してもどこか事例を考えた方が良かったかなと思ったのですが。

【国総研】 実はチリにも調査に行っていまして、その内容は今つぶさにご報告できないのですが、ちょっと入れ忘れております。申し訳ございません。

【委 員】 そういうものを参考にされながら考えられたということですね。

【国総研】 はい。

【委 員】 わかりました。
 最後の質問は合意形成モデルについてです。提案された合意形成モデルは、基本的には社会基盤施設を作って行く時の合意形成モデルを災害施設に置き直したものを提案されたのだと思います。ところが、スライドを見ていますと、別府港の海岸計画とか横須賀港の野比地区が出て来るのですけれども、確かに別府は16世紀末に湾内の地震による大きな津波で、まさに低頻度のメガ災害を経験しているので、例として適切だと思うのですが、野比地区というのはちょっと違います。短期の海岸侵食に対してということなので例としては適切ではありません。ここの合意形成モデルで重要になるのは、極めて頻度が低いものに関しても将来のことを考えれば必要なのだということを住民の方にどう認識していただくかということだと思いますので、その辺をもう少し考えたモデルをこれから作っていただきたいと思いました。

【国総研】 おっしゃるとおりだと思います。別府、横須賀につきましては低頻度メガリスクに関しての合意形成ということではなく、合意形成をこういうやり方で取り組み始めています、我々も関与していますということであります。低頻度メガリスク、あるいは計画外力を超えるものに対してどう考えるかというのは、まだ行政もすぐ真っ向取り組むことは出来ないだろうと思っておりまして、そこは、こういう考え方をとると少し取り組み易くなるんじゃないですかということを、これから行政に伝えて行かなければいけないのかなと思っております。
 よろしいでしょうか。

【委 員】 今の合意形成に関わると思うのですが、頻度は違うと思いますけれども、河川の方で比較的低頻度に当たると思われる洪水に対応する為にスーパー堤防という事業が進められている所でしたけれども、これは事業仕分けでやめたらどうかと言われてしまった訳です。その理由は、数百年かからないと全部できないと。その時にどこまで具体的な議論をされたか記憶はありませんけれども、要するに、起きた時の被害と、それだけの時間を掛けて作るコストと、どっちが高いのかという問題が出て来てしまうと思うのです。今回はこれで研究を終えられたわけですが、こういう施策をとることが効果があるという意味では、費用対効果の議論も当然やらざるを得なくなって来るだろうと思いますので、そこについては何かお考えがあったのでしょうか。

【国総研】 費用対効果に結びつける必要があるということで、今回は効用まで検討した訳ですが、コストについては実際に触れておりません。非常に仮想的なモデルで考えたということもありますし、実際の施設の対応というのは、それこそもっと安くしようと思えば出来るかもしれません。いずれにしても、今回の研究ではそこまで取り入れていない所でございます。ただ、おっしゃるとおり、今後そういった所に広げて行かなければいけないと思っております。

【主 査】 その他にいかがですか。

【委 員】 これは今までの評価のタイミングの時にも申し上げた様な記憶があるのですが、No-Regret Policyというのは非常にチャレンジングなテーマだったんですよね。最初は、これは非常に面白いですねという話を申し上げて、その結論が、今日のお話では結局何だったのかというご説明が無かったかなと思います。平常時でも役に立つという様なご説明をされたような気がするのですが、この研究プロジェクトの中ではもっと広範囲にご検討されたと思うのです。それでどこまで出来たのか、あるいはどこは出来なかったのか、その辺のメリハリの部分をもう少しはっきり教えていただきたいという気がするのです。これは非常にチャレンジングなテーマで、1回のプロジェクトで全部結論が出るとは思えない、あるいは出来たら素晴らしいことだと思うのですが、ここまでは出来たけれどもここまでは出来なかったという評価をはっきりしていただきたいと思うのです。
 例えば、1つは今までの想定を超える超過外力に対してどうやるのか。もしそれがB/Cの中で収まるのであれば、今度はB/Cを変えて行けば良い、外力の想定を変えて行けば良い訳です。B/Cには乗らないのだけれども、もし起こった時に大きな被害が出るというようなことを想定されるのであれば、例えば、ここの話は平常時の、防災のB/Cとしては余り効果が数値としては出て来ないけれども、もし起こったとしたら、平常時の効用が高いのでちょっとお金を余分に付け足すだけでこれだけの効果が出て来るだろうと、ここまでは話が出来るとか、そういう交通整理が必要なのではないかと思うのです。色々な盛りだくさんの研究テーマが全部No-Regret Policyという所で総合化されるような枠組みになっていた様なので、その辺の交通整理をしていただければありがたいと思うのです。

【国総研】 大変根源に至る質問をありがとうございます。
 正直言って、実はそこが、私、来て、どうしてこの研究をしたのか理解するのに苦しんだところであります。幅広く検討する意欲はあったと思いますが、実際の行政への適用を考えた場合、1つ平常時の効用を考えて、こういう考え方は出来ませんかというのをまず作ったというものと考えています。そして、No-Regret Policyについて深めて行くよりも、どちらかというと、研究の中でわかってきたのは、他のインフラの主体こういった危機管理的な情報をなかなか出て来ない、そこは実際の問題として取り組んで行く中で協力して行かないとなかなかそこは進めないという話と、行政も「一部分被害を認めるんですよ」ということはやはりなかなか言えない、そこは実際の問題の中で取り組んで行く方が大事なのかなというのが今感じているところでございます。研究レベルとして深めて行く方から、現地に適用して行く方に少し重心を移してしまったというのが現状だと思っております。

 後段の方も難しいのでございますが、B/Cに収まれば防護水準を上げて行く、それは1つ選択肢としてあろうかと思いますが、一方で、今度は財政との関係も制約として出てくるのかなと感じています。そこで決まってくる防護水準というのは、例えば本省でもこれから検討するのかと思いますが、そこは本研究では中心的に取り扱わずに、計画外力を超えた時にどうしましょうかという所に中心を置かせていただいたというのが実態かと考えております。

【委 員】 この研究は「合意形成モデル」という言葉が出て来るのですけれども、どういう形でこの問題を周囲に説明すると合意形成が出来るかとか、そういう評価まではしているのでしょうか。

【国総研】 そこは、実際の適用まで行っていませんので、評価にまでは至っておりません。これからの取り組みになろうかと思います。

【委 員】 そうすると、こういう枠組みが考えられるんじゃないかという提案をしただけということでしょうか。

【国総研】 そうですね。ただ、過去の事例をいろいろ調べさせていただいて、それでこういうやり方が良いんじゃないかというのを提案したというところまでです。

【委 員】 低頻度メガリスクというと、データの制約から、恐らくB/Cを適用するのが非常に難しいと思います。それを中心に置いた合意形成モデルで本当に大丈夫なのでしょうか。

【国総研】 不安が無いかと言われれば、多分不安はあります。私も行政の立場でこれをやれと言われたら、どうやって取り組んで行こうかというのは色々考えなければいけないと思います。その時に、計画外力で被害を受ける時にどうしましょうかという持ち出し方がポイントなのだろうと思いますし、そこを持ち出せたらもう議論するしかないんじゃないかなというのが今、感じているところでございます。お答えになっていますでしょうか。

【委 員】 低頻度メガリスクへの対応としてはスーパー堤防問題があります。この必要性を国交省はB/Cで説明していますが、こうした理屈はいま社会的な合意というのは今なかなか得にくい状況にあります。今回の研究テーマの成果において、B/Cを核とした合意形成モデルが本当に適切なのでしょうか。
 これは本研究だけではないのですけれども、国総研として自分たちがやってきた研究が実際の場面で反映されないことのリスクに対する意識が薄いような気がしています。研究成果を政策とか社会にどう反映させて行くかという道筋をもう少ししっかり説明していただかないと、事後評価が出来ませんので、その点を是非よろしくお願いいたします。

【国総研】 先ほど的を射た回答になっていなかったと思いますが、B/Cがすべてと考えている訳ではなくて、行政が計画外力を超えた時にどうしましょうかという相談を皆さんにする時に、対応の仕方が何も無いよという訳には行かないので、何か1つ、こういう対応の仕方も有りますよねと示せるものが必要だと考えます。それをとりあえず1つ作ったというところと思っております。
 むしろ、先ほどの合意形成モデルで防護水準をどうするかという所から議論していかなければいけないからこそ、住民の方とか他のインフラの事業者の方とかを入れて、最初から、信頼を得る所、大事だと思ってもらうところから始めなければいけないので、そういう中でB/Cではなくて別の評価というのも出て来るかもしれないとは思います。まさに実際にそういう取り組みに行けるかどうかが大事であり、取り組みに進めるためには、行政にも理解していただいて少しやってみるという所まで持ち込むのが大事と考えています。そこをお伝えして行くのはこれからの課題かと思っております。

【主 査】 今、委員から出されているのは、この研究の非常に核心的な所のご質問なので、これも事前評価の時に出た意見に沿って私もコメントもしたいと思います。事前評価の中で、メガリスク災害に対して減災で対応するのか、それとも施設マネジメント、つまりより強い施設を作って対応するのか、その組み合わせとか方向性を考えてくださいというコメントが付いておりまして、「研究のまとめ」を見ると、ちょうどそれに対する答えの方向性を示しているものではないかと思うのです。
 まず最初に、No-Regret Policyの所は何を言っているかというと、平常時も経済的あるいは住民生活上の便益があるようなものを作れば、現在の防災基準を超えるような物も認められる可能性があるのではないか、社会的に受容されるのではないかと。つまり、施設で対応する時にはそういう考え方を入れる必要があると。これは現在の政策の考え方とは相当違う、一歩踏み込んだ提案なので、そのことを主張するのだったら、もっとしっかり研究しなければいけないような中身だと思うのです。

 下の合意形成システムとか統合防災マネジメントというのは、まさに減災に非常に関わる部分で、施設では防ぎきれないような災害が来た時に皆さんにどう逃げてもらうかとか、そのための準備をどのようにやってもらうかという部分なので、そのための一歩として、合意形成とか、あるいはハザードマップとか、そういう計算をしましたということだと思うのです。

 そうすると、「研究のまとめ」に出て来ているNo-Regret Policy等をまとめたら、結局メガリスクに対してはどういうストラテジーで行くと提案出来るかというのが、事前評価時の時に期待されたものだと思うのです。その要素になるような成果はいろいろ聞かせていただいて、先ほども今後も研究が必要な部分だと思いますというようなお答えもあったので、是非そういう方向に進めていただいたら良いかなと思います。

 自分で質問して自分で答えを言ってしまったみたいな所があるのであれですけれども、何かコメントはありますか。

【国総研】 おっしゃるとおりかと考えます。トータルで考えると、後者の方でしょうか、やはり現実の問題で適用して行かないと危機管理の情報も出てきませんし、どうやって守るかというのは行政だけでは決められないというのがこれの大事なところだと思います。後段まで入れてどういうストラテジーで行くかというのは課題かなと。そこはまさに行政の方の各委員会でも情報提供させていただいて、ちょっと取り組んでみないかということをやって行かなければいけないのかと思っています。

【主 査】 どうもありがとうございました。 それでは、評価シートに書いていただけますでしょうか。

(事後評価シート回収)

【主 査】 どうもありがとうございました。
 評価の結果は前に示されている通りですけれども、ちょっと散らばっている面がありますけれども、研究の実施方法、体制等の妥当性については概ね適切であったと評価させていただきたいと思います。目標の達成度については、余り目標を達成できなかったというご意見も3名いらっしゃるわけですけれども、2.5という評価が無いものですから、概ね目標を達成出来たとさせていただきたいと思います。

 この目標達成度のところで余り目標を達成できなかったというご意見が出た理由として幾つかコメントが書いてありまして、そのことを特に申し上げておきたいのですが、合意形成モデルとか統合的マネジメントシステムの概念だけではなく、もう少し具体化を進めていただきたいという様なことが何名かの先生から指摘されております。

 それから、津波リスクのシミュレーションとかそういうことをやっておられるわけですけれども、計画外力を上回る災害の全部から守るのは難しい、だから、諦めるものは何で、何を救うのかという、優先順位づけも必要ではないかと。その際に、今日の質疑応答ではコストベネフィットの議論に終始したわけですけれども、このインフラ投資の効果の中に人命救助も概念として入れる必要があるのではないかというご指摘がありました。一方、長期になるような事業については対策のコストベネフィットアナリシスも十分やるべきであるというようなことでした。今回の研究は、その問題を整理して、入り口の所を整理していただいたということなので、その先、さらに施策に反映出来るように具体化を期待するというような意見であったと思います。

 これもコメントが長くなったのですが、今回はそのような趣旨を含めて評価のコメントを書きたいと思いますが、委員の先生方、今の様なことでよろしいでしょうか。

 どうもありがとうございました。それでは、次に移らせていただきたいと思います。

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(3)平成23年度開始予定研究課題の事前評価

〈事前評価〉B沿岸域の統合的管理による港湾環境の保全・再生に関する研究

【主 査】 それでは再開させていただきます。
 今度は「平成23年度開始予定研究課題の事前評価」ということで、「沿岸域の統合的管理による港湾環境の保全・再生に関する研究」についてご説明をお願いします。

【国総研】 新規のプロジェクト研究の内容についてご説明させていただきます。

〔パワーポイント映写 以下、画面ごとに ・ の表示〕

・ この研究を立ち上げたいと思いました背景ですとか問題意識ですけれども、現在、東京湾、伊勢三河湾、大阪湾、広島湾において、海の再生プロジェクトというものが再生行動計画を策定するという形で進められております。東京湾が平成24年度、すなわち25年に第1期の終了期を迎えます。次期行動計画の策定の議論がまだ進んでいない所ですが、再生の為の行動計画をみんなで協力して盛り上げて行こうという機運がなかなか高まってきていないというのが正直な所でございます。多様な人達がなかなか共通の目標に向かうことが難しいということを見回した時に、多様な利用・利害が錯綜する海辺の保全・再生に使える考え方、技術は無いのかと見回しました所、ご存じの通り、海洋基本計画の中で、または東アジアにおける環境計画のパートナーシップの中で、統合的な沿岸域の管理を進めて行きなさい、その為にはこのような技術がありますよという様なことが取りまとめられつつあるということでございます。この考え方を環境管理の面に応用することで、益々の海の再生プロジェクトの推進に役立つような結果が出せないかと思いましたのが、この研究のスタート地点でございます。

・ 即ち、一番大きな問題としては、海辺の自然再生の目標が共有されていないという所にあるのではないかと考えました。目標が共有されていないが為に、目標がわからないから参加しません、だからプロジェクトが停滞します。また、わからないものには協働が出来ませんということで、悪くすると事業への抵抗すら発生してしまう状況にある。
 なぜ目標が共有されていないのかという所を振り返りますと、自分たちの問題として、例えば東京湾ですけれども、東京湾を取り囲む海に面した市町村・県なりでは意識が少しずつ高まっている所がありますが、まだまだ海に近付けないという様なイメージということで無関心なのかなと。また、海の中というのは直接見えないものですから、複雑・未解明な部分についての理解が及ばないのではないかと考えています。また、開発そのものへの敵対心という様な物も根っこにはあるのではないか。それは、この事業が何の役に立つのか、どういう所に環境的に役に立つのかという所の説明が明快でないという反省がございます。海洋の仕組みと事業の効果を結びつけるような施策自身のプロセス、また問題構造といった物の明示が不十分なのではないか。この問題意識、問題の解析から見ますと、例えば海辺の自然再生の目標が共有されるということであれば、自然再生への取り組みが正のフィードバックを持って推進して行けるのではないか。

 そのためには、この一番下に書いてございます3つ、海洋環境の仕組みの理解、プロセスの問題構造の明確化、事業効果の提示といった様なことを解決して行くというのが研究テーマになるのかなと思っております。

・ 統合沿岸域管理におきましては、まず統合沿岸域に関わる非常に多くの方たちが情報を共有することが大切ということで、統合的な情報管理システムの確立が提唱されています。それは、例えば都市から出て来る下水排水により大腸菌がどのように広がっているのか、それが海域に対してどんな影響を与えているのか、またそういう影響を鑑みた時に海域の利用はどの様にして行くべきなのか、最終的にはこういった海域利用の区分図のようなもので統合的な管理を進めて行ったらどうかというご提言がされている所でございます。我々も最終的に、例えば港湾域を含む海域の利用マップ、また特性のマップといったようなものを作れたら良いと考えております。

・ それを支える個別の研究課題ということで、先ほどのツリー図の一番下にございました、環境の理解を助けるツール、環境の特性、問題解決のプロセスを明示するツール、事業を評価する手法の構築といった3つの観点から研究を進めて参りたいと考えてございます。
 本日は、例えば1番の課題については、環境を可視化する、マッピングするという様な研究の手法、また、問題解決のプロセスを見せるために概念モデル化という様な物のご提案、そして指標生物を用いた包括的な環境の評価といった考え方について少し取り組んでいる所がございますので、ご紹介したいと思っております。

・ これは、東京湾の海底のどこに泥が溜まっているか。実際に測っているのは、超音波の水深計で泥の含水率を測っています。含水率の高い所というのは即ち細かい泥が溜まっている所で、それを黒い色で示しまして、砂っぽい所が白いということでございます。これで見ますと、都市からの排水、また東京湾の中の再生産で生成された、腐泥に近い、ヘドロに近い泥が湾奥に溜まっているということが見て取れますし、だからといって東京湾全体がベタっと汚れているわけではなくて、水際線をよくよく見ると白い所も点在しております。こういった所が自然再生の拠点になるのではないかと。それから、平均値で東京湾を語るのではなくて、こういったマップを用いて東京湾の環境について見て行くことが大切かなと思います。

・ また、水際線というのが自然再生の核になる場所と我々は考えております。運河の中、都市域の中で存在している運河ですから、皆さん、市民の方も国民の方も常日ごろ見ている運河ですけれども、実は水の下がどうなっているかというのはよくわからない。
 これは、水の中でソナーで調査して、陸上は3次元のレーザーで調査した地形図を重ね合わせてご覧いただきましたけれども、普通は運河を浚渫している、護岸も直立だといった物の縁には、砂が溜まっている所、泥が溜まって地形がちょっとでこぼこしている所、橋の橋脚の間に生き物が棲めそうな空間が残っているのが見えて来ましたり。護岸構造が真っすぐしているように見えて、実は海中では杭式の構造になっていて隙間が空いているという様なことも見て取れます。こういった情報を基に、どこら辺から環境の再生に取り組めるのかという様なこと、また水の中の環境についての理解を深めていただけたらと思っています。

・ では水の中でどんな問題構造を持っているのかというのを解決するために、昨今では数値計算の手法が発達しまして、流れのモデルもあれば、生態系のモデルもある。ただ、その中がブラックボックスになってしまっているので、インプットした結果が計算結果として出て来ても、何でそうなっているのかという所に理解が及ばないということで、問題がどのように連関しているのかという様なことをマクロな視点でモデル化する。数値モデルはまた別に走らせますけれども、この数値モデルで計算している内容はこういうものですよと。例えば、生態系サービスとして、海域の中で散歩に適した海域がどこにあるのか、ごみが漂着しない場所はどこなのか、それは何でなのか、恐らく風による循環、湾内の循環、さらにはそのごみがどこから出て来るのかといったことを符号化して、その現象が起こっている、そこら辺の事象をご説明するというのがこの概念モデルの肝でございます。

・ そして事業の効果を分かり易い指標で見ていただく。例えば東京湾は、昭和30年代ごろにはハゼ釣り船が毎日これだけ出て、ハゼを釣っても釣ってもまだ釣れるというような状況であったとお伺いしております。このハゼが何でここにいるのか。ハゼは1年魚で海で生まれて、川を遡って稚魚時代、幼魚時代を過ごし、また海に戻ってきます。ですから、東京湾の海の中だけではなく、川も含めて、運河部も含めて汽水域の環境が正常に保たれているということが、ハゼがいることに直結している。そういう視点で包括的な、水質だけではない、流れだけではない評価の指標が出せたらと思っております。

・ これだけ場の広がり、事業の広がりある研究テーマになりますので、我々で中心的に行いたいとは思っておりますが、様々な所内・所外の研究者との連携を大切に研究を進めて行きたいと思っています。

・ この研究ができた暁には海の再生プロジェクトの次期計画策定に活用されたら良いなと期待して本研究テーマを提案させていただきました。 ありがとうございます。

【主 査】 どうもありがとうございました。それでは、新規の研究プロジェクトの提案ですので、ご質問あるいはコメントがありましたら、お願いいたします。

【委 員】 表題では「沿岸域の統合的管理による」と書いてあるのですが、ご説明いただいた内容は、沿岸域に関する情報の統合的管理に見えるのです。情報を集めて共有化しましょうとか、解析結果を共有しましょうとか、これ自身は志として非常にわかるのですが、「沿岸域の統合的管理」というのはどういう内容を意味するのかがよくわからなかったというのが1点です。
 それから、目的として海の再生をやりたいという所ははっきりしていると思うのですが、そのために現状でどういう課題が未解決で、それに対する取り組みの体制というか仕組みがどう整っていたりいなかったりしているのか、なぜそれが進まないのかという課題の分析とこの情報の統合的管理がどう関連して、こういう情報の統合的管理を行えばどう進むのか、そこがよくわからなかったので、ご説明していただければと思います。

【国総研】 ご質問ありがとうございます。
 1つは「統合的管理」のイメージですけれども、例えば途中で絵が出て来ました東南アジアにおける環境管理のパートナーシップで提唱されているような統合的管理といいますのは、まさに1つの大きな組織が統合的に各分野にまたがった管理を実現して行くというような考え方で進められております。ただ、恐らくは、日本の今の政府の仕組みから考えて、水産なら水産、環境なら環境、港湾の開発なら港湾の開発といった様に各セクションに分かれているものを全部もう一回統合的に見るセクションを作るのは非常に難しいのではないかと考えています。

 そこで、何が問題になっていて、何を目標にしたら良いのかという大きな目標策定の部分で統合的に取り組めたらよろしいのではないかと。その為に、まさにご指摘いただいたように、まず情報の統合をして、その結果を、各分野に分かれて、その目標を解決する為には何をしたら良いのかという風に各省の取り組みに反映していただく。パルテノン神殿方式と我々は呼んでいるのですが、大きな目標を上に屋根として載せて、それを支えているそれぞれ、水産の分野であり、港湾の分野であり、経済産業の分野でありといった様な、そういう統合を目指すということがございます。その為に全員で共有出来るものはまず何なのかということから、環境情報の統合化という所に重点を置いております。

 そして、現状の問題、今東京湾で何が問題になっているかという様なことを非常に端的に申しますと、水質は余り良くなっていない、だけど決定的に悪くなっているわけではない、だけど生き物は痛めつけられていて、赤潮だとか貧酸素水塊だとか、生物の大量死に繋がる様なイベントがどうしても残っている。平均的には悪いけれども、新しい生物が水際線だとか湾口部に近い所では見られて、回復の兆しもある。良い所も悪い所も見え始めている。そして、それがどうして起こっているのかという研究も進み始めているという状況でございます。ご指摘のとおり、その問題解決でどこまで話が進んでいるのかというのをきちんとレビューしながら、次の評価はどういう軸で評価をしたらよろしいのか、またどういう情報を集めたらよろしいのかという所に反映させていかなければいけないというのは肝に銘じて研究を進めたいと考えてございます。

【委 員】 様式B(事前評価用)という資料の3ページ目に年度計画と研究費配分が出ています。総研究費は4,000万円のはずでしたが、研究費配分を見ると5,000万円と1,000万円で合計6,000万円となり、計算が合いません。また研究費が0円なのにちゃんと研究が出来るという項目もあるのですが、この意味について説明してください。

【国総研】 申し訳ありません。様式の不備でございまして、合計値が合わないというのは、個別の金額の方が正しくて、総計値4,000万と書いてあります所は6,000万に直していただけたらと思います。そして、この研究費につきましては配算がほぼ確定しているものだけを書いてございます。今の時点で平成24年まで配算が決まっている研究費だけを書いておりますので、この研究テーマを進めてよろしいというお墨付きをいただいた暁に後半の残りの研究テーマについての予算要求を継続して行っていくということで、今ついているお金とこの研究に必要なお金が表示されているわけではないという所はご理解いただきたい所です。また、この表の私の書き方の不備でございます。

【委 員】 どの研究に対して幾らかになるのか、という点についてはどうなっているのでしょうか。

【国総研】 1番の研究テーマについては総額6,000万で、5,000万配算してほぼ8割方取り組めるという所でございます。2番目の研究テーマにつきましては、既についているお金が1,000万ありますけれども、これでは完結できないで、恐らく倍ぐらい、2,000万ぐらいの総額が必要と考えております。3番目の包括的な評価手法に関しましては、まだ全額幾らかかるのか積み上げ切れていない所ではありますが、2番目の研究テーマと同額ぐらい、総額で2,000万ぐらいの研究費を投入したいと希望はしております。ただ、決まっていないということから0と書かせていただいている所でございます。

【委 員】 わかりました。例えば最初の国際交通基盤は4年間で3,000万円、低頻度メガリスクはこれまた4年間で約4,000万円。今ご説明のあったものは6,000万円ないと出来ないということですが、その辺が効率的なのかどうなのかと特にこの研究は多くの市民を巻き込んで、また他の主体の協力も得て進めていますので、もうちょっと上手に研究作業と研究費の分担をやれば、もっと低予算で研究できるのではないかという印象を持ちます。

【主 査】 確認ですけれども、同じ様式B(事前評価用)の表紙の「総研究費(予定)」というのが4,000万と書いてあるのですが、ここも6,000万にする必要があるということですか。

【国総研】 はい。

【主 査】 更に、2番目の課題は1,000万ではできなくて、もう1,000万ぐらい必要。それから、3番目の課題も合計2,000万ぐらい必要ということになると、今見えている金額は6,000万で、更に増える可能性があると考えれば良いのですか。

【国総研】 はい。

【主 査】 わかりました。しかし、この様式Bの書き方というのは、当初2年間についてわかっているものを研究費とするのでいいですか。事務局の方で何かありますか。

【事務局】 通常は4年間の総額の想定を書くことになっていまして、すみません、そこはチェック漏れでございます。

【主 査】 では、評価ですからどういう予算額に基づいて意見をいえば良いのかということがあるので、古川さんの方ではここを幾らにする必要がありますか。

【国総研】 総額につきましては9,000万にしていただきたいと存じます。

【主 査】 9,000万にして、3ページの表についても、研究費総額が9,000万で、第1の課題が5,000万、第2の課題が2,000万、第3の課題が2,000万、それでよろしいですか。

【国総研】 はい。

【主 査】 では、それを前提に議論をお願いいたします。

【委 員】 研究の目的は、海辺の自然再生の目標を共有する、そのためのツールを作るということの様に思いました。そうなると、この研究はコンセンサスビルディングの研究です。合意形成をどうやって図って行くかという研究になると思うのですが、どうも全体として、情報がきちんと行き渡れば理解が深まってゴールに近づくという論調に見えるのです。基本的には専門家の側に専門的な知識とデータがあって、それを他の人にきちんと伝えさえすれば合意形成はなされるというコンセプトだと、かつてのデフィシットモデルに相当します。知識は専門家の方にあって、それを一般市民に正確に伝えることが専門家の役割であって、それを受容することによって一般市民の理解が深まりゴールに近づく、これはコンセンサスビルディングの議論で言うとデフィシットモデルという旧世代に属するモデルに沿っている気がするのです。そうではなくて、ある協働的なプロセスの中で合意形成がなされて行くのだという様なことが読み取れなかったのです。1つの可能性として、これは異なるディシプリンの専門家間の合意を形成する為のツールであって枠組みであると考えると整合するかなという気もしたのですが、この研究と一般市民との関係みたいなものをもう少し説明していただければと思います。

【国総研】 ありがとうございます。
 研究の1つの出口として、異なる専門家の間で情報をきちんと共有しましょう、その必要がありますというのはおっしゃるとおりで、それも1つの目標にしておりますが、我々が考えているのは、デフィシットモデルでちょっと古典的な手法ではあっても、どういう形でデータを市民の方、意思決定者の方々にお伝えするのか、またどういう物をお伝えして、どういう物はお伝えしないのかという様な、研究者の側、データを持っている科学者の側でのスクリーニングみたいな物がもう少しかかれば、古典的な情報共有という物が合意形成にもう少し役立つのではないかという考えを私は持っているのです。例えば環境のマッピングで、どこに泥が溜まっているかというのをきちんと情報共有して市民の方にお伝えする、例えば含水率が60%なのか62%なのか102%なのかといったものを、あの図を描くのにおよそ500点の調査点があるのですが、500点のすべてのデータをお見せするのがよろしいのか、それとも先程みたいに少しなだらかなコンター図でお示ししたら理解していただけるのか。恐らく言いたいことによって、また判断いただきたい、合意形成していただきたい内容によってデータの見せ方はかなり変わった方法になるのではないか。その為のツールとか手段が実は今ものすごく増えて来ていまして、3次元的に見せるというのも、テレビも3次元化している様ですので、そういった形でお見せするということもありましょうし、2次元の中でどれだけ単純に示せるかという知恵も少しずつ貯まりつつあるということで、実は市民の方への、良い言葉がすぐ思い浮かばないのですが、正確なデータの伝え方と言いますか、データの伝え方その物についての突破口が何かあるのではないかと考えている所でございます。

【委 員】 ここから先はきっと見解の違いになってしまうのですけれども、一般市民の常識として、科学的なデータが示された場合、そこには必ず不確定性が含まれている、その不確定性も含めて判断出来るようなデータが示されない限り信用出来ないという様な概念があると思います。丸めてしまうと不確定性がさらに不明確になってしまうという点があると思いますので、色々な工夫はあると思いますけれども、データの出し方には注意されることが必要だと思います。

【委 員】 今のお話の延長かもわかりませんが、やはり「統合的管理」という言葉がキーワードだと思います。今日の報告の中で、統合的管理という言葉が何回か出て来ましたけれども、このプロジェクトも統合的管理を志向されており、何が統合的管理なのかを議論の中心に置いてプロジェクトを進めていただきたいと思うのです。この研究の計画を拝見すると、ある意味で要素技術を中心に開発されておられるが、これが統合的マネジメントに向かってどう総合化されて行くかという話がどうも薄いかなという感じがあるのです。むしろ、統合的マネジメントの研究を最初からスタートされて、その一環として要素技術がある、表題からするとそういう研究プロジェクトかなと思うのです。特に環境マネジメントの話になってきますと、many hands and many eyes、多くの人の手によって行われて、多くの人が評価するというマネジメントの問題になるのです。だから、1つの部局あるいは機関が進めていけば良いという問題ではない。このmany hands and many eyesのマネジメントの統合化というものがどういうことかということを常に議論の中心にしていただきたいと思うのです。
 それで、目標の共有化というような話、合意とかありますが、非常に困難ですよね。色々な人が色々な認識を持って、みんなが完全に目標を合意出来るような状況というのはむしろ怖いというか。色々な認識がみんな違う。例えば生物の話にしても、ある人は非常に漠然と抽象的なイメージで、ある人は非常に具体的な話を持っている。どちらの見方が正しいかというと、どちらも正しい。そういう認識はバラバラだということを想定した上で、それでもマネジメントをきちっとして行かないといけないというのがmany hands and many eyesの基本的なスタート点なのです。特に環境の問題というのはそこが非常に表に出て来るという所を常に意識していただきたいと思います。

【主 査】 もう時間が来ております。今、良いまとめをしていただいたので、ここで議論は切らせていただきまして、評価シートに記入をお願いいたします。 ありがとうございます。
 書いていただいている時に、全く別の話で申し訳ないのですけれども、この沿岸域の統合的管理は1990年代の終わりから今世紀の初めにかけてアジアで非常に進みまして、例えば韓国も統合的沿岸域管理の仕組みを持っていまして、水産漁業庁だったか何かが全部管理している。中国もそういうものを持っていまして、中国の管理はどうなっているかというと、沿岸域を全部ゾーニングして、ここは開発地域、ここは環境保全地域とやって、更に領海・領土の管理もそれに入っているのです。そうすると、国総研ですから、沿岸域の統合的管理というと、環境は勿論ですが、資源管理とか利用活動、利用計画、それから領海・領土の管理とか、全部を考えないといけなくなる。何で日本周辺の海がこんなに波だって来ているのかというと、1つの原因は各国が自分たちの管理の枠組みをはっきりさせたからだと思うのです。ですから、この環境を中心にした管理というのは非常に重要なテーマだし、ずっとやってこられた実績もあるのですが、もうちょっと広い視点の沿岸域管理というのも非常に重要なテーマになっているのではないかと思います。「沿岸域の統合的管理」を、是非そういうのもプロジェクトとして考えていただいたら良いと思います。

(事前評価シート回収)

【主 査】 ありがとうございました。
 実施すべきという意見が5人、一部修正して実施すべきという意見が3名でございます。ですから、結論としては実施すべきということだと思います。
 ありがとうございます。
 しかし、中のコメントを読ませていただきますと、「統合的」ということの意味に対して、行政と住民とか、構造物と生態系をうまく折り合いをつけるべきではないかとか、マネジメントの視点をしっかり入れるとか、研究計画の中の対象をもっと具体化すべきであるとか、個々の3つの項目の目標は出ているのだけれども、全体的目標、全体として何をやるのかということを明確にすべきというような意見、それから予算に対するコメントもいろいろありまして、予算を精査して必要な金額をきちんと考えてほしいというようなコメントがございます。ですから、実施すべきと判定いたしますが、そのような要望が色々出ているということを前提にお考えいただければと思います。
 ありがとうございます。
 そういうことでよろしいでしょうか。―どうもありがとうございました。

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(4)平成23年度開始予定研究課題の報告

C港湾地帯における高潮被害評価と対策に関する研究

【主 査】 それでは、4番目で、報告の事案について1件ございますので、よろしくお願いいたします。

【国総研】 それでは、「港湾地帯における高潮被害評価と対策に関する研究」についてご報告させていただきます。

〔パワーポイント映写 以下、画面ごとに ・ の表示〕

・ 港湾地帯とございますが、特に港湾特有の堤外地に着目した研究でございます。

・ 港湾では海岸堤防で背後を守るわけですけれども、その前に荷役作業等の関係で堤防で守られていないエリアがございます。こちらは、基本的には高潮が起これば貨物はその前に持ち帰るという認識がございます。それで、背後地域の被害については資産額、被害率といった物で評価されますが、前面については基本的に守らないという認識がございます。
 それに対しまして、例えばこれは名古屋港でございますが、この赤い防護ライン、海岸堤防がある前面にこれほどの埋め立てが進んで来てございます。そして最近では、水島港、三河港で実際にコンテナヤードを海水が洗うという様な被害が出て来てございます。また一方で、経済のグローバル化の中で港湾を通る貨物あるいはそこでの生産活動といった物がサプライチェーンの一部という形になって組み込まれて来ていまして、その港湾での重要性が高まって来てございます。

 そういった背景において、今回、港湾貨物の被害など港湾特有の高潮被害評価手法の開発、そして港湾地帯への被害を軽減する為のハード・ソフト対策の検討が必要という問題認識を持っている所でございます。

・ 7月に事項立てについての審査でいただいているコメントがあるわけでございますが、基本的には実施すべきと評価いただいた上で、実施に当たっては港湾堤外地の位置付けや法制度などに留意して進められたいというコメントをいただいております。

・ これを踏まえまして、研究の概要とございますが、研究フローといたしましてはこういうフローを7月にもお示しさせていただいておりますが、まず港湾堤外地の状況把握と課題の整理。現状の把握になりますけれども、港湾の実態調査、青字で今回少し加えさせていただいていますが、実際の立地と活動の状況、そしてそこに立地している事業者のヒアリングが重要だと考えてございます。これらの情報をいろいろ集めまして、現状における権利義務関係を整理したいと考えてございますが、港湾にはいろいろ種類がございますので、港湾の類型化、課題の整理という作業をして行くことを想定してございますが、制度面を含めた防護水準に係る情報をここでしっかり整理していこうと考えてございます。
 それを踏まえまして、港湾堤外地における被害評価手法の開発、特にここを通る貨物が被害を受けた時の、1つの港湾だけではなくて、他の港湾への影響等も含めた経済的影響、あるいはそこでの生産が被害を受けた時の影響、これを捉えるのがこの研究の一番大事な所かなと感じてございます。

 一方で、では対策はどんなのがあるのと。こちらはモデル的な検討になりますので、網羅的とは参りませんが、体系的に整理いたしまして、これを踏まえてどう評価するかというのは連携して研究していきたいと思っております。

 そして最後、「3年間の取りまとめ」といたしまして、必要な制度に対する検討、そして政策提言まで漕ぎ着けて行政への提言という所に持って参りたいと考えてございます。

 説明といたしましては以上でございます。

【主 査】 ありがとうございました。
 私から一言補足させていただきたいのですが、今お手元にある資料Cの2枚目を見ていただきますと、これは実は今年度の第1回の審査の時に評価をしていただいて、基本的には実施すべきとなった課題です。その時に、特に、堤外地だから制度の枠組みや防災の基準が決まっていない、それを決めて今後の制度改革や港湾の管理に生かすという所までやってくださいという意見が出て、それを含めていただいたので実施すべきという評価にさせていただきましたと。そのことは文書でお伝えしましたが、今日の会議で改めてご紹介して、ご報告するという趣旨でございます。

 そういうことですので、もう一遍評価をしたということなのですが、さらに今の報告に対して何かご質問とかご意見がありますでしょうか。―よろしいですか。

 それでは、もうこれはそのように処理させていただきましたので、ありがとうございました。

 今日の第三部会で担当する研究課題の評価はこれで4件すべて終了でございます。今日評価いただいた評価書の作成については、先ほどパワーポイントで見せていただいた評価結果とコメントを取りまとめて評価の報告書を作成したいと思います。

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【主 査】 この評価書につきましては、主査とご相談の上最終決定させていただきます。議事録につきましては、別途委員の皆様方にもまた連絡させていただきますので、よろしくお願いいたします。最終版の報告書につきましては、国総研資料として、あるいはホームページ上に公開いたします。

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【事務局】 それでは、最後に所長よりご挨拶申し上げます。

【所 長】 本日は早朝から長時間、いつもの通りですが、熱心なご指導を本当にありがとうございました。今日はたくさんご指導いただきましたので、これを踏まえてまた運営して参りたいと思います。
 特に大きな課題とかチャレンジングな課題は、始めてみてちょっと方向が違ったかなと思うことが恐らくかなりあるかと思います。そういう物をどうやってきちっと押さえながら積み重ねて行って、最後まで持って行くかというのが非常に大事だなと個人的に思いましたので、今後ぜひ参考にさせていただきたいと思います。

 もう1つは、この時代ですから、使った金額に対してどんな成果を出したかというのが非常に厳しく見られている。それに対してちょっと脇が甘いなという反省も個人的に持ちました。

 ぜひこういったことを生かして今後進めて参りたいと思いますので、引き続きご指導のほどよろしくお願いしたいと思います。

 本日はどうもありがとうございました。

【事務局】 以上をもちまして平成22年度第5回研究評価委員会分科会(第三部会)を閉会いたします。本日は誠にありがとうございました。

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