国土技術政策総合研究所研究評価委員会
平成13年度第1回分科会報告書


第2章 評価の結果

 本評価結果は、平成13年度第1回国土技術政策総合研究所研究評価委員会土木分科会、同建築分科会及び同港湾空港分科会における審議に基づきとりまとめたものである。

 平成14年1月18日

                                     国土技術政策総合研究所
                                     研究評価委員会
                                     委員長 虫明功臣   


目  次
(1)「地球温暖化に対応するための技術に関する研究」の評価結果
(2)「ゴミゼロ型・資源循環型技術に関する研究」の評価結果
(3)「快適に憩える美しい東京湾の形成に関する研究」の評価結果
(4)「健全な水循環系・流砂系の構築に関する研究」の評価結果
(5)「都市地域の社会基盤・施設の防災性能評価・災害軽減技術の開発」の評価結果
(6)「道路空間の安全性・快適性の向上に関する研究」の評価結果
(7)「市街地の再生技術に関する研究」の評価結果
(8)「公共事業評価手法の高度化に関する研究」の評価結果
(9)「ITを活用した国土管理技術」の評価結果




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(1)「地球温暖化に対応するための技術に関する研究」の評価結果

【総合評価】
 非常に意欲的な、幅広い内容を有する重要な研究であると認められるので、重点的に実施されるべきものと評価する。

【研究を実施するにあたっての留意事項】
 本研究は、対象領域が幅広いがゆえに、大学等他機関と成果目標をも視野に入れた連携を図り、その中での国総研の役割等についても留意し、効率的、効果的に研究を推進すべきである。
 また、ハードあるいは社会的なシステムも含めた具体的かつ明確な施策メニューを常に念頭に置くべきである。
 さらに、政府全体として取り組むべきプロジェクトを踏まえ、発電の問題、産業との連携分野、関連分野との関係も考慮されたい。
 加えて、今後のパブリックアクセプタンス等に配慮した定量的評価にも留意するとともに、国土交通本省等とも連携した上で、施策の効果を国民が皮膚感覚で理解できるような社会実験等デモンストレーションについても考慮されたい。

 なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • 研究項目の内、木質系の建築部材に関する部分については、ハード偏重にならないよう、地球温暖化のプロジェクト研究での位置付けを明確にし、どのように施策を進めていくのかというフレームの中で整理ができるとよい。
  • 住宅におけるエネルギー消費の実態に関する、より詳しい基礎データの積み上げが必要である。
  • 都市整備技術の研究については、官民の役割分担を明確にするとともに、都市特性に応じた地球環境レベルでの都市環境の目標水準の設定についても検討されたい。また、「ライフスタイル」の見直しの中から生まれる住宅・建築像を探るというアプローチも必要である。
  • 交通部門におけるCO2排出量の削減策の研究については、単なるレビューに終わることなく、社会実験的な働きかけによる人々の意識や行動の変化のダイナミズムまで踏み込めれば価値が上がる。
  • 災害や汚染の原単位について定量的に評価することが重要である。
  • 災害リスクの評価では、発生確率の高い内水氾濫についても視野に入れつつ、災害リスクを定量的に評価する必要がある。
  • 災害リスクの抑制策が、都市計画に反映できるような研究計画を立てられたい。
  • 災害の問題や合意形成の問題で、他の複数のプロジェクト研究に関係していると思われるので、それら全体の合理的な展開を念頭に置いて、研究を進められたい。

    平成14年1月11日

                                    国土技術政策総合研究所
                                    研究評価委員会
                                    土木分科会
                                    分科会長 石田東生


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(2)「ゴミゼロ型・資源循環型技術に関する研究」の評価結果

【総合評価】
 循環型社会の構築は、国の大きな方針でもあることから、本研究は重点的に実施されるべきと評価する。

【研究を実施するにあたっての留意事項】
 本研究は、国内だけのクローズした議論となっていることから、国際的な視点も考慮した上で研究を進めていくべきである。
 また、現実のリサイクルは市場化されている部分がかなりを占めていることから、外部不経済の問題、補助金のあり方、静脈物流システム等の仕組みを設定するにあたっては、国内だけではなく国際的な市場にのせるということも念頭において研究を進めていくことが必要である。
 さらに、管理型廃棄物海面処分場については、施設の耐用年数や廃棄物の管理についての目標値に関する議論も行うべきであり、加えて廃棄物海面処分場の立地にあたって住民の合意形成を得るための社会的受容性に対する考え方や基準をまとめていくことも重要である。

なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • 廃棄物処分場から浸出水が絶対に漏れないようにするとの考え方には限界があり、自然の希釈能力に期待しないと、構造物が崩壊して汚染物質が漏出した場合に逆に危険性が高い。国総研としては、そのようなコンセプトもこの研究で提案すべきと考える。
  • 土木分野全般で出てくる廃棄物を体系立ててどのようにリサイクル処理・処分するかという見通しを明らかにした方がよい。
  • 静脈系のシステムをつくりあげるためには、土木技術だけでなく、製造業等他との協力が必要と考える。
  • リサイクル全体に言えることだが、無限に量が増えてしまわないように何回リサイクルするということをシナリオに入れて研究を進めていただきたい。

平成14年1月17日

                                   国土技術政策総合研究所
                                   研究評価委員会
                                   港湾空港分科会
                                   分科会長 森杉壽芳


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(3)「快適に憩える美しい東京湾の形成に関する研究」の評価結果

【総合評価】
 本研究は、大きなテーマであると同時に市民の関心が非常に高く、また東京湾以外の他の閉鎖性内湾に対しても展開が可能となることから、良好な環境の保全と創造に大いに資する重要な研究と認められるので、重点的に実施されるべきと評価する。

【研究を実施するにあたっての留意事項】
 本研究の目的や目標像が具体的に示されていないので、研究を進めるにあたってはどのような施策を組み合わせれば環境基準を満たすものになるのか、どの程度の規模の浄化施設をつくれば東京湾の浄化につながるのか等について、量的に把握できるようにしていただきたい。 また、本研究においては物質循環モデルの構築が重要であることから、河川、湾内の年間を通じた物質循環、及びその中に施設をつくるとどうなるか等のモデル化を行うことにより定量的に評価できるようにすべきである。
 さらに、最終的なグランドデザインを提言する時に利用する側の意見が反映されたものとなるよう、研究体制として東京湾を利用する側の参画も考慮すべきである。

なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • 本研究は、環境面だけが考慮されているが、高潮や地震時の津波、液状化等東京湾の防災管理要因についても併せて考えていくべきである。
  • 本研究の途中段階で公募も視野に入れた研究発表会等の討議の場を設けることにより、具体的な参加の方針が明確になっていくものと思われる。
  • 国総研は、過去のデータ、これから採るデータをとりまとめて蓄積していく役割も期待されていることから、データの集約・管理も研究の一環としてやっていただきたい。

平成14年1月17日

                                   国土技術政策総合研究所
                                   研究評価委員会
                                   港湾空港分科会
                                   分科会長 森杉壽芳


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(4)「健全な水循環系・流砂系の構築に関する研究」の評価結果

【総合評価】
 日本の川が抱える問題は、流域や流砂(物質を含む)域という広い概念で捉えなければ解決が困難であり、その意味からも重要な研究であると認められるので、重点的に実施されるべきものと評価する。

【研究を実施するにあたっての留意事項】
 具体的な河川あるいは流砂域を類型化して、その中でホーリスティック(全体的)なシステムとして捉えていくような研究を進めるべきである。また、モニタリングを評価するにあたり、具体的かつ適切な指標を開発するべきである。

 なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • 水循環系や流砂系全体としての健全性の目標を設定し、研究体制もタテ割りにならないよう配慮されたい。
  • 大学との積極的な連携や各地の流域のホームドクターのような先生方等の活用が望ましい。
  • 各河川の特性に応じた水質項目を検討対象とすべきである。
  • 健全な水循環系という場合、微量の汚染物質を含めた物質の管理という視点を考慮することが望ましい。
  • 治水、利水、環境のトレードオフだけではなく、都市的活動とのトレードオフにも考慮するとともに、トレードオフだけでとらえるのはなく、相互に高めあうような施設やシステムの展開も考慮されたい。
  • 従来のままの計画論で終わるのでなく、施策として、上、中、下流を一体的に管理するところまで見据えてほしい。
  • 水循環系及び流砂系のモデルやパターンを確定し、河川、都市、農政等が協力して健全な流域構造や流砂域をつくらなければならないという合意形成を誘導できるようまとめられたい。
  • アジア地域への適用に関して、アジアには共通性もあるが多様性も多いので、日本で開発した技術がそのまま適用できない場合があることも念頭に置かれたい。
  • 総合水管理の範囲は、ここでの研究対象よりさらに広いと考えられるので、それら全体への目配りが必要である。
  • 施策への展開を考慮した研究とされたい。

平成14年1月11日

                                   国土技術政策総合研究所
                                   研究評価委員会
                                   土木分科会
                                   分科会長 石田東生


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(5)「都市地域の社会基盤・施設の防災性能評価・災害軽減技術の開発」の評価結果

【総合評価】
 水害、地震、火災等、これまで違ったところで扱ってきた複数の災害についての総合的な評価、計画論の作成、そのためのベースの統一方法等、新たな視点に立った重要な研究であると認められるので、重点的に実施されるべきものと評価する。

【研究を実施するにあたっての留意事項】
 検討項目にライフラインを追加するべきである。
 都市の地形的特徴を考慮するとともに、斜面災害等の影響も含めるべきである。
 ITやGISの利用、個別の施設・住宅レベルの災害アセスメントと実際の街づくりへの活用を考えた上での評価および計画論の類型化も考慮されたい。
 また、研究期間が5年となっているが、研究の重要性・緊急性に鑑み、精力的に研究を進めてもらいたい。
   

 なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • 社会基盤・施設の防災性能の維持管理についても視点を置くとよい。
  • 水害時の、避難・救助と道路の関係について検討されたい。
  • 主要社会基盤・施設として港湾関連施設も取り扱うこととし、港湾研究部との連携を図られたい。
  • 実際の意志決定、社会的合意形成等の点でプロジェクト研究「公共事業評価手法の高度化に関する研究」と密接に協調して研究を進められたい。

平成14年1月11日

                                   国土技術政策総合研究所
                                   研究評価委員会
                                   土木分科会
                                   分科会長 石田東生


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(6)「道路空間の安全性・快適性の向上に関する研究」の評価結果

【総合評価】
 道路空間の整備に関し、誰にでも快適かつ安全な空間をつくることは非常に大きな問題であり、重要な研究であると認められるので、重点的に実施されるべきものと評価する。

【研究を実施するに当たっての留意事項】
 道路研究部中心の研究体制については、ニーズの高い課題に対し迅速に成果を上げるために組まれたものであり、このまま研究を進めてよいが、環境問題、まちづくり、緊急時の対応等の問題に関して、他プロジェクトや他研究部との連携について十分に配慮されたい。
 また、道路ネットワークとしてのマクロな計画論、機能論と、それらにからめた財源の問題にも視点を広げること、交通安全性におけるハードの効果について、できるだけ定量的な評価すること等にも配慮されたい。

 なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • 環境関連の機能等道路が持っている重要な関連機能も含め総合的に議論されたい。
  • 歩行者ITSは今後のノーマライゼーション社会実現のために極めて重要であるが、バリアフリーだけでなく、健常者をも対象にしてコストを下げるための様々なアプリケーションのあり方を検討されたい。
  • 交通安全以外の危険性、高架道路の下部空間の快適性、信号システム等の問題にも目を向けられたい。

平成14年1月11日

                                   国土技術政策総合研究所
                                   研究評価委員会
                                   土木分科会
                                   分科会長 石田東生


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(7)「市街地の再生技術に関する研究」の評価結果

【総合評価】
 本研究は、コンパクト化を視野に入れた市街地構造の計測・評価手法を開発し、市街地構造の面からも既成市街地再生の位置づけを行うとともに、既成市街地の再生のうち、現下の重要な政策課題である密集市街地の整備、中心市街地の活性化のための新たな手法を開発しようとする重要な研究であると認められるので、重点的に実施されるべきものと評価する。

【研究を実施するにあたっての留意事項】
 市街地構造の評価を行いつつ、密集市街地や中心市街地の整備手法を開発するという全体構成を踏まえながら、密集市街地の整備や中心市街地の活性化の事業推進上のネックとなる諸点及び都市、住宅等関連する行政施策との関係を見据え、また、既往の研究や他機関における研究の状況を整理し、研究目標の一層の明確化を図りながら研究を進められたい。

 なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • 市街地の「コンパクト化」の概念については、都市の地域性、歴史性等を考慮した上で整理するとともに、市街地構造の評価においては密集市街地・中心市街地のみならず一般市街地の位置づけや今後のあり方も視野に入れて研究を進められたい。
  • スケルトン・インフィル住宅に関する既往の研究等これまでに得られている研究成果や知見を十分に生かされたい。
  • 都市型産業の育成、コミュニティの活性化、地域のまちづくり活動の役割等についても考慮するとともに、具体の市街地における適用性についても検討されたい。

平成14年1月17日

                                   国土技術政策総合研究所
                                   研究評価委員会
                                   建築分科会
                                   分科会長 村上周三


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(8)「公共事業評価手法の高度化に関する研究」の評価結果

【総合評価】
 横断的な課題として、また社会資本整備全体の下支えをする共通基盤となる課題として非常に重要な研究であると認められるので、重点的に実施されるべきものと評価する。

【研究を実施するにあたっての留意事項】
 研究を進めるにあたって、まず、公共事業評価手法には今回出されている課題以外にも公平性をどう考えるか等の課題も存在するので、一度全体を整理することが重要である。また、データの公開について、全体のシステムの客観性、透明性を確保するという意味で重要である。

 なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • タイトルを「公共事業評価手法」とすると研究対象領域が広範囲になりすぎ、実際の研究内容と乖離が危惧されるので、研究内容とタイトルの整合性をはかられたい。
  • 事業の透明性を高めるため、科学的、客観的な手法を用いるほかに、タックスペイヤーに対する説明をどのようにするのかという視点を加えたほうがよい。
  • 国が行う研究である以上は、B/Cの方法でやっていい課題と、やってはいけない課題とがあることを念頭に置いたほうがよい。
  • 計測手法の問題について、CVMやキャピタリゼーション仮説に基づくもの等手法には限界があるので、健康被害の計測、復元費用の計測等についても検討されたい。
  • 事前評価は未だ不十分であることを認識し、事業の結果を計測・分析した上で検証することが重要である。また事後評価の後、事前評価にフィードバックすることも重要である。

平成14年1月11日

                                   国土技術政策総合研究所
                                   研究評価委員会
                                   土木分科会
                                   分科会長 石田東生


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(9)「ITを活用した国土管理技術」の評価結果

【総合評価】
 国土マネジメントを効率的に行っていくためには、行政だけが利用するシステムではなく、これからの市民社会との関係において、市民が関心をもち、利用できる、使いやすい共有システムをつくることが重要であり、その意味からも重要な研究と認められるので、重点的に実施されるべきものと評価する。

【研究を実施するにあたっての留意事項】
 使いやすいシステムを構築するのためには、システムを安く作り上げること、共通のベースを構築することが重要であるので、実際の業務でのビジネスモデルとの関係、官と民との関係を含め、この点について十分に留意されたい。

 なお、研究を進めるにあたっては、以下の点についても配慮されたい。

  • 研究のアウトプットが、自然災害に対する災害危険度の評価を行うアセスメントの制度化や、その結果の情報開示につながると非常に有意義である。
  • GISのデータのきめを細かくするとともに、GISを扱えるソフトを独占状態から解除して市民が安く使えるようにすることの促進の仕掛けとなるよう検討されたい。
  • デジタル情報とソフトでなくとも、例えば国土地理院の地図に等高線をしっかり入れる等、一次処理だけでかなり使いやすくなる部分がある。
  • データの一元的共有化や様々なシミュレーションへの活用のためには、メタデータの用意やデータ構造のプラットフォーム化が重要である。
  • 災害時のリダンダンシー等の観点から、役所の中で閉じたシステムでなく、民間事業者と連携した情報システムを構築されたい。
  • データベースの利用価値をさらにあげるために、社会資本上で行われているアクテビティや交通の状態等サービスレベルの情報についても統合化を検討されたい。
  • 他プロジェクトや他省庁と有機的に連携するとともに、国際標準との整合にも留意されたい。

平成14年1月11日

                                   国土技術政策総合研究所
                                   研究評価委員会
                                   土木分科会
                                   分科会長 石田東生