国総研講演会アーカイブ

平成17年度「国土技術政策総合研究所 講演会」 講演概要

特別講演
「脳科学の最前線」
−創造性とコミュニケーション−
ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー
茂木 健一郎

<茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)氏 プロフィール>
1962年10月20日東京生まれ。脳科学者。東京工業大学大学院客員助教授(脳科学、認知科学)、東京芸術大学非常勤講師(美術解剖学)。その他、東京大学、大阪大学、早稲田大学、聖心女子大学などの非常勤講師もつとめる。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。
専門は脳科学、認知科学。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。出井伸之氏の提唱するソニーのQUALIAプロジェクト・コンセプターとしての活動も行っている。『脳と仮想』で、第四回小林秀雄賞を受賞。
著書/『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『生きて死ぬ私』(徳間書店)、『心を生みだす脳のシステム』(NHK出版)、『意識とはなにか--<私>を生成する脳』(ちくま新書)、『脳内現象』(NHK出版)、『脳と仮想』(新潮社)、『脳と創造性』(PHP研究所)、『スルメを見てイカがわかるか!』(角川書店、養老孟司氏との共著)、『脳の中の小さな神々』(柏書房、歌田明宏氏との共著)、『「脳」整理法』(ちくま新書)、The Future of Learning(共著)、Understanding Representation(共著)他多数。

「地球温暖化=大災害時代の仕事」
ノンフィクション作家
山根 一眞

<山根 一眞(やまね かずま)氏 プロフィール>
1947年東京生まれ。獨協大学外国語学部卒業。日本のモノづくりの底力を解き明かす「メタルカラーの時代」は連載1000回を目指し継続中。環境問題でも精力的な仕事を続け、その原点がアマゾン。ニホンオオカミやイリオモテヤマネコなど野生動物から文明を見直す取材活動では、その新しい視点が注目されている。1990年からNHKテレビ外部キャスターとして「ミッドナイトジャーナル」を3年間担当。1996年からは4年間「未来派宣言」もこなした。
独立行政法人宇宙航空研究開発機構嘱託、宇宙開発委員会特別委員(文部科学省)、NEDO省エネルギー技術審議委員会委員、2005年日本国際博覧会「愛知県パビリオン」プロデューサー。日本文芸家協会会員。
著書/『メタルカラーの時代』、『モバイル書斎の遊技術』、『山根一眞の素朴な疑問』他多数。近著に『環業革命』(講談社)。
一般講演
「公共投資を考える視点」
研究総務官 西川 和廣
 公共投資プロジェクトチームでは、首都東京圏の社会資本整備に関するデータを取りまとめた「東京圏における社会資本の効用」を作成し、ホームページ上に公表した。様々な社会資本の整備水準の推移と、それによる国民生活や経済活動の変化を概観することで、公共投資を考える上での新たな視点を見出すことを意図したものである。講演では、資料の概略を紹介するが、戦後東京圏を中心に集中的に行われてきた公共投資が、いわゆる一局集中による負の部分を伴っていたとはいえ、ドル圏、ユーロ圏と並ぶ世界経済における3極の一角を占める都市圏の成立という奇跡的な結果をもたらしたことなど、これまであまり議論されてこなかった視点を提示したい。

「水物質循環の健全化を軸にした環境再生」
環境研究部長 福田 晴耕
 様々な人間活動が引き起こす流域水物質循環システムの変質は、水環境の悪化、生物多様性の低下等となって現れる。これに対応するため様々な政策や事業が実施され、効果を上げてきているが、閉鎖性水域については未だ根本的な解決に至っていないケースが少なくない。流域から閉鎖性水域や沿岸海域にわたる水と物質の流れの健全化を図ることは、様々なスケールを持つシステムが階層的に存在する地域の環境再生を統合的に図っていくという難題に対する突破口になると期待される。本講演では、広域的な水物質循環の健全化を支えるための研究開発の現状とその成果の実践へのつながりを霞ヶ浦流域と東京湾流域を対象とした検討事例を紹介しつつ、地域の水環境再生の今後の展開を俯瞰する。

「建築物のライフサイクルを通じたCO及び廃棄物排出の低減に向けた取り組み」
住宅研究部長 西山  功
 総合技術開発プロジェクト「持続可能な社会構築を目指した建築性能評価・対策技術の開発(SB総プロ)」においては、建築物の建設、運用、改修、そして除却までのライフサイクルを通じた二酸化炭素(CO)及び廃棄物排出負荷の低減に向けた検討に取り組んでいる。
 講演では、まず、環境問題としての建築由来のCO排出及び廃棄物排出を取り上げ、現状分析を行った後、その削減に向けた政策や既往の技術開発等について解説を行う。その上で、SB総プロとこれら先行する各種の活動との関係を整理し、総プロの位置づけを明らかとするとともに、その技術開発の内容について解説を行う。

「ライフサイクルコストを考慮した港湾構造物の信頼性設計」
港湾施設研究室長 長尾  毅
 構造物の設計法への信頼性設計法の導入が期待されている。信頼性設計法の適用においては、目標安全性水準をどのように定めるかが重要である。その際の最も有力な方法のひとつは、過去の設計法における平均的な安全性水準に一致させる方法であるが、この他の方法として、ライフサイクルコストが最小となる安全性水準を目標水準とする考え方がある。
 ここで、標準的な設計法と考えられる部分係数法(レベル1信頼性設計法)においては、破壊確率の算出を行わないために、ライフサイクルコストの検討を行うことが出来ない。しかしながら、あらかじめ構造形式や設計条件ごとに目標とする安全性水準を定めることが出来れば、レベル1信頼性設計法によってもライフサイクルコストを考慮した合理的かつ経済的な設計を行うことが可能となると考えられる。このための基礎的な研究を行った結果を報告する。

「我が国の空港整備とその経済効果」
空港研究部長 大根田 秀明
 空港の新規整備などにおいては、航空機騒音の迷惑施設であるが故に、その航空需要と必要性はもとより、プロジェクトの事業効果として、地域経済への波及効果の評価が重要な課題のひとつとなる。しかし、現在のところ、具体的な計測方法はまだ確立されていない。講演では、まず、我が国の空港整備の経緯と現状について概括するとともに、単純な仮定の下に、空港整備が地域に及ぼす経済波及効果を産業連関分析により計測するモデルシステムと計測結果をまとめる。さらに、より精緻な分析が可能になる応用一般均衡モデルを使って、空港整備が各事業分野へ及ぼす経済波及効果を分析する。これらの結果より、空港整備の経済効果が地域的にも、産業分野的にも広い範囲に及ぶことを報告する。

「セカンドステージITSのめざすもの」
高度情報化研究センター長 山田 晴利
 近年のITSの進展にはまことにめざましいものがある。カーナビゲーションシステム、VICS、ETCの普及台数は大きく伸び、これによって料金所における渋滞はほぼ解消するに到った。こうしたことからITSの効果が実感されるようになり、わが国ではITSがセカンドステージに入ったと認識されている。 セカンドステージにおけるITSでは、2007年までに「あらゆるゲートのスムーズな通過」「場所やニーズに応じた地域ガイド」「タイムリーな走行支援情報の提供」の三つのサービスを利用できるようにするという目標が掲げられている。本講演では、これらの目標とそれを実現するための活動について述べる。