評価の結果
本評価結果は、平成15年度第1回、第2回及び第3回国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会における審
議に基づきとりまとめたものである。
平成16年2月25日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会
委員長 虫明 功臣
(1)「土壌・地下水汚染が水域に及ぼす影響に関する研究」の評価結果
【総合評価】
地域にとり流れている水はとても重要で貴重なものであることから、それに総合的に取り
組んでいくということは重要であり、本研究は、国総研において重点的に実施すべきものと評
価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
実施に際しては、関係研究機関との連携を適切に図ること、研究の方法論を明確にすること、
予防策や政策への展開に関してリスクコミュニケーション、マップの使い方を練り上げていた
だきたい。
さらに、この研究結果をもって社会制度にどう還元していくかが重要である。
また、河川管理という枠組みにとらわれずに広く土壌・地下水汚染の視点に立って進めるこ
とは、パブリックアクセプタンス、アピール力という点から重要であり、枠にとらわれすぎな
い研究を期待する。
研究目的・目標をよりアピール力のある形で設定して、積極的に進められたい。
なお、研究を進めるにあたっては以下の点についても配慮されたい。
- 汚濁源、境界条件をどう設定するかが非常に重要である。
- どういう場合にどういうことが考えられるかのシナリオのパターン化が重要である。
- 基礎的な部分は大学等他機関に任せる等、基礎的な研究に終始しないようにうまく連携を
とって研究を進められたい。
- 試験フィールド等については一般化が図れるように十分注意されたい。
- 土壌・地下水汚染問題は開発行為や建築行為とも関連が深く、土地利用規制へのフィード
バックが考慮されることが望ましい。
平成16年1月7日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第1部会主査 石田 東生
(2)「社会資本整備における合意形成手法の高度化に関する研究」の評価結果
【総合評価】
今日の社会資本整備において、非常に重要な課題であり、研究の必要性は高い。また、合意
形成のプロセスの提案やコミュニケーション技術の整理、データベースの構築等について大いに貢
献することが期待される研究であることから、本研究は、国総研において重点的に実施すべきもの
と評価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
合意形成ありきでなく、社会資本整備にとっては地域のニーズを重要視するというスタンスを忘
れずに研究を行うよう注意されたい。
社会的関心の高い大規模事業だけでなく、地域に密着した細かい事業をも研究対象とできること
が望ましい。
さらに、可能であればこれまでの研究成果・事例のレビューをした上で、現在提案されている合
意形成プロセスの評価方法の峻別、その評価方法の提案を期待したい。
段階的な意思決定や国土計画における社会資本の総合的マネジメントを視野に入れた事業プロセ
スへの展開を期待したい。また、平時と災害時の合意形成のあり方についても大きな課題であり、
これらを考慮に入れて、研究を進められたい。
なお、研究を進めるにあたっては以下の点についても配慮されたい。
- 全体を束ねている研究であるので事業プロセスへのフィードバックも考慮されたい。例えば、
段階に応じて何を決めるかや、どのような情報を提供するのかといった提言につなげることを期
待する。
- 合意形成プロセスは単独であるのではなく、事業の計画プロセスに大きく依存している。合
意形成プロセスと計画プロセスが両輪で進んでいることを念頭に置いて検討されたい。
- 事業特性を考慮することが重要であり、共有化された技術・知識を活用すべき場面と固有の
技術を重視すべき場面があるので、それらのインターフェースをよく検討されたい。
- 事例の収集にあたっては失敗例の収集も望ましい。
- ケーススタディと平行してコミュニケーションの理論面の整理も期待する。
平成16年1月7日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第1部会主査 石田 東生
(3)「公共事業の総合コスト縮減効果評価・管理手法の開発」の評価結果
【総合評価】
本研究は、公共事業の影響をより明らかにし、コスト縮減に資する研究であり、さらに、
研究成果を公共事業評価へ応用できる可能性を保持している国総研らしい研究であり、重点的
に実施すべきものと評価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
費用便益分析との関係については、費用便益分析もまだまだ研究が十分でないので積極的
に関連していくように進められたい。特に、事業評価や費用便益分析でまだまだ貨幣価値換
算が十分でない項目があり、それらもコスト評価が可能となるよう期待する。
また、コスト縮減をどこでどうカウントするかが多少明確でないので、フレームワークを
わかりやすく工夫することが必要である。
さらに、原単位を作ってそれを使いながら精度を上げていく手法でよいが、原単位整備の
手法やその成果に対する世の中にある批判について留意されたい。
なお、研究を進めるにあたっては以下の点についても配慮されたい。
- 企画、計画段階を含む事業としてのコスト把握は十分に検討されていないがその観点
も重要であるので念頭において研究されたい。
- 社会的コストの原単位化においては、価値基準の異なるグループが存在することや地
域の特性に配慮した検討が重要である。
平成16年1月7日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第1部会主査 石田 東生
(4)「都市地域の社会基盤・施設の防災性能評価・災害軽減技術の開発」の評価結果
(津波に対する被害想定と総合的対策に関する研究の追加)
(防災上の配慮を要する者の行動・認識特性に関する研究の追加)
(街区レベルにおける防災性能簡易評価手法の開発の追加)
【総合評価】
本研究は、国民の関心の高い研究であり、多岐にわたる各分野の研究の総合化の部分
が極めて重要な研究であるため、国総研の総合力を生かし、重点的に実施すべきものと評
価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
大変大きな研究であるので総合化を念頭に置いて、個々の研究に終始しないよう注意し
て研究を進められたい。そのための一つのキーワードがリスクバランスであり、全体とし
て安全性を考え総合的に被害が少なくなるような施策を展開できる研究となるよう工夫さ
れたい。
また、例えば、災害アセスメント制度や税金制度、規制緩和のような具体的な提言・提
案・制度設計が成果として出るよう期待する。
さらに、それら提言等にも含まれるが、ハード対策が及ばない場合を考慮するとソフト
対策との連携が非常に重要であることを考慮されたい。
なお、研究を進めるにあたっては以下の点についても配慮されたい。
「津波に対する被害想定と総合的対策に関する研究」
- 地震後の津波の場合、それら外力が連続して働くことを考慮すると海岸、河川等の土
木構造物がどの程度、地震に対する耐力が必要であるかが重要であり、そのようなシナリオ
を考慮されたい。また、避難に際しては、地震による直接被害や地震直後の火災の影響を受
けることが想定されるので、これらを考慮しつつ進めることとされたい。
「防災上の配慮を要する者の行動・認識特性に関する研究」
- 情報提供に際して、提供ツールであるメディア以上に提供する情報のコンテンツが重
要であるので留意されたい。
「街区レベルにおける防災性能簡易評価手法の開発」
- 老朽化密集住宅地が念頭にあると想定されるが、まち全体の耐災性の向上についても
検討されることを期待する。
- この研究の元となる防災性能指標は都市計画の専門家と火災の専門家が初めて手を組
んで作り上げたシミュレーションであり有意義であるので、どのようにまちづくりに使って
いくかについて踏み込んだ計画を立てた上での研究を期待する。
「プロジェクト研究全体」
- 複合化した災害に備えることを念頭に研究を進められたい。
- 特定の想定地震や特定自治体を挙げて研究する可能性も検討されたい。
平成16年1月7日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第1部会主査 石田 東生
(5)「建築物の『安心』の定量的評価のための技術基盤の研究」の評価結果
【総合評価】
本研究は、被災リスクを定量化して評価すること、市場選択メカニズムを用いてリスクを管理する手法などに取り組むもので、従来の単純な防災についての研究からリスクマネジメントという視点で一歩進めたものとして意義が大きい研究であり、国総研において重点的に実施すべきものと評価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
研究を進めるにあたっては以下の点について配慮されたい。
- 建築物は複雑なものであり、最低限確保すべき性能水準に適用されている規範と、経済則で要求水準を求めていく考え方の違いを明確にしつつ研究されたい。
- 建築物の復興は都市の復興と関係が深く、建築物の復興リスクは、建築の条件だけで決まるのではなく、都市がいかに復興するかということに左右されることを考慮されたい。
- 市場選択メカニズムを働かせるためには、自己責任原則を徹底させなければならないと思われるので、提案していくであろう仕組みに、社会制度の中で他にどういう条件が必要であるかを検討されたい。
- 耐災性の高い建築物等に対するインセンティブを与えるような施策についても、念頭に置いて研究を進められたい。
- 総合研究所の利点を生かして、個別施設の挙動を研究すると同時に、災害時における被害全体の発生・波及等の代表的なシナリオをいくつか挙げ、そのリスクと個別の施設のリスクとを総合した形での総体的なリスクを出すということも重要である。
平成16年2月2日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第2部会主査 村上 周三
(6)「都市型社会に対応した市街地環境のあり方及び評価方法に関する研究」の評価結果
【総合評価】
本研究は、都市計画分野の中でも市街地環境性能の評価や水準設定に関するものであり、さらに、規制の緩和・合理化を含めその効果を把握・評価する研究であり、これらは非常に重要であることから、国総研において重点的に実施すべきものと評価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
研究を進めるにあたっては以下の点について配慮されたい。
- 規制の水準を決定する方法として、人々の満足度を定量的に評価した上で、規制値の変化によって得られる社会的効用を定量化し、それを最大化するように水準を決めるというアプローチも検討されたい。
- 地域のまちづくりの成熟度により、行政の関わり方や公的に規制すべき内容が変わるものと考えられるので、一律の法規制や厳密な最低基準ばかりにとらわれず、地域の合意で適切な建築ルールができれば公的規制を順次ゆるめるなど、多様な環境制御のシステムモデルを検討されたい。
- まちにとっての歴史性、文化性という要素について、定量的な分析の可能性も含めて検討されたい。
- 例えば、容積率の場合では、容積率を十分に使っていない例もあり、都市全体の経済効率を高めるという観点から、望ましい容積率へ誘導するという視点も考慮されたい。
- 規制の効果については、既存の規制の中にはほとんど守られていないものがあり、またそれを守らせようという仕組みが社会にほとんどないという実態を勘案しつつ研究を実施されたい。
- 環境水準を求める際には、各地域での地区計画の検討の中で市街地環境について様々に要求されている項目・数値をリストアップして研究を進めることが重要であり、効率的でもある。
- まちづくりの一側面として、経済合理性を取り入れることも考えられるが、これも都市をつくる上では一部の見方にすぎず、制約条件、価値観は多様であることに留意されたい。
- 地球環境の視点を考慮されたい。
平成16年2月2日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第2部会主査 村上 周三
(7)「地域資源・交通拠点等のネットワーク化による国際観光振興方策に関する研究」の評価結果
【総合評価】
国際観光振興のためインバウンドを倍増させるという我が国の政策を、効率的かつ効果的に実施していくことは非常に重要な課題である。これを支援していく研究の必要性は高く、国総研において重点的に実施すべきものと評価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
広範な研究内容となっているので、実施に際しては、現状把握からガイドライン提示、手法開発までの各研究段階で問題点の明確化を図り、成果がより有効に活用されることを目指して研究を進めていただきたい。
なお、研究を進めるにあたっては以下の点についても配慮されたい。
- 国際競争の中で、いかに日本に来てもらうかが大切であるので、海外調査では、今まで、訪日されたことのない人を対象に調査することも検討されたい。また、インバウンド観光客の増加に資する国内における新しい観光の動きについても調査されたい。
- 観光を総合的に捉えることは重要であるが、国総研らしい研究項目を全体の研究計画の中でうまく整理・重点化されたい。
- 研究の成果を効果的なものとするため、地方自治体、民間事業者など様々な観光主体との連携を行い研究を進められたい。
- 社会実験を効果的なものとするため、実施スキームを明確にして進められたい。
- 政策研究という観点から、長期的な視点からの研究を進められたい。
平成16年2月19日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第3部会主査 森杉 壽芳
(8)「東アジアの航空ネットワークの将来展開に対応した空港整備手法に関する研究」の評価結果
(予防保全システムによる空港のコスト縮減・安全性確保技術の開発の追加)
【総合評価】
近い将来、超大型航空機の乗り入れが予想される我が国の空港において、国際競争力の観点からも、その受け入れのための施設整備に係る基準の策定並びに定時性・安全性の向上は緊急かつ重要であり、本研究は、国総研において重点的に実施すべきものと評価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
研究を進めるにあたっては、以下の点について配慮されたい。
- 将来的には多頻度離発着、24時間運用が進んでくるという状況下において、代替滑走路が無いという我が国の特殊事情を念頭に研究されたい。
- 空港のランクに応じた舗装、維持補修のレベルについても検討されたい。
平成16年2月19日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第3部会主査 森杉 壽芳
(9)「快適に憩える美しい東京湾の形成に関する研究」の評価結果
(リアルタイム流況モニタリングシステムの構築に関する研究の追加)
【総合評価】
本研究は、東京湾の総合環境管理施策の提言を行うものであり、その施策の1つとして提案するモニタリングシステムの構築について研究の充実を図るものである。
このシステムから得られる広域の海洋環境情報は、各種環境施策への反映や様々な社会経済活動の支援に資することから、国総研において重点的に実施すべきものと評価する。
【研究を実施するにあたっての留意事項】
研究を進めるにあたっては、以下の点について配慮されたい。
- 海外では多くのNPO、環境団体が沿岸開発の問題に対して監視するという状況が進んでいる。東京湾においてもモニタリング結果の公開と活用のあり方について、検討を深化させていただきたい。
平成16年2月19日
国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
第3部会主査 森杉 壽芳
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